表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒール最高  作者: 猫美
学院中等編
45/90

遠征の日、ヒーラーの時間のフランテスタ(お嬢様)

「ヒール!」


知らない男の子の声が聞こえ・・・

顔を上げると、知らない背中が見えます。


「我が前方に広がりし視界の四杭、癒しの力、行き届かん!リィディアスヒール!」


その未知の呪文が効果を発揮すると、目の前に迫っていたディリングの集団が一斉に動きを止め、身体を崩します。

いえ・・・わずかにコア持ちが残っていますが、それでもそのほとんどが崩れていきます。


「ヒール!」


残ったコア持ちもヒールに寄って一瞬にして倒されます。

私たちが、散々苦労したコア持ちが・・・ヒールで?

ど、どういうことですの?

ほとんど詠唱の無いソレは、本当にヒールなんですか!?


最後の1体が倒されると、男の子がこちらに向かってきます。

そ、そうですわ。

ヒールの使い手なら・・・コア持ちを倒せるくらいのヒールの使い手なら・・・フォシナを助けて!


「スライヒール」

「リサーチ」


私が助けてと声を掛ける前に呪文を唱えます。

しかし、そのヒールは効果が無く、傷口は塞がりません。

なんでですか!

コア持ちを倒すだけの力を持ちながら!


「な、なんで完全に癒さないのですか!」

「シッ!黙って!」

「なッ!」


何なんですか!

よく見れば、この男・・・忌み人と一緒にいる日陰者!

確か、名前は・・・ウィルですわ。

いえ・・・今は、このヒールに頼らなければならない状況!

そ、それにも関わらず、この男はヒールの出し惜しみをして!


「スライヒール」

「異物を押し出す力を与えん。リリーブ」


知らないヒールと知らない呪文ですわね・・・

だから、なんで普通のヒールで一気に治さないのですか!

このままじゃ・・・このままじゃフォシナが・・・


「だから、なんで!」

「ウィルの邪魔はしちゃだめだよ」


知らない男の子に割り込まれました。

むしろ、フォシナと距離を取らせるように後ろに追いやります。

なんですか!この男は!


「邪魔です!

 おどきなさい!」

「だから、ウィルの邪魔はだめだよ」

「コア持ちを倒すほどの力を持ちながら、

 フォシナを癒さないからです!」

「それには理由があるからだよ」

「どんな理由ですか!

 フォシナは今にも死にそうだと言うのに!」

「えっと・・・

 とにかく、邪魔しちゃだめだよ」

「おどきなさい!」


割り込んできた男の子をよくよく見ると・・・確か戦士学科のコウロイド!?


「この、コウロイドのくせに!

 私の邪魔をするなんて!」

「うっ・・・

 それでも今は、

 ウィルの邪魔をしちゃだめだ」


そんな押し問答をしていたら、フォシナの物凄い悲鳴で・・・背筋がぞっとするような悲鳴で・・・


「ウアア゛ア゛ア゛ア゛アアアア゛ア゛ア゛アアア゛アァア゛ア゛ァァァァ!」


見れば、ウィルが傷口に手を突っ込んでいるじゃないですか!


「ちょ、ちょっと!

 あなた、何をしていますの!」

「ウィルの邪魔はだめだよ!」


こ、この男はまだ邪魔をしますの!?


「いやぁぁあぁ、死ぬのよ。

 みんな死んじゃうんだわ」


ルノシィは完全に正気を失っていますわ。


「キーウェン!

 見ていないで止めなさい!」

「ぁ、あぁ・・・

 いや・・・しかし・・・

 これを邪魔するのは・・・」

「フォシナが死んでしまいます!」

「ウィルの邪魔はダメだよ!」


キーウェンもあまりの事態に及び腰ですわ。


そうこうしている間に、フォシナの首が、がくんと後ろに・・・し、死んで!?


「フォシナ!フォシナ!」

「だ、大丈夫だよ。気絶しただけだ」

「いいからおどきなさい!

 どう見ても、正気の沙汰じゃありません!」

「それでも・・・ボクはウィルを信じる!」


ええい、お話になりませんわ。


「チノ!」


そんな押し問答を繰り広げていると、あの男が声を発しました。


「何?」

「チノの水をください」

「え?いいけど・・・大丈夫なの?」

「傷口を洗います」


水筒をひったくるように奪い、フォシナの傷口に注ぎます。

え?ど、どういうことなの?


「異物を押し出す力を与えん。リリーブ!」


それが何の呪文かは解りませんが・・・水を注いだことから、傷口を洗って綺麗にしているのは、なんとなく解ります。


「我、彼の者を癒すことを願いたてまつらん。ヒール!」


やっと・・・ヒールを唱えてくれた・・・?

フォシナは・・・助かるんですの?

急に力が抜けて・・・その場にへたり込んでしまいました。


「チノ、助かりました」

「いいよ。

 もう大丈夫なんでしょ?」

「ええ、今は気絶していますが、

 傷口にディリングの土も残っていませんし、

 恐らく大丈夫でしょう」


傷口に・・・土?


「取り敢えず、ミレイの援護をお願いします」

「解った」


見れば、入り口で忌み人がず~っと戦っています。

・・・1人でコア持ち、コア無しを押さえ込んでいるというの?


「・・・けど、どうするの?」

「戦力を整えて脱出ですかね」

「そうだよね・・・

 うん。ミレイの援護に行くね」

「お願いします。

 少しだけ頑張ってください」


「ケガはありませんか?」

「え?」


気がつけば、ウィルが目の前で私に質問をしてきています。


「え、ええ・・・

 私は大丈夫です」

「そうですか」


ルノシィは・・・大分落ち着いたのか、ケガが無いことを伝えたようです。



「ああっ!しまった!」


急にウィルが・・・そんな不吉なことを言います。

な、何事ですか!


「ミレイ!

 コフィンを使うだけの心力は残っていますか?」


忌み人の声は聞こえませんでしたが、こちらを見て頷いたようです。


「じゃぁ、コフィンで入り口を塞いで、こちらに来てください」


彼女は、魔法陣の札も出さず、呪文を唱えているようです。

長い長い呪文を暗記しているというの!?


ところが、あまりにも短い時間で呪文が完成しました。

氷が入り口を塞ぎます。

確かに、あれならディリングも簡単には入ってこられないでしょう。

ですが、私たちも出られないのではなくて?

それに・・・なんであんなに短い呪文で、あんな規模の魔法が発動しますの!?


ウィルの方は・・・キーウェンの方へ歩いて行き、ヒールを唱えます。


「我、彼の者の不調の根源を散らすことを願いたてまつらん。ルートデフューズ」


それに、また知らない呪文を・・・

キーウェンが立ち上がり、お礼を言っています。

た、確かに助かったのは事実ですわ。

イサラにも同じようにヒールと先ほどの呪文を唱えます。

イサラも動けるくらいに回復したようです。


「入り口を塞いでしまって、どうするおつもりですの!?」


一息ついたであろう、ウィルに向かって・・・お礼の言葉は出てきませんでした。

ついつい、きつい口調で問い質してしまいます。

・・・まずはお礼を言うべきなのに。


「ああ、大丈夫ですよ。

 あれなら出し入れ自由ですから」

「え?」

「それより、もう少しお待ちを」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」


私のことを無視して、忌み人の方へ歩いて行きます。

彼女の両手を掴んだかと思うと、顔を近づけて・・・

ちょっと!人前で何をする気ですか!

く、く、口づけなんて・・・破廉恥です!


「ちょっと!あなた!

 何をしているんですか!」


私の声が聞こえないのか、く、く、口づけをしたまま・・・


「我、彼の者に気力の源、立ち上がる力を分け与えん。トランスファー」


え?呪文?口づけでは・・・無い?

さっきから、この男は何をしていますの!?


「ミレイ、大丈夫ですか?」

「・・・うん」

「チノ。矢は何本残ってますか?」

「3本だね」

「それは・・・また・・・だいぶ使いましたね」

「一応、そこいらのディリングに使ったのを集めたから、

 12本まではあるけど・・・

 使い古しはまっすぐ飛ばないかも」

「了解です」


ウィルがコチラへ振り向きます。

一体どうする気なんですか・・・


「えっと・・・戦士学科のお二人には、

 ケガ人を運んでいただきたいのですが?」

「え?ああ・・・それは構わないが・・・

 ケガ人を抱えながらじゃ戦えないぞ?」

「ええ、それは構いません。

 やはり戦士学科の方でないと、

 ケガ人を運ぶのは大変だと思いますので・・・」


じゃ、じゃぁ、私たちが前衛!?


「えっと・・・フランテスタさん?」

「え、ええ・・・何かしら」

「お連れの・・・えっと・・・

 ルノシィさんをお願いします」

「え?」

「ちょっと待ってくれ。

 それじゃぁ、どうやって戦うんだ?」

「先頭は僕、

 次にケガ人を抱えた・・・えっと・・・」

「ああ、キーウェンだ。

 彼女はイサラ」

「キーウェンさんとイサラさんが続いてください。

 チノは真ん中で前後を警戒」

「解った」

「その次に、フランテスタさんとルノシィさん。

 最後をミレイ・・・後ろの敵をお願いします」

「・・・うん」

「それじゃぁ、行きますか」

「ちょっと、お待ちなさい!」

「はい?」

「大人しく聞いていましたが、

 なんであなたが先頭なんですか!

 あなた・・・回復役でしょ!

 本来、中央で守られる立ち位置のはずです!」

「まぁ、ここだけは特別ですかね。

 じゃぁ、行きますよ」


ど、どういうことですか!

全然説明になっていませんわ!


「ミレイ、コフィンの解除をお願いします」

「・・・うん」

「ちょっと、まだ話は終わっていませんわよ!」

「時間も無いので、帰ってからでいいですかね?」

「♪てとら、かりこり、し~りむまい、でり、こふぃん」


忌み人が変な歌を歌ったかと思うと、氷の壁が粉々・・・むしろ、塵となって消えてゆきます。

い、今のは何ですか!

そんなことより、氷の壁の向こうから、何体ものディリングが迫ってきます。

やっぱり無茶ですわ。

助けが来るまで、先ほどの壁で封じていた方が良かったのではなくて!?


「ヒール!」

「ヒール!」

「ヒール!」


ウィルが手をかざし、ヒールを唱える度にディリングが破壊されてゆきます。

なぜヒールで倒せるのですか!


何度目のヒールか・・・解りませんが、やっと壁の向こうへ出ることが出来ました。

そこには、ディリングの群れが待ち構えており、出られた安堵など一瞬で吹き飛んでしまいました。


「い、急いで戻って護りを固めるべきです」

「大丈夫。ウィルを信じて」

「だって・・・こんなに沢山・・・」


「我が前方に広がりし視界の四杭、癒しの力行き届かん!リィディアスヒール!」


一瞬の出来事でした。

何が起こったのか・・・最初に助けてくれた時の呪文だというのは解るのですが・・・

ディリングの群れが一斉に崩れ・・・残っているのはコア持ちだけ・・・


「ヒール!」

「かる、じおに、てとら、てとら、あるーだ!」


残ったコア持ちも、ウィルのヒールと忌み人の氷の矢で倒されていきます。

その氷の矢も1回の詠唱で何本もの矢を連続で・・・いったい、その呪文は何なのですか!


「ヒール!」


埋め尽くすような・・・とはさすがに言い過ぎですけれど・・・ディリングの群れが一掃されてしまいました。

あれだけいたのに・・・こんな短時間で倒しきるなんてどういう魔法ですか。


帰り道は、行きと違ってディリングの群れにやたらと遭遇します。

その群れも、ほとんどヒールで倒されていくのですが・・・

一体、さきほどから何回のヒールを使っているのかしら。

普通なら心力が尽きて座り込んでしまってもおかしくないのに・・・

後ろの忌み人も、要所要所で魔法を使っていますのに・・・まだ心力には余裕があるように見えますし・・・


「ちょっと休憩しましょうか」


そ、そうよね。

さすがに休憩も欲しくなりますわよね。


「ああ、そうだな。

 ここまで戦闘続きだったしな。

 とは言っても、俺たちは何もしてないんだが」

「ま、ケガ人を連れているんですから、

 仕方ないじゃないですか。

 じゃぁ、チノ、ミレイ・・・

 周囲の警戒をお願いします」

「・・・うん」

「ウィルはどうするの?」

「ちょっと先に行って、

 露払いしてきますね」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」

「ん?何?」

「何じゃありません。

 あなたが休まないでどうするんですか!」

「え?いや・・・だって・・・

 人を担いで歩くって疲れますよ?」

「それはそうですが・・・

 あなただって心力をかなり消耗しているはずです!」

「ああ、そっか・・・

 うん。ありがとう。

 でも大丈夫だから。

 じゃ、チノ、ミレイ、頼みましたよ」

「ちょっと、お待ちなさい!」


・・・行ってしまいましたわ。


「ウィルなら大丈夫だよ」


そのお気楽さが癪に障りました。

何故かは解りませんが、あまりのお気楽さが気にくわなかったのでしょう。


「そもそも!

 彼にもしもの事があったら、

 悔しいですが・・・

 私たちには、ここを抜ける力は残っていません!

 それなのに、彼を1人で行かせて・・・

 今すぐに追いかけるべきですわ」

「え?・・・あ、うん。

 ミレイ、どうしよう?」

「・・・大丈夫。

 ・・・今はしっかり、身体を休める」


もう何ですの!

コウロイドも忌み人も・・・どうかしていますわ!


そんな行き場の無い怒りを抱えたまま、あの男が消えていった方をじっと見やりましたが、後ろ姿どころか、影すら見つけることは出来ませんでした。


次回「遠征の日のアルフ(先輩)」


Twitter @nekomihonpo



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ