違和感の日
珍しく、夜中に目が覚めた。
・・・気がしたのだが、やっぱり寝てた。
ほら、夢の中で起きる夢とか・・・あんな感じ。
夢がうつつか、うつつが夢か。
夢の世界って気持ちいいよね。
と、うだうだしていると二度寝してしまうので、起きることにする。
着替え終わって・・・はて?
ティータの祝福はどこだ?
う~ん?
普段の自分なら・・・こう・・・着替えて、首飾りを外して・・・机の上に置くよな。
うん。昨日の晩も、机の上に置いた気がする。
・・・無いな。
落ちたかな?
机の下を探しても見当たらない。
ベッドの下にも無いな。
鎖が付いているから、落ちはしても、転がりはしないと思うんだが・・・
机の引き出しにも無いな。
はて?
本格的に見つからないぞ。
控えめなノックと共に、ミレイの控えめな呼びかけが聞こえてきた。
もう学院に行く時間なのか。
帰ってから探すことにしよう。
と、ドアを開ける。
「ミレイ、おはようございます」
「・・・うん。おはよう。
・・・今朝は、遅め。
・・・どうしたの?」
「ええ・・・」
なんだ?今の違和感。
「・・・ウィル?」
すごく些細な・・・
けど、日頃と違う何か・・・
ドアノブを見る。
ドア全体を見る。
そこからの部屋の景色を見る。
自分の行動を振り返る。
何かが・・・
そうか!
掛金を外す動作が無いんだ。
昨日、掛け忘れたのか?
無いとは言い切れないが・・・
ドアを閉める動作の一部になっているのに?
「・・・ウィル?」
「え?ああ・・・
学院に行きましょうか」
「・・・どうしたの?」
「いえ・・・
そうですね、ミレイには話しておきましょう。
・・・ティータの祝福を無くしました」
「・・・無くした・・・の?」
「無くしたかどうかは解りませんが、
見つかりません」
「・・・今から、探す?」
「いえ。
今は、学院に行きましょう」
「・・・解った」
取り敢えず、学院に居る間に可能性を考えるか。
ってことで、考えたのが以下の5点。
1.部屋のどこかにある。
蹴っ飛ばしてタンスの下とか。
2.どこかで落とした。
昨日、着替えの際に、外した気になっているが、実はどっかで落としている。
いや、さすがにそこまでボケてはいないつもりだが・・・
3.動物に盗まれた。
猫がくわえて走り去ったとか。
窓は閉まってるから、カラスが持って行くってのはないか。
4.泥棒に入られた。
・・・ピンポイントに盗んでいくだろうか?
学生の寮なんかじゃ、金目の物は期待出来ないだろうに。
5.ティータの祝福目当てで盗まれた。
金目の物を目当てに、泥棒に入るよりは、可能性が高いか?
考えておいてなんだが、動物って線は無いだろうな。
どこかに落としたってのも可能性としては低いだろう。
酔っ払ってるならまだしも、しらふの状態で、着替えの際に気がつかないってことがあるだろうか?
さすがに気がつくと思うんだが・・・
それに、外した気がするしなぁ。
まぁ、疑ってると、だんだん自信が無くなってくるんだが・・・
2は無いとしよう。
と、なると、1、4、5・・・
と言うか、1か5だろうなぁ。
ま、取り敢えず、1に関しては手立ての当てがある。
そんな訳で、放課後待ち。
放課後になったので、いつもの練習場所へ赴く。
ルーパの校舎からだと、近いからいいが、ルーバシーになった今、この場所はちょっと遠いな。
とは言え、ルーバシーの校舎の近くに、ちょうどいい場所無いしな・・・
まぁ、それはそれ。
「今日の特訓はお休みにしたいのですが・・・」
「え?休みにしちゃうの?」
「うん、そうだよね。
明日は3年の試験の日だもんね」
あれ?もうそんな日だっけ?
ま、いっか。
今はそれどころじゃないし。
「明日が試験の日だと言うことは、
すっかり忘れていましたが、
試験とは関係無いですよ」
「あれ?そうなの?」
「忘れてたんだ・・・
やっぱウィルは大物だね」
「そんなことよりも、
チノにお願いがあります」
「うん?何?」
「ちょっと僕の部屋まで来て欲しいのですが」
「え?いやだよ。
だって、ウィルの部屋って、
女の子の階じゃないか」
「大丈夫ですよ」
「いやだよ」
「チノ、ウィルの頼み事なんだから、
聞いてあげれば?」
「そうですよ。
聞いてあげましょうよ」
「う・・・
ま、まぁ・・・
ウィルの頼みだから、
仕方ないけど・・・」
「ありがとうございます。
助かります」
「ウィル、私も行っていい?」
「ラル・・・」
どうしたモンか・・・
あまり大っぴらにしたくないっちゃ、したくないし・・・
「取り敢えず、遠慮していただけると助かります」
「ふ~ん。秘密なんだ」
「そうですね・・・
ちょっと・・・まだ話せそうにないです」
「チノから聞き出しちゃうかも知れないよ?」
「チノが喋ってしまうのは、
僕には止めようがありません。
ま、チノを信じていますが」
「ウィル・・・」
「まぁ、いいわ。
ウィルなら、
必要になったら話してくれるでしょうし」
「ありがとうございます」
「いいっていいって。
じゃぁ、今日は解散よね。
明日、試験の手伝いがんばりましょ」
「ええ。そうですね。
また、明日」
「ラル、またね~」
「さ、行きましょうか」
「う、うん・・・
ラルには話せないってことだけど、
ボクにはいいの?」
「内緒にしておきたい所ですが、
チノには協力してもらわないといけないので・・・」
道すがら話そうかとも思ったのだが、表で話すのもどうかと思ったので、部屋まで待ってもらった。
「さぁ、入ってください」
「うん。お邪魔します」
チノとミレイが入ってから、扉を閉める。
内緒の話ということで、チノが軽く緊張しているようだ。
「さて・・・
早速で申し訳ないのですが・・・
ティータの祝福を感じますか?」
「え?ティータの祝福って、
あの首飾りだよね?」
「ええ、そうです」
「えっと・・・
そう言えば、
今日のウィルからは感じないね。
どうしたの?」
「この部屋の中では感じますか?」
「え?
・・・う~ん。
感じないみたい・・・だけど?」
「ふむ。やはり、そうですか・・・」
これで、部屋に無いことは確定か・・・
さて・・・困ったな。
どこかに落としたか、盗まれたか・・・
やっぱ、落としたって考えにくいんだよなぁ。
昨夜、外した気がするし・・・
「えっと・・・
どういうこと?」
「無くしました」
「ええ!?
急いで探さなきゃ!」
「ですから、
チノに来てもらったのですが・・・
ま、部屋に無いことが解っただけでも、
ヨシとしましょうか」
「お、落ち着いてる場合じゃないよね?
急いで巡視に言って、
探してもらわなきゃ。
大事なモノなんでしょ?」
「そうなんですがね・・・」
そこまでおおごとにしていいものかどうか・・・
盗まれた以外の可能性は無いだろうか?
いかんな。
もう、自分の中で、盗まれたと考えるルートに凝り固まってる。
他の可能性を考える頭が無いな。
まぁ、仕方ない・・・盗んだとして、犯人像だが・・・
本職(?)の泥棒が盗んだ・・・
ピンポイントにティータの祝福だけ盗むだろうか?
4階と言うことを考えれば、リスクだらけだ。
金目の物を盗むなら、商店から金を盗んだ方が楽だし、足も付きにくい。
可能性は低いんじゃないだろうか?
そもそも、どこでティータの祝福の情報を仕入れたか?という事になる。
そりゃ、当然、本職ともなれば、そういう情報網に顔が利くと考えられる。
そういう闇市場的な所で、情報が広まっている可能性が無い訳じゃ無い。
そうなると、物は闇市場に流れ、ゆくゆくはどこかの金持ちに買われる・・・というコースだろうか。
素人には到底手出しの出来る話じゃ無いな。
「ウィル?どうしたの?」
「ええ・・・
ちょっと考え事を・・・」
顔見知りの犯行ってのはどうだろうか?
顔見知りなら、どこかで情報を入手する機会もあったかも知れない。
もし仮に、顔見知りの犯行だとして、盗んだ後、どうするだろうか?
売るだろうか?
顔見知りの場合、金目的とは考えにくいんじゃないだろうか?
持ち歩くだろうか?
さすがに、家にしまっておくか・・・
しかし、知り合いには見せたくなったりするんじゃないだろうか?
大人の顔見知りで、ティータの祝福を知っているのは・・・
サララケート先生くらいか?
う~ん・・・サララケート先生が、なんかの拍子に他の人に喋る・・・容易に想像が付くんだが・・・
子供の顔見知りだと、それこそ、チノくらいになってしまうんだが・・・
チノってことは無いな・・・
「ウィル、やっぱり巡視に知らせた方がいいよ」
「いえ、それは取り敢えずやめておきます」
「え?なんで?」
「まだ、考えがまとまっていないのですが、
闇市場に流れたとしたら、
巡視では難しいでしょう」
「え?そ、そうかも知れないけど・・・」
「父様に報告することにします。
一応、国家の役人ですから・・・
ツテもあるでしょう」
「そ、それならいいんだけど」
「犯人が近くにいる可能性もあります」
「え?」
「チノには申し訳ないのですが、
今しばらく、僕に協力してください」
「それはいいけど・・・
近くって、どういうこと?」
「顔見知りの犯行かも知れないってことです」
「ええ!?か、顔見知りって・・・
ボクも知ってる人かも知れないってこと!?」
「ええ、可能性の話ですが・・・
顔見知りの場合、
持ち歩いてる場合も考えられます。
そうなった場合、
チノの感じ取る力が重要になります」
「う、うん。解った。
気をつけてみるよ」
「お願いします」
さて・・・父様に報告か・・・どうしたモンかな。
久しぶりに気の進まない話だ。
次回「呪いのアイテムの日の次の日の???(???)」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
次回タイトルの追加
カッパー→ルーパ
シルバー→ルーバシー