ヒールを試した日
この世界は魔法があることが解った。
大きく分けると3種類。
魔法陣や正確な呪文を唱えることで発動する呪印魔法。
神様(?)へのお伺いを立てることで発動する神聖魔法。
・・・むしろ申請魔法なんじゃないか?
とか余計なツッコミをしたりもするが。
後は、精霊との対話により発動する精霊魔法。
理屈は解っていないようなのだが、魔法を使うには素質が必要らしい。
MPの無い人には使えない・・・みたいなモンのようだ。
そのため、世界中の誰も彼もが魔法を使えるということは無く、一部の選ばれた人間だけが使える・・・と言ったような選民思想もあるらしい。
素質は遺伝しやすいらしく、魔法使いの子供は魔法使いの素質があることの方が多いようだ。
数としては、呪印魔法>神聖魔法>精霊魔法となっている。
やはり、精霊と意思の疎通ってのが難易度を高めるらしい。
その代わりと言っては何だが、意思の疎通で発動するため、小難しい手続きとか、お約束事が無いため、柔軟性は抜群。
逆に、呪印魔法は、魔法陣だの、呪文だのがガッチガチに決まっているらしい。
神聖魔法はその中間。
神様にお伺いを立てるとのことなのだが・・・別段、神の声を聞いたとか、そういう宗教的な事は無いらしい。
とは言え、身体を治すってのは、神の奇跡と呼ぶに相応しく、宗教と結びついているようだ。
魔法の所為で・・・所為と言い切ってしまうのもどうかと思うが・・・科学の発展は遅れている。
物理、化学、自然科学、人体、病理学、etc、etc・・・これらがかなり遅れている。
大抵のことは、魔法で片が付いてしまうからだ。
例えば、建造物には物理、数学などが必要なのだが・・・専門外なのでよくは解らないが・・・強度が足りなければ魔法で補えばいいのだ。
と言うか、魔法で強化するのがアタリマエになっている。
人体に関しても研究は進んでいない。魔法で治せばいいのだ。
人間、楽をするとダメだな。
天文だけは、占星術の絡みで結構進んでいる。
あと、魔法学も当然ながら進んでいる。
進んでいるのかは、よく解らないが、歴史は古いらしい。
ヒールっぽいモノを試してみたい。
もどかしいことこの上ないのだが、そうそう、ヒールを掛ける対象が居ない。
まぁ、そりゃ、そうだ。
けが人が居た所で、3歳の子供にヒールをさせる馬鹿者は居ない。
と、なると、動物にでも・・・とは言え、これまた、素直にヒールを受けてくれるとも思えない。
さて、困った。
と、なると、植物にでも・・・とは言え、これまた、効果が解りにくいのが問題だ。
等々、もやっと問題を考えながらうろついていたら、町を出てしまった。
やべっ。
さっさと戻らないと。
と、思っていたら、目の前に枯れた森が広がっている。
町の隣に、こんな寂しい風景が広がっているとは思わなかった。
「ふむ」
この枯れ木が、死んでしまっていたら、どうにもならないが、もし・・・もし、万が一、生きていたら・・・ヒールが効くんじゃないか?
と思いついてしまった。
町に戻るのはヒールを試してからでも遅くはないか?
・・・ってことで試すことにした。
枯れ木に手をかざし、目をつぶる。
「ヒール」
・・・ダメか。
何も起こらないな。
そもそも、神聖魔法らしからぬ唱え方じゃだめか。
「我、彼の者を癒すことを願いたてまつらん。ヒール」
前に母様が使った呪文が思い出せないので適当だ。
こんなのでいいのかどうかは解らないが、身体から何かが抜ける感じがして気だるくなった。
ちなみに、ヒールと唱えただけでは気だるくなったりしない。
それっぽい呪文を加えることで気だるくなる感が追加された。
ってことは、ヒール・・・かどうかは解らないが、何かが発動したんだろう。
見た目、なんら変わりはないが、ちゃんと発動したんだろうか?
まぁ、枯れ木が急にみずみずしくなっても気持ち悪い。
時間が掛かるんだろう。
もう一発くらい撃ち込んでおくか。
「我、彼の者を癒すことを願いたてまつらん。ヒール」
気だるさが一気に増した。
いかん。立ってるのも億劫だ。
なるほど。
これがMP切れ状態か?
座りたくてしょうがない衝動を抑え込みつつ、取り敢えず、町へ戻った。
2発でMP切れとは情けない。
情けないが、枯れ木相手なら誰も困らないし、実験には良いかも。
ばれて大事になっても面倒だし・・・街道から少し奥まった所で実験することにしよう。
今日は、良い収穫であった。
満足である。
はっはっは。
次の日から、2mほど奥まった所の木に毛糸を結び、ヒール実験を開始した。
2日後には、枯れ木に花・・・ではなく、芽吹いてきた。
自分のヒールに効果があったことが解り、小躍りしてしまった。
が、一週間後には、再び枯れてしまった。
別の木々も同じ状態になったことから、根本的に何かが間違っているらしい。
とは言え、何が間違っているのか解らないので、日々、ヒールを続けた。
三週間も経とうかという頃、ふと思い至った。
そもそも、枯れた原因は何だったのか?
原因も取り除かずにヒールをした所で、穴の空いたバケツに水を注いでいるだけではないのか?
さて・・・植物の専門家ではないので、植物の病気が解らない。
これでは、単純にヒールのスパルタをしているだけではないか。
まぁ、その甲斐あって、ヒール3発まで撃てるようになったが・・・それはそれ。
相手の状態を調べる手段があっても良さそうだ。
再度、枯れてしまった木に手をかざし、目をつぶる。
「我、彼の者の不調を知ることを願いたてまつらん。リサーチ」
かなり適当な呪文ではあるが、そういう適当さを寛容に受け止めてくれるのが神聖魔法のいい所・・・というかいい加減な所。
まぁ、機能というか、効能が無かったら発動しないけどね。
目をゆっくり開けると、枯れ木にぼんやりと色が付いている。
色が付いているというか、もやもやがまとわりついている。
ほとんどは、白というか灰色なのだが、地面・・・恐らく根っこがあるであろう部位が赤い。
つまり、根っこに病気があるのかな?
病気の詳細が解らないが、治せるもんだろうか?
ま、治ったらラッキーくらいの意気込みでやってみますか。
「我、彼の者の異常を取り除くことを願いたてまつらん。リコンディション」
赤い部位が青く光り、明滅を繰り返した後、薄い緑になって白に変わった。
治ったってことだろうか?
「我、彼の者を癒すことを願いたてまつらん。ヒール」
・・・さて、こいつはしばらく様子見だな。
ってことはだ・・・今までヒールしてきた木は、全てやり直しか。
やれやれだ。
リサーチは、それほどでも無かったが、
リコンディションは、気だるさが多い気がするな。
今のMPでは無理があるってことだろうか?
今のMPだと、リサーチ、リコンディション、ヒールでほぼすっからかんだな。
ま、続けていれば、MPも増えるだろうし・・・まだまだ若いんだ。どうとでもなるだろう。
本日作業分目印の毛糸をくくりつけ、町に戻ることにした。
次回「ヒールを試した日のノイナ(家政婦)」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
魔方陣→魔法陣(指摘感謝)
次回タイトルの追加