呪いのアイテムの日の???(???)
気にくわない・・・気にくわない。
あの生意気なウィル・ランカスター・・・成り上がりのくせに生意気な男。
成り上がりの子なんだから、成り上がりらしく、私たちの言うことを聞いてればいいのに・・・
生意気なことを言って、全然言うことを聞きやしない。
成り上がりのくせに。
あの忌み人も気にくわない。
忌み人なんだから、それこそ私たちの手下・・・
ううん、あんな忌み人なんか関わりたくもない。
そのくせ、忌み人のくせに生意気にも魔法を使いこなして・・・
フランテスタ様に逆らって・・・生意気。
きっと成り上がった時みたいにずるい手を使ってるに違いないんだから。
いつか、化けの皮をあばいてやるんだから。
そもそも、フランテスタ様や、この私と同じ教室で学んでいられるという事に感謝すべきなのに・・・
奴らときたら、私たちをうやまうという事すらしないなんて・・・
私たちをなんだと思ってるのかしら。
成り上がりで下賤の人間なんだから、らしくすればいいのに・・・生意気な。
廊下で生意気な成り上がりが先生と話をしている。
聞くつもりなんかコレっぽっちも無かったのに、気になることを言っていたので、ついつい物陰に隠れて盗み聞きしてしまった。
「ティータの祝福は持ち歩いていますね」
「ええ・・・特に持ち歩かない理由も無いですし・・・
それに心力の底上げをしてくれるみたいですし」
「あら?そんな効果もあるのね」
「ええ、あるみたいです。
魔法の使える回数に違いが出ますし」
「そんなにはっきりと違うのね」
「ええ・・・首飾りは禁止でしたか?」
「い~え。そんなことは無いわよ」
ここまで聞いた所で、忌み人のヤツに気づかれた・・・気がしたので物音を立てずに立ち去った。
あの生意気なウィルは、ティータの祝福?という首飾りを付けているらしい。
なんでも、心力の底上げをしてくれるとか。
ほら、見たことか。
やっぱり成り上がりは成り上がりらしく、ずるをしていたのね。
あんなのが魔法を使いこなせるなんて、おかしいと思ったのよ。
そんなずるをしているなんて許せない。
そういう輩は、私が制裁してやるんだから。
それにしても、ティータの祝福ってのは何なのかしら?
翌日、フランテスタ様に聞いてみることにした。
「フランテスタ様、
ティータの祝福をご存知ですか?」
「ティータの祝福?
なんだったかしら・・・
どこかで・・・」
フランテスタ様でも、お分かりにならないのかしら。
「ああ・・・
そう言えば、お父様がそんなことを仰っていたわ。
なんでも、ハイエルフの秘宝だとか・・・」
「ハイエルフのですか!?」
そ、そんな貴重な物だったなんて・・・
ますます、あの成り上がり共には勿体ない宝。
「ええ。確か、ハイエルフの秘宝だったと思うわ。
フォシナ、それが、どうかしたのかしら?」
「いえ・・・
なんでも、この国にあると小耳に挟んだ物ですから・・・」
「あら。
さすが、ウアケレ家ね。
国でも上位の者しか知らない話よ」
「いえいえ。
本当に小耳に挟んだだけですから」
国でも上位しか知らないですって・・・
そんな物を、あの成り上がりが持っているというの!?
なんて図々しい・・・
「でも、さすがはフランテスタ様。
色々な事をお知りでいらっしゃいますわ」
「あら。
そう言われるのは、
悪い気分では無くてよ」
「いえ、もう、さすがフランテスタ様と、
このルノシィ、目が覚める思いですわ」
「ええ。さすがフランテスタ様です」
「おーほっほっほっほ」
その日から、あの成り上がりを観察しているのだけれど・・・全然隙が無いじゃないの。
確かに首飾りはしているみたいだけれど・・・
こっそり取り上げる機会なんか無いじゃない。
少なくとも、学院ではだめね。
他人の目が多すぎる上に、肌身離さず持ち歩かれては、取り上げる機会なんて来ないわ。
と、なると・・・寮にいる時かしら。
そもそも、あの成り上がりはどこの寮なのかしら?
あくる日、自分の魔法について調べることにしたの。
図書室で風属性に関して・・・地味な作業ですわ。
ふふん。それと言うのも、私が魔法を駆使すれば、首飾りを取り上げるなんて造作も無いこと・・・
とは言え・・・正直な所、私の心力では・・・ちょっと足りないみたい。
空を飛べれば、窓から鳥のように忍び込めるのに・・・
力尽きるどころか、発動もしやしないなんて・・・
風の刃とか、風による防御とか、役に立たない物ばっかり。
諦めようかと思っていた時、古い本の一編に目が止まった。
これよ。
これなら役に立つわ。
心力の続く限り、私の周囲にある風の流れをゆっくりにする魔法。
風属性の魔法防御を行うみたいだけど、発動時の注釈の方が、今は大事。
術者の周囲の音をさえぎると書いてあるわ。
この魔法を使用したままなら、物音を気にせず行動できるわ。
これで楽勝ね。
調べ物の成果もあったことだし、帰ろうかと思っていたら、ちょうど奴らが帰る所を見かけたので、こっそりと後を付けたわ。
何も知らない奴らの案内によると、第3区「木漏れ日と風の寮」・・・ね。
寮の外に掲げられている部屋割り図を見るに、奴らは4階とのこと・・・
困ったわね。
どうやって・・・
しばらく部屋割り図を眺めていると・・・ヘルサル・ラヴィールの名前が目について・・・気になったの。
ラヴィール・・・ラヴィール・・・
確か、ラヴィール家って・・・お父様に逆らえなかった気がするわ。
そうね。
こいつに協力させましょう。
部屋は・・・2階の2号室ね。
扉を軽やかに奏でるように叩く。
淑女たる物、些細なことにも気をつかわなければ・・・
・・・出てこないわね。
ちょっと、出てきなさいよ。
扉が打楽器のような音を奏でる。
「はいはい。誰ですか?」
「この私を待たせるとは、
ラヴィール家のくせにいい度胸ですわね」
「え?」
「ウアケレ家のフォシナが、
訪ねてきてやったのです。
さっさと部屋へ案内なさい」
「え?え?」
「さっさとしなさい」
「は、はい」
部屋に入って、ぐるりと眺める。
ま、寮の部屋なんて、こんな物よね。
どうやって忍び込んだものかしらね・・・
「ぁ、あの・・・
フォシナお嬢様・・・?」
「ちょっと、お黙りなさい。
今、考え事をしているのです」
「は、はい」
やはり、4階まで外から・・・というのは無理ですね。
ラヴィール家の・・・なんだったかしら。
そうそう、ヘルサルを上から下まで観察する。
・・・だめね。
うまくすれば、協力者として使えるかと思ったのだけれど・・・
おどおどしてて、小動物みたい。
きっとヘマをするわ。
ヘマをして、捕まったら、簡単に私のことをばらすに違いないわ。
そんな巻き添えはごめんよ。
と、なると、やはり自分でやるしかないわね。
扉の鍵は・・・鍵と言うほど複雑な物では無く・・・なんと言ったかしら。
留め具を回転させて、回転させて開かないようにするだけの簡単な物。
これくらいなら、私でもどうにかなりそうだわ。
玄関の鍵を確認しなかったけど・・・そうね。
「お前に、この私を手伝う栄誉を与えましょう」
「え?」
「いいから、私の言うことを聞きなさい」
「は、はい」
「そうですわね・・・
3日後の夜、
皆が寝静まってから、
寮の玄関の鍵を開けなさい」
「え?」
「言ったことが解らなかったのかしら?」
「え?え?
そんな・・・
そんなこと出来ませんよ」
「やりなさい。
お父様に言いつけますわよ。
そうなったら、
お前の家はどうなるかしら?」
「ぇ・・・」
「やるの?やらないの?」
「は、はい。
3日後、寮の鍵を開けます・・・」
「仮にばれても、
私のことは秘密にするのよ」
「も、もちろんです」
「そう、いい子ね」
ふふん。これで第一関門は突破ですわ。
成り上がり共のずるも、これで終わりですわ。
次回「違和感の日」
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