呪いのアイテムの日
日々、特に大きな事件もなく、10歳になった。
ただただ安穏と過ごし、ルーバシーに上がった。
大きな出来事と言えば、弟が生まれたことだろう。
1年の秋に、無事に出生し、ウィノウと名付けられた。
実家の家族を夜泣きの恐怖に叩き落としたやんちゃ坊主だ。
自分は、学院にいる時間の方が長くなったので、兄として認識してくれるかが心配だ。
なんていうか・・・まるで単身赴任中の父親みたいな心配だな。
ルーバシーに上がる際、別れと新たな出会いがあった。
ルーパのみで学院を去る生徒が何人かいた。
金銭的な事情もあるだろうし、元々、ルーパのみのつもりだった場合もある。
ランティルが密かに(?)狙っていたサーティルが卒業して去ってしまったことに、彼は、激しく落ち込んでいた。
が、近隣のルーパから合流した新しい娘の中に、好みの娘が居たらしく、早々に復活していた。
そんなんでは、落とす物も落とせない気がするのだが・・・
切り替えの早さはいっそ清々しい。
日々の特訓は、チノテスタとラルタイアが参加した状態で続けていた。
・・・一回だけランティルが参加したが、次の日からは来なくなった。
それはそれ。
チノテスタが自分の弓を使う限りにおいては、かなりの命中精度を誇るようになった。
残念ながら、少し強い弓になると、とたんに精度が下がってしまう。
まぁ、今後の課題だろう。
それでも、定点からのサイコロを使ったランダムターゲットに対し、9割以上の精度なんだから、十二分にスゴイ。
移動しながらのターゲッティングはまだまだだが。
ミレイの短縮呪文・・・というか歌は氷属性の歌と言うことが解った。
残念ながら、他属性の歌に関しては解っていない。
そもそも、図書室の文献を漁っても歌に関する情報が発見出来ていない。
そのため、ラルタイアの方は、もっぱら魔法陣を用いたまっとうな(?)練習となっている。
ラルタイアの属性は水で、ミレイとの連携が決まると、かなりの効果を発揮する。
呪印魔法ってのは、結局の所、正確な呪文という物が基盤となっているようだ。
魔法陣は、呪文を陣形に記した物・・・のようだ。
精神の集中の仕方というか・・・イメージの仕方によって、魔法陣の有効な使い方ってのも解ってきた。
何も、魔法陣の中心に発現する必要も無く、魔法陣の近くに発動することで、魔法陣の紙を消費すること無く、使い続けることが出来る。
・・・最初、二人には解りにくいと文句を言われまくったが・・・
ミレイの短縮呪文は、魔法陣が要らないという利点があるが、歌が必要なため、魔法陣を用いた場合より、多少時間が掛かる。
場面場面に適した発動方法が必要だろう・・・ってことで、ミレイにも魔法陣での発動も練習させている。
ミレイの髪に関しては、心配しすぎだったようだ。
まったく気にしない人、気にして関わりを持たない人の二極化だった。
関わってこない方は、かなり露骨に嫌ってはいたが、関わってこなかったので、こちらも関わらなかった。
子供だったので、忌み人が解っておらず、気にしていなかったってのも若干いたようだ。
学年が上がるとともに、関わりを持たない側になったのがいる。
これも関わってこないので無視した。
ルーパの卒業試験・・・試験と言うほどの物ではなかったが・・・余裕でクリア出来た。
ルーパの3年から、学院、町中での治癒院で、実技という時間があり、軽傷の人にヒールをする・・・という授業が始まった。
要するに、ヒールの実力を示せれば、ルーパは無事に卒業・・・って事らしい。
当番の日は、授業まるまる免除・・・傷病者が居ない時の暇さっぷりがやばい。
ぽかぽかと暖かい日差しの日が当番だったりすると、気持ちよく眠れる。
ヒールがうまく使えない子も、当番に組み込んでしまうあたり、かなり乱暴な実技だが・・・全員、無事にクリア出来たようだ。
ちなみに、呪印魔法の方は、魔法陣を用いた魔法を2種類以上使えることという課題だった。
2種類でいいのか?って思ったのだが、MPが足りないと中々に難しいようだ。
まぁ、こちらも全員クリアしていたから、ルーパの卒業試験は落とす目的ではないようだ。
そんな次第で、取り立てて大きな事件も無く、安穏とルーバシークラスでの生活を開始していた。
「ウィル!」
「ああ、ラル。
どうしました?」
「これ。今回の分」
ドサッと音のする量の紙を机の上に置かれる。
紙が厚いので、単純に比較は出来ないのだが、厚みだけで言えば、大型の国語辞典並だ。
「ああ、そんな時期でしたね。
いつもありがとうございます」
「いいって。
お陰でウチも儲けさせて貰ってるし」
ラルタイアの実家はラソルア商会という、名の知れた商会らしい。
親父さんが、紙すきで作った紙に、えらく関心を示してきた。
別段、ウチの実家が金に困っている訳では無かったし・・・そりゃ、多いに越した事は無いが・・・
ウチで製紙業を始め、独占し、儲ける・・・という考えも無かったので、定期的に紙を納めることを条件にして製法を教えた。
ぶっちゃけ、自分で紙を作るのって結構面倒なんだよ。
ラルタイアの実家は、この新しい紙によって、新たに一財産築いたようだ。
こちらとしては、無駄遣いをしても気にならない量の紙を、タダで手に入れることが出来て、助かっている。
ま、そんなべらぼうな量、かすめ取っている訳では無いので、問題なかろ?
ホームルーム・・・連絡の時間に3年の話が出た。
そろそろ、ルーバシーの3年が卒業試験らしい。
3年になったばかりじゃないかとか、1年には関係無いじゃないか。
と思っていたら、そうでもない。
なんでも、一緒について行くんだそうだ。
アルバ・シャンタの学院から、馬車で2ルーオ(2時間半)程度行った所に、デグルバ山という場所がある。
その山麓、および、洞穴にはディリングと呼ばれる動く死体のような物が徘徊している。
年に一度、ルーバシーの卒業試験を兼ねて、掃討を行うとのこと。
一年経つと、また死体が復活するのかよ。
と思ったのだが、死体ではなく、塵芥が黒い悪意によって、人型に固まるらしい。
洞穴の奥に、悪意のわき出す泉があるのだが、破壊しても近場の別の所からわき出してしまうのだそうだ。
で、諦めて、悪さをする前に掃討する・・・という場当たり的な対処に落ち着いたそうだ。
それはそれ。
3年が退治をするのはいいとして、1年はなんで行くんだよ。
と思ったのだが、拠点確保に付き合わせるとのこと。
今回に関しては、2年は行かないらしい。
1年のウチから、お前らもこういうことをするのだと目標を見せ、自分たちに足りない物を自覚させ、発憤させることが目的らしい。
一応、それっぽい理由ではある。
・・・本当のところ、2年も行くと、人数が多くなって監督が大変だからじゃないのか?
それはそれ。
一回こっきりの試験という訳では無いので、二回目の時には2年が行くらしい。
でだ、監督の先生と共に、拠点確保をしていればいいので、特に危険は無いそうだ。
それに、ディリングの動きは鈍いらしい。
時間の経過と共に、コアが構築され、表面が堅くなり、動きも素早くなってくるそうだが・・・
日課である練習場へ向かおうかとしていると、サララケート先生に声を掛けられた。
「ウィルくん、
ちょっといいですか?」
「はい?
なんでしょう」
「うんうん。
今日も、
ティータの祝福は持ち歩いていますね」
「ええ・・・
特に持ち歩かない理由も無いですし・・・
それに心力の底上げをしてくれるみたいですし」
「あら?
そんな効果もあるのね」
「ええ、あるみたいです。
魔法の使える回数に違いが出ますし」
「そんなにはっきりと違うのね」
「ええ・・・
首飾りは禁止でしたか?」
「い~え。そんなことは無いわよ」
「・・・ウィル」
「ミレイ、どうしました?」
「・・・うん。
・・・人がいた、みたい。
でも、もういない?」
ミレイの見ている方を振り返ってみるが・・・確かに人はいないようだ。
まぁ、いいか。
サララケート先生の方へ向き直る。
「それで・・・
先生、何のご用ですか?」
「ああ、そうそう。
ティータの祝福なんだけどね。
今度の演習には持って行かないわよね?」
「え?
演習というと、
3年の方々の試験ですよね?
心力が底上げされるので、
心強いのですが・・・」
「あら?だって・・・
たぶん、クロが寄ってきてしまうわよ?」
「は?」
「あら?知らされてないのかしら?」
「え?
クロが寄ってくるんですか?」
「寄ってくるのよ」
・・・呪いのアイテムか!
「ティータの祝福ってば、
聖なる力を振りまいてるようなモノですからね。
クロが寄ってきてしまうのよ」
「はぁ。
それは・・・
さすがに持って行けないですね」
「そうよね。
よかった。
念のために話をしておいて」
「そうですね。
助かりました。
危うく危険の種を持ち歩く所でした」
「行く前でよかったわ」
「そうですね。
ありがとうございました。
それでは、失礼します」
「はい、気をつけて帰るのよ」
「はい。
失礼します」
クロが寄ってくるのか・・・
なんて危なっかしいアイテムなんだ。
心力が上がるのとどっこい・・・下手するとやっかいの方が勝るんじゃないか?
まぁ、いい。
それはそれとしてだ・・・
知らされてなかったってのはどういうことだ?
エルフの間では常識的な事なのか?
おのれ、ハルトティータ。
今度、会ったら、文句を言ってやる。
次回「呪いのアイテムの日の???(???)」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
合ったら→会ったら(指摘感謝)
次回タイトルの追加
刻→ルーオ
カッパー→ルーパ
シルバー→ルーバシー