特訓の日のその後のラルタイア(級友)
特訓の日の数日後。
ここ最近、チノが放課後になると消えてしまう。
翌日、聞いてみても、「お腹が痛かった」だの「宿題で図書室に行ってた」だのと嘘っぽい。
強気に問いただしても、はっきりと答えない。
私に秘密を作るとは、チノも偉くなったもんね。
これは、私に対する反乱とみたわ。
ぜ~ったいにあばいてやるんだから。
とは言え・・・全然手がかりがないのよね~。
こんな時、ウィルが居れば、何か手助けしてくれそうなモンなのに。
ウィルも見当たらない。
ウィルとミレイちゃんも秘密持ちよね~。
あの二人と放課後に一緒に帰った事なんか、数えるくらいしかないし・・・
って、寮の方向が逆だから仕方ないか。
それにしても、チノはどこに行ったのやら。
一旦、教室に戻ってきたんだけれど、ウィルはやっぱり居ないし・・・
教室を出ようと思っていたら、後ろから声を掛けられた。
「ちょっといいかな?」
「はい?」
振り返ると・・・先輩なんだろうなぁ。
私より、頭一つ分以上は大きそうな男子が居た。
ちょっと見上げる感じになる。
「この教室に、
ウィル・ランカスターって子はいるかな?」
「ウィルですか・・・
今日はもう帰ったみたいですが」
「そうですか。
それは残念。
ですが、
この教室なのは間違いないのですね?」
「ええ・・・
ウィルに何か用ですか?」
「ちょっと、話があったのですが」
「ああっ!?
ア、アルフ会頭!
ど、どうしてこんな所に!?」
あ゛~・・・えっと・・・確か精霊魔法のイマエテラだっけ。
精霊魔法の子って接点が少なすぎて、よく解らないんだけど・・・
彼女は、この人のこと知ってるみたいね。
「ええ、ちょっと。
この教室のウィルに用事があったんですが、
今は居ないみたいですので・・・」
「ウィルくんに用事なんですか?」
「ええ、まぁ・・・」
イマエテラに寄っていき、小声で尋ねる。
「ねぇねぇ、イマエテラ。
この人のこと知ってるの?」
「ええっ!?
知らないことにびっくりだよ。
黄銅会、会頭のアルフ会頭だよ」
「黄銅会って~と・・・
学生自治のあれ?」
「そうだよ。
アルフ会頭・・・
かっこいいよね~」
・・・くねくねし始めた。
ぁ、元に戻った。
「アルフ会頭!
ウィルくんに用事なんですよね」
「ええ」
「じゃぁ、私にお任せください」
「どこに居るか知ってるんですか?」
「いえいえ。
でも、ウチの子が探し出してくれます」
「ああ、君は精霊魔法使いなんですね」
「ええ。
アルフ会頭のお役に立てるなら、
喜んで探し出してみせましょう」
へ~・・・精霊魔法ってそんなこと、出来るんだ。
「ウチの子は、そういうのが得意なのです」
「それじゃぁ、お願いしようかな」
「はい。お任せください。
・・・シルバリー、シルバリー?」
彼女がシルバリーと呼びかけると、彼女の周りにそよ風が吹き始める。
「シルバリー・・・いい子ね。
この教室で一緒だった、
ウィルって子を探してきて欲しいの。
解る?
いい子ね。
行って!」
そよ風が彼女を中心に、周囲に向かってそよぐ。
今のが精霊?
「少し、お待ちくださいね。
今、においを追ってますから」
におい・・・なんだ・・・
「ありがとう。助かるよ」
「いえいえいえ。
アルフ会頭のお役に立てるなら、
喜んで、お手伝いします」
待つこと、しばし・・・
「シルバリー、いい子ね。
見つけたのね!
アルフ会頭!
ウィルくんを見つけました!」
「案内してもらえるかな?」
「ええ、もちろんです。
こっちです」
と、彼女が教室を出て行く。
どうしよう。
本当に"におい"で見つけられるんなら、彼女について行って、チノを探すお願いをしようかしら・・・
そうね。
お願いしてみよう。
ってことで、急いで追いかけることにした。
校舎を出て、校庭を横切る。
「イマエテラ、どこまで行くの?」
「私も解らないわよ。
シルバリーがこっちだって言うんだもの」
「まぁ、精霊のことです。
きっと、こっちに居るんでしょう」
「はい。もちろんです」
「だって・・・こっち・・・
もう裏山の林しかありませんよ?」
いよいよ、裏山手前の林まで来てしまった。
本当にこっちにいるんだろうか?
「シルバリー・・・どこまで行くの?
え?そっちなの?」
「どうしました?」
「えっと・・・林の中みたいです」
「そうですか。
じゃぁ、お二人はここまででいいですよ。
あとは私一人で大丈夫ですから」
「いえいえいえ。
私もお供します!」
「私も、結果を知りたいので行きます」
「そうですか。
まぁ、危険は無いとは思いますが、
私の側を離れないようにしてくださいね」
「はい!」
ああ、イマエテラはすっごい嬉しそうだ。
もう、隙あらば、抱きつこうかって勢いだ。
林を少し奥に入ると、何かが木に当たる音が聞こえてくる。
結構鋭い・・・木を小突くような音だ。
音の方へ進んでいくと、話し声が聞こえてきた。
・・・この声・・・
「チノ!」
「え?え?
ラル・・・
どうしたの?」
チノが戸惑いながら、こちらを向く。
後ろにはウィルにミレイちゃんもいる。
どういうこと?
「イマエテラさん、
どうもありがとう」
「いえいえいえ。
アルフ会頭のお役に立てて、
すっごくうれしいです」
アルフ先輩がウィルの方へ向かう。
チノを質問攻めにしたかったけど、アルフ先輩の用事も気になる。
「やぁ、ウィル。久しぶり」
「・・・アルフじゃないですか。
どうしたんですか?
こんなところまで」
「ウィルを探していたら、
こんなところまで来ちゃったんですよ」
「ふむ。
僕に用事ですか?」
「ええ。
本当はもっと早くに来るつもりだったのですが、
ウィルが入学の年だとすっかり忘れてました」
「忘れる程度の用事なんですから、
いいんじゃないですか?」
「まぁ、そうおっしゃらずに。
ウィル・・・
次代の会頭になりませんか?」
「かいとう・・・ですか」
「ええー!」
イマエテラ・・・驚きすぎ。
ウィルがイマエテラに驚いちゃってるじゃない。
いや、私も驚いたけど。
「かいとうが何なのか解っていないのですが?」
「ああ、一年ですしね・・・
仕方ないでしょう。
黄銅会という自治会の代表です。
まぁ、ルーパだと自治というほどの力はありませんが」
「ああ、生徒会長ですか」
「せいとかいちょう?
生徒会長ですか・・・
まぁ、そう言えなくもないですね」
「僕を指名するとして・・・
選挙は無いんですか?」
「せんきょ・・・ですか」
「信任投票です。
人気投票みたいなモンでしょうか」
「ああ・・・投票ですか。
特に無いですね」
「え?無いんですか?」
「ええ」
「じゃぁ、会頭にふさわしくない人が、
会頭に指名されたらどうするんですか」
「異議申し立てをして、
何らかの形で実力を示して・・・
って形ですかね」
「何らかの形って・・・」
「まぁ、大抵は仲間と組んで、
団体戦でしょうか・・・」
「はぁ・・・
まぁ、いいですけど。
やりませんから」
「ええー!」
イマエテラ・・・びっくりするからやめて。
「なんでよ。
アルフ会頭直々のご指名なのに!」
「そうですね。
まぁ、直々はともかくとして、
理由くらいは教えてもらえますかね」
「ミレイのことがあるからですよ」
「え?」
「ああ、なるほど。
・・・ミレイのことを持ち出されると、
強く出られませんね」
「そんな訳で、
折角ですが、
お断りします。
そもそも、
一年を次期会頭に指名するってのは、
どうなんですか」
「どうとは?」
二人は、まだまだ話の途中だったけど・・・アルフ先輩の用事も解ったし、私はチノの方へ振り向いた。
「さぁ、チノ!
話してもらいましょうか?」
「ラル・・・
なんか怖いよ?」
「ウィルたちと、
ここで何してたの!
さっさと白状なさい!」
「え・・・
でも・・・
内緒だし・・・」
「私にも内緒なの!」
ウィルやミレイちゃんとは一緒に秘密持ってるのに!
幼なじみの私は除け者なんだ・・・
「あ・・・いや・・・
えっと・・・
特訓してました」
「特訓?」
「あ・・・
えっと・・・
みんなには内緒だよ」
「秘密の特訓なんだ・・・
秘密だから、
私も除け者なんだ」
「あ・・・
いや・・・そうじゃなくて・・・」
なんか、あったま来た。
チノもチノだけど、ウィルもミレイちゃんも、友達だと思ってたのに、私にも内緒だなんて!
振り返ると、まだアルフ先輩と話をしていたけど、どうにも言わないと我慢ならなかった。
「ウィル!」
「え?
ああ、なんですか?」
「私も、明日から参加するから!」
「え?」
「参加するから!」
「ええ。それは構いませんが・・・
えっと・・・
チノテスタ・・・
なんか怒らせましたか?」
「ボクに聞かないでよ」
なんか、余計に頭来た。
やっぱり、文句の一つや二つや三つ四つ言わないと・・・
「ん?
ミレイ、なんですか?」
ミレイちゃんが、ウィルの袖を引っ張っているみたい。
「・・・ウィルと、チノテスタが、悪い」
「え?」
「・・・ラルタイア、かわいそう」
ミレイちゃんの言葉に・・・思わず涙が出そうになった。
ち、違うの。
ミレイちゃん、すっごくいい子なんだもの。
ウィルがこちらに向き直る。
「ラルタイア、ごめん」
「うん」
「後で詳しく話す」
「絶対だからね」
取り敢えず、今はこれで満足しておく。
ミレイちゃんに感謝するんだぞ。
「ラルタイア、ラルタイア・・・」
イマエテラが小声で話しかけてきた。
なんだろう?
「なに?」
「ウィルくんって・・・
アルフ会頭と知り合いよね」
「そうみたいね」
「じゃぁ、ウィルくんと一緒にいたら、
アルフ会頭と仲良くできるかしら?」
「ん~・・・どうだろ?
結局、ウィルは会頭を断ったみたいだし」
「あ・・・
そっか。
そうだよね」
「でも、だいぶ親しそうだったよ?」
「そう思う!思うよね!
やっぱり、ウィルくんと仲良くなっておこうかしら」
だ、だいぶ動機がよこしまです・・・
接点が少なかったから、全然解らなかったけど・・・中々、味のある子ね。
・・・ウィル・・・がんばれ。
と、心の中で応援をしておくのであった。
次回「呪いのアイテムの日」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
次回タイトルの追加
カッパー→ルーパ
唐突ですが、次回から、10歳~の中等編。