先生の日のコニル(先輩)
休み時間にのんびりとしていると、ルーパの子が訪ねてきたという。
おやおや。ラルタイアちゃんじゃないですか。
「やほー、ラルタイアちゃん。
そんなに急いでどうしたの?」
「コニル先輩、レアルス先輩はどこですか?」
「う~ん・・・お手洗いかなぁ?
レアルスに用事なの?」
「ああ、いえ。コニル先輩にも。
えっと、ウィルが今日大丈夫だって」
「おお!?
ウィルって~と、
レアルスが言ってたヒールの子だね。
そっか~。
今日、大丈夫なのかー。
やったね」
「はい。それで、放課後、寮に連れて行きますんで」
「お~お~。
それは素晴らしい知らせよ、ラルタイアちゃん。
解った。
レアルスには伝えとく」
「はい。お願いします。
じゃ、時間もないんで、戻ります」
「わざわざ、ありがとね~」
嵐のように去って行ったね。
元気っぷりがレアルスと被るわ。
そりゃ、仲良くなるわ。
戻ってきたレアルスに伝えたら、大喜びだった。
うんうん。解る、解るよ。
私もヒールの腕前が上がるかと思うと、嬉しくなっちゃうからね。
もう、二人して放課後が楽しみで楽しみで、その日は授業に身が入らなかった。
授業が終わってから、二人して走るようにして帰って・・・件のウィルくんが来てないことに、二人してがっかりしたりもした。
なんでも、一旦、寮に帰ってから来るとのこと。
そうだよね。
冷静に考えれば、ルーパだもんね。
時間が余っちゃうよね。
レアルスはいつも以上に落ち着きが無く、談話室でそわそわしながら待ってた。
私は、お客様のためにお茶の準備。
そんなことをしつつ、しばし・・・談話室の方から声が聞こえてきた。
「レアルス先輩、
ウィルを連れてきましたよ!」
「おぉ!来たね!
ささ、座って座って」
ふふ・・・レアルスにしっぽがついていたら、激しく振られているんじゃないかな?
「こんにちは。
キミがウィルくんよね?
ようこそ」
「ぁ、はい。
こんにちは」
談話室には・・・まぁ、当然なのだが、男の子が座っていた。
こう言ってはなんだが・・・ごく普通の男の子だ。
ルーパの1年ってことだから、かわいらしくあるのだけれど。
受け答えを聞いている限りは、ルーパらしからぬと言うか・・・
なんとも不思議な・・・普通なんだけど、忘れることの出来ない感じの男の子。
彼の隣では、ちょこんとお人形さんの様で・・・その髪の毛に特徴のある女の子が座っていた。
こちらはこちらで、その黒髪の所為で普通からほど遠い感じの女の子。
男の子の方の特徴を伝えるのは難しいけど・・・なるほど、この二人なら特徴的すぎる。
レアルスが言っていたのも納得。
で、この男の子が、ヒールの先生?
実際の魔法を見ていないので、どうにも解らないわ。
だって、ルーパの1年だよ?
まぁ、あのレアルスが嘘をつくとは思えないし・・・
「先生!私たちに、ヒールを教えて!」
「取り敢えず・・・その先生ってのやめませんか?」
「そんなことより、ヒールを教えて欲しいの」
「そんなこと・・・
まぁ、いいですけど。
ヒールですか?」
「ヒールというか・・・ヒールの前後を含めて?」
「アーシラリル様にヒールしたとき、
その前に色々やってたじゃない?
それを詳しく教えて!」
レアルスがものすごく熱心で、ちょっとおかしい。
もう・・・普段の授業も、これくらい熱心ならいいのに。
「じゃぁ、ヒールの手順ですが・・・
授業を受けていないので、我が家流ですよ?」
「そっか。授業免除だもんね。
我が家流ってことは、
先生の家独自なの?」
「いえ・・・独自なのかどうかは解りませんが・・・
先生ってのは、まだ続くんですかね?」
「まぁまぁ」
「はぁ・・・
ヒールをするにしても、
傷口の状態を確認しなければなりません。
リサーチという呪文で、
相手の状態を確認します」
「いきなりヒールでいいじゃない」
まぁ、そうよね。
わざわざ時間を掛けてヒールする必要も無いし・・・
「場合によりけりですね。
大ケガで、一刻を争う事態なら、
ヒールで一命を取り留めることが優先です。
それでも、全快するのではなく、
一部、傷を残した方がいい場合もあります」
「なんでよ。
治った方がいいじゃない」
そうそう。
それはそう思う。
わざと全快しないなんて・・・わざわざどうして?
「例えば、傷口に・・・
壊れた武器の破片が入ったまま、
ヒールをして、
傷口を完全にふさいだら、
どうなりますか?」
「え?」
破片が残ったまま・・・になるのかしら・・・
「武器の破片なら、まだいいかも知れません。
毒物をまき散らす種が入ったままだったら?
虫が卵を植え付けていたら?」
うぇ・・・卵はいやだなぁ・・・
でも、そうよね。
そういう場合も、十分考えられるわ。
「ヒールで消えるんじゃないの?」
「消えるかも知れません。
消えないかも知れません。
僕は、消えないと考えています」
「だって身体を癒やすんだよ」
「身体を癒やすことと、
異物を消すのは別の事です」
そう・・・よね。
うん。異物は消えない。
消えずに、身体に残ったままになるわ。
・・・たぶん。
・・・確認したくないけど。
「そうよね。
治癒院での当番の時、
傷口が汚れている人には、
水で洗ってから治療をするように、
って言われてるしね」
「ヒールをするにしても、
原因を取り除かないと、
再び弱ってしまいますからね」
「なるほど。
その原因や異物を発見する為に、
リサーチを使うのね」
「そうです。
僕のリサーチは、
異常のある場所を色で知らせてくれるのですが、
他の人も同じなのかは解りません」
「その辺は、練習あるのみね」
とは言え、治癒院での演習の場合、そんなケガの人って来るのかしら?
ううん。例え、来なくても練習と思って、リサーチを使わなきゃ。
「そうですね。
リサーチで異常や異物を発見したら、
それを取り除きます。
手で取り除いてもいいですし、
呪文で取り除いても構いません。
僕の場合は、
リリーブという呪文を使うことがあります」
「大きな破片なんかは、
手で取り除いた方が早いということかしら?」
「そうです」
「リリーブという呪文は、
どういう呪文なの?」
「そうですね・・・
ぜん動・・・
筋肉の動きで、
異物を押し出すというか・・・
移動させる感じなのですが」
「筋肉の動きで?」
「ええ。
こう・・・腕とかが、
ピクっと動くのを連続で・・・
異物を移動させる感じです」
えっと・・・なんとなくは解るんだけど・・・
いまいち感じがつかめないというか・・・
「先生の呪文を教えてください!」
「・・・先生ってまだ続くんですね」
「ぜひ呪文を!」
「えっと・・・
僕の場合ですが、
我、彼の者に入りし異物を押し出す力を与えん。リリーブ・・・
と、唱えることで発動します」
「異物を押し出す・・・」
「この辺は、皆さんのイメージ・・・
皆さんの感じるままに唱えるしか無いと思いますが」
「そうよね」
「で、でも・・・
大いに参考になったわ」
それにしても、この子はすごいわね。
まだルーパなのに、ヒールによる治療を完璧にこなしている・・・
「ウィルくん、今日はありがとうね。
これもお母様の教えが良かったからかしら?
さぞかし、有名な治療師なんでしょうね」
「え・・・えっと・・・
どうでしょう。
家では極々普通の母親でしたから・・・」
「そうなの?勿体ないわ」
「そうですかね・・・
そうですね。
母様が認められるというのは、
嬉しいですね」
あ、やっとなんか・・・子供らしい笑顔を見た気がする。
なんだ。こんないい顔で笑えるじゃない。
その日、新しい手法を学んで興奮しながら眠りについた。
後日、リリーブを使ってみたら、とんでもなく心力を必要とし・・・押し出す間、心力を込め続ける必要があった・・・彼の子供らしさなんか見せかけだったと思い知らされた。
次回「特訓の日」
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変更箇所
こんにちわ→こんにちは(指摘感謝)
次回タイトルの追加
カッパー→ルーパ