先生の日
社会人の頃は、11連休なんてのはあっという間だった。
あれよあれよという間に終わっている物だった。
大人の自分に子供の自分・・・二つの時間がくっついている自分は、同じように・・・もしくは更に短く感じるんじゃないかと思っていた。
子供の自分は、子供なりの時間感覚になるらしい。
時間感覚は心と密接に関係しているんだと思ったんだが・・・どうやら身体・・・むしろ、細胞との関係の方が勝るらしい。
つまり・・・11連休って長いんだな・・・と実感してきた所だ。
そんなこんなで、寮に帰ってきた。
長いお休みをそれなりに有意義に使えたと思う、
紙すき、ミレイの魔法、トランスファー(MP譲渡)の練習。
ミレイの歌は、短縮魔法で間違いないだろう。
音階が短縮に寄与しているのも、ほぼ間違いない。
とは言え、あまり厳密な音階でも無さそうだ。
上がり下がりが重要なのかな?と当たりを付けている。
歌の後に発動用のキーワードを付与するだけだ。
最初は、「かる、やーる」と唱えてもらったが、「やーる」だけで発動することが解った。
歌の2番以降が、何の魔法なのかは不明だ。
追々実験していくとして、まずはMP増やさないとな。
実は2番から、かなり上位の魔法で、一発でMP不足・・・ってことになっても困るし。
トランスファーは、接触が重要だと解った。
片手より両手・・・それでも、まだ効率が悪い。
3割~5割くらい譲渡に失敗している感じがする。
とは言え、両手以上はどうしろっていうんだ?
と、行き詰まりを感じているが、こつこつ実験していこう。
なんせ、休み明けで久しぶりの学院だ。
夏休みなんかと違うので、日焼けして見た目が変わる・・・なんて事も無い。
ま、授業の内容も、急激に変わるなんて事も無いけど。
ラルタイアがにこやかに話しかけてきた。
いや・・・仏頂面でも困るのだが・・・こうも、にこやかだと怪しさの方が上回る。
「ねぇ、ウィル。
今日、学院が終わったらいい?」
「・・・何の話ですか?」
「ほら、前に約束したじゃない」
「ああ、ラルタイアの寮の先輩と、
お話をするってヤツですかね」
「そう、それ。
今日、先輩の都合がいいんだって」
「また急な話ですね」
「だめかな?」
・・・まぁ、子供なので、急ぐような用事は一切無いんだが・・・
放課後は、チノテスタも交えて、特訓でも・・・と思ってたんだがなぁ。
ま、チノテスタには申し訳ないが、のっけから休みってことで・・・
「まぁ、いいですが」
「ほんと、ありがとー。
じゃ、ちょっと先輩に伝えてくるね」
ひとっ走りと行ってしまった。
ラルタイアは元気だな。
なんで、魔法学科なんだ?
「・・・ウィル。ボク、どうしよう?」
「そうですね・・・」
どうしたモンかな?
連れて行ってもいいんだが、あまり連れ回して、その黒髪を見せびらかすのもどうかと思うし・・・
とは言え、一人で帰らせるのも・・・なんとなく心配だしな。
「ミレイはどうしたいですか?」
「・・・ついていって、いい?」
「ええ、構いませんが・・・
その・・・
ミレイの髪を見せて歩くのは、
ミレイに取って良いことなのかな?
って判断が付かなくて・・・」
「・・・大丈夫」
「え?大丈夫?」
「・・・うん。リリー奥様が、帽子、くれた」
嬉しそうに、はにかむなぁ。
母様が帽子・・・こっちに帰ってくる時の箱は、帽子ケースだったのか。
「じゃぁ、一旦、寮に帰ってから、
一緒に出かけましょうか」
「・・・うん」
戻ってきたラルタイアと、落ち合う約束をし、チノテスタに詫びを入れ、一旦、寮に帰る。
普段は、帰るまでに、あれやこれやと雑多をこなし、帰ってから出かけるなんてことは、ほとんど無かった。
そんな訳で、帰ってから出かけるなんて、なんか新鮮な気分だ。
ミレイが麦わら帽子を被って出てきた。
"つば"は、それほど大きくもなく、かと言って小さくもなく・・・15cmくらいか?
ミレイの髪を隠すには無難なサイズじゃないだろうか?
黒髪に麦わら帽子・・・なんとも懐かしい感じの情景が広がっていた。
「・・・ウィル?」
「じゃぁ、行きましょうか」
「・・・うん」
「帽子、似合ってますよ」
「・・・うん。ありがと」
なんか、和むな~。
街角でラルタイアと合流し、ラルタイアの案内で第5区「太陽と星の寮」の前にやってきた。
どうにも不穏な・・・って、女子寮じゃないか。
「なぁ、ラルタイア」
「なにかな~?」
「ここ、女子寮だよな」
「そうよ」
「帰ってもいいかな?」
「約束したじゃない」
「帰ってもいいかな?」
「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ!
女子寮に男子が入っていいのか?」
「談話室に入る分には問題無いから」
後ろから押すようにして連れ込まれる。
まぁ、ここまで来ていた時点で、約束を反故にして帰るってのも無いんだが。
・・・談話室ってのも妥協点だな。
これが個人の部屋だったら帰ってるな。
「レアルス先輩、
ウィルを連れてきましたよ!」
「おぉ!来たね!
ささ、座って座って」
これまた、元気な先輩だな。
ラルタイアと息が合いそうだ。
「今、コニルが飲み物を持ってくるからね」
「はぁ、お構いなく」
「ウィルくんだ。いらっしゃい」
インティーだったよな。
そうか・・・ラルタイアと同じ寮だったのか。
「えっと・・・お邪魔してます」
「女子寮なのに!」
「・・・帰りますよ?」
「ごめーん。
冗談だから、帰らないでー。
先輩に怒られちゃう」
あれ?インティーって、こんな性格なのか?
なんか、学院と感じが違うような・・・
まぁ、女子寮っていう自分の城だから、地が出てるのかもな。
「こんにちは。
キミがウィルくんよね?
ようこそ」
「ぁ、はい。
こんにちは」
お茶を差し出される。
ほんのり暖かい。
熱々のお茶では飲みにくいし、ありがたい。
お茶を持ってきてくれた・・・ということは、この人がコニル先輩なのだろう。
「コニル、遅い」
「はい、無茶を言わない」
なるほど・・・この二人に頼まれたら、ちょっと断りにくそうな勢いがあるな。
「それで・・・
お話があるとのことですが?」
「そうそう、そうなのよ。先生!」
レアルス先輩が身を乗り出して、手をつかんでくる。
ガシッって音が聞こえてきそうな勢いだ。
っていうか、先生!?
「え?先生?」
「はい、そこ。落ち着こう」
コニル先輩のツッコミが入る。
・・・良いコンビだな、この二人。
「先生!私たちに、ヒールを教えて!」
「取り敢えず・・・その先生ってのやめませんか?」
「そんなことより、ヒールを教えて欲しいの」
「そんなこと・・・
まぁ、いいですけど。
ヒールですか?」
「ヒールというか・・・ヒールの前後を含めて?」
「アーシラリル様にヒールしたとき、
その前に色々やってたじゃない?
それを詳しく教えて!」
アーシラリル・・・様ぁ?
ヒールの試験やった時の人だよな。
様付けされるほどの人気者だったのか・・・
それはそれ・・・
母様から教えられたということにして、リサーチ、リリーブ、ヒールの流れを教えた。
まぁ、母様とヒール談義なんかしたことが無いので、神聖魔法の常識ってヤツを知らないんだが・・・
本来であれば、授業でその辺を習うんだろうが、すっ飛ばしてるからなぁ。
どうも、いきなりヒールというのが一般的のようだ。
精々が傷口を洗う程度。
異物を含んだままヒールすると、身体に埋まっちゃうんじゃないか?
まぁ、説明をしたら解ってくれたのでヨシとする。
残念ながら、練習対象が居ないので、練習・・・と言う訳にはいかないが、約束は果たしたぞ。
談話室を占拠していたので、女子寮の住人が通りかかるたびに、興味深そうに覗いて・・・神聖魔法の講義と知ると立ち去る・・・を繰り返した。
実に居心地が悪い。
一通り話が終わったので、ラルタイアに貸しということにして、早々に立ち去った。
「すっかり暗くなってしまいましたね」
「・・・そうだね」
「ミレイは、退屈じゃありませんでしたか?」
「・・・ううん。大丈夫」
「あくびしてましたよね」
「・・・う・・・少し、退屈・・・だったかも」
「ふふ、ま、仕方ないでしょう。
さ、帰りますか」
「・・・うん」
次回「先生の日のコニル(先輩)」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
こんにちわ→こんにちは(指摘感謝)
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