技術革命の日の2
余談編
最初の休みに入ったので、実家に帰ってきた。
母様がすっごいワクテカな感じで待ち構えており、今度はなんだろう?と思っていると、弟か妹が出来ると言う。
なるほど・・・そりゃ、びっくりだ。
面接の時に、体調が悪かったのは、そういうことらしい。
「おめでとう」と言うのもヘンだし・・・子供らしい反応ってのが解らなかった。
取り敢えず、「兄として恥ずかしくないよう、がんばります」と答えておいた。
母様は、「あなたなら、立派なお兄ちゃんになれるわ」と笑っていた。
いつ懐妊なのかが正確に解らないので、なんとも言えないが、7歳差の下の子・・・ということになるんだろう。
7歳差って・・・でかいよね。
一人っ子だったから、どうしていいのか解らん。
いかん。
急に落ち着かなくなってきた。
ふぅ・・・まだ先の事だし・・・ゆっくり考えるか。
さて、折角、実家に帰ってきたのだから、色々実験をしてみよう。
まぁ、学院でも色々好き勝手やってるけど。
今日は、紙すきをしてみようと思う。
この世界の紙・・・というか、書物は大別すると3種類だ。
木簡(木の板)、羊皮紙(獣の皮)、パピルス?(植物)の3種類。
パピルスだと思うんだが・・・パピルスをよく知らないので、断言出来ない。
ちょっと調べてみたところ、大根のような白い植物・・・どう見ても大根なのだが、デアキーヌと言うらしい。
その大根を"かつらむき"し、薬品に漬けて、重ねて圧する。
それをしっかりと乾燥させて、巻物状にしたり、束ねて綴じたりして使用する。
"かつらむき"をどんだけするんだよ。
とか思ったのだが、さすがに"かつらむき"をする機械があるらしい。
結構安く出来そうな感じがするのだが、それ専用に植物を育てなければならず、薬品も材料が貴重だそうだ。
まぁ、それはそれ。
紙すきををしようと思う。
自前で、安く紙を作れると・・・メモ帳とかに使えるじゃないですか。
メモが残せないって、結構、大変なんだよね。
実感したわ。
「・・・ウィル。
・・・また、変なこと、してる?」
1巡りぶりにメイド服姿のミレイが、なんか失敬なこと言ってきた。
なんていうか・・・遠慮が無くなってきた。
うん・・・打ち解けたって事で、いいんだけど・・・ちょっと悲しい。
「変なことじゃないですよ。
まぁ、実験には変わりありませんが」
「・・・今日は、何、するの?」
「紙すきをします」
「・・・かみすき?」
「ええ。紙を作るんです」
「・・・かみ?
・・・かみって
・・・本の、あれ?」
「そうですね」
「・・・すごい!作れるの?」
「たぶんですが」
「・・・見てて、いい?」
「ええ。
もちろん、構いませんよ。
退屈かも知れませんよ」
「・・・ううん。大丈夫」
さてさて、道具はこちら。
板で作った木枠に、布を張った紙すき道具。
それ用の布を12枚。
水を張った桶に、包丁、木槌。
「・・・ウィル、これ、何?」
「紙の原料ですね。
菓子店からスチビキナ(サトウキビ?)の
絞りかすを貰ってきました」
「・・・水あめ?」
「ええ。水あめの原料ですね。
煮出して絞った後なので、
簡単にほぐれるかなって思いまして」
「・・・甘いの?」
「絞った後ですからね。
甘くはないと思いますよ」
「・・・そっか。残念。
・・・こっちは?」
「これは、芋から作ったデンプン糊ですね」
「・・・のり?」
「ええ。
これらで紙を作ります」
「・・・そっか」
まずは、サトウキビの茎を適当な長さに切って、木槌で粉砕。
粉砕っていうか、バラバラにしたいだけなんですがね。
水桶の中でよくほぐす。
そして、デンプン糊投入。
しっかりと混ぜて・・・原液完成。
紙すき道具で、繊維を拾い上げ・・・すいてすいて・・・白く、布が見えなくなったら、乾かす。
木枠から布を外し、乾かしつつ、次の布を張る。
感触から行けば、順調なのだが・・・
「・・・これが紙?」
「そうですね。
乾けば、紙の出来上がりです」
「・・・ウィル、すごい!」
「本当は、もっと沢山作りたいんですがね」
「・・・ボクも、やってみたい」
「ええ。いいですよ。
やってみますか?」
「・・・うん」
ミレイが、見よう見まねで紙すきを・・・
って、中々うまいな。
スムーズで・・・均一に紙すき出来ているみたいだ。
「上手ですね」
「・・・そう?嬉しい」
「嬉しい・・・ですか」
「・・・うん。嬉しい」
「ミレイが、喜んでくれたみたいで、
僕としても嬉しいですよ」
「・・・うん」
その日、初めて作った紙は・・・ちょっと脆かった。
糊の量と、繊維状の物を増やした方が良さそうだ。
次回「歌の日のミレイ(家事手伝い見習い)」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
次回タイトルの追加
※水飴は本来、デンプン等の糖分から作るそうですが、この世界ではスチビキナを煮出して水分を飛ばしていった粘液状の状態を水あめと称すことにします。