霜降りの日のチノテスタ(エルフの子?)
学院に来てから、時たま、なんとも言えない不思議な感じがする。
なんだろう?って思って、周りを見るんだけど、よく解らない。
なんか清らかな感じがして、心地よい。
ラルに聞いたけど、そんな感じしないって言われた。
う~ん・・・気のせいとは思えないんだけど・・・
授業も終わったので、帰る前に学院の散歩でも・・・と思っていたら、またあの感じがした。
絶対、気のせいじゃない。
・・・と思うんだけど。
目をつぶって、感じる方向を調べる。
目を開けて確認する。
・・・えっと・・・男女の二人組から感じるんだけど?
二人が移動すると、不思議な感じも移動する。
なんだろう?
なんで、あの二人から感じるんだろう?
なんとなく、気になって追いかけていたら、校庭に出た。
どこに行くんだろう?
その先には裏山しか無いのに・・・
薄暗い雑木林に入っていく。
一体、何の用があって、こんな所に?
不思議な感じも気になったけど、何をするのかも気になった。
悪い悪いと思いつつも、後を付け、覗き込んでみる。
「かる、もるで、やーる!」
声の聞こえてきた方を覗き込むと、女の子が呪文?を唱えてた。
こんな所で魔法の練習?
なんでこんな寂しい所で?
「かる、もるで、やーる!」
再度、声が聞こえてきた。
男の子の背中側から覗いているんだけど、影になって、どんな呪文なのか見えないな。
女の子が崩れるように座り込む。
男の子の慌てた声が聞こえてくる。
「ミレイ、ミレイ!」
何があったんだろう?
大人を呼んできた方がいいのかな?
どうしよう、どうしよう。
「リサーチ」
え?
ボクがおろおろしてる間に、男の子が何かしている。
「ヒール」
ヒール?
じゃぁ、あの男の子は神聖魔法使い?
「我、彼の者に気力の源、立ち上がる力を分け与えん。トランスファー」
どうやら、ヒールではダメだったみたいだ。
ここからだと、ほんと、影になって様子がわからない。
ついには、男の子も座り込んじゃった。
二人とも大丈夫かな?
と、思っていたら、女の子と目があった。
「・・・だれ?」
男の子が振り返る。
「ご、ごめん。
ボクはチノテスタ。
覗くつもりはなかったんだ」
「はぁ。
そうですか・・・
そうですね・・・
えっと・・・いつから覗いてたんです?」
「ご、ごめん。
女の子が呪文を唱えてるあたり」
「そうですか。
ま、見られてしまった物はいかんともしがたいですし、
しょうがないんじゃないですかね」
う~ん?えっと・・・怒られてない?
そうだ。それよりも、二人とも大丈夫なのかな?
「二人とも、大丈夫?」
「え?
ああ・・・大丈夫ですよ。
あと少し座っていれば、治ります」
「・・・うん。大丈夫」
「そっか~、よかった~」
「ふむ。
心配してくださって、
ありがとうございます」
「ううん。
ほんと、ごめんね。
覗いちゃって」
「いいえ。
それは、大丈夫ですよ。
ま、他言無用ってことで。
ところで、エルフの子ですよね?
珍しいですね」
「ぇ・・・あ・・・うん。
ちょっと違うんだ」
コウロイドだってこと、気がついてないのかな?
「ボク、コウロイドだから・・・」
「コウロイド・・・ですか」
あれ?何か思ってたのと反応が違うな。
「すみません。
コウロイドって何ですか?」
「え?
えっと・・・混血ってこと」
「ああ、なるほど。
ハーフエルフってことですか」
「はーふ?」
「ああ、いえ。
お気になさらずに。
そうですか、混血なんですね。
それで・・・お母様がエルフなんですか?」
「え?」
あれ?普通に会話してくれる?
普通、コウロイドってだけで、嫌な目で見てくるのに。
この子は違うんだ。
「ああ、家庭の事情に突っ込むのは、
失礼だったかも知れませんね」
「ううん。いいよ。
えっとね。
ウチは父さんがエルフなんだ」
「へ~。
じゃぁ、よっぽどお母様が、
美人さんだったんですね」
「え?
あはは、そうなのかな。
うん。
そうなのかも」
こんなこと言われたの・・・初めてだ。
「よっと」
男の子が、勢いよく立ち上がり、おしりの汚れを打ち払う。
「・・・もう、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。
ミレイ、魔法の腕は感じましたか?」
「・・・よく、わかんない」
「そうですか・・・」
「・・・でも、なんか不思議。
・・・通り道みたい」
「何か感じ取った・・・ってことですかね」
「・・・そうだと、いいね」
「さて・・・」
男の子が、こちらへと振り返る。
「僕の名前はウィル。
この子はミレイ」
「え?あ、うん」
「・・・うん」
「じゃ、チノテスタ・・・
今日のことは内緒にしてください」
「ぅ、うん。
それはいいんだけど・・・
どうして?」
「う~ん・・・
秘密の特訓って所です。
まぁ、実験の意味合いの方が強いんですが」
どうして秘密なの?・・・と聞きたかったけど、思いとどまった。
この秘密と引き替えにボクも参加したい。
特訓をしたい!って思ったんだ。
「内緒にするのはいいけど、
その・・・
ボク、また来てもいい?」
「え?
まぁ、チノテスタにはすでに知られていますから、
別に構いませんが・・・」
「ほんと?
やったー。
ありがとぅ。
ウィル、ミレイ!
よろしくね」
「・・・うん」
「逆に、なんでここに来たいんですか?」
「うん。ボクも秘密の特訓をしたいんだ」
「チノテスタも魔法の特訓ですか・・・」
「ううん。
そうじゃないんだ。
ボク・・・コウロイドだから、
負けない為に、
力が欲しいんだ」
ウィルが驚いた顔をしている。
・・・どう思ってるんだろう。
「だから、
ここで特訓に参加させて欲しい」
「なるほど。
事情はよく解りませんが、
チノテスタが真剣だと言うことは、
よく解りました」
「じゃぁ」
「ええ、もちろん、歓迎します。
とは言え・・・
僕は神聖魔法、
ミレイは呪印魔法しか解りません」
「ううん、いいんだ。
一緒に特訓をしてくれるだけで」
「チノテスタは何を特訓したいんですか?」
「ボクは弓術なんだ。
だから、ここで弓の特訓をさせて欲しい」
「弓ですか・・・
これまた・・・
見事に専門外ですねぇ」
「いいんだ。
何か解らないけど、
ウィルたちといると、
不思議な感じがして・・・
ボクにも出来そうな気がするんだ」
「ふむ」
ウィルが、胸元に腕を突っ込んでガサゴソとしている。
何をしているんだろう?
「これの所為かも知れませんね」
ウィルが手を取りだして開く。
手のひらには綺麗な黄緑色をした宝石が光っていた。
ああ、この宝石なんだ。
この不思議な感じは・・・この宝石の力なんだ。
「チノテスタに流れるエルフの血が、
この石の力を感じ取っているんだと思います」
「そうなの?」
「ええ。
サララケート先生がおっしゃってましたから」
「大事な石なんでしょ?」
「ええ、まぁ、そうですね」
「なんか、恐れ多いから、
しまってしまって」
ウィルが、ゴソゴソとしまう。
「ボクなんかに見せてよかったの?」
「エルフの方には、
なんとなくバレてしまいますからね。
それに、チノテスタとは仲間ですから」
「そんな簡単に信用しちゃダメだよ!」
「だまそうという人は、
そんなこと言いませんよ。
ま、チノテスタは、
いい人の様ですから、
大丈夫かな・・・と」
うわ。なんだろ・・・すっごい照れる。
今、きっと、顔真っ赤だ。
「じゃぁ、こ、これからもよろしく」
「ええ。よろしくです」
「・・・うん」
後をつけたのは悪かったけど、ボクにとってはよかった。
いろいろと嬉しくなる出来事だった。
次回「技術革命の日の2」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
次回タイトルの追加
この2話は、ちょっと詰め込みすぎたと反省してます。
そして、ぼくっ子三人衆・・・味付け方法に失敗したのかも。