霜降りの日
昨日は、寮に帰る途中で、木片というか、板をゲット。
自分の部屋で入門書とにらめっこしつつ、ウォーターボールとアイスボールの魔法陣を描き写した。
ミレイに試して貰う前に、スシュロデーヴァ先生に確認してもらおうと思っている。
紙じゃないとだめだ・・・とか言われると地味にダm
「ミレイ~、ウィル~」
ラルタイアが来たようだ。
「ラルタイア、おはよう」
「・・・おはよう」
「おはよう。
で、授業免除ってどういうこと?」
「は?」
何で知ってるんだ?
っていうか、後ろの女子は誰だ。
いや、クラスメイトだってのは知っているが、なんで一緒に行動しているんだ?
いや、友達ってのは想像出来るが・・・
「神聖魔法の授業免除の件よ」
「ああ、えっと・・・
何で知ってるんです?」
「寮の先輩が言ってた」
「なるほど」
「で、なんで神聖魔法じゃなくて、
呪印魔法の授業受けてるの?」
「えっと・・・興味があるから?」
「興味があるからって、
普通、授業免除までしないでしょ」
「そうかな?」
「そうよ。
それに、ヒール使えるんですって?」
「ええ・・・まぁ。
母様に習ったので・・・」
「ずるい!」
いや。ずるいって・・・えっと・・・インティーだっけかな。
呪印魔法の授業には居なかった気がするけど・・・神聖魔法なのか?
「まぁまぁ、インティー、落ち着いて。
でね・・・寮の先輩が、
ウィルに話を聞きたいんだって」
「はぁ」
「今度、お願いしていい?」
「まぁ、別に構いませんが・・・」
「ほんと!やったぁ。
これで、先輩との約束果たせた~」
「私も話聞きたい!」
「ウィル、別にいいよね?」
「まぁ、いいんじゃないですかねぇ」
「先輩の都合もあるから、
詳細はまた今度ね」
「はぁ」
聞きたいこと?なんだろう?
う~ん・・・リリーブ(異物除去)の事かな?
ざわついてたのって、たぶんこの事だろうし・・・
呪印魔法の授業は、相変わらず、魔法の腕を感じ取れってミッションだった。
なんか、効率悪いな。
まぁ、魔法の腕を感じ取れないと、スタートラインに立てないからなんだが、なんか方法無いんだろうか?
なんせ、授業中・・・暇だな・・・昨日の本でも読んでるかな。
魔法の腕を感じ取る事に関して、何か無いか?と思って読んでいるのだが・・・無い。
どうやると効率がいいのか。
ってのは、結局、個々人の感じ取り方に掛かってくるので、体系立てて説明することは難しいようだ。
身体の中に、見えない腕を感じ取るのです。
とか書かれても、どうしろと?
仕方がないので、魔法陣を描いた木札を用いて、強制的にチャクラを開眼させる・・・みたいな事をしてみようかと思っている。
一回、MPが外に出て行く感覚を身体が覚えれば、案外いけるんじゃないか?と思っているんだが・・・
危険がないか心配ではあるが・・・
まぁ、初級呪文だし・・・大丈夫だと思う。
ちなみに、なんちゃらボールが初級呪文らしい。
火をともすだけ・・・とかも、あるにはあるのだが、基本はボールらしい。
RPGなんかに、ありがちな、なんちゃらアローはボールより難しいとのことだ。
どうも、点と線の違いのようだ。
点を動かすのと線を動かすのでは、当然、線の方が難しい。
ファイアボールなんかも、飛ばすくらいまではいいんだが、爆ぜるとなると、難易度が上がる。
複数のアローを飛ばすとなると、複数の線を出現させ、動かさねばならず、更に難易度は上がる。
魔法陣を用意するのは当然としても、その魔法陣も複雑で大きな物になるようだ。
残念ながら、借りてきたのが入門書なので、そんな高度なことは書かれていない。
属性によっても難易度が異なる。
風などは、維持が難しく、すぐに霧散してしまう。
・・・風属性の子・・・大変だな。
土は、土がないと厳しいらしい。
無から土を生み出すことも可能らしいが、普通は土を持ち歩くそうだ。
基本的に、自分の属性に関連する媒体が有った方が効果が出やすい。
そんな訳で、水や氷も、水を持ち歩いた方が効果が大きいらしい。
「じ、じゃぁ、本日の、授業は、ここまで」
おっと、授業が終わってしまった。
授業も終わったことだし、持ってきた木札を先生に見てもらうか。
「スシュロデーヴァ先生」
教室を出て、職員室へ向かう先生を呼び止める。
「な、何かな?」
「ちょっと、見ていただきたい物があるのですが、
よろしいですか?」
「み、見せてみなさい」
「これなんですが・・・
魔法陣の描き方に、
間違いはないでしょうか?」
「こ、この、魔法陣は、どうした、のかな?」
「はい。
図書室で借りた本から、
見よう見まねで写してみたのですが・・・」
「み、水と、氷の、初級、魔法陣、だな。
と、特に、問題は、無い」
「はい。
ありがとうございます」
よし、これで実験は出来そうだ。
さてさて、早く放課後にならないかな~。
ところが・・・放課後への道は遠く険しい。
「はひ、はぁ、はぁ、
も、もうだめだ。
ウ、ウィル・・・俺のことは、置いていってくれ」
「ハッ、ハッ、ハッ・・・
解った・・・ランティル、さらばだ」
「はぁ、はぁ、はぁ、俺を、置いて、いくなぁぁぁぁ」
ええい。この苦しい時に鬱陶しい。
今は、体実(体育)の授業で、校庭を走らされている。
まぁ、体育の授業が無いわきゃねーか。
体実担当のリトキバス先生、曰く、
「仲間が危険な時や、自分に命の危機が迫っている時に、
走れなければ意味が無い。
魔法学科だろうと、身体は鍛える必要がある」
なるほど、ごもっともだ。
・・・全員が全員、前線に出るんならなー。
くそう。
全然身体を鍛えてなかったので、きつい。
そんな訳で、今、とにかく走らされている。
ヒールじゃ・・・スタミナは回復しないか。
やっぱ、傷を治す・・・呪文だよな。
そもそも、スタミナって何よ?・・・って話だ。
糖分や脂肪が燃焼する・・・余力みたいなモンか。
ああ゛・・・腕だるいぃぃぃ。
乳酸が溜まると・・・燃焼を阻害するのか?
乳酸が無くなれば・・・疲れって取れるんだっけか?
あ゛・・・いまいちまとまらねー。
うまく呪文にまとめることが出来れば、効果ありそうなんだけどなぁ。
くそ~。
後方支援職を走らせるような状況にすんな!
体実の授業は嫌いだー。
そんなこんなで、ぐったりしたまま迎える放課後。
「・・・ウィル、大丈夫?」
「ああ゛~、大丈夫ですよ」
女子はほどほどで済まされていたのだが、男子はがっつり走らされた。
校庭を何周したことか・・・途中から数えることをやめた。
頭空っぽにして走らないと、つらくてやっとれんかった。
なんせ、放課後だ。
仮に、明日筋肉痛だとしても、この放課後は有効に利用しなければ!
・・・明日でもいっか・・・とか思わないでもないけれども。
「さて・・・じゃぁ、行きますか」
「・・・うん。
・・・帰る?」
「いえ、ちょっとミレイに
試してもらいたいことがあるのですが、
いいですかね?」
「・・・うん。いいよ」
校庭を横切って、雑木林に入る。
アルバ・シャンタの学院都市は、丘陵地帯に造られている。
石造りの城壁はなく、丸太による柵というか壁があるだけだ。
丘陵地帯とは言え、ちょっとした登山くらいなら出来そうな山の麓に学院はある。
山の麓、雑木林の前、そこそこの広さがある台地部分を学院として利用している。
・・・結構、広さがあるから造成したんだろうなぁ。
そこから緩やかな下り坂があり、町が広がる。
学院中央に図書室や職員室と行った共用部分を設け、そこから三方に校舎を配置している。
ルーパは山側に位置し、校庭を横切ると雑木林に行き当たる。
雑木林の更に奥は、山となっている。
雑木林は特に立ち入り禁止という訳でもないが、立ち入る物好きは居ないようだ。
雑木林の中でも、少しだけ開けた場所に出る。
「始める前に、ミレイに確認です」
「・・・なに?」
「ミレイは、その綺麗な黒髪の所為で、
忌み人に間違われます」
「・・・ぅ、うん」
「今後も、そういった事は絶えないでしょう。
そこで、今後、どうするかです」
「・・・どうするの?」
「大きく分けて二つ。
一つは、実力を示し、確固たる地位を築く。
もう一つは、実力を隠し、
ただし、降りかかる火の粉を払いのけるだけの実力を隠し持つ」
「・・・うん」
「一つ目は、言うなれば、力で文句を言わせません。
要らぬ反発を招く恐れもあります。
そういう点では二つ目の方がいいのですが、
こちらは、火の粉が飛んでくるまで何もしないため、
火の粉は降りかかった後だということです」
「・・・えっと。
・・・どうしたら、いい?」
「難しい問題です。
何が正解ということもありませんし。
どちらにしろ、実力は付けておいて損はありません」
「・・・うん」
「ゆっくり、考えていきましょう」
「・・・わかった」
「じゃぁ、ミレイ・・・
ちょっとこの木札を持ってください」
「・・・うん」
取り敢えず、水属性の板を渡す。
「そうですね・・・
小石程度の水の球をイメージ・・・
想像してください」
そう言って、足下の小石を拾い上げる。
「・・・水の球・・・」
「そうです。
水の球です。
板の所に、水の球が出来るのを想像してください。
そうしたら、『かる、もるで、やーる』と唱えます」
「かる・・・もるで・・・やーる」
「もう少し、スムー・・・滑らかに。
力を込めて」
「・・・かる、もるで、やーる!」
ウンともスンとも・・・いや・・・木札の表面がじわじわと塗れた色に変わって・・・触ると、確かに濡れていた。
が、水滴がしたたる・・・と言うようなことはなかった。
「・・・えっと、濡れてる」
「一応、成功ですかね」
「・・・そうなの?
・・・水の玉、じゃないよ?」
「まぁ、そうなんですが・・・
ミレイの力で、濡れたのですから、
成功と言ってもいいんじゃないですかね」
「・・・そっか」
ミレイに、氷属性の木札を渡す。
「じゃぁ、ミレイ、
今度はこちらで試しますよ」
「・・・うん」
「今度は、氷の玉を想像してください」
「・・・氷・・・の玉?」
「ん?」
「・・・氷って、落葉(1月前後)の水のアレ?」
「ええ、そうですね」
「・・・氷の玉?」
「ああ・・・えっと・・・
雪玉にしましょう。
雪玉を考えてください」
「・・・雪玉。解った。
・・・やってみる」
「そうしたら、先ほどと同じように、
板の所に雪玉を想像してください。
そうしたら、『かる、もるで、やーる』です」
「・・・うん。
かる、もるで、やーる!」
おぉ!?
さっきの水とは違って、今度はあっさり結果が出たぞ。
1cmくらいだが、霜が付いた。
1cmもあるんだから、霜じゃないか?
雪と言っても過言ではないな。
「ミレイ、成功です」
「・・・はぁ、はぁ。
・・・うん・・・」
「ミレイ?大丈夫ですか?」
「・・・うん・・・ちょっと」
ミレイの顔色がかなり悪くなっている。
しまった。
MP不足か?
ミレイが力なく座り込む。
呼吸が荒いままだ。
「ミレイ、ミレイ!」
「・・・はぁ、はぁ」
こちらを見て、何かを言おうと口を開くが、しゃべる力がないのか、何も言わない。
顔色がかなり優れない。
まずいな。
ヒールで治るのか?
「リサーチ」
本来なら薄いピンクであるべきところだが、心臓付近を中心に青くなっている。
MP不足ってことなのか?
リサーチの・・・"色で状態を"ってのは解りにくいのでやめて欲しい。
今は文句を言っている場合では無いな。
「ヒール」
ミレイにヒールを掛けるが、状態は改善しない。
くそう。
やっぱ、ヒールはHPだよな。
ミレイの荒い呼吸が耳に届く。
何か?何かないのか・・・
MPを回復する手段・・・
そうかっ!
このMPを分け与えればいいんだ。
確か、ゲームでそんな呪文があったハズだ。
「我、彼の者に気力の源、立ち上がる力を分け与えん。トランスファー」
胸の青いもやがじわじわと薄くなる。
が・・・なんだこれ。
すごい勢いでこちらのMPが消費されていく。
注いでも注いでも、ミレイのMPが完全に回復する様子は見えてこない。
かなり薄い青になるにはなったが・・・そろそろこちらが限界だ。
もう、だめだ。
これ以上は、こっちがやばい。
「はぁ、はぁ・・・
ミレイ、大丈夫ですか?」
「・・・うん。
・・・でも、ウィルが苦しそう」
「少し、座っていれば大丈夫です」
トランスファーの効果があったのは間違いない。
だが、MPの消費量が半端無い。
地面に置いたコーヒー缶に、バケツで水を注ぎ込んでいるかの様だ。
ほとんどがこぼれて、意味をなしていない。
このままじゃ、使い物にならないな。
ってことで、ざっと思いつくのは、このあたりか。
(1)トランスファーの使い方が間違っている
(2)そもそも、MPは放出する物で、受け取る物ではない
(3)MPが回復するという状況のイメージに失敗している
(4)トランスファーはこういうモンだ
2や4だと、夢も希望もないな。
1か3だと改善の余地があるのでありがたい。
まぁ、ヒールと違って、イメージしきれていない可能性は高いな。
少々実験が必要かも。
「・・・だれ?」
「ご、ごめん。
ボクはチノテスタ。
覗くつもりはなかったんだ」
エルフの女の子が、立ちすくんでいた。
・・・女の子なのか?
次回「霜降りの日のチノテスタ(エルフの子?)」
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カッパー→ルーパ