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ヒール最高  作者: 猫美
学院初等編
28/90

魔法の授業の日

授業が始まって3日目。

昨日までの一般教養授業は実につまらない。

つまらないというか、眠たい。

文字の読み書き、数字の読み書き等々。


この世界での紙は高価だ。

貴重という程ではないが、ノートのような使い方はしない。

教科書のような使い方ですら贅沢の様だ。

図書室に行けば、色々な本があるとのことだが、一般に出回る紙は少ない。

授業はもっぱら個人用の黒板にチョークだ。

お手軽なのは解るんだが、メモが残せないのがつらいな。


まぁ、そんな面白味のない授業の数々を乗り越えて、やってまいりました魔法授業。

人数の少ない神聖魔法と精霊魔法は、別の教室へ移動。

一番人数の多い呪印魔法・・・と、言っても10名+1名・・・は、教室にて先生が来るのを待つ。


白ヒゲの先生が入ってきた。

この人が、呪印魔法の先生なんだろうな。


「わ、わしが、呪印魔法の、先生である、スシュロデーヴァである」


なんだろう・・・疲れそうなイメージだ。


「じ、呪印魔法、とは、呪文と、魔法陣の、組み合わせの、魔法である。

 た、例えば、初級の、炎の、球で、あるが、呪文、だけ、だと、こうだ」


「にぎえぶ、ぴむてに、もるで、るぁべりーふぁ、

 のいてくぬーふ、いてに、くすてに、にきえぶ、

 いてねみるしぃに、とりざんあい、むはい、ろーふ、

 ぴむあすた、くすはくす、でぃーね、いぷすら、

 へくたすら、くすあすたとり、あすたもるで、

 くすはくす、くすんるてぃーる、でぃーね、

 かる、もるで、やーる」


先生が、ゆっくりと呪文を唱えると、両手の間にテニスボールサイズのファイアボールが発生した。

呪文のみでも、ファイアボール撃てるんじゃん。

魔法陣要らないんか。とか思ったが・・・呪文が長いな。

意味のある文章なら覚えやすいが、聞いた感じでは、かなり意味不明だ。

・・・なんらかの法則性はあるんだろうが・・・

そうこうしているうちに、ファイアボールが霧散した。


「い、今のは、込めた、心力が、少ない、から、あの大きさ、なのだ。

 つ、次は、この、魔法陣が、描かれた、紙を、使う」


懐から、葉書大の紙を取り出す。

ここからは、よく見えないが、円形に魔法陣が描かれている。


「かる、もるで、やーる」


魔法陣の描かれた紙が、一瞬で燃え上がり、先ほどと同じサイズのファイアボールが発生した。

一気に呪文が短くなったな。

これなら、戦闘中でも問題無い長さなんじゃないかな?

しかし、唱える度に、魔法陣の描かれた紙が無くなるのは痛いな。


「こ、これが、魔法陣を、使った、魔法だ」


先生がぐるっと生徒を見回す。


「ほ、本日から、呪印魔法の、基礎を、学んでいく、訳だが、

 ま、まずは、自分の、属性と、心力と、魔法の腕を、感じ取る、ことから、始める」


それにしても、この先生のしゃべり方は疲れるな。

教科書があれば、勝手に読み進めるのだが・・・


属性は入学時に水晶で判定済みだ。

自分の属性外の魔法でも、使うことは可能だが、威力が格段に落ちるらしい。

結果、自分の属性以外の魔法ってのは、あまり使わなくなるようだ。


心力ってのは、要するにMPだ。

コレが尽きると、疲れを感じたり、最悪、気絶するらしい。

ヒールの練習でも、さすがに気絶したことは無いな。

複雑な魔法になればなるほど、必要となる心力が多くなる。

数値で見える訳ではないので、個々人の感じ方とのこと。

まぁ、さもありなん。


"魔法の腕"ってのは、心力を形付け、外に押し出す能力の事らしい。

自分の中に、押し出す腕をイメージすると、魔法が発動しやすいらしい。

呪印魔法だけなのかな?

ヒールする時に、腕なんてイメージしたこと無いしなぁ。

神聖魔法の経験からいくと、自分のイメージが大事に思える。

どういう効果を具現化したいのか?というイメージだ。

イメージした内容が、具体的であればあるほど、結果が伴ってくると言うか・・・

神聖魔法の場合だけかも知れないけど。


で、授業の方は・・・まずは、自分の魔法の腕を感じ取りましょう。って流れになって・・・

なんか、みんなで瞑想というか、迷走してる。

これを感じ取らないことには、呪印魔法が使えないんじゃ仕方ない。

呪印魔法の素質が無いので、周囲を見ているしか無いんだが・・・

何を持って、"感じ取った"とするんだろうな?

素質持ちだと、やっぱ、何か感じ取るのかな?


基礎部分に関しては、ミレイを手助けできそうにない。

こればっかりは、自前で感じ取って貰わないと。

素質無いから、アドバイスも出来ないし・・・もどかしい。


終わったら図書室に行くか。

入門書とかあるだろう。

解りやすいかは別として・・・


そんな訳で、初めての魔法の授業は・・・実に疲れた。

どうしよう。

次回から、こっそりサボって、図書室に行っちゃおうか悩むレベル。


「ミレイは、魔法の腕を感じ取れましたか?」

「・・・よく解んない」

「まぁ、僕には呪印魔法の素質がないので、

 ミレイには自分で、がんばって貰わないといけないのですが」

「・・・うん。がんばる」

「まぁ、ゆっくりやっていきましょうか」

「・・・うん。

 ・・・で、今日は・・・どうするの?」

「そうですね。

 図書室にでも行こうかと思うのですが、

 何か用事、ありますか?」

「・・・ううん。いいよ。

 ・・・行こう?」


そんな訳で、初図書室・・・というか図書館。

日の光が、本を傷めるためか、入り口以外は窓が少なく、薄暗い。

この世界での比較対象が無いので、この規模がどうなのか解らないが・・・

大学の図書館程度はありそうだ。

思った以上に大きいな。

本が貴重なので、もっと小さいかと思ってた。

さすが、ルーオジークラスまである学院・・・ってことなんだろうな。


さてさて・・・分類とかどうなってるんだろう?

書架に分類の札とか無いし・・・ジャンルが解らん。

司書さんはどこかなぁ?

取り敢えず、入り口付近に、それらしい人影は見えないな。

仕方がない・・・適当に見て回るか。

薄暗い書架の間を見て回る。


「おやおや。

 君たちはルーパクラスですね?

 どうかしましたか?」


後ろから声を掛けられた。

振り返ると、ほっそりとした青年が、本を脇に抱えながら立っている。

司書ってことでいいのかな?


「司書さんですか?」

「ええ。そうですね。

 何か捜し物ですか?」

「ええ。呪印魔法に関する書架はどちらでしょう?」

「君たちが読むには難しいと思いますが?」

「初心者向けの入門書ってありませんか?」

「入門書ですか・・・

 さてさて・・・

 ああ、あっちにあったかな?

 着いてきてもらえますか?」

「はい。

 よろしくお願いします」


奥まった棚まで来た。

このあたりの本は、あまり出し入れされていないのか、かなり埃っぽい印象を受ける。

空気がよどんでいるというか・・・


「この辺の本は、あまり読まれていないのですか?」

「おや?

 どうしてそう思いましたか?」

「いえ。奥まっているので・・・

 人気が無いのかな?・・・と」

「はは、そうですね。

 確かに、人気は無いですね。

 ああ、あったあった」


司書さんが、棚から3冊の本を取り出す。


「この辺が、入門書ですね」

「見てもいいですか?」

「もっと明るい所に行きましょう」

「ぁ、はい」


入り口付近にある机まで戻ってきた。

3冊とも、結構古い・・・感じがする。


「じゃぁ、ここで読んでて下さい。

 外に持ち出すときは、必ず、声を掛けてくださいね」

「えっと・・・持ち出してもいいんですか?」

「持ち出し禁止の本もありますが・・・

 まぁ、これらなら問題無いでしょう」

「はい。ありがとうございます。

 取り敢えず、ここで拝見します」

「はい。ごゆっくり。

 用があるときは、

 そこの机にある呼び鈴を鳴らして下さい」

「はい。解りました」


司書さんが、奥の棚の方へと立ち去る。


「ああ、しまった。

 ミレイには退屈かも知れませんね」

「・・・そうなの?」

「ええ、たぶん」

「・・・えっと・・・いい。大丈夫」

「え?」

「・・・魔法の腕・・・探す」

「そうですか。

 入門書から、何か解ったら、

 ミレイに試して貰うかも知れません」

「・・・うん」


じゃぁ、入門書でも読んでみますか。

解りやすいといいんですが・・・


「マジナハル呪印魔法初級」、「初めてのルダトロ流呪印魔法」、「ヴァアハ呪印魔法概論」・・・

取り敢えず、ぱらぱらっとめくってみる。

まずは、読みやすいことが重要だ。

難解な文章とかじゃ、理解するのに時間が掛かってしまう。

読みやすさ・・・という点で言えば、「初めての~」が一番読みやすい。

ミレイの属性が、水か氷ということを考えると、「マジナハル~」の方が、水や氷に関する記述もあり、よさそうだ。

取り敢えず、「概論」は面倒くさい。

基本的な所を、理論的に分解して、基礎から構築していく事で、一人前の魔法使いを育てようという本のようだ。

実は一番の近道である可能性もあるのだが・・・面倒くさい。


さすがに、図書室の中で呪文を試して貰う訳にもいかないので、簡単な方の2冊を借りていくことにしよう。

ってことで、受け付けの呼び鈴を鳴らす。

チリチリ~ン・・・と良い音が響く。


「はいはい。

 おやおや。

 どうしましたか?」

「この2冊を借りたいのですが、

 借りることは出来ますか?」

「ふむふむ。

 どちらも、初級の本ですから、

 特に問題はないですね」


司書さんが、後ろにある黒板に本のタイトルを書き始める。

よく見ると、他にもタイトルと名前が書かれている。

どうやら、貸し出し台帳のようだ。

これ・・・管理しきれてるのか?

まぁ、ざっと見た感じ、利用者がそんなに多くないのか、問題なさそうだけど。


「名前を教えてもらえますか?」

「はい。

 ルーパクラス1年、

 ウィル・ランカスターです」

「はいはい。

 じゃぁ、ウィルくん。

 大切に扱って下さいね」

「はい。

 ところで、返却期限とかは、

 無いんですか?」

「返却期限ですか・・・

 特にはないですね」

「そうなんですか。

 解りました。

 大切にお借りします」

「はいはい。

 じゃぁ、また来るのをお待ちしてますよ」

「では、失礼します」

「・・・失礼します」


図書室を出て、取り敢えず、校庭に出る。


「・・・ウィル?

 ・・・どこに、行くの?」

「そうですね・・・

 校舎裏ですかね?」

「・・・解った」


え?解ったの?


「えっと・・・

 ミレイに呪印魔法を試して貰おうかと思って・・・

 人に迷惑の掛かりそうにない場所に行きます」

「・・・うん」


取り敢えず、校舎裏に移動する。

さすがに人の気配はない。


「じゃぁ、ミレイ・・・

 僕に続いて呪文を唱えてみて下さい」

「・・・うん」


ってことで、取り敢えずウォーターボールの呪文を復唱して貰ったのだが・・・ウンともスンとも。


「・・・何も起こらない・・・ね?」

「そうですね・・・

 ま、そんな気はしていましたが」

「・・・そっか。残念」


まぁ、一発で成功するとは思ってなかったが・・・

それに、所々、復唱に失敗してるしな。

魔法陣を描いた紙・・・は勿体ないので、木札あたりを用意した方が良さそうだ。


「取り敢えず、今日は帰りましょうか」

「・・・うん」

「今度、本の内容を試してみましょう」

「・・・うん。がんばる」

「まずは、ミレイが、

 魔法の腕を感じ取るのが、先ですかね」

「・・・そう、だね。

 ・・・がんばる」

「じゃ、帰りましょうか」

「・・・うん」


ところで・・・枯れ森が無いから、日々のヒール練習が出来ないんだが・・・

これはどうしたモンか・・・

まぁ、しばらく、ヒール練習はお休みか・・・


次回「魔法の授業の日のラルタイア(級友)」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

魔方陣→魔法陣(指摘感謝)

次回タイトルの追加

カッパー→ルーパ

ゴールド→ルーオジー


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◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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