魔法の授業の日
授業が始まって3日目。
昨日までの一般教養授業は実につまらない。
つまらないというか、眠たい。
文字の読み書き、数字の読み書き等々。
この世界での紙は高価だ。
貴重という程ではないが、ノートのような使い方はしない。
教科書のような使い方ですら贅沢の様だ。
図書室に行けば、色々な本があるとのことだが、一般に出回る紙は少ない。
授業はもっぱら個人用の黒板にチョークだ。
お手軽なのは解るんだが、メモが残せないのがつらいな。
まぁ、そんな面白味のない授業の数々を乗り越えて、やってまいりました魔法授業。
人数の少ない神聖魔法と精霊魔法は、別の教室へ移動。
一番人数の多い呪印魔法・・・と、言っても10名+1名・・・は、教室にて先生が来るのを待つ。
白ヒゲの先生が入ってきた。
この人が、呪印魔法の先生なんだろうな。
「わ、わしが、呪印魔法の、先生である、スシュロデーヴァである」
なんだろう・・・疲れそうなイメージだ。
「じ、呪印魔法、とは、呪文と、魔法陣の、組み合わせの、魔法である。
た、例えば、初級の、炎の、球で、あるが、呪文、だけ、だと、こうだ」
「にぎえぶ、ぴむてに、もるで、るぁべりーふぁ、
のいてくぬーふ、いてに、くすてに、にきえぶ、
いてねみるしぃに、とりざんあい、むはい、ろーふ、
ぴむあすた、くすはくす、でぃーね、いぷすら、
へくたすら、くすあすたとり、あすたもるで、
くすはくす、くすんるてぃーる、でぃーね、
かる、もるで、やーる」
先生が、ゆっくりと呪文を唱えると、両手の間にテニスボールサイズのファイアボールが発生した。
呪文のみでも、ファイアボール撃てるんじゃん。
魔法陣要らないんか。とか思ったが・・・呪文が長いな。
意味のある文章なら覚えやすいが、聞いた感じでは、かなり意味不明だ。
・・・なんらかの法則性はあるんだろうが・・・
そうこうしているうちに、ファイアボールが霧散した。
「い、今のは、込めた、心力が、少ない、から、あの大きさ、なのだ。
つ、次は、この、魔法陣が、描かれた、紙を、使う」
懐から、葉書大の紙を取り出す。
ここからは、よく見えないが、円形に魔法陣が描かれている。
「かる、もるで、やーる」
魔法陣の描かれた紙が、一瞬で燃え上がり、先ほどと同じサイズのファイアボールが発生した。
一気に呪文が短くなったな。
これなら、戦闘中でも問題無い長さなんじゃないかな?
しかし、唱える度に、魔法陣の描かれた紙が無くなるのは痛いな。
「こ、これが、魔法陣を、使った、魔法だ」
先生がぐるっと生徒を見回す。
「ほ、本日から、呪印魔法の、基礎を、学んでいく、訳だが、
ま、まずは、自分の、属性と、心力と、魔法の腕を、感じ取る、ことから、始める」
それにしても、この先生のしゃべり方は疲れるな。
教科書があれば、勝手に読み進めるのだが・・・
属性は入学時に水晶で判定済みだ。
自分の属性外の魔法でも、使うことは可能だが、威力が格段に落ちるらしい。
結果、自分の属性以外の魔法ってのは、あまり使わなくなるようだ。
心力ってのは、要するにMPだ。
コレが尽きると、疲れを感じたり、最悪、気絶するらしい。
ヒールの練習でも、さすがに気絶したことは無いな。
複雑な魔法になればなるほど、必要となる心力が多くなる。
数値で見える訳ではないので、個々人の感じ方とのこと。
まぁ、さもありなん。
"魔法の腕"ってのは、心力を形付け、外に押し出す能力の事らしい。
自分の中に、押し出す腕をイメージすると、魔法が発動しやすいらしい。
呪印魔法だけなのかな?
ヒールする時に、腕なんてイメージしたこと無いしなぁ。
神聖魔法の経験からいくと、自分のイメージが大事に思える。
どういう効果を具現化したいのか?というイメージだ。
イメージした内容が、具体的であればあるほど、結果が伴ってくると言うか・・・
神聖魔法の場合だけかも知れないけど。
で、授業の方は・・・まずは、自分の魔法の腕を感じ取りましょう。って流れになって・・・
なんか、みんなで瞑想というか、迷走してる。
これを感じ取らないことには、呪印魔法が使えないんじゃ仕方ない。
呪印魔法の素質が無いので、周囲を見ているしか無いんだが・・・
何を持って、"感じ取った"とするんだろうな?
素質持ちだと、やっぱ、何か感じ取るのかな?
基礎部分に関しては、ミレイを手助けできそうにない。
こればっかりは、自前で感じ取って貰わないと。
素質無いから、アドバイスも出来ないし・・・もどかしい。
終わったら図書室に行くか。
入門書とかあるだろう。
解りやすいかは別として・・・
そんな訳で、初めての魔法の授業は・・・実に疲れた。
どうしよう。
次回から、こっそりサボって、図書室に行っちゃおうか悩むレベル。
「ミレイは、魔法の腕を感じ取れましたか?」
「・・・よく解んない」
「まぁ、僕には呪印魔法の素質がないので、
ミレイには自分で、がんばって貰わないといけないのですが」
「・・・うん。がんばる」
「まぁ、ゆっくりやっていきましょうか」
「・・・うん。
・・・で、今日は・・・どうするの?」
「そうですね。
図書室にでも行こうかと思うのですが、
何か用事、ありますか?」
「・・・ううん。いいよ。
・・・行こう?」
そんな訳で、初図書室・・・というか図書館。
日の光が、本を傷めるためか、入り口以外は窓が少なく、薄暗い。
この世界での比較対象が無いので、この規模がどうなのか解らないが・・・
大学の図書館程度はありそうだ。
思った以上に大きいな。
本が貴重なので、もっと小さいかと思ってた。
さすが、ルーオジークラスまである学院・・・ってことなんだろうな。
さてさて・・・分類とかどうなってるんだろう?
書架に分類の札とか無いし・・・ジャンルが解らん。
司書さんはどこかなぁ?
取り敢えず、入り口付近に、それらしい人影は見えないな。
仕方がない・・・適当に見て回るか。
薄暗い書架の間を見て回る。
「おやおや。
君たちはルーパクラスですね?
どうかしましたか?」
後ろから声を掛けられた。
振り返ると、ほっそりとした青年が、本を脇に抱えながら立っている。
司書ってことでいいのかな?
「司書さんですか?」
「ええ。そうですね。
何か捜し物ですか?」
「ええ。呪印魔法に関する書架はどちらでしょう?」
「君たちが読むには難しいと思いますが?」
「初心者向けの入門書ってありませんか?」
「入門書ですか・・・
さてさて・・・
ああ、あっちにあったかな?
着いてきてもらえますか?」
「はい。
よろしくお願いします」
奥まった棚まで来た。
このあたりの本は、あまり出し入れされていないのか、かなり埃っぽい印象を受ける。
空気がよどんでいるというか・・・
「この辺の本は、あまり読まれていないのですか?」
「おや?
どうしてそう思いましたか?」
「いえ。奥まっているので・・・
人気が無いのかな?・・・と」
「はは、そうですね。
確かに、人気は無いですね。
ああ、あったあった」
司書さんが、棚から3冊の本を取り出す。
「この辺が、入門書ですね」
「見てもいいですか?」
「もっと明るい所に行きましょう」
「ぁ、はい」
入り口付近にある机まで戻ってきた。
3冊とも、結構古い・・・感じがする。
「じゃぁ、ここで読んでて下さい。
外に持ち出すときは、必ず、声を掛けてくださいね」
「えっと・・・持ち出してもいいんですか?」
「持ち出し禁止の本もありますが・・・
まぁ、これらなら問題無いでしょう」
「はい。ありがとうございます。
取り敢えず、ここで拝見します」
「はい。ごゆっくり。
用があるときは、
そこの机にある呼び鈴を鳴らして下さい」
「はい。解りました」
司書さんが、奥の棚の方へと立ち去る。
「ああ、しまった。
ミレイには退屈かも知れませんね」
「・・・そうなの?」
「ええ、たぶん」
「・・・えっと・・・いい。大丈夫」
「え?」
「・・・魔法の腕・・・探す」
「そうですか。
入門書から、何か解ったら、
ミレイに試して貰うかも知れません」
「・・・うん」
じゃぁ、入門書でも読んでみますか。
解りやすいといいんですが・・・
「マジナハル呪印魔法初級」、「初めてのルダトロ流呪印魔法」、「ヴァアハ呪印魔法概論」・・・
取り敢えず、ぱらぱらっとめくってみる。
まずは、読みやすいことが重要だ。
難解な文章とかじゃ、理解するのに時間が掛かってしまう。
読みやすさ・・・という点で言えば、「初めての~」が一番読みやすい。
ミレイの属性が、水か氷ということを考えると、「マジナハル~」の方が、水や氷に関する記述もあり、よさそうだ。
取り敢えず、「概論」は面倒くさい。
基本的な所を、理論的に分解して、基礎から構築していく事で、一人前の魔法使いを育てようという本のようだ。
実は一番の近道である可能性もあるのだが・・・面倒くさい。
さすがに、図書室の中で呪文を試して貰う訳にもいかないので、簡単な方の2冊を借りていくことにしよう。
ってことで、受け付けの呼び鈴を鳴らす。
チリチリ~ン・・・と良い音が響く。
「はいはい。
おやおや。
どうしましたか?」
「この2冊を借りたいのですが、
借りることは出来ますか?」
「ふむふむ。
どちらも、初級の本ですから、
特に問題はないですね」
司書さんが、後ろにある黒板に本のタイトルを書き始める。
よく見ると、他にもタイトルと名前が書かれている。
どうやら、貸し出し台帳のようだ。
これ・・・管理しきれてるのか?
まぁ、ざっと見た感じ、利用者がそんなに多くないのか、問題なさそうだけど。
「名前を教えてもらえますか?」
「はい。
ルーパクラス1年、
ウィル・ランカスターです」
「はいはい。
じゃぁ、ウィルくん。
大切に扱って下さいね」
「はい。
ところで、返却期限とかは、
無いんですか?」
「返却期限ですか・・・
特にはないですね」
「そうなんですか。
解りました。
大切にお借りします」
「はいはい。
じゃぁ、また来るのをお待ちしてますよ」
「では、失礼します」
「・・・失礼します」
図書室を出て、取り敢えず、校庭に出る。
「・・・ウィル?
・・・どこに、行くの?」
「そうですね・・・
校舎裏ですかね?」
「・・・解った」
え?解ったの?
「えっと・・・
ミレイに呪印魔法を試して貰おうかと思って・・・
人に迷惑の掛かりそうにない場所に行きます」
「・・・うん」
取り敢えず、校舎裏に移動する。
さすがに人の気配はない。
「じゃぁ、ミレイ・・・
僕に続いて呪文を唱えてみて下さい」
「・・・うん」
ってことで、取り敢えずウォーターボールの呪文を復唱して貰ったのだが・・・ウンともスンとも。
「・・・何も起こらない・・・ね?」
「そうですね・・・
ま、そんな気はしていましたが」
「・・・そっか。残念」
まぁ、一発で成功するとは思ってなかったが・・・
それに、所々、復唱に失敗してるしな。
魔法陣を描いた紙・・・は勿体ないので、木札あたりを用意した方が良さそうだ。
「取り敢えず、今日は帰りましょうか」
「・・・うん」
「今度、本の内容を試してみましょう」
「・・・うん。がんばる」
「まずは、ミレイが、
魔法の腕を感じ取るのが、先ですかね」
「・・・そう、だね。
・・・がんばる」
「じゃ、帰りましょうか」
「・・・うん」
ところで・・・枯れ森が無いから、日々のヒール練習が出来ないんだが・・・
これはどうしたモンか・・・
まぁ、しばらく、ヒール練習はお休みか・・・
次回「魔法の授業の日のラルタイア(級友)」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
魔方陣→魔法陣(指摘感謝)
次回タイトルの追加
カッパー→ルーパ
ゴールド→ルーオジー