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ヒール最高  作者: 猫美
学院初等編
26/90

あいさつの日

「君たちは、今日から学院生の一員として、皆と学んでいくわけじゃが、

 時につらく、時には逃げ出したくなることもあるじゃろう。

 だが、そんな時にこそ、仲間となった皆のチカラを・・・」


どこの世界でも、『お偉いさんの話は長い』という法則に変化はなく、今も校長の長い説法が続いている。

講堂には長椅子が並べられ、立ちっぱでないのが救いだ。

ミレイと二人で、片隅の長いす、その端っこに座っている。


3日前に入寮したが、今のところ、ミレイの黒髪が問題になった様子はない。

むしろ、私の部屋が問題になった。

3区にある第8寮「木漏れ日と風の寮」、4階建てで、12名の学院生が暮らす。

こんな感じの寮が点在しており、150棟ほどになるそうだ。

アルバ・シャンタで、約2000人の学院生を収容している。

教職員、寮の管理人、飲食店、生活用品店、生産工房等々・・・多くの人が生活するため、こぢんまりとではあるが、都市を形成している。

また、金持ちの場合、全寮制といいつつ、戸建てを借り(買い取って?)、家族で住んでたりもするようだ。

・・・話が逸れた。


木漏れ日と風の寮だが、男女共用寮となっている。

男子寮、女子寮となっている寮も当然あるのだが、ここは共用寮だ。

4階を女子専用フロアとして、男子禁制となっているのだが・・・

例外として立ち入ることを許可されている。

っていうか、部屋が4階の1号室なのだ。

女子専用フロアなのに・・・だ。

ちなみに2号室がミレイだ。

さすがにショックで、がっくり膝をついた。

いや。何がショックかって説明できないくらい、何かが抜けてがっくりきた。

ランカスター家から学院にお願いした結果、学院側から寮に対し、強い要請があり、男子禁制のフロアで生活する許可が下りている状態だ。

問題を起こしたら・・・起こす気はないが・・・とにかく、気を付けていきたいと思う。


考え事をしていたら、学院長のありがたいお話も終わったようだ。

教室に移動する。

魔法学科は19名のようだ。

男子9名、女子10名か・・・

教室の後ろの片隅に座る。


一人の男子が近づいてくる。


「おい、お前」


いきなりお前呼ばわりか・・・


「なんです?」

「なんで、忌み人なんかと一緒にいやがるんだ?」


ええい。早速か。

面倒な・・・まだ、精霊魔法使いも解っていないというのに・・・

どうしたものか・・・クラスメートも遠巻きにこちらを気にしているな。


「おい。何とか言えよ」


クラスメートの言葉より、先生の方が説得力があるか?

あるだろうなぁ。

よし・・・先生には悪いが、権力は有効に使わせていただくことにしよう。


「ミレイは忌み人ではありませんよ」

「何言ってやがる」

「本当です。

 一人前の精霊魔法使いなら、

 精霊の目を通して、

 彼女が忌み人ではないと解るのですが」

「そんな嘘にだまされるもんか」

「本当です。

 サララケート先生に、

 聞いてみてください」

「うそだ!」

「本当です。

 先生に聞いてみてください」

「ふ、ふん。

 オレはだまされないからな!」


先生の名前を出したことが、効いたようだ。

男子生徒が前の方の席に座る。

こいつは面倒そうな奴だ。

と、心の閻魔帳にバツ印をつける。

クラスメートの反応は・・・半々といったところか。

入学初日から、爆弾投下しやがって。

教室が微妙な空気になってるじゃないか・・・面倒臭い奴だ。

・・・隣の席に女子が来た。


「は~い」

「は~い?」


しかも話しかけてきた。

かなり想定外です。


「私、ラルタイア・ラソルア。

 ラルタイアでいいわ。

 お友達になりましょう」

「はぁ?

 実に唐突ですね」

「ああいう嫌がらせって嫌いなのよね」

「解ったような、解らないような・・・

 僕はウィル、ウィル・ランカスター。

 彼女はミレイ」

「よろしくね。

 ウィルにミレイ」

「・・・うん」


隣に来た女子は、実に快活な女子ですね。

・・・魔法学科なのに快活ってのも似合わない感じもしますが。


「おう。よろしくな、ウィル。

 ミレイちゃんもよろしくな」


前の席の男子が、後ろを振り向いて・・・誰だ、お前。


「ああ、俺はランティル・タイユっていうんだ。

 ティルでいいぞ」

「ティルとウィルでかぶるじゃないですか」

「ぬ?

 確かにかぶるな」

「ま、しばらくはランティルってことで」

「ああ・・・まぁ、仕方ないか」


パンパン


「はい。じゃぁ、みんな~。

 空いている席に座って~」


サララケート先生が入ってきた。

どうやら魔法学科の担任のようだ。

明日以降の生活に関する説明が行われる。


ルーパ(銅・初等)クラス、初年度は1巡り毎に休み・・・というか、帰省が許されている。

次年度は2巡り毎、最終年度は季節毎。

徐々に寮生活に慣らす・・・という事だろうか。

頻繁に帰省を許可することから、ルーパクラスに関しては、近隣住民からしか募集していないらしい。

まぁ、1巡り毎に遠くまで帰ってたら、お金がいくらあっても足りないよな。


ちなみに1巡り(1週間)は9日間、季節の最後だけ10日間。

1巡りの最初と最後が、次の巡りへの準備という扱いで休みになる。

・・・土日みたいなモンだ。

8巡りで季節が巡り、5つの季節で1年となる。

つまり・・・7日間は連続で休み無しってことだ。

ぐぐ・・・怠けきった身体には辛いかもしれん。

濃葉の最初(8月初旬)からの4巡りと、落葉の最後(2月)の3巡りは長期休暇となる。


1巡り毎に帰るのって面倒じゃね?とか思ったのだが、よくよく考えてみると、9日間+前後の1日が休みってことで、11連休になる訳だ。

さすがに11連休もあれば、帰省するか。

っていうか、初年度の授業少なくないか?いいのか?

まぁ、長年それでやってきてるんだし・・・そういうもんだ。で納得されてるんだろう。


「はい。じゃぁ、今日はここまでです。

 皆さん、気をつけて帰ってくださいね」

「「先生~、さよ~なら」」


「ウィル、帰ろうぜ」

「ああ、悪い・・・ちょっと先生に用があるんですよ」

「ええ~。じゃぁ、ミレイちゃん、一緒に帰ろうぜ」

「・・・ウィルと一緒」

「ええ~。じゃぁ、ラルタイア・・・っていねぇ」


席を立って、さっさと帰ろうとしてるな。

ランティル・・・可哀相な奴。


「ちょっと、ラルタイア・・・一緒に帰ろうぜ」

「ええ。別にいいわよ。

 でも、他の子も一緒よ?」

「かわい子ちゃんなら大歓迎」

「・・・えっと・・・一人で帰ってもらえるかしら?」

「ちょ!軽い冗談じゃないか・・・

 じゃあな、ウィル、ミレイちゃん。

 また明日~」

「じゃあね、ウィル、ミレイ」

「ああ、またな」

「・・・うん」


さてと、先生の所に行って、神聖魔法の先生を紹介して貰わないとな・・・


「サララケート先生」

「あら。ウィルくんにミレイちゃん、どうしましたか?」

「ええ、実はお願いがありまして・・・

 神聖魔法の先生を紹介していただけないかと・・・」

「授業の件かしら?

 そうね、いらっしゃい。

 職員室に行きましょう」

「はい。ありがとうございます」


廊下の突き当たりの職員室に案内された。

談笑している男性教師の前に向かう。


「トラウィス先生、ちょっとお時間よろしいですか?」

「ん?ああ、サララケート先生、何か?」


トラウィス先生と呼ばれた男性教師・・・恰幅が良いと言えば聞こえは良いが、ぶっちゃけ中年太りだな。

顔は温和で、優しそうな印象を受ける。


「初めまして、ウィル・ランカスターです」

「はて?」

「神聖魔法専攻だけど、

 呪印魔法の講義を聴いてもいいか?

 っていう彼ですよ」

「ああ、あの話ですか。

 君か、ふ~ん。

 で、どうした?」

「いえ。一応、挨拶をしておこうかと思いまして・・・

 そんな変なことを言うわけですし・・・」

「なるほど。

 ウィルは、ヒールが使えるんだったな?」

「はい、使えます」

「じゃぁ、今から、その腕前を見せてもらうぞ」

「はぁ、それは構いませんが・・・

 ヒールの対象はどうするんです?」

「それなら心配ない。

 ついてくれば解る」


トラウィス先生を先頭に、ミレイ、サララケート先生と一緒について行く。

職員室を出て、校庭へ。

そして、そのまま校庭を横切って、見知らぬ建物の方へ歩いて行く。


「どこへ行くんですか?」

「ルーバシー(銀・中等)クラスの子が自主練をしているから、

 そこかしらね~」

「自主練ですか?」

「そう。ルーバシーの戦士学科の子たちが、

 剣術の自主練をしているのよ」

「つまり、ケガ人が出るくらい、

 激しい練習をしているんですか?」

「そうね。先生からすると、

 ちょっと激しすぎなんじゃないか?

 って思っちゃうんだけれど・・・

 神聖魔法の子たちにも、

 良い練習になるからって・・・」

「なるほど・・・」


何かの校舎の脇に、鎧を着た"かかし"が数体立てられ、恐らくはルーバシークラスの生徒なんだろう・・・上級生が打ち込みをしている。

また、その奥では、生徒同士が斬り合いの練習を行っている。

音から推測するに、木剣ではなく、金属製の剣だと解る。

さすがに刃は潰してあるんだろうが、正直、驚いた。


「木剣ではないんですね」

「ああ、重さが違いすぎるからな・・・」


「トラウィス先生、どうされたんですか?」


脇に控えていた生徒たちが、こちらに気がつき、声をかけてきた。


「ああ、気にするな。

 最初のケガ人はもらうぞ」

「え?は、はい。解りました」


それからしばらくは見学会だ。

剣に関しては、さっぱりなので何とも言えないが・・・結構、激しくやり合っている。

こりゃ、ケガ人も出るわ。


どれくらい時間が経ったのだろうか、黄色い歓声を通り越し、悲鳴が上がる。


「キャー、アーシラリル様が!」


ルーバシークラスの人気者って事かな?

トラウィス先生が立ち上がり、こちらに声をかける。


「さぁ、ウィル。

 お前のヒールを見せてもらうぞ」

「はい」


ケガ人の元へ駆けつける。

トラウィス先生が脇に立ち、向かいにミレイとサララケート先生。

そして、ルーバシークラスの治療班、他の戦士学科の生徒が十重二十重と取り囲む。

そんなに集まらないで欲しい・・・


「心配するな。

 何かあっても、先生が対処する。

 お前は心を落ち着かせ、持てる力を発揮しろ」

「はい」


周囲から、先生が治療するんじゃないのか?という、ざわめきが聞こえる。

まぁ、気持ちは解るけど・・・


傷は左肩の付け根・・・革の鎧が劣化しているのか、砕けている。

・・・これって、破片が傷口に入ってるよな?

取り除かずにヒールしたら、どうなっちゃうんだ?

まぁ、いい。

思ったようにやってみるさ。

とは言え、短縮はやばそうなので、通常詠唱にしておこう。


「我、彼の者の不調を知ることを願いたてまつらん。リサーチ」


肩口の傷の周辺に、黄色い小さい"もや"が見えるな。

これが破片だろうか?


「少し、痛むかも知れませんが、我慢してください」

「え?」

「我、彼の者に入りし異物を押し出す力を与えん。リリーブ」

「ぐっ!」


ああ、やっぱり痛いよね。

ごめんね、ごめんね。

苦悶の声を上げたからか、周囲のざわめきが増えた。

傷口周囲の組織がぜん動し、異物を押し出す。

黄色い"もや"が薄くなっていき、最終的に見えなくなったので、異物は無くなったと判断する。


「我、彼の者を癒すことを願いたてまつらん。ヒール」


そんなこんなで、無事にヒール完了。


「ウィル、見事だ」

「ウィルくん、すごいわ~」

「ぁ、はい。どうもです」


なんだ?周囲のざわめき・・・ルーバシークラスの医療班連中から、ざわめきが消えないんだけど。


「それで、一応、手順内容に関して、説明をしてくれるかな」

「は、はい。

 傷口を見た所、皮鎧が劣化していたのか、

 砕けていたのが気になりました。

 そこで、リサーチで傷の状態を確認し、

 異物が混入しているのを発見しました。

 リリーブにより、除去、ヒールを行いました」

「素晴らしい。

 特に、異物を除去するという発想が、実に素晴らしい。

 よほど素晴らしい指導者に恵まれていたのだろうね。

 ヒールの腕前だけでよかったのだが、

 完璧な治療だ」


う・・・ヒールだけでよかったのか。

いや、でも・・・異物があるまま、ヒールしたらどうなるんだ?

やっぱ、異物なんか無い方がいいよな。

ルーバシークラスの医療班がざわついていたのは、この手順が意外だったからか?

やっぱ、ヒールして終わりなのかなぁ?

他人のヒールなんて、母様のしか見たことないし・・・


「気分は大丈夫かね?」

「ぇ?」

「いや、3つも魔法を使ったんだ。

 疲れただろう?

 大丈夫かね?」

「ぁ、はい。

 そうですね。ええ。

 だいぶ疲れてはいますが、大丈夫です」


そうか、MP切れか!

・・・忘れてた。

こんな程度では、何とも無いのだが、最初の頃はそうじゃなかったよな。

うん。初心忘るべからずだ。

そうしないと、色々とボロが出そうだ。


「ほほう。

 3つも魔法を使って、心力が尽きないとは・・・

 将来有望だな」

「はい。ありがとうございます」


シンリョク?精神力の事か?

要するに、MPの事だとは思うんだが。


「よろしい。

 ウィル・ランカスター、神聖魔法の授業免除・・・

 認めようじゃないか。

 まぁ、卒業試験は受けてもらわねばならんがな」

「は、はい。

 ・・・って、卒業手前まで?

 い、いえ。1年の間だけで、よかったのですが・・・」

「何?そうなのか?

 キミの実力なら、3年まで免除して、問題無いぞ?」

「そ、そうですか・・・

 ありがとうございます」


えっと・・・ルーパクラスって、"ぬるい"のか?

と、取り敢えず、無事に免除を認められたし、よかったとしよう。


次回「あいさつの日のランティル(級友)」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

自主連→自主練(指摘感謝)

蠕動→ぜん動

次回タイトルの追加

カッパー→ルーパ

シルバー→ルーバシー

コース→専攻

片隅の端っこ→片隅の長いす、その端っこ(指摘感謝)


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◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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