寝耳に水の日
その日、日課のヒールを終えて、家に帰ると、母様がすっごいワクテカな感じで待ち構えてた。
「た、ただいま」
「・・・ただいま」
「おかえりなさ~い。待ってたのよ~。
どこまで行ってたの?」
「いえ。ちょっと町の周囲を・・・小川の辺りとか」
「ああ、あの辺ね~」
「そ、それで、母様。どうしたのですか?」
「魔法特性を測定しましょう」
「はぁ。測定出来るモノなんですね」
「ええ。そうよ~。
じゃ~ん。測定の水晶~」
青白い水晶の中に、白い影がもやもやと蠢いてる。
なるほど・・・・・・不思議水晶だな。
「これで特性が解るのですか?」
「そうね。呪印魔法の特性と、大まかな属性まで解る優れ物よ」
「でも、お高いんでしょう?」
「あらあら。うふふ。何?その言い回し」
「え・・・いや・・・そう言わなければいけない気がしまして」
「そうね。ちょっと高いかしらね~」
「いいんですか?そんなことにお金を使って」
「いいのよ。ウィルとミレイちゃん・・・
後々は孤児院の子供達にも使えるのだから」
「なるほど」
まぁ、人材発掘用の投資と思えば高くないのか?
結局、値段教えてくれないけど。
「さぁさぁ、ウィル、触ってみて」
「普通に触るだけでいいんですか」
「そうよ~。お手軽でしょ」
「お手軽ですね」
触るだけで解るのかー。
不思議水晶だな。
触れてみるが、特に変わった様子は無い。
ちょっと白いもやがもやもやっとしたぐらいか。
「特に変化はありませんね」
「そうみたいねぇ。
ウィルは呪印魔法の素質が無いみたい。
残念だわ」
「まぁ、父様も母様も呪印魔法使えませんからね。
素質が無くて正解なのかも知れませんよ」
「そうねぇ。
じゃぁ、ミレイちゃん、触ってみて」
「・・・ぅ、うん」
ミレイがおそるおそる触ると、白いもやが動き出す。
ぐるぐるとねじれるように・・・白いもやが青く青くなっていく。
青白い水晶の中で、一瞬見えなくなるが、
更に濃い青になり、影となって見て取れた。
「あらあら。
ミレイちゃん、スゴイわ。
水か・・・氷の素質があるみたい。
スゴイわ~」
「・・・ぇ?」
「色が属性を示しているのですか?」
「そうなのよ。
先生をお呼びして本格的な授業を」
「ゃ・・・まって・・・」
「あら?ミレイちゃん、授業は嫌?」
「だって・・・お金・・・勿体ない」
「あらあら。そう?
折角の素質なのに勿体ないわ~」
「母様、普通は家庭教師を付けるものなのですか?」
「そうねぇ。
最近だと、学院で学ばせて・・・ってことの方が多いかしら」
まぁ、家庭教師なんて・・・お金持ちの所業だよなぁ。
・・・世間一般からしたら、ウチはお金持ちだったな。
「じゃぁ、学院でいいんじゃないでしょうか」
「そう?そうよね。
学院なら、色々な事が学べるし。
じゃぁ、ウィルと同じ学院でいいかしらね」
「ところで・・・母様、学院に行くという話は初耳なのですが」
「あらあら。そうよね。そうだったわね。
7歳から学院に通うのよ」
「ゃ・・・まって・・・」
「あら?何かしら?」
「・・・学院も・・・お金掛かる」
「いいのよ。気にしなくて。
ミレイちゃんはウチの子も同然なんですから」
「・・・ぁぅ」
ミレイが困った顔で、コチラに助けを求めているようだ。
うん。無理。
「いいじゃないですか。一緒に通いましょう」
「ああ!?忘れてたわ」
「!?・・・何をですか?」
「全寮制なのよ・・・
ウィルもミレイちゃんもこの家から居なくなってしまうわ」
「ああ・・・なるほど」
「それは寂しいわね。
・・・いいえ!でも、学院で得るモノは大きいはず!」
「そうですよ。それに近いなら休みには帰ってきますよ」
「そうよね!だってすぐそこなんですもの!」
「すぐそこ・・・ってことは近いのですね」
「馬車で1日くらい・・・かしら?」
「・・・微妙な距離ですね」
「頻繁に帰ってきてくれないと寂しいわ」
「ええ・・・なるべく沢山帰るようにします。
ところで、7歳からとの事ですが・・・
新葉の季節(3月初旬)からですか?」
「ええ、そうね」
「今・・・落葉の3巡り(12月下旬)ですから・・・
あまり時間・・・ありませんよね?」
「そうなるかしら」
いや・・・全然、時間が無いじゃないか。
何の準備もしてないぞ。
入試とかどうするんだ。
「入るのに試験とかあるんじゃないんですか?」
「あらあら。そのことなら心配ないわ。
簡単な面接があるだけで、
あとはお金が払えるかが重要なんですもの」
「・・・金持ちの集まる学院ですか」
「そこまで高くは無いわ。
そんなに高かったら学院が潰れちゃうもの」
「それもそうですね・・・というか、母様。
学院に関する基本的な知識が何も無いのですが・・・」
「あら、そうね。
ウィルたちに行ってもらうのは、
アルバ・シャンタにあるシャンタ学院よ。
アルバ・シャンタが学院都市という形になるわね」
「学院都市ですか」
「ええ。学院を中心にして、広がってる町ですからね」
「へぇ。面白そうですね」
その後も母様を質問攻めにし続け、必要そうな知識を吸い上げた。
初等、中等、高等に別れており、3年、3年、5年の11年。
卒業時には17歳の成人の儀を終えてるってことだ。
っていうか・・・17歳で成人なんだな。
15歳くらいかと思ってたわ。
それはそれ。
初等、中等、高等は、ルーパ(銅)、ルーバシー(銀)、ルーオジー(金)と呼ばれる。
卒業兼入学試験があり、その結果により、いい先生に付けるかどうかが変わってくる。
ルーオジークラスを優秀な成績で卒業した者は、要職に就くことが多いとのことだ。
まぁ、ごもっともで。
いいとこのボンボンなどは、卒業試験に失敗した場合、
『成人の儀を無事に終え、戻ってまいりました』
とか言うらしい。
卒業とは言わないらしい。
すぐにバレそうなモンだが・・・
ルーオジークラスまで、一貫なのはシャンタだけらしい。
・・・この国では。
他の"学園"都市はルーバシーまでとのこと。
学園"都市"でない所はルーパまで。
"学院"と"学園"の違いはルーオジーまであるかどうか。
つまり、"学院"ってのは、大学みたいなモンか。
シャンタは、ルーオジーまである分、学院都市として大きいのだそうだ。
入学時に希望と個人特性に合わせてコースが別れる。
戦士学科、魔法学科、一般学科の3学科。
さらに学科の中にいくつかの専門職がある。
戦士学科 剣術コース、戦士学科 弓術コース、戦士学科 隠密コース、
・・・隠密!?
どうやらシーフ系のようだが・・・他に言葉無かったんか?
魔法学科 呪印魔法コース、魔法学科 神聖魔法コース、魔法学科 精霊魔法コース、
一般学科は単科らしい。
初等教育~中等教育が3年×2と短いことから、早いうちから専門職を叩き込もうという魂胆のようだ。
「所で・・・母様。
全寮制だと、ミレイが心配なのですが・・・」
「あら。どうして?」
「ぃゃ・・・ウチは気にしていませんが、
世間的には忌み人と見られてしまいますよ」
いやいや・・・待てよ。
寮に限った話じゃないよな。
クラスでも当然いじめがあるよな・・・
「あらあら。そうね・・・どうしたものかしら?」
「・・・そう・・・だから・・・やめよぅ?」
「寮の方は、お願いしてウィルと一緒にして貰いましょう」
「そんなことが出来るんですか?」
「・・・ぁぅ」
「大丈夫よ。学内ではウィルが守ってあげるのよ?」
「それはもちろんです」
「・・・ぅ」
速攻で答えたのはいいが、本当に大丈夫か?
身体のケガならヒールで癒せるが・・・
最近、やっと明るくなってきたのに、また、心に傷を負ったら、ケアできるのか?
う~む・・・早め早めに判断して、やばそうなら、学院から出ればいっか。
・・・かなり、親不孝な感じがするので、あまりしたくないけど・・・
なんか、心配してたら胃のあたりが気持ち悪く・・・
「じゃぁ、今日は、ミレイちゃんの学院生活の服を見に行きましょう♪」
「ぁぅ・・・お金・・・勿体ないの」
「じゃぁ、僕は」「ウィルも一緒に行くの」
「え?」
「一緒に行くの」
「「・・・はぁ」」
行く前から、ミレイと二人でため息・・・そんな平穏な日。
次回「寝耳に水の日のミレイ(家事手伝い見習い)」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
いいよの→いいのよ(指摘感謝)
次回タイトルの追加
カッパー→ルーパ
シルバー→ルーバシー
ゴールド→ルーオジー