ストーキングされた日
季節も巡り、6歳になった。
ミレイも、我が家にだいぶ馴染んだんじゃないか?と思うのだが・・・
母様に振り回されている感じだ。
まぁ、何かと遠慮するので、母様が気を使って積極的に動いているためだ。
お陰で、だいぶ笑顔が増えた気がする。
・・・苦笑も増えた気がするが・・・気のせいだな。
日々の日課のヒールは、今も続けている。
木の本数は・・・いい加減数えてられない。
1500は超えていると思うのだが・・・
範囲ヒールの練習を始めたあたりから、本数がいい加減になった。
まぁ、仕方ない。
でだ。
ここ数日、大物に取り組んでいる。
枯れ森の中心(?)にある大木だ。
直径15メートルはあるんじゃないか?という大物だ。
・・・子供目線なので、実際はそこまで無いのかも知れないが。
で・・・ここ数日掛かってる理由なんだが・・・
とにかく根が多い・・・それに深い。
リサーチして、リコンディションするのだが、
一回のリコンディションじゃ1、2箇所が精一杯だ。
そんな訳で、地味にリコンディションをして回るという作業を繰り返している。
「異常を取り除くことを願う。リコンディション」
恐らく、最後の異常部位のリコンディションが終わる。
「ウィル・・・終わったの?」
「ああ。たぶんですけどね。
念のため、一周して確認ですね」
「・・・解った」
ぐるっと一周。
リサーチ結果に不審な点は見えない。
「さて・・・こんだけの大木です。
一発、でかいのをぶちかましますか」
「我、彼の者を、我の持てる最大の力で癒すことを願いたてまつらん。マックスヒール!」
マックス・・・要らない気もするが・・・
・・・っていうか・・・『だせぇ』
パッと思いつかなかったんだ。
しょうがないじゃないか。
後々、短縮詠唱する際に、分かり易い語彙にしておかないとバランス調整が出来ないんだよね。
なんでか知らないけど。
それはそれ。
さすがに最大MPを突っ込んだヒールだけはある。
力の抜け方が半端ない。
立ってるのも億劫なので、その場に座り込む。
「ウィル!」
「ああ・・・ちょっと休めば、大丈夫です」
「・・・なら・・・いい」
これで、この大木も生い茂るかな。
さすがに、この大木が復活したら、町の人々も枯れ森が復活したの気がつきますよね~。
ま、すでに何人かは気づいてるけど。
どんだけ鈍いんだよ!
とか思ったけど・・・
それだけ、枯れ森が枯れているのは当たり前ってことだったんだろうなぁ。
「・・・ウィル!」
「ん?どうしました、ミレイ?」
「後ろ」
「・・・後ろですか」
振り返ると見知らぬフード姿の人が。
・・・女性・・・ですかね?
「やぁ、こんにちは」
「はぁ?こんにちは」
ミレイがこそこそっと私の背中に隠れる。
まぁ、人見知りだから仕方が無い。
っていうか、私も隠れたい。
なんとなく苦手な感じっぽい。
「ここは、コトナリリスの枯れた森だったと思うのだけれど・・・間違いないかな?」
「えっと・・・枯れ森としか知らないのです」
「そっか。君たちは枯れ森と呼んでいるんだったね。
ああ、そんなに警戒しないでくれたまえ。
怪しい者じゃないよ」
「はぁ」
「私の名前はハルトティータ。ハルトティータ・トゥ・アイサノシ。
枯れ森が復活したという噂を聞いてね。
調べに来てたんだ」
「そうですか・・・それじゃぁ、僕たちはこれ」「君の行いだね」
だね・・・ってバレてるじゃないか。
どうしたモンだろうか。
う~ん。剣呑な雰囲気ではないようだが・・・
ばっくれ方向でひとつ・・・
「えっと・・・僕たちは子供ですよ?」
「そうだね。子供だね」
ばっくれ失敗の香り。
「子供に森を復活させるなんて無理だと思うんですが・・・」
「そう。私たちは無理だと思っていた。
どうにもならないので森を見捨てた。
森は主であるコトナリリスの大樹も含め、枯れてしまった。
私たちは森の恵みも祝福も護りも・・・失い、見捨てて・・・逃げたんだ」
「・・・仕方なかったんじゃないですか?」
「そんなことは無い!
現に森は生きていた。
生きていたのに、その声に耳を貸さずに人の所為にして逃げたんだよ」
「人の所為ですか・・・」
「ところが間違っていた。
私たちの判断は間違っていたんだ。
人間の子よ」
「は、はい」
「一族に成り代わり、感謝を・・・
最大限の感謝をささげたいと思う」
バレてる上に、大げさな話になりはじめた。
なんだろう。
逃げた方がいいとしか思えない熱の帯びようなんだけど。
「ぃ、ぃぇ・・・僕たちは別に・・・」
「隠さなくてもいい。
ここ数日、君たちが森を巡り、コトナリリスの大樹の病を治し・・・そして今日・・・
君の持てる力の限りで癒しを施してくれたことは解っている」
完全にバレてる・・・
っていうか、ここ数日って何だ?
どういうことだ?
「そ、それで・・・ハルトティータさん?は僕たちに何を?」
「いや。あまりにも感動したので、最大限の賛辞と・・・何かお礼が出来ないかと・・・」
「ぃ、ぃぇ・・・僕たちが勝手にしたことですし・・・
それに、コトナリリス・・・でしたっけ?大樹も復活したかは怪しいですし・・・」
「ああ、それなら大丈夫だろう。
コトナリリスの大樹に生命の息吹を感じるからね」
「生命の息吹ですか・・・」
「ああ・・・君たちは知らないのか。
エルフの中でも、一部の変り種連中は、森の息吹を感じ取ることが出来るんだよ」
「エルフの方だったんですね」
「ああ、フードをしたままだったね。
これは失礼をした」
へぇ。本当にエルフっているんだね。
それに綺麗な人だね。
やっぱ長寿なのかな?長寿なんだろうなぁ。
それはそれ。
町中じゃ見かけないけど・・・隠れてるのかな?
隠れてるというよりは、人里離れて住んでるのかな?
森の中で閉鎖的に・・・みたいな感じで。
「エルフは珍しいかな」
「そうですね・・・町中じゃ見かけたことが無い気がします」
「そうだろうね。
この森が枯れたときに、別の森へ移住してしまったからね」
「ああ・・・さっきの人の所為にしてってのは、人間の所為にしてってことですか?」
「そうだね。
君は聡い子だね。
人並み外れたヒールといい・・・
本当に不思議な子だ」
「えっと・・・僕たちが枯れ森にヒールをしていたことは黙っていて欲しいのですが?」
「え?そうなのかい?
せっかく、ここまで復活したのだから、大々的に触れ回ったほうがいいんじゃないかい?」
「枯れ森が復活したことに関してではなく・・・僕たちがヒールをしていたということです」
「ふむ。それでは誰からも感謝されないよ?」
「感謝して欲しくてやった訳じゃありませんから」
「それじゃぁ、ちょっと寂しいね。
・・・そうだ。これを持っててくれないか?」
ハルトティータが右耳のイヤリングを取り外す。
黄緑色をした石で出来ている。
きらきらと淡い緑がとても綺麗だ。
小指の第一関節くらいはありそうなんだけど・・・
・・・高いよね?
「そんな・・・受け取れません」
「そう言わずに持っていてくれたまえ。
そうだな。
君に預ける・・・という形ではどうかな?」
「預ける・・・ですか?」
「そう。君に預けるんだ。
もう片方は私が持ち続けるし・・・
君が、もし死んでしまったのなら、その石は返してもらう」
「そんな事が解るんですか?」
「ああ・・・これでもティータの祝福という名前持ちのイヤリングだからね」
「ハルトティータさんの名前の一部ですね」
「ああ、そうさ。私の名前の一部を持っているんだ。
つまり、私の片割れとも言える」
「えっと・・・じゃぁ、預かるだけ預かるということで・・・
もしかしたら、ず~っと死なないかも知れませんよ?」
「ははっ、それなら大丈夫だ。
ハイエルフって奴は、案外しぶといからね」
「ハイエルフだったんですか?」
「そうだよ」
いやぁ、ほんとにいるんだ。
ハイエルフ。
物語の中だけじゃないんだなぁ。
まぁ、魔法のある世界に居てなんだけど。
やっぱ、エルフの上位種族なのかな?
「エルフより偉いんですか?」
「はははっ、年寄りになれるだけさ」
「そうですか・・・
えっと・・・名乗りがまだでしたね。
僕の名前は、ウィル。ウィル・ランカスター。
こっちの隠れてるのはミレイ。
ランカスター家の長子として、ハルトティータさんのイヤリング、丁重にお預かりいたします」
「ああ、そうか。君の名前を聞いていなかったのか。
・・・ウィル。
よろしく頼むよ。
そんな石でも貴重なんだ」
「はい。ハルトティータさんに無事にお返しすることをお約束いたします」
「じゃぁ、私はもう少し森を散策してみるとするよ」
「はい。僕たちはもう帰ります」
ハルトティータと別れる。
なんだろう・・・妙に緊張した。
「ウィル・・・お疲れ?」
「なんでしょうね。何か、妙に疲れました」
「きっと・・・ヒールの所為」
「そうですかね?
ミレイはハルトティータをどう思いましたか?」
「んと・・・おっきな人?」
「おっきな人ですか・・・」
「リリー奥様・・・みたいに優しい人」
「ふむ・・・悪い人では無さそうですがね。
まぁ、それはそれ。
このイヤリング・・・どうしたモンですかね。
僕がイヤリングをするってのも似合わないでしょうし」
「そんなことない・・・と思う」
「そうですか?ありがとうございます。
う~ん・・・鎖にでも付けてネックレスにしますかね」
「じゃぁ、今日は・・・もう帰る?」
「そうですね。帰りましょう。
ほんと、なんでか疲れましたし」
「解った・・・帰る」
次回「ストーキングされた日のハルトティータ(フードの人)」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
一部も→一部の(指摘感謝)
君が復活してくれたんだね→君の行いだね(指摘感謝)
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