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ヒール最高  作者: 猫美
幼少編
16/90

ミレイが歌った日

「♪もるで、のすにと、へんげるたい~」


ミレイがウチに来てから、一悶着がありました。

思わず、遠い目をしてしまいますが・・・一悶着あった。

ウチではなく、世間的にだが。

ミレイの火傷跡と、母様が見た虐待の証に関して、父様が知った時・・・その時、ランカスター家に激震が走る!まさにそんな感じ。

父様と母様が暗躍(?)し、詳細は教えてくれないのだが、ウチの位がワンランクアップした。

どうも、あの孤児院・・・院長であるウラケス家が、虐待だけならまだしも、横領、人身売買、臓器売買と言った、ロクでもないことをして財をなしていたようなのだ。

国と地方行政からの資金横領・・・当然、脱税もだ。

売買だが、幼児愛好家(女児だけじゃなくて男児も)、臓器偏愛者と言った変態の金持ちを相手に、売りさばいていたらしい。

ゲスすぎる。

ミレイは、忌み人なので買い手が付かなかったようだ。

ある意味、忌み人が幸いした。


「♪じおに、かんやか、いでいやし~」


そんな事があったので、ウラケス家当主は逮捕。

ウラケス家は財産没収の上、首都、及び、首都衛星都市からの追放。

国外追放じゃないだけマシだが、財産没収されているので、どうにもならないんじゃないかなぁ?

詰んでるよね。


で、我が家は・・・と言うと、孤児院の管理運営を言いつけられ、孤児院職員の任命権、資金運営の許可、該当する土地の整備運営・・・と言った厄介事にしか思えない内容を仰せつかった。

でだ・・・任命権、運営権あたりで、家督が足りないんじゃないか?って話になって、ワンランクアップに繋がった訳だ。


「♪とりと、ふういき、かすもい~ど~」


孤児院の運営に関しては、父様と母様が厳選した職員により運営されていくことになった。

元々、あまり贅沢をする家風ではないので、増えた家禄がまるまるっと孤児院の運営に回されている。

孤児院の建物も、あのボロ屋敷ではなく・・・接収したウラケス家を使っている。

一気に立派になって、喜ばれているようだ。

ま、ウチがあの家使うこともないしな。

有効活用ってモンだ。


ミレイは、1度だけ孤児院を見に行ったが、孤児院には戻らなかった。

まぁ、忌み人として、迫害されてた所に、好きこのんで戻りたいとは思わないよな。


「♪てとら、かりこり、し~りむまい~」


ミレイは・・・と言うと、まだまだ子供ということもあり、1日3ルーオ(3時間半)程度の仕事を、ノイナに付き従っ・・・


「あら。ウィル、ご機嫌ね?」

「母様。ご機嫌という訳ではないのですが・・・ご機嫌ですか?」

「そうよ~。何か知らない歌を歌ってたじゃない」

「ああ・・・あれですか。なんでしょうね?」

「あらあら。どこで覚えてきたのかしら?」

「ミレイが・・・たまに歌ってるんですよ」

「あら?ミレイちゃんが?

 それは是非とも聞いてみたいわね」

「掃除中とか・・・気分が乗ってる時に歌っていますよ」

「だいぶ、慣れたのかしらね?」

「そうですね。まだまだ・・・だとは思いますが・・・

 自分が忌み人ってことをかなり気にしているというか・・・」

「そうね。忌み人では無いと思うのだけれど・・・」

「忌み人なのに忌み人じゃないってことですか?

 そもそも忌み人って何ですか?

 母様は、いじめられている人としか仰りませんでしたが」

「そうね。これから一緒に生活していくのだもの。

 ウィルには知っておいて貰った方がいいかも知れないわね」

「教えていただけるのなら、教えて下さい。

 ミレイを守る為にも・・・正しい知識が必要なんです」

「クロ・・・闇の眷属と呼ばれる者達がいるのは知っているかしら?」

「ええ。父様に教えていただきました。

 動く死体や吸血を行う者達だと・・・」

「そう。彼らは、その人との違いから、恐れられ、忌み嫌われているわ。

 彼らも人を食べ物や虫けら程度にしか思っていないみたいだし。

 そして、彼らは、時として食料以外の目的で人を襲ったりするの」


襲うって・・・犯すってことだよなぁ。

つまり・・・忌み人とは、闇の眷属との混血・・・と言うことか。

ミレイはハーフってことなのか?

孤児院に居たのに?

母親が混血だということを言いふらしたんだろうか?

・・・それは無いな。

自分が闇の眷属に傷物にされたと喧伝するようなモンだし。

っていうか・・・子供が生殖行動に関する知識を持ってるのって・・・極々一般的な常識なのか?


「襲われた結果、身籠もってしまうことがあるわ」


課程を駆け抜けたな。

まぁ、詳細に説明されても・・・なんとなく気まずいし・・・適度にスルーだ。

・・・ただし、子供らしさを忘れずに!程度に。


「みごもる・・・ですか」

「ああ・・・そうね。えっと・・・子供が出来てしまうことよ」

「つまり・・・その子供が忌み人?」

「そうね。その子は忌み人と呼ばれ、差別されるわ」


そうなると、やはり、母親が喧伝しないとバレないと思うんだが・・・

・・・何か身体的な特徴が出るのか?


「その子には、何か特徴が出るんですか?

 例えば、ツノが生えてくるとか・・・」

「そうね。そういう子もいるわ。

 目が光ったり、背中に羽があったり・・・」

「じゃぁ、ミレイも!?」

「いいえ。ミレイちゃんには、そういった特徴は見られなかったわね」


ほっ。

外見的特長が無いのは良かった。

じゃぁ、何をもってして、忌み人と言っているんだろうか?

血を好む・・・様には見えないしなぁ。

要するに・・・吸血鬼ってことだろ?

犬歯が鋭かったりしてないし・・・

・・・こっちの世界の吸血鬼知らないけど。


「じゃぁ、ミレイは忌み人ではない?」

「見た目では解らない場合もあるわ。

 こればっかりは、ミレイちゃんに聞いてみるか、しばらく様子を見るしかないわね」

「母様は、どう考えているのですか?」

「そうね。・・・実は見た目だけなんじゃないかしら?」

「は?」

「ほら、ミレイちゃんって、綺麗な黒髪してるでしょ」

「ええ・・・日の光でうっすらと蒼味がかった感じになりますが・・・綺麗ですよね」

「そうね。・・・ウィルは町中で黒髪の人って見たことあるかしら?」

「え?・・・さすがに黒髪くらいいるんじゃないですか?」

「いいえ。居ないわ。

 少なくとも、私は見たことが無いの」

「え?」

「闇の眷属に黒髪の者が居て、黒髪の人間は、その子供と思われているわ」

「え?じゃ、じゃぁ、ミレイは、髪の毛が黒いというだけで、忌み人と差別され、虐待を受けていたと言うのですか?」

「私はそう思うの」


馬鹿な!そんな・・・そんなくだらない事で・・・


「じゃ、じゃぁ、今までも、そんな見た目がちょっと違うだけで差別され、謂れの無い迫害・・・下手をすれば、そんな理由で殺されてしまった人たちが居たかも知れないと!?」

「ええ・・・悲しいけど、そうなるわね。

 本当の忌み人・・・と呼ばれる人たちも居ることは間違いないのよ」


なんだそれ!なんだそれ!


「なんだそれ!アホかッ!

 髪の毛が黒いだけ?

 アホかッ!

 突然変異かも知れないじゃないか。

 伴性遺伝で黒髪が発現した可能性だってあるじゃないか。

 先祖帰りはどうだ?あれは隔世遺伝だったか?

 十分に可能性があるじゃないか!?」

「ウィル・・・」


母様にそっと抱きしめられた。

母様の暖かさが・・・急速に頭を冷やす。

・・・暴走しすぎたか。

というか、考えが表に出てた?

・・・ドン引き!?


「母様・・・?」

「そうね。髪の毛が黒いだけで、ミレイにあんなことをするなんて・・・良くないわよね。

 だからね・・・これからはウィルが守ってあげないとね」

「母様・・・」


3分だったのか・・・5分だったのか・・・

そっと抱きしめられたまま時間が過ぎた。


「それにしても不思議な歌ね」

「え?・・・ああ、ミレイの歌ですか・・・」


一気に話の方向を捻じ曲げてきたな。


「不思議ですか?」

「そうね。専門外だから、あまり解らないのだけれど・・・

 呪印魔法の呪文に近い感じかしら」

「呪文ですか?」

「そうよ~。本物の呪文に比べると、ものすごく短いのだけれど・・・

 言葉の感じは呪印魔法に近いわね」

「ふむ」


呪印魔法の才能持ちですかね?

どうやって確認したモンですかね。


取り敢えず、母様との会話は打ち切り。

気分転換に日課のヒールをこなすとしよう。

さぁ、ミレイはどこだ?


2階から音が聞こえるな。


ガチャ

「ミレイ~。そろそろ出かけますよ?」

「・・・ん」


こくりと頷くと、とてとてと歩いてノイナの方へ。


「ノイナ・・・ウィルと外・・・えっと・・・散歩してくる。

 ・・・いい?」

「そうですね。

 本日の作業も終わりましたし、出かけてきていいですよ。

 気をつけて行ってらっしゃい」

「・・・うん」


とてとてと戻ってきて


「ウィル・・・行く」


なんとも小動物ちっくで和むねぇ。


「じゃぁ、ノイナ。行ってきます」

「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ」


散歩・・・と言うか、日課のヒールだ。

前は色々と心配を掛けていたみたいだが、ミレイが来てから、一緒に出かけるということで、一応安心されているみたいだ。

お目付役って所ですかね~。

ま、忌み人ってことで、極力、町中は避けている。

なんせ、ミレイのお陰で、隠れて出て行かなくて済む。

出かけるのは楽になった。


取り敢えず、いつもの枯れ森に到着。

目印の毛糸まで移動して・・・隣の木にリサーチ、リコンディション、ヒールのコンボを喰らわす。

最近は面倒になって、範囲ヒールの練習に切り替えてる・・・そうでもしないとMPが枯渇状態にならない。

素直にヒールで枯渇を狙うと面倒なんだよね~。

効率よく枯渇させないと・・・ちょっと増やしすぎたか?


「ミレイ。ミレイは魔法が使えるんですか?」


どストレートに聞いてみた。

どうやって確認するか思いつきませんでしたっ!


「・・・ん?・・・ウィル・・・何を言っているの?」

「ほら。よく、歌ってるじゃないですか。

 ♪もるで、のすにと、へんげるたい~・・・って」

「ッ!?・・・なんで・・・知ってるの!?」

「え?いや・・・掃除の時とか歌ってますよ?」

「ぅ!!?・・・そ、そんなこと・・・ないの!?」


ここまで慌てるミレイというのも・・・斬新だな。

えっと・・・知られちゃいけなかったのか・・・恥ずかしかったのか・・・後者のようだが・・・


「じゃぁ、まぁ、歌っていませんでした」

「うん・・・うん」

「で、母様が言うには、呪印魔法みたいだ・・・とのことなのですが」

「じゅいんまほう?」

「ええ。何やら呪文に似ているそうです」

「・・・そうなの?」

「誰から習ったんです?」

「・・・えっと・・・適当?」

「適当ですか・・・ミレイがなんとなく気分で歌ってると」

「・・・なんだろうね?」

「いや・・・そう言われても困ってしまうのですが」


ふむ。どうやら思いつきのようだ。

母様が呪文っぽいって言っていたから、てっきり、ミレイが呪印魔法を使える物と勘違いしたのだが・・・


「ウィル・・・今日のヒール・・・終わった?」

「ええ。今日はこの辺で帰りましょうか」

「・・・うん」

次回「ストーキングされた日」


Twitter @nekomihonpo


変更箇所

街中→町中

増えた家督→増えた家禄(指摘感謝)

次回タイトルの追加

ノイエ→ノイナ(指摘感謝)

刻→ルーオ



補足、あるいは言い訳

臓器売買に関してですが、ゲスさ具合を示す為にひねり出したモノです。

移植とかは考えておらず、主に鑑賞目的です。

ロウや蜜蝋なんかで固めているとお考え下さい。


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◆用語 ●幼少期人物一覧
 ●学院初等期人物一覧
 ●学院中等期人物一覧
 ●学院高等期人物一覧

以下、感想に対する補足になりますが、ネタバレを含む可能性があります。
見る場合、最新話まで見た上で見ることを推奨します。
◆1 ◆2 ◆3 ◆4 ◆5 ◆6 ◆7(2013/02/03)
あとがきは ネタバレ を含む可能性があります。
◆あとがき(2013/02/01)
1話にまとめあげる程ではなかったおまけ。
◆研究室での日常のヒトコマ(2012/11/23)



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