ミレイが歌った日
「♪もるで、のすにと、へんげるたい~」
ミレイがウチに来てから、一悶着がありました。
思わず、遠い目をしてしまいますが・・・一悶着あった。
ウチではなく、世間的にだが。
ミレイの火傷跡と、母様が見た虐待の証に関して、父様が知った時・・・その時、ランカスター家に激震が走る!まさにそんな感じ。
父様と母様が暗躍(?)し、詳細は教えてくれないのだが、ウチの位がワンランクアップした。
どうも、あの孤児院・・・院長であるウラケス家が、虐待だけならまだしも、横領、人身売買、臓器売買と言った、ロクでもないことをして財をなしていたようなのだ。
国と地方行政からの資金横領・・・当然、脱税もだ。
売買だが、幼児愛好家(女児だけじゃなくて男児も)、臓器偏愛者と言った変態の金持ちを相手に、売りさばいていたらしい。
ゲスすぎる。
ミレイは、忌み人なので買い手が付かなかったようだ。
ある意味、忌み人が幸いした。
「♪じおに、かんやか、いでいやし~」
そんな事があったので、ウラケス家当主は逮捕。
ウラケス家は財産没収の上、首都、及び、首都衛星都市からの追放。
国外追放じゃないだけマシだが、財産没収されているので、どうにもならないんじゃないかなぁ?
詰んでるよね。
で、我が家は・・・と言うと、孤児院の管理運営を言いつけられ、孤児院職員の任命権、資金運営の許可、該当する土地の整備運営・・・と言った厄介事にしか思えない内容を仰せつかった。
でだ・・・任命権、運営権あたりで、家督が足りないんじゃないか?って話になって、ワンランクアップに繋がった訳だ。
「♪とりと、ふういき、かすもい~ど~」
孤児院の運営に関しては、父様と母様が厳選した職員により運営されていくことになった。
元々、あまり贅沢をする家風ではないので、増えた家禄がまるまるっと孤児院の運営に回されている。
孤児院の建物も、あのボロ屋敷ではなく・・・接収したウラケス家を使っている。
一気に立派になって、喜ばれているようだ。
ま、ウチがあの家使うこともないしな。
有効活用ってモンだ。
ミレイは、1度だけ孤児院を見に行ったが、孤児院には戻らなかった。
まぁ、忌み人として、迫害されてた所に、好きこのんで戻りたいとは思わないよな。
「♪てとら、かりこり、し~りむまい~」
ミレイは・・・と言うと、まだまだ子供ということもあり、1日3ルーオ(3時間半)程度の仕事を、ノイナに付き従っ・・・
「あら。ウィル、ご機嫌ね?」
「母様。ご機嫌という訳ではないのですが・・・ご機嫌ですか?」
「そうよ~。何か知らない歌を歌ってたじゃない」
「ああ・・・あれですか。なんでしょうね?」
「あらあら。どこで覚えてきたのかしら?」
「ミレイが・・・たまに歌ってるんですよ」
「あら?ミレイちゃんが?
それは是非とも聞いてみたいわね」
「掃除中とか・・・気分が乗ってる時に歌っていますよ」
「だいぶ、慣れたのかしらね?」
「そうですね。まだまだ・・・だとは思いますが・・・
自分が忌み人ってことをかなり気にしているというか・・・」
「そうね。忌み人では無いと思うのだけれど・・・」
「忌み人なのに忌み人じゃないってことですか?
そもそも忌み人って何ですか?
母様は、いじめられている人としか仰りませんでしたが」
「そうね。これから一緒に生活していくのだもの。
ウィルには知っておいて貰った方がいいかも知れないわね」
「教えていただけるのなら、教えて下さい。
ミレイを守る為にも・・・正しい知識が必要なんです」
「クロ・・・闇の眷属と呼ばれる者達がいるのは知っているかしら?」
「ええ。父様に教えていただきました。
動く死体や吸血を行う者達だと・・・」
「そう。彼らは、その人との違いから、恐れられ、忌み嫌われているわ。
彼らも人を食べ物や虫けら程度にしか思っていないみたいだし。
そして、彼らは、時として食料以外の目的で人を襲ったりするの」
襲うって・・・犯すってことだよなぁ。
つまり・・・忌み人とは、闇の眷属との混血・・・と言うことか。
ミレイはハーフってことなのか?
孤児院に居たのに?
母親が混血だということを言いふらしたんだろうか?
・・・それは無いな。
自分が闇の眷属に傷物にされたと喧伝するようなモンだし。
っていうか・・・子供が生殖行動に関する知識を持ってるのって・・・極々一般的な常識なのか?
「襲われた結果、身籠もってしまうことがあるわ」
課程を駆け抜けたな。
まぁ、詳細に説明されても・・・なんとなく気まずいし・・・適度にスルーだ。
・・・ただし、子供らしさを忘れずに!程度に。
「みごもる・・・ですか」
「ああ・・・そうね。えっと・・・子供が出来てしまうことよ」
「つまり・・・その子供が忌み人?」
「そうね。その子は忌み人と呼ばれ、差別されるわ」
そうなると、やはり、母親が喧伝しないとバレないと思うんだが・・・
・・・何か身体的な特徴が出るのか?
「その子には、何か特徴が出るんですか?
例えば、ツノが生えてくるとか・・・」
「そうね。そういう子もいるわ。
目が光ったり、背中に羽があったり・・・」
「じゃぁ、ミレイも!?」
「いいえ。ミレイちゃんには、そういった特徴は見られなかったわね」
ほっ。
外見的特長が無いのは良かった。
じゃぁ、何をもってして、忌み人と言っているんだろうか?
血を好む・・・様には見えないしなぁ。
要するに・・・吸血鬼ってことだろ?
犬歯が鋭かったりしてないし・・・
・・・こっちの世界の吸血鬼知らないけど。
「じゃぁ、ミレイは忌み人ではない?」
「見た目では解らない場合もあるわ。
こればっかりは、ミレイちゃんに聞いてみるか、しばらく様子を見るしかないわね」
「母様は、どう考えているのですか?」
「そうね。・・・実は見た目だけなんじゃないかしら?」
「は?」
「ほら、ミレイちゃんって、綺麗な黒髪してるでしょ」
「ええ・・・日の光でうっすらと蒼味がかった感じになりますが・・・綺麗ですよね」
「そうね。・・・ウィルは町中で黒髪の人って見たことあるかしら?」
「え?・・・さすがに黒髪くらいいるんじゃないですか?」
「いいえ。居ないわ。
少なくとも、私は見たことが無いの」
「え?」
「闇の眷属に黒髪の者が居て、黒髪の人間は、その子供と思われているわ」
「え?じゃ、じゃぁ、ミレイは、髪の毛が黒いというだけで、忌み人と差別され、虐待を受けていたと言うのですか?」
「私はそう思うの」
馬鹿な!そんな・・・そんなくだらない事で・・・
「じゃ、じゃぁ、今までも、そんな見た目がちょっと違うだけで差別され、謂れの無い迫害・・・下手をすれば、そんな理由で殺されてしまった人たちが居たかも知れないと!?」
「ええ・・・悲しいけど、そうなるわね。
本当の忌み人・・・と呼ばれる人たちも居ることは間違いないのよ」
なんだそれ!なんだそれ!
「なんだそれ!アホかッ!
髪の毛が黒いだけ?
アホかッ!
突然変異かも知れないじゃないか。
伴性遺伝で黒髪が発現した可能性だってあるじゃないか。
先祖帰りはどうだ?あれは隔世遺伝だったか?
十分に可能性があるじゃないか!?」
「ウィル・・・」
母様にそっと抱きしめられた。
母様の暖かさが・・・急速に頭を冷やす。
・・・暴走しすぎたか。
というか、考えが表に出てた?
・・・ドン引き!?
「母様・・・?」
「そうね。髪の毛が黒いだけで、ミレイにあんなことをするなんて・・・良くないわよね。
だからね・・・これからはウィルが守ってあげないとね」
「母様・・・」
3分だったのか・・・5分だったのか・・・
そっと抱きしめられたまま時間が過ぎた。
「それにしても不思議な歌ね」
「え?・・・ああ、ミレイの歌ですか・・・」
一気に話の方向を捻じ曲げてきたな。
「不思議ですか?」
「そうね。専門外だから、あまり解らないのだけれど・・・
呪印魔法の呪文に近い感じかしら」
「呪文ですか?」
「そうよ~。本物の呪文に比べると、ものすごく短いのだけれど・・・
言葉の感じは呪印魔法に近いわね」
「ふむ」
呪印魔法の才能持ちですかね?
どうやって確認したモンですかね。
取り敢えず、母様との会話は打ち切り。
気分転換に日課のヒールをこなすとしよう。
さぁ、ミレイはどこだ?
2階から音が聞こえるな。
ガチャ
「ミレイ~。そろそろ出かけますよ?」
「・・・ん」
こくりと頷くと、とてとてと歩いてノイナの方へ。
「ノイナ・・・ウィルと外・・・えっと・・・散歩してくる。
・・・いい?」
「そうですね。
本日の作業も終わりましたし、出かけてきていいですよ。
気をつけて行ってらっしゃい」
「・・・うん」
とてとてと戻ってきて
「ウィル・・・行く」
なんとも小動物ちっくで和むねぇ。
「じゃぁ、ノイナ。行ってきます」
「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
散歩・・・と言うか、日課のヒールだ。
前は色々と心配を掛けていたみたいだが、ミレイが来てから、一緒に出かけるということで、一応安心されているみたいだ。
お目付役って所ですかね~。
ま、忌み人ってことで、極力、町中は避けている。
なんせ、ミレイのお陰で、隠れて出て行かなくて済む。
出かけるのは楽になった。
取り敢えず、いつもの枯れ森に到着。
目印の毛糸まで移動して・・・隣の木にリサーチ、リコンディション、ヒールのコンボを喰らわす。
最近は面倒になって、範囲ヒールの練習に切り替えてる・・・そうでもしないとMPが枯渇状態にならない。
素直にヒールで枯渇を狙うと面倒なんだよね~。
効率よく枯渇させないと・・・ちょっと増やしすぎたか?
「ミレイ。ミレイは魔法が使えるんですか?」
どストレートに聞いてみた。
どうやって確認するか思いつきませんでしたっ!
「・・・ん?・・・ウィル・・・何を言っているの?」
「ほら。よく、歌ってるじゃないですか。
♪もるで、のすにと、へんげるたい~・・・って」
「ッ!?・・・なんで・・・知ってるの!?」
「え?いや・・・掃除の時とか歌ってますよ?」
「ぅ!!?・・・そ、そんなこと・・・ないの!?」
ここまで慌てるミレイというのも・・・斬新だな。
えっと・・・知られちゃいけなかったのか・・・恥ずかしかったのか・・・後者のようだが・・・
「じゃぁ、まぁ、歌っていませんでした」
「うん・・・うん」
「で、母様が言うには、呪印魔法みたいだ・・・とのことなのですが」
「じゅいんまほう?」
「ええ。何やら呪文に似ているそうです」
「・・・そうなの?」
「誰から習ったんです?」
「・・・えっと・・・適当?」
「適当ですか・・・ミレイがなんとなく気分で歌ってると」
「・・・なんだろうね?」
「いや・・・そう言われても困ってしまうのですが」
ふむ。どうやら思いつきのようだ。
母様が呪文っぽいって言っていたから、てっきり、ミレイが呪印魔法を使える物と勘違いしたのだが・・・
「ウィル・・・今日のヒール・・・終わった?」
「ええ。今日はこの辺で帰りましょうか」
「・・・うん」
次回「ストーキングされた日」
Twitter @nekomihonpo
変更箇所
街中→町中
増えた家督→増えた家禄(指摘感謝)
次回タイトルの追加
ノイエ→ノイナ(指摘感謝)
刻→ルーオ
補足、あるいは言い訳
臓器売買に関してですが、ゲスさ具合を示す為にひねり出したモノです。
移植とかは考えておらず、主に鑑賞目的です。
ロウや蜜蝋なんかで固めているとお考え下さい。




