来客の日
ここ数話、いじめ、虐待(を臭わせる)表現が出てきます。苦手な方は飛ばして下さい。
昨日、母様に断りを入れた後、速攻でミレイを探しに出たのだが、見つからなかった。
さすがに孤児院に乗り込んでまで・・・という勇気はなかった。
家に帰ってから、父様と母様にミレイの話をした。
2人とも、最初は忌み人ってことで嫌悪感を示したが、最後は連れてきて良いと言ってくれた。
虐待の可能性が決め手になったようだ。
ミレイが、自分と両親との仲を気にした。
というのも効いている。
まぁ、コレに関しては、彼女が実に心優しい人であることを示しているし、忌み人ということに関しても誤解があるのかも知れない。
特に父様が虐待に関して怒り心頭の様子。
厳つい顔で怒られると、ちょっと怖い。
涙出そうになった。
まぁ、そんな訳で、両親の了解は得られたので、まずはミレイをウチにかっさらう次第。
ってことで、朝から孤児院を張っている訳です。
・・・不審者ですかね。
いいや。
子供なんだから大丈夫。
・・・大丈夫。
・・・めげそうです。
お、あれは・・・えっと・・・アルフだったか。
「アルフ!」
「ぉゃ?こんにちは。
ウィルから声を掛けてくるとは思っていませんでしたよ」
「うん。そうだね。
それはそれ。
ミレイを見なかった?」
「今日・・・ということですよね?」
「うん」
「今日は見てないですね」
「そうか。ありがとう」
「・・・なんですか、その・・・もう行っていいよみたいな扱いは」
「いや、行っていいよ?」
「ふぅ。相変わらず変な人ですね。
それで、今日はどうしたんですか?」
「ミレイ待ち」
「はぁ・・・ミレイ待ちですか」
「そそ。張り込み中だから行っていいよ」
「じゃぁ、張り込みしながらでいいので、話しませんか」
思わず、なんとも言えない顔でアルフを見てしまった。
「ほんと、変な人ですね」
「いえいえ。こんな所で張り込みをしている5歳児ほどではありませんよ」
・・・更に何とも言えない気持ちにさせられた。
「新しい遊び・・・ってことはなさそうですが?」
「そうだね。・・・アルフに協力してもらうか」
「は?」
「うん。悪くない。アルフに協力してもらいましょう。
是非とも協力してください」
「えっと・・・何をですか?」
「ミレイをちょっとかっさらおうと思っていまして」
「は?」
「ちょっとウチまで強制連行しようと思っていまして」
「はぁ」
「ちょっと呼び出してきてくれませんか」
「いやいやいや。オカシイですよね。色々と。
そりゃぁ、もう・・・色々と」
「いいじゃないですか。
アルフ!ウィル!で呼び合う仲じゃないですか」
「いやいや。呼び合うだけの仲ですよね」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか。
ここで貸しを作っておけば・・・程度に考えてくださいよ」
「そんな気軽な貸しじゃないですよね?」
「ちょっと、うまいこと言って、ウチまで連れてきてくださいよ。
あとはこっちでうまくやりますから」
「ウチまでって・・・結構距離ありますよね?
あとはって・・・ほとんど終わってますよね?」
「年上なのに小さいことを気にする人ですね」
「はぁ・・・まぁ、ウィルの家まで連れて行くくらいならいいですけどね」
「え?ほんとに!?」
「・・・なんですか。その反応は」
「いえいえ。大助かりです」
「既に嫌われているので、ちょっとくらい強引にしても上乗せされるだけなので、気にしませんが・・・」
「ちゃんとフォローしておきますよ」
「別にいいですよ」
まさか、ほんとうにやってくれるとは思わなかった。
ちょっとくらい強引ってのが引っかかるが、気にしてたら話が進みそうにないしな。
「ウチまでと言いましたが、さすがにそれもどうかと思いますので、そこの角まででいいですよ」
「そうですね。その方が助かります」
「とは言え、逃がしたくないので家まで付き合って頂けると助かります」
「まぁ、いいですけど・・・」
「じゃぁ、角で隠れてますので・・・僕の名前を出すと警戒されるかも知れませんので、うまく誤魔化してくださいよ」
「警戒って・・・何をしたんですか?」
「まぁまぁ・・・じゃ、お願いしますよ」
「・・・はいはい」
アルフが素直に孤児院の方へ・・・本当に行ってくれるとは・・・言ってみるモンだ。
うん。彼の中の人はいい人だな。
しばらく時間を潰していると、アルフがミレイを連れて戻ってきた。
さすがにうつむいてる。
いや。
昨日も、その前も、ミレイはうつむき加減だった気がする。
忌み人という枷が、前を向いて歩くということにも影響しているんだろうなぁ。
「こんにちは。ミレイ」
「・・・ぇ!?」
「これでお役ご免ですかね」
「いやいや、もうちょっと付き合って貰う約束でしたよね」
「はぁぁ・・・もう、結構疲れたんですが」
「貸しでいいですから、お願いしますよ」
「・・・あの・・・どういうこと?」
「ああ、僕がお願いしてミレイを連れてきて貰ったんです」
「・・・なぜ?」
「ちょっと連れて行きたいところがありまして。
おいやですか?」
「・・・ぅ・・・えっと・・・」
アルフを警戒してるね。
まぁ、それはしょうがないよね。
「大丈夫です。彼には何もさせません。
もし、彼がミレイをいじめるようなら、僕が全力で守ります。
だから安心してください」
「・・・ぅ、うん」
「じゃぁ、行きましょう」
うなずくやいなや、ミレイの手を取って歩き出した。
「アルフは、約束ど~り、付いてきてくださいね」
「約束ですからね」
「じゃぁ、ミレイ・・・ちょっと歩きますよ」
「・・・どこ、行くの?」
「本当は目隠ししたいくらい内緒です」
強引に手を引いて連れてきた。
うん。
実にワルモノです。
口では嫌と言いながら、あまり強い反応がないので、ついつい本当に連れてきてしまった。
「ウィルは、やっぱりいいとこのお坊ちゃんだったんですねぇ」
アルフがしみじみと言う。
「いいとこと言うほどですかね?」
「十分、いいとこだと思いますよ」
「なるほど」
「世間知らずのお坊ちゃまですね」
「・・・なんか含みがありますね。
まぁ、いいです。アルフ、ありがとうございました」
「本当にこれでお役ご免なんですね」
「ウチにあがって、お茶でも飲んで行かれますか?」
「やめておきましょう」
「そうですか・・・さぁ、ミレイ、到着です。家に入りますよ」
「ぇ?」
「じゃぁ、ウィル・・・私はこれで失礼しますよ」
「ええ、本当にありがとうございました」
「今日のことは貸しにしておきますからね」
「お安くしておいてください」
「たっぷりと取り立てますよ」
「お手柔らかに」
「ははは、じゃ、また今度」
「ええ。また今度」
「ぁぅ・・・じ、じゃぁ・・・また今度」
「ミレイはまだダメですよ」
「ぁぅ・・・」
「さぁ、家にはいりましょう」
前庭を抜けて玄関へ。
そして玄関ホール。
「ただいま。母様、ミレイを連れてきました」
「あらあら。いらっしゃい」
ミレイはおっかなびっくりで、僕の背中に隠れる。
なんとも・・・小動物ちっくで和む。
「まあまあ、可愛らしい。・・・美人さんね」
ふむ。
そうだよな。
将来は美人になりそうだ。
黒髪も綺麗だし。
「じゃぁ、まずはお風呂に入りましょう」
「は?母様、お風呂ですか?」
「ええ、そうよ。
可愛い子ですからね。
綺麗に磨き上げないと。
そうそう。ウィルはダメよ」
「も、もちろんですよ。何を言ってるんですか」
「ぁぅ・・・」
ミレイが拉致されていった。
ドナドナが聞こえてきそうだな。
ぽつ~んと1人残されてしまった。
えっと・・・・・・リビングで待つかな。
次回「来客の日のリリーレルマ(母親)」
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