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色彩館  作者: こをり
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ゴ色

目を瞑り、鞄をぎゅっと握って殴られるのを覚悟する。

が、突然この場に似つかわしくない陽気なメロディが流れた。


「おい、マナーにしとけよ。テンション落ちるじゃねぇか」

「わりーわりー。・・・あー真由からだ」


彼女の名前だろうか?ケータイに釘付けになっている3人に、これは神様がくれたチャンスじゃないのか?と逃げる意志が沸く。

目の前にいる金髪の男も拳を下げ、私を見ていない。

自由が利く足を、力の限り思いっきり股間めがけて蹴り上げる。


「――――っ!?ったぁー!」


よほどの衝撃だったのか前ぶりなしに手を離され、男は両手で股間を守るように覆い隠す。

残りの2人は唖然としているのか動かない。

恐怖から解放されたが、力の入らない足は体重を支えられなかった。

けどこれを逃したらもう神様は振り向いてくれないだろう。そのまま重力に逆らわず、腰を落としクラウチングスタートの要領で走り抜ける。

我ながらスタートは上手くいき、そのまま全力疾走で逃げる。

男たちはなにが起こったのか理解し、金髪の男は汚い罵声を吐きブチ切れながら追いかけてきた。


「このクソアマァァア!!」


もはや何を叫んでいるのか分からない。相当頭にきているのだろう。

怒声が続きバタバタと足音が追ってくる。家に帰ればよかったのか、でもそんな思考は頭になく行ったこともない道を曲がる。


『はぁ・・・はぁ・・・・も、や・・・ぁ』


足が震え、前へ出すだけなのにもつれて転びそう。

とにかく男たちから逃げたかった。後ろを見ることすら出来ずがむしゃらに走った。

まったく知らない裏路地のような場所を走ったからか、抜け出たところはネオンの光が眩しい繁華街。


『電気、だ』


月明かりを消すほど強いネオン、車の音、雑音にしか聞こえない人の足音、ビルや夜の店の数々。

閑静な住宅地の隣にあるこの繁華街は、普段近寄らないから別世界のように思える。

けれどこの耳につくざわつきに、さっきはたちの悪い夢だったのではないかという気がした。

ほっとしたのもつかの間。後ろの方で男たちの声が聞こえた気がする。

こんなにも人がいるのだ。

もしかしたら別の人かもしれない。


「~~~ぁ!~~~~ぉぅ!!」

『ヒッ!』


男の大事な所を蹴ったのだ。もし捕まったら殴られるどころではないだろう。

そう思うと体が勝手に動き、疲れきった足に鞭をうつ。

涙腺が緩み、必死に逃げる。暴力、暴行、そしてもっと酷い事。背筋にゾっと悪寒が走る。【酷い事】はたやすく想像できた。

その時なぜか、走馬灯のように流れたのは家であったことそして塾であったこと。今考えた所でどうしようもないのに、なぜか流れ出し恐怖心が倍増した。


行き着いた答えは、【私の居場所が無くなった】と。


きっとそんな答えではないのだろう。居場所なんて関係ないじゃないか。

けれど男たちから逃げ、パニックになっているせいかその答えに動揺し涙が止まらない。

私は何から逃げている?

そしてまた、自問自答の始まり。

頭と体がべつべつになったかのようだ。それでも人を縫って走っていると、横にある店から出てきた人にぶつかってしまった。


「っと、おい大丈夫か」

「ん?どうかしましたか」

『あ・・・・・す、すいま、せん』

「いや、それよりも」

『すいません!!』


スーツを着た男の人二人。きちんと言わなければならないが足を止める事が怖く、叫ぶように謝った。

なにが?なぜ?どうして?

涙腺が壊れたように止まらず、歯がカチカチと小刻みに震えた。

そのまま帰る道もわからず、信号を無視して交差点を横断する。

ふと、前を見ると昔見たことのある看板をがあった。


『このまま真直ぐ行けば…』


帰り道にたどり着く。

安堵感が胸に広がる。知っている看板のおかげか、思考が一時中断されこの恐怖から解放される。と動かし続けていた足が笑いだし限界だと言うことを脳に伝えた。

急に酸素が身体中に行き渡り、呼吸が苦しくなる。

ふらつく足取りで看板に向かい、息を整えた。このとき気を抜くのが悪かったのか。けれどそのまま走り続けるなんて出来るはずもなかった。

視界の端に写りこむ、汚い金色の髪。


「みぃーつけたぁ」


今まで聞こえてなかった声が耳元で響く。例えるなら、野獣が獲物を卑しく狩ろうとする唸り声。

その声と共に肩を握りつぶさんばかりにつかまれた。

振り向き姿を確認する前にバチンッ!と、頬に衝撃が走った。


「手間かけさせてんじゃねぇぞ!」

「あー、つっかれたぁ。でもまー、ここまで焦らすんだから期待しねぇほうがおかしいって」

「殴ってスッキリしようと思ったけど・・・もっと別の事のほうがいいみてぇだし」

「あの時大人しく殴られとけばよかったねー」


3人いたはずが、一人いなくなっていた。それでも2人いるのだ。現状が大きく変わるはずも無い。

熱を持ち、痛む頬。そんなことが気にならないくらい今の言葉が引っかかった。

「わー!!本当にあったんだー・・・ありがとー!期待してたぶんチョー嬉しい!」

「本当ありがと!フョロー期待してるね!」

「俺は、ちょっとだけ・・・・・・期待したい」

「そうか、お前には期待してるからな。分かってるだろうが、創太のようにだけはなるなよ」

「うん、うん!期待してるね!」

「・・・ごめん。明日聞かせて、返事期待してるから。・・・・泣かせて、ごめん」

頭にガンガン響く呪いのような言葉に、私は縛られる。止まっていた思考回路が急激に動き出す。

パンクしそうな脳内が怖くて思わず口から漏れていた。


『うるさいうるさい、うるさい!』

「ちょ、なんなのこいつ?うるさいって言いたいのはコッチなんだよっ!」


思い切り突き飛ばされ、ゆっくりと重力に従い体が歪む。

倒れる最中、いつのまにやら私達の周りにたくさんのギャラリーが囲んでいることに気づいた。

好奇の目にさらされているんだ。助けてなんかもくれないんだろうな。

自分の弱さと、恥ずかしさで視界が揺れる。

地面に頭から叩きつけられ、意識が暗闇の中に取り込まれるその瞬間。


誰かが、私に手をさし伸ばしてくれた気がした。


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