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色彩館  作者: こをり
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ヨン色

「じゃぁ今日はココまで。アキラ」

『はい?』

「このプリント先生の机まで持ってきてくれないか」


私は塾の学級委員になった覚えはありませんけど。なんて言えるはずもなく『分かりました』と言い、何十枚もあるプリントを抱っこする。

皆の帰り支度を目尻に、特別手当が欲しいや。と思いつつこれで帰りに二人に会わなくてすむ。

心の隅で言い放った言葉に酷く自己嫌悪した。なんて最悪な自分。

先生達の部屋につきドアを開あけるとタバコの匂いがした。プリントを机に乗せ後は帰るだけ。でもあの家に帰りたくなくて、業務用の机をじっと観察する。

すると先生が私に気づき、傍に来た。


「お、サンキュ。女の子に持たせるのは悪いと思ったんだが、なんだかお前今日変だったから」

『変?』

「ただの塾講師がなに言ってんだ、って感じかも知んないけどな。悩みがあるなら聞くぞ」


全部話してしまおうか。家族の事、将矢の事、渚の事。

話しを聞いてもらうだけでも気が楽になるかもしれない。考える事が少し減るかもしれない。

優しい瞳に頼ろうと肺に息を入れたその時、部屋のドアが開く音がした。

顔を向けるとそこに将矢が立っていた。


「せんせー、もう11時っすよ。女の子部屋に呼んで何してるんですか」

「バーカ。プリントの礼してただけだよ。なぁアキラ?」


先生の助け舟に感謝し頷くと、ポケットから飴を出して私にくれた。

帰らなきゃいけない空気になってしまい、飴の礼を言って部屋から失礼する。

隣にいる将矢は何も言わず黙々と歩き続け、私は3歩後ろをついて歩く。

最後まで、自問自答の繰り返し。本当は答えなんて無いんじゃないの?ううん。それこそ無い。

塾から出て、夜道を帰る。蛾が飛びかう電灯はいくつか故障しほとんど意味が無い。だけど満月の光のおかげで回りの道はわずかに見える。

二人して黙りこんだまま進み、私と将矢の分かれ道になった。


「・・・・じゃあな」

『・・・・・・うん』


また明日。なんて言葉が出ず帰路へと一歩進む。

すると行きのときと同じように、後ろから腕をつかまれ振り向かされた。

もう、嫌だ。


「返事、聞かせて。俺じゃダメ?ずっと一緒だった。アキラの事一番よく分かってるつもりだ。それとも・・・ほかに好きな奴でもいるのかよ!」


怒りの感情を押し付けられ、体が震える。初めて将矢が怖いと思った。

切羽詰ったような表情、握られた腕が痛い。

何も答えられないでいると、将矢は腕を放し「ごめん」と謝った。

違うの、謝らなきゃいけないのは私のほう。言いたいのに口が震えるばかりで音になってくれない。

また沈黙になっていると、将矢が喋り始めた。


「塾終わってから、渚に告白された」

『・・・・・・・な、ぎさ?』

「でも俺、アキラが好きだって言ったから。渚には悪いって思ってる、けど嘘をつきたくない」


やっぱり、そうだったんだ。

あの時相談なんてしなきゃ良かった。別の話にすり替えて笑っとけば良かったんだ。

後悔だけが頭をよぎり、視界がぼやける。泣きそう、と思った瞬間なぜか将矢に抱きしめられた。


『い、や。・・・は、なし・・・て。おねがい・・・だか、ら』

「アキラが好きだ。3人の関係が崩れたって、俺は!」


それ以上先は言わないで!

ドンッ、と将矢を突き飛ばし泣き顔を見られないよう手で覆い隠す。何も言えない、言いたいのに出てくるのは嗚咽だけ。

将矢に抱きしめられたとき、渚の冷たい視線を思い出した。ドキドキなんてせず、サァと血の気が引く感覚しかなかった。


「・・・ごめん。明日聞かせて、返事期待してるから。・・・・泣かせて、ごめん」


俺、本気だから。最後の言葉は将矢が言ったのか、目が物語っていたのか。

こんなときでも、期待という言葉にイラつく私は馬鹿だ。


足音が遠くなり完全に聞こえなくなった後、ふらつく足を叱責して家を目指す。

まだ遠い道のりに嫌気を感じながら、涙を拭う。明日目が腫れちゃうだろうな。

なんとか無になり、歩いているとどうにか落ち着いてきた。


『お兄ちゃんに会いたいなぁ』


小さな独り言はだれにも聞かれることはない。

気分転換に鼻歌でもしようかな。どうせ周りはもう寝てるだろうし。

ちょっと昔に流行った曲を選曲し、歌いながら角を曲がるとドンッと、誰かとぶつかった。


「わっ!」

『え、きゃっ!』


ぶつかった時カシャン、と音がしなにかが壊れていた。

よく見るとそれは最新型のゲーム機で画面にひびが入り、機体に傷が入っていた。

謝ろうと急いで前を確認すると、中学生くらいの派手な金髪頭な男子が私を睨んでいた。

慌てて謝ったが、ゲーム機を壊したせいか睨んでくる。

少し後から友達であろう男子2人が角から姿を現し、なにやらブツブツ文句を言いながら喋っている。


『ご、ごめんなさい。ちゃんと前を見ていなくて』

「はぁ?あんたのそのデケー目はお飾りですかぁ?」


今日は厄日だ。もっと気をつけて歩いていればこんな人たちに絡まれなくてすんだのに。

あいにく護身術を習っているわけもなく、私は上手に隙を見て逃げなくちゃならない。

走っても追いつかれるだろうな。それとも大声を出して助けてもらうとか。

もんもん考えていると、その態度によけい苛立ったのか舌打ちが聞こえた。


「俺さーめっちゃムカついてるんだわ。これめったに手に入らないものなのよ。なのに何その態度。なめてんの?」

『本当にごめんなさい。そんなつもりじゃ』


本格的にヤバイ。後ずさりしようにも後ろに残りの2人がじりじりと寄ってくる。

3人に囲まれ、どうして今日に限ってケータイを忘れたのだと数時間前の自分を責める。

そんなことを考えているうちに、逃げ場がなくなる。


「ハイハイ。もういいよ。一発殴らせてくれれば気がすむ、かも」

「あちゃーこれは直んないね。お姉さんどーすんの?結構高いよ?」

「運悪かったね。俺ら虫の居所悪くてさ、ストレス発散したいの」


金髪の隣にいる男は、チャラチャラとぶつかり合うピアスに触れながら言葉を発す。もう一人は二ヘラと薄気味悪く笑いながら金髪の体内事情を教えてくれた。

いくら年下の男といえど、相手は3人。ガタイのよさからして喧嘩慣れしているのだろう。

逃げ場を目で探すが、視界に3人が入り込み恐怖を煽られるだけだった。


『こないで、』

「あれぇ~?さっきまでの余裕はどこにいったのかな」

「大丈夫大丈夫。死にはしないって」


軽い口調が逆に怖い。

たかがゲーム機、されどゲーム機と言ったところか。ぶつかり、壊さなければこの男たちの感情の引き金を引かずにすんだのに。


『弁償します、だから!』

「もう遅いっつの」


腕を振り上げ、拳を作るのが見える。

歯を食いしばり痛みに耐える準備すらさせてくれないのか。


私は思いっきり目を瞑ることしか出来なかった。


だいぶ編集しました。

よけい変になりそうな・・・。

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