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色彩館  作者: こをり
20/37

ジュウク色

緋色さんはゆっくりと、時々お酒をちょっと飲みながら話してくれた

しだれ桜に話しているのか?と思ったけど、相づちをうっても嫌な顔もされたかった。


「俺の一番古い記憶が10歳くらいだと思う・・・

回りは火の海でただ熱いとしかわからなかった。

怖くて痛くて熱くて早く逃げ出したくて無我夢中で走ったんだ・・・」


話し方はひどくゆっくりで感情を出さないように見えた。

私は一言も相づちさえ喋れなかった。


「そこからまたわからない。

気づいたら施設にいて中学生になっていた

知らない間にいくつも記憶がなくなっていたんだ・・・

何が原因かもわからない

高1の記憶はすっぽり無くなっていた」


そして緋色さんは黙り込んだ。手で顔を覆い隠して

少しして本当に本当に小さな声で


「怖いんだ・・・記憶がいつ無くなるか」


その姿は記憶だけじゃなく緋色さんまで消されそうに見えた

私は怖くなって頭でなにも考えてないのに口が勝手に動いていた


『私が覚えます』


何を?緋色さんの疑問が来ないうちに私はマシンガントークで喋った


『私この一週間でいろんな緋色さんを見ました。

実は甘いものが好きだとかご飯に椎茸が出たら最後にお茶と一緒に流し込んだり嫌だなって思ったら眉間にシワを寄せて拒否したり朝は結構苦手だったりちょっと涙もろかったり白藍さんにはなんだかんだで逆らえなかったり』


思い付くまで喋り続けた。

言葉はぐちゃぐちゃでたぶん同じことを何度も繰り返したかもしれない


『緋色さんの事たくさん知りました、たった一週間でたくさん・・・

でもまだほんの一部で知らない緋色さんの方が多いけど・・・・覚えます、得意なんですよ?

まだまだ頭に入りますだから、だ、から』


緋色さんの目だけを見て喋った。

こんなに長いこと目を合わせるなんて初めてかもしれない

でももう無理だ。

涙が邪魔して緋色さんが見えない嗚咽のせいで上手く声が出ない。

今の私は不細工だ


『・・・覚えます緋色さんが忘れたら1日かけて話します。

嫌でも喋り続けます・・・か、覚悟しといてください1日ずっとですよ?』

「それは、勘弁してほしいな」


目が赤かったけど久しぶりに喋った緋色さんは少し笑っていた


「・・・どうせなくなる記憶だから誰とも仲良くならない方がいいと思っていた

でもお前が俺にぶつかった時の表情が、火から逃げる俺と被ったんだ

だから助けた。

それから、後悔して距離をおかなきゃって」

『もう、いいんです。距離なんて測らないで』


お互い目が溺れるほど涙を溜め込んむ

しだれ桜が優しく枝を揺らし花弁を私たちの足元まで運んでくれた。


「アキラ」

『は、い・・・』

「酌をお願いできるか?」


初めて呼ばれた名前に反応が遅れた

それくらい驚きうれしかったから。

慣れない手つきでお酒を注ぎ緋色さんはきれいな動作で口まで運んだ


「高校を出て白藍にスカウトされてこの屋敷に住むようになったんだ

それからは記憶が無くなったりはしていない

なにが、原因なんだろうか・・・」

『それも私達で探しましょう』

「・・・そうだな」


緋色さんが笑って私もつられて笑った

目元が真っ赤で明日二日酔いになりそうですね、と話しながら解散した

緋色さんはちょっと千鳥足だけど大丈夫かな?

私は少し今日の事を振り返る


『がんばろう!』


独り言のはずなのにしだれ桜がざぁ・・・っと風に答えてくれた

今まではがんばること、期待される事がきっと嫌だった。でもそれに気づかないフリをして逃げてたんだ。

ここにきて一週間。


なにか言葉に出来ない何かを手に入れれる気がする。


少し近づけました!

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