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色彩館  作者: こをり
13/37

ジュウニ色

家事、させてください。

そう言って私の数少ない長所を発揮させてもらう事になった。

お世話になりっぱなしはダメだと思っていたが、大半はこの人達の食生活に恐怖したからだった。

なにを主にすればいいのかと聞くと、白藍さんは少し悩んでから全部です、と言い切った。


「ココ半年はインスタントばかりでしたし、仕事で外食も多かったんですよ。掃除はやる気次第、洗濯はたまったら一気に洗濯機へ、お風呂洗うのめんどくさいのでちょっと行ったところにある銭湯にお邪魔してます。後はー・・・」

『分かりました、本当に全部ですね』

「男ばかりで暮らしていると、こうなっちゃうんですよ」


そう言うものなのだろうか?

確かに、昔はお兄ちゃんと祐真の部屋の掃除を手伝わされた記憶がある。

古い思い出を懐かしんでいると、白藍さんが空っぽの冷蔵庫を覗き込みながら問うてきた。


「家事をすることは、逃げることに反しないのですか?」

『・・・・私家事好きなんです。やってる事は家族のためでしたけど、邪魔されない自分だけの時間でしたから。特に料理は、おいしいって喜んでくれる事が嬉しくて』

「それは嬉しいですね。和洋中なにが得意なんですか?」

『弟がまだ中2なので洋食と中華を作ることが多かったです。和食は味付けが難しいのでちゃんと成功したことないんです』


煮込みすぎて辛くなっちゃったり、砂糖を入れすぎて甘くなっちゃったり。

そのことを苦笑しながら伝えると、一緒になって笑ってくれた。

ゆるゆるとした時間を心地よく思っていると、外で鶏の鳴き声が耳に入った。本当にコケコッコーって鳴くんだ、と無駄に感動してしまう。


「もう朝ごはんの時間ですねぇ」

『なにか作りましょうか?・・・・材料がありましたら』

「えーと今って旬の野菜なんでしたっけ?」

『今は・・・・だいこん、レタス、人参、キャベツ、春菊も旬野菜ですね』


まだまだたくさんあるのだろうケド、自分が知っている範囲はコレくらいだ。

買いに行くのだろうか。

そう思いながら白藍さんを見ていると、じゃぁ行きましょうか、と言って台所から出て、縁側に常備していた下駄を履きトコトコと外へ行ってしまった。

玄関から出ないんですか?なんて言う暇もなかったので、何も考えず慌てて着いていこうと、私も縁側へ行きもう1つある下駄を履く。


『あの、お財布は?それに白藍さんその格好で行くんですか?わ、私もですけど』


話し込んでしまったせいで二人とも寝起きの格好、白い浴衣を着ているだけだった。鏡を見ていないから、もしかしたら髪だってぼさぼさかもしれない。

カラコロン、となる下駄を必死に動かしようやく追いついた。

走ったのは私なのに、なぜか白藍さんのほうが汗だくだった。気温だってそんなに高くないだろうし、季節もまだ春だというのに。


『大丈夫ですか?』

「言い訳をしていいなら、運動不足です。決して歳のせいなんかじゃありません」

『け、結構歩きましたから』


と言っても数十メートルしか歩いていない。このことは黙っておこうかな。それからもう数メートル歩けば目的の場所に着いたらしく、辺りを見回すとそこは畑だった。

けっして大きくはないけど綺麗に整えられている。


「常連が泊まるついでにちょくちょく弄って行くんですよ。おかげでこんなに立派な家庭菜園に」

『家庭のレベルじゃないですよ・・・。あれ何の木ですか?こっちはシソ?あ、大根ですよねこれ?』

「すいません、何一つ答えられないです。じゃぁこれは?」

『人参、だと。あ、勝手に入っちゃいましたけど、怒られませんか?』

「それは平気です。これ作るときに私にも出来た野菜を分けるようにと言ってますから」


白藍さんが遠慮なしに大根の葉を引っ張ると、曲がってはいるものの立派な大根が顔を見せた。

それに習い、私も人参の葉を引き抜く。こちらも形は変だが、太さも大きさも申し分ない。

何を作ろうかと相談すると以外に調理器具や調味料は一様あるらしい。油でギトギトなのは洗えば使えるだろう。それだけで時間が掛かるから、手の込んだものは作れないだろうな。


『大根と人参のサラダとお味噌汁。お米はありますか?』

「米・・・無いんで買ってきます。これから毎日食べれると思えばそれくらいの労働しちゃいますよ。ほかに必要なものありますか?」

『じゃぁ、卵と豚肉お願いしていいですか?』

「わかりました。でも卵は買わなくてもありますよ」


そう言われ、片手に大根を持ったまま家庭菜園の奥へ行くと可愛らしい鶏小屋があった。さっきの鳴き声は、この子達からだったんだ。小学校以来に見た鶏に少し興奮する。

青と白で塗装された小屋。その周辺で地面を突っついている五匹。

蹴ってしまわないよう気をつけながら、しゃがんで小屋の中を覗き込むと、白くて丸いものが隅にあった。白藍さんに許可を貰ってから躊躇無く小屋に入り、割らないようそっとそれを持ち出す。


『暖かい、です』

「1号たちに感謝しなければいけませんね」

『1号?』

「この子達の名前ですよ。1号2号3号、あれが4号で最後のこの一番小さな子が5号です」


長く綺麗な指で指された鶏を順々に見ていく。皆似ているが少しだけ毛色や顔つきが違う。

手を合わせてありがとうございます、と言うとコッココ、と返してくれた。それが面白く思わず笑ってしまい卵を割ってしまうところだった。

つるりと光る卵は3つある。無難に今日は玉子焼きにしよう。


『玉子焼き大丈夫ですか?』

「玉子焼きですか?いいですねー。何年食べてないんでしょうか・・・・あ!甘いのが食べたいです!」


お砂糖を入れるなら焦げないように気をつけなきゃ。

帰りしなにもう一度畑に寄り、たまねぎも拝借する。もっと採ってもいいと言ってくれたが常連さんに悪い気がして1つだけにしておく。


『優しい太陽、暖かい土、自然の雨、そしてこの野菜たちにも感謝ですね』

「そうですね。今まで放っておいてごめんなさい」

『お世話をしていた常連さんいつ来るですか?』

「さぁ?皆マイペースな方々ですから。私も含め」


マイペース。自分の歩調で。

何の変哲もない言葉だけど、それをさらっと言えた白藍さんが少し羨ましかった。

私のペースで。

今の目標はコレに決まりだなあ。そう決めると、なんだかやる気が出た。


「水遣りしなくてもここまで育ちましたし。あの子も帰ってくる気配もしませんし。いっそのこと収穫できる野菜採っちゃいたいですね」

『冷蔵庫に入りきらなくて腐らせちゃいますよ』

「んーそれはもったいない」


ココ最近晴れ続きだったからか、心なしか葉がしおれているような。

私がお世話したら常連さんは気を悪くしちゃうかな?自分のテリトリーに勝手に入り込まれる不快感は誰しも知っているだろう。

それでも、野菜や鶏達ともっと触れたいと思うことはやめておいた方がいいのだろうか。

悩みながらたまねぎを握っていると、白藍さんが持ちますと言いながら私の方を見た。


「このままじゃココを駄目にしちゃうでしょう。まだまだ雨も降りそうにありませんし、もしよければ水遣りをお願いしたいのですが」

『白藍さんは人の心を読めるんですか?』


本当にビックリした。今まさに聞こうとしていたことを、先に言ってしまうのだから。

口をあんぐりしていると、笑いながら首を横に振られてしまった。


「まさか。心を読めたことなんて一度もありませんよ。ただ察するのが得意、と言っておきましょう」

『すごい』

「歳を食えば自然とそうなります。で、お願いのことなんですが」

『あ、ぜひ!私でよければやらせてください』

「それはよかった。アキラさんのやり方で、ココを元気にしてあげてください」

『常連さん、嫌な気しないでしょうか?』

「あの子が帰ってきたときココが枯れていたらきっと悲しいです。それに栽培仲間が出来て逆に喜んじゃいますよ」


常連さんはきっと素敵な人なんだろうな。そう思わせるほど白藍さんの言い方は優しかった。

屋敷に帰り、白藍さんに家の中を教えてもらいながら日本家屋のマメ知識なども披露してくれた。

それが面白く、それが心を軽くする。


無意識に、そう感じた。


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