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色彩館  作者: こをり
10/37

キュウ色

それでは視点がアキラちゃんに戻ります。

本当にめんどくさい小説で申し訳ありません。

トン、トントン、ポロン。

トン、トントン、ポロン、ポロン。

これは夢だ。それがはっきりと感じる事が出来る。

形容しがたい感覚の中でたゆたう体は心地よく、ずっとここに居たいような気持ちになる。

トン、トントン、ポロン。

トン、トントン、ポロン、ポロン。

音のような、声のような。聞いたことのない民謡の歌のような物が耳に入ってくる。

それがだんだんと近くなり、ようやく聞き取れる。

トン、トントン、ポロン。

ああ、これは声だ。歌っている音のような声だ。

意識が浮上する。浮上、と言っても重力がまとわり着いてくるようだから逆に沈められているよう。

ここから出たくない。けれどこの声を確かめたい。矛盾が生じているなんてそれこそ矛盾だ。

頭がきちんと働かない私は、無意識に後者をとっていた。


◆◇◆◇


チュンチュン、雀か燕か。よく分からないが鳥の鳴き声がする。

明るい室内と独特の静寂から今が朝なのだと言う事が見て取れる。

ついさっきまで閉じていた目に光がまぶしく、少ししてからゆっくりと開く。第一に視界に入ったのがシミが浮いている板目の天井だった。

家はこんな天井じゃなかったはず。それを肯定するのにかなり時間がかかった。

腕に力を込めながら上半身を起こすと完璧に自分の家ではないことが判明できた。

不信感を抱きながら、カラカラに渇いた喉に酸素を取り込む。痛みが走ったがそれでも声を出さなければ、家だけでなく自分も違うものになっているような気がした。


『ここ、どこだろう』


かすれた声だが、17年間聞き続けた声だったことにホッとする。

せっかく起きれたのだ。少しでも何か分からないかとぐるりと辺りを見回す。

6畳ほどの和室、木製の机、糸のほつれた座布団、縦長の箪笥、朝日が差し込む障子。

首を下に向け自分の体を見ると、制服ではなく白い浴衣のような物を着ていた。

枕元を見ても服も鞄もない。不思議な事ばかりで少しずつ恐怖が積もりもう一度腕に力を込め立ち上がろうとしたとき、パタパタと足音が響いてきた。

知らずに体が強張る。警戒しながら障子を見ていると影が二つ、日の光のおかげでくっきりと映った。

水分を欲する喉を使おうとする前に、低い声にさえぎられた。


「おはようございます。目が覚めたと聞いたのですが」

『・・・・はい』

「失礼していいですか?」


あまりに丁重な問にあっけを取られ、声を出す前に小さく頷いてしまったが向こうからは見えないのだと思い慌てて返事を返した。脅しや脅迫がくると思ったのに。

すっ、と障子がすべり、さっきよりも強い光が部屋を明るくする。

目を細め影を確認すると、男の人が2人。どちらも着物を羽織り様になっている。

きっと普段から着ているのだろう。違和感なく部屋に腰を下ろし、私と向き合う形になった。

障子ごしに喋った人であろう男の人は髪が長く、笑みを作るように閉じられた瞳、中世的な顔立ちだが声からして男性だろう。白と青が交じり合っている着物が良く似合っている。

その男の人の横に座っている人は、衿に掛かるほどの長さの髪、少し鋭い目、右耳に1つだけピアスが開いていて、口元に絆創膏を張っている。濃い紅色の着物は目に痛くない深い色合いで綺麗だ。

ボーっと二人を見ていると、髪の長い男の人が口を開いた。


「はじめまして。突然の事で驚いているかもしれませんが、まずは自己紹介を。私の名前は白藍<シラアイ>と言います。こっちは緋色<ヒイロ>。変わった名前でしょう?」

『・・・・はじめまして。アキラと、言います』

「ではアキラさん、ここに来る前の事は覚えていますか?」


ここに来る前?いまだ稼動しない頭を使い、じょじょにぼんやりと事を思い出した。

そうだ。家で父さんたちと喧嘩して、塾で将矢に告白されて、帰りに男の人のゲーム機壊しちゃって追いかけられたんだ。

全て思い出したときにズキンと頭に痛みが走った。

痛んだ場所を触れると小さな傷が出来ている。たぶん男の人に突き飛ばされた時に出来たものだろう。

酷くもないようなので気にせず今度はこちらが口を開く。


『覚えています。あの、助けてくださった、んですよね』

「助けたのは緋色です。私は運んだだけですよ」

『じゃぁ緋色さんの怪我は』

「あれは自業自得ですのでお気になさらず」


それでも二人ともまったく知らない私を助けてくれたのだ。深々と頭を下げ礼を言うと白藍さんは笑みを深くする。

緋色さんが「別に」と返してくれ、白藍さんがクスクス笑った。

その空気が心地よかった。出会って間もない面々だと言うのに。

二人の会話を聞いていると、本題に入ろうと白藍さんの笑みを象っていた目は解かれ、さっきよりも真剣な声になった。


「当たり前の事かもしれませんが、アキラさん。家に帰りたいですか?」

『・・・・ぁ、え、っと』

「もし今すぐにでも帰りたいなら車を出す」


緋色さんの声は低くてよく通るなぁ、と場違いな事を考える。

そんな頭とは裏腹に、上手く返答が出来ない。はい、と答えを出そうとするとまた頭に鈍い痛み。

けど帰らなければ、この人たちにも迷惑がかかってしまう。それは嫌だ。

声が出ない代わりに俯き頷くと、なぜか涙が溜まった。

なんでだろう?泣いたらこの人が困るだけじゃないか。それになにも解決しない。

俯いたまま涙をこらえていると、頭の上にふわりと手が乗った。

視界の端に入る紅色の着物に、緋色さんの手だと分かり余計に視界が潤む。

小学生くらいの時に、お兄ちゃんに頭を撫でてもらったことを思い出した。その過程は出てこないが、懐かしく嬉しかった。

するとまたクスクスと笑い声が聞こえた。

白藍さんのそれはさっきのからかう様なものでなく暖かい声色だった。


「まだ会ったばかりでアキラさんの家庭事情や友好関係、性格も好き嫌いもなにも分かりません。でも今1つ知りました」


白藍さんが言い終わり私がゆっくり顔を上げると、傍にいた緋色さんが優しい手つきで落ち着かせるように私の頭をさする。

それが心地よくて涙がポロリと落ちた。でもそれだけ零れただけで残りは何とか踏みとどまる。

視線を合わせば、緋色さんの目の中に私がいた。形の良い唇が、白藍さんの言葉の続きを代わりに言う。


「逃げると言う選択肢を持っていない」


逃げる?逃げる事はいけない事なんじゃないの?自分で解決しなきゃ、だって私は学級委員だしお兄ちゃんの分までがんばらなきゃいけないの。祐真にだって頼りになるお姉ちゃんでいなきゃ。父さんと母さんのにだって失望されないように。将矢と渚とも仲直りして前みたいに3人一緒になろう。恋愛感情なんてわかんないよ。私と将矢が喋ってる時に渚がよく来たよね。私一人のときはこなかった。気のせい?私と友達になったのは将矢と距離を縮めるため?違う?違うのかな?思い過ごしかな?でも思い返せばそうとしか考えれないよ。

期待だってしないで。それ以上を押し付けないで。

バカな私には何一つ答えが見つからない、誰かヒントでもいいから教えてよ!


支離滅裂な言葉の羅列を、力の限り緋色さんにぶつけていた。

こんなこと二人には関係ないのに。すると頭に乗っていた手がすっと引いていくのが分かった。

呆れられた。こんな私、最低だ。


引っ込んでいた涙がまた溢れる。もう止め方なんて分からない。


な、長くてすいません。

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