03-02
目を覚ましたとき、辺りはまっ暗だった。
ガサリ、ガサリと草をかきわける音に気がついたわたしは、小型宇宙船からすべり降りて、音のする反対側にすばやく身を隠した。
少しずつ音が近づいてくる。
そっと顔を出してのぞいてみると、草かげのあいだに、きらりとふたつ、光るものが見えた。
「あれは獲物を狙う肉食獣の目だ。この星でわたしを襲う可能性のある生き物は……」
再び宇宙船のかげに身をひそめ、銀河的に有名な生物博士の頭脳をフル回転させた。
「ライオン、トラ、クマ、ええと、それから……」
「ネコです」
「いやいや、ネコは人を襲ったりしないよ」
そうこたえてはっとした。わたしは誰と話しているんだ?
「安心してください。わたしはネコです」
とっさに声のするほうに目を向けた。
いつのまにか小型宇宙船のてっぺんに、まっ黒なネコが座り、黄緑色に光る目で、ぴたりとこちらを見おろしている。
「こんばんは博士。お初にお目にかかります」
ネコはそう言いながら、うしろ足ですくっと立ち上がり、ていねいにおじぎをした。
「きみは地球のネコじゃないね? 地球のネコは言葉を話したり、二本足で立ったりしないはずだよ」
「さすがは銀河的に有名な生物博士。おっしゃる通り、わたしは純粋な地球のネコではございません」
ネコはくるりと背を向けて続けた。
「博士。あなたがここに不時着したときから、わたしはあなたをずっと観察していました。見極めたかったのです。話をしていい相手かどうか……」
わたしは話を聞きながらも、目の前にいる生物の正体を頭の中でけんめいに探っていた。
この銀河にはネコ科の生物がたくさんいるし、言葉を話すネコもいる。
しかし彼らは、長いしっぽが退化していたり、おなかに袋を持つ有袋類だったり、このネコとはだいぶ違う姿をしている。
銀河でも四本の指に入るほど有名な生物博士のわたしでも、こんなネコは見たことがなかった。
「わたしは捨てられたのです! この未開の惑星に!」
そう叫んでふり返ったネコの目には、あふれんばかりの涙が溜まっていた。
話を聞くとこうだ。
ネコは未開の星で宝を探すトレジャーハンターの一員だったが、仲間と宝の取り分で大喧嘩。この地球にひとり置き去りにされたというのだ。
「なるほどね。きみはつまり、この星に本来いるはずのない『外来生物』にあたるわけだ。銀河生物保護法において、その対応は二種類。
ひとつは、飛来した隕石などに付着していた生物が、その星に住みついて繁殖した場合。それは自然の出来事なので、そのまま放置される。
ふたつめは、ほかの星から誰かの手により生物が持ち込まれた場合。それは自然の出来事とは言えないので、発見しだい駆除する決まりになっている。
ちょうど今回のわたしの任務が、この星の外来生物の調査なのだよ……」
わたしはネコの顔を、ちろりと睨んだ。
「きみのケースは、ふたつめにあたる……」




