01-04
「……どこかに不時着したってわけか」
博士は外の景色を見ようと船内に張りめぐらされた、いくつものスクリーンを見回した。
しかしスクリーンほぼ真っ黒で、何も映っていない。
すると、プシュッという音とともに小型宇宙船の扉がゆっくりと開いた。不時着すると自動で開くようになっているらしい。
博士はおそるおそる、扉から顔を出してみた。むせるような草いきれが漂う、じっとりとした風が頬をなでる。
「地球の大気成分は調査済みなので心配ないが、異星人である自分の姿を地球人に見られるわけにはいかないな……」
そう思った博士は、船内にもどって地球人型の擬態スーツを着込んだ。
「これですっかり見た目は地球人に化けたはずだ。……では、行ってみるか」
『全宇宙生物図鑑』を小脇に抱え、覚悟を決めて小型宇宙船のタラップを降りる。
そこは、見渡す限りうっそうと草が茂る草原だった。
歩くたびに膝まで伸びた草が、足に絡みついてくる。
「むし暑いな。赤道近くのジャングルだろうか? 凶暴な肉食獣がいなければいいが……」
博士は一瞬ためらって、自分が降りてきた小型宇宙船を振り返った。
闇に包まれた草原に転がる、銀色の球体をした小型宇宙船ーー。
船体の下側面にある扉から、船内のまぶしい光が漏れ出し、わずかに周辺を照らしている。
「いざとなったら、あの扉から小型宇宙船の中に飛び込もう。頑丈な船体だ。どんな凶暴な肉食獣だって、歯が立ちやしないさ……」
気を取り直して、再び博士が闇に包まれた草原に目を向けた、そのとき。
プシュッ!
背後から聞こえた、覚えのある音。
周辺を照らしていた光が、潮が引くように消えていく。
ふり返ると、いつのまにか小型宇宙船の扉がぴたりと閉まっていた。
「……お、おい待て。わたしを置いて、勝手に扉を閉めるなよ!」
博士はあわてて小型宇宙船に駆け戻り、ばんばんと力まかせに船体を叩いた。
しかし、隙間さえ見えないほどにピタリと閉じられた扉は、もうどこにあったのかもわからない。
呆気に取られながらも、あったはずの扉をさがして、船体の下側面をなでまわす博士。
そのとき、とつぜん小型宇宙船がコマのように回転をはじめて、博士を弾き飛ばした。
スピードをぐんぐん上げて、激しく回転する小型宇宙船。その船体が、みるみるうちに地面にめり込んでいく。
機械にとんとうとい博士は何が起きているのかさっぱりわからず、ただ呆然とその光景を眺めるしかなかった。
ようやく回転が止まったとき、小型宇宙船の半分はすっかり地中に埋まり、下側面にあったはずの扉は、完全に地面の下だった。
博士は『全宇宙生物図鑑』だけを手に、未開の星に放り出されたのである。
……以上が一週間前のできごと。
博士とはわたしのことで、いま座っている銀色の半球状の物体が、その小型宇宙船である。




