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わたしの夢は冒険士!〜冒険者がエリート職の世界で〜  作者: 蒼空ふわり
すくすく魔力増量中

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9. 石板にわたしの名前


 錬金術士ギルドを出て、来た道を戻る。

 帰りは、神殿教室で使う道具を買いに、文具屋さんへ寄る予定だ。


「文具屋さんも、初めて行くから楽しみ」

「そうだったかな? ここからは、わりと近いんだよ」


 行きに通った道だけど、やっぱり帰りは違う道に見える。歩いている人の多さも違うし、今度は建物が左側にあるからね。

 お父さんが大通り側を歩いているから、わたしはまた建物のほうを見て歩く。大通りだからか、大きな建物が多くて、見上げないと上のほうは見えないけどね。


 そういえば、神殿教室で使う道具って何だろう。お父さんが聞いてたから、わたしは聞いていなかったんだけど、石板は買ってもらわなきゃ。忘れないように、今お父さんに言っておこうっと。


「あのね、ハルトが言ってたんだけどね。お家に石板があると、帰って来てからも勉強できていいみたい。家でも勉強したいんだけど、買ってもらってもいい?」

「もちろんだよ。レティは、そんなに勉強したいなんて偉いね」

「そうかな? 早く自分で絵本も読めるようになりたいし、自分の名前も書いてみたいもん」

「そっか。分からないときは、お父さんが教えてあげるからね」

「うん。ありがとう!」


 そうして少し歩いていると、2つ目の曲がり角のところで、左に曲がった。そこは少し細い通りで、アパートメントが並んでいて、洗濯物を干してあるベランダがいくつか見える。


 そこから少しして、お父さんが「あそこだよ」と指をさして、お店を教えてくれた。お店の前に着くと、可愛らしい看板が掛けてあった。インク壺と羽ペンが描かれた横には、文字が書いてある。お店の名前かな?


 お店の扉を開けると、カランカランと小さな鐘が鳴った。お父さんと二人で「こんにちは」と言いながら、お店に入る。


 お店の中には誰もいなかったけど、すぐに奥から人が出てきた。髪は白い毛が多くて、少し腰の曲がったおばあさんだ。なんだか、ちょっと気難しそうな顔をしてる。「いらっしゃい」それだけを言って、おばあさんはカウンターに座った。


 お父さんは慣れたように、棚に並んでいる文具を見ていく。まずは、石板。大きさは、わたしの両手を並べるより少し大きいくらい。これなら、自分でテーブルに持ってきて、いつでも使えそうだね。

 それから、石板用の白い石筆と石筆のカバー。石筆には専用のカバーがあるんだね。そっか、そのまま持つと、手が真っ白になりそうだもんね。


「神殿教室に持っていくものは、石筆だけなんだけどね。せっかくだから、ノートも買おうと思うんだ。どうだい?」

「いいの? そしたら、習ってきたことを書いたり、お父さんにお手本を書いてもらうこともできるよね」

「そうだね。だけど、ペンはどうしようかな。インクを付けるペンは使いにくいだろうけど、魔道具のペンはまだ早いし……」


 お父さんが考えていると、お店のおばあさんが、鉛筆を勧めてくれた。


「これはね、先端を削って使うんだけどね。わりと手も汚れにくいし持ちやすいから、お譲ちゃんが使うにはいいと思うよ。それに、芯も少し硬めで折れにくいしね」

「それは使いやすそうですね。おいくらですか?」

「2本で鉄貨3枚だよ。専用のナイフは鉄貨5枚だね」

「では、2本もらいます。あ、ナイフはなくても大丈夫です」

「うん? 代わりになりそうなものがあるのかい? 普通のナイフより細いよ」


 おばあさんは専用のナイフを出して、わたしたちに見せてくれた。


「えぇ。僕は錬金術士なので、自分で作ってみようと思って」

「そうかい。それなら、いらないね。ほかに何か買うかい?」

「今日はそちらと、これだけ買います」


 そう言って、石板、石筆を3本、それから石筆のカバーもカウンターに置く。お金のやり取りをしたら、買ったものは、すぐ収納かばん行きだ。


「さっき、ちらっと聞こえたけど、お譲ちゃんは神殿教室に通うのかい?」

「そうなの。来月から通うから、今から楽しみなんだー……あ、楽しみなんです」

「はははっ。別に丁寧に話さなくてもいいさ。ちょっとお待ちよ」


 返事をする間もなく、おばあさんは奥に入って行ったと思ったら、すぐに戻ってきた。


「これは、おまけだよ。ほい、手を出しな」


 そう言われて、とっさに手を出す。そうして、わたしの手に乗せてくれたのは、市場でよく見かける飴だった。


「わぁ、ありがとう!」

「ありがとうございます」

「いいんだよ。たくさん買ってくれたからさ」


 ちょっとぶっきらぼうに言ってるけど、おばあさんの口もとは少し上がってるんだよ。なんだか、わたしもニヤけちゃう。最初にお店に入ったときは、ちょっと気難しそうって思ったけど、全然違ったね。


 挨拶をして外に出ると、ちょうど6の鐘が鳴った。もう夕方だから、少し薄暗くなってきている中を、家に向かって歩く。

 途中で大通りを渡るときに、またお父さんに抱き上げられたけど、まぁ仕方ないよね。でも、早く自分で走って渡れるようになりたいなぁ。


「そういえば、バーバラさんに “あったか石” をあげるって言ってただろう? その分も持ってきてるから、バーバラさん家に寄ってみようか」

「うん! 今からなら、バーバラおばさんも帰ってそうだもんね」


 バーバラおばさんは、屋台街で日中にお店を出しているんだ。でも、夕方には帰って来てるから、たぶん大丈夫。それにハルトの家は、うちと近いからすぐに行けるんだよ。


 うちを通り過ぎて少しだけ歩いたら、ハルトの家が見えてきた。オレンジ色した屋根のお家だ。ハルトの家は、子どもが3人いるからか、うちよりちょっと大きいんだよね。


 ハルトの家に着いたら、お父さんが扉に付いている金属の輪っかを持ち上げて、コツンコツンと鳴らす。すると、中から「はいはい」という声が聞こえて、扉が開いた。


「おや、ウィルさんとレティじゃないか。こんにちは」

「こんにちは、バーバラさん。よかった、家にいらっしゃって」

「さっき帰って来たところなんだよ」

「そうだったんですね。帰って来たばかりのところに、すみません」

「いや、いいんだよ。それより、何か用事かい?」

「えぇ。実は、新しい魔道具をレティと作りましてね。これなんですけど――」


 お父さんは、あったか石を見せながら、どんな魔道具でどんな使い方をするのか、きちんと説明していく。わたしはというと、ハルトが出て来ないかなーと思って、扉の向こうを気にしていた。出てこないってことは、いないのかなぁ。


 そこに、ひょこっとハルトが顔を出した。やった!


「レティちゃん」

「ハルト! よかったー。ちょっと、こっち来て」


 お父さんたちは、神殿教室のこととか違うお話もしていたから、ちょっと離れてこそっと内緒話だ。


「魔法どう? 使えた?」

「ううん。実は、まだ試せてもいないんだー」

「まぁ、昨日の今日だもんね。実はね、呪文が分かったから、ハルトにも教えておこうと思って」

「じゅもん?」

「うん。なんかね、魔法を使うときは、この魔法を使いますって言葉が必要なんだって。うちのお父さんも、手から水を出したときに何か言ってたでしょ?」

「そういえば、何か言ってたね」

「それでね、お水を出すときは “ウォーター” っていう呪文を言うの。あと、ランプみたいな光を出すときは “ライト” だって。必要だから、覚えておいてね」

「ウォーターとライト。うん、分かった。やってみるね」

「うん、やってみて。って実は、わたしも呪文はまだ試せてないんだけどね」

「そうなんだ。じゃあ、僕のほうが先にできるかもだね」

「わたしだって、負けないんだからね!」


 そういいながら、二人で笑い合う。最後に声が大きくなっちゃったけど、お父さんに聞こえてたかな。ちらっと様子を見てみる。うん、大丈夫みたい。


「では、僕たちは帰りますね」

「わざわざ、ありがとうね。レティも」


 バーバラおばさんは、わたしの頭をポンポンしながら笑った。ちょっとふっくらした手が、柔らかくて温かい。ふふっ。

 ハルトに呪文を伝えなきゃって、そっちに気を取られちゃってたけど、あったか石は無事に喜んでくれたみたい。よかったぁ。


「うん! あったか石を使うと、お水が冷たくないからね。洗いものをするときに使ってみてね」

「ははっ。レティは宣伝上手だね」

「ヘヘ。じゃあ、またね。ハルトも!」


 お父さんがぺこりと頭を下げた横で、わたしは手を振ってお別れした。ちょっと歩いたら、すぐ家だ。今日はいっぱい歩いたから、さすがに疲れたかも。家に帰ったら、休憩しよう。


 家に入ってから、二人でお茶を飲む。外は寒かったから、あったまるね。

 あ、文具屋さんでもらった飴もあるんだった。思い出して、ぱくっと口に入れる。うーん、甘くて美味しい。おばあさんに感謝だね。


「今日はたくさん歩いたから、さすがにレティも疲れたんじゃないかい?」

「うん。ちょっと疲れたかも」

「夜ごはんまでは時間があるから、少し寝てきたらいいよ。あとで起こしてあげるから」

「うん。そうする」


 自分の部屋に行って、ベッドに寝転んだら、あっという間に寝てしまったみたい。お父さんが起こしに来てくれたけど、もうそんな時間?って思うくらいだったもんね。


 夜ごはんを食べて後片付けをしてから、いつものようにお茶を飲む。するとお父さんが、文具屋さんで買ったものを収納かばんから取り出した。


「これはレティのものだからね。忘れないうちに出しておかないと」

「うん、ありがとう」


 鉛筆はナイフがないと使えないけど、石筆ならすぐ書けるよね。目の前にあると、なんだか使ってみたくなる。そうだ! お父さんに、わたしの名前を書いてもらおう。


「ねぇねぇ、お父さん。せっかくだから、石板に “レティ” って書いてみてくれる?」

「ふふっ、早速かい?」

「だって見てみたいんだもん」


 そうして、お父さんが書くと思って見ていたら、なぜかわたしの前に石板が置かれた。わたしが不思議に思っていると


「これはレティのものだからね。初めて使うんだから、一緒に書こうと思って。ちょっと待ってて」


 そう言って、石筆にカバーを付けてくれる。わたしの手に石筆を持たせると、お父さんが後ろから一緒に握って文字を書き始めた。


 1文字ずつ、ゆっくりと書いてくれる。わたしの名前は、5つの文字みたい。初めて見た自分の名前が嬉しくて、自然と笑顔になる。


「わぁ、わたしの名前はこんな文字なんだね」

「そうだよ。さっ、レティも書いてみたらいいよ」

「うん、そうだね」


 そう言いつつも、なんだか石板を眺めていたくて、今日は書くのをやめた。そうしてしばらく眺めていたら、なんだか眠くなってきたので、寝る準備をして部屋に上がった。


 今日はいっぱい歩いたよね。錬金術士ギルドに行って、文具屋さんで買いものもして。バーバラおばさんに、あったか石を届けて。今日も楽しかったなぁ。明日は何をしようかな。


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