7. 手からお水が出た!
それから数日が経ったけど、お父さんは作業場に篭って色々してるみたい。なるべく安く作れるように材料を変えてみたり、魔法陣も改良したりしてたんだって。あと、錬金術士ギルドに登録するためには、設計書?が必要らしくて、今はそれを書いているみたい。
わたしはというと、お手伝いをしたりしながら、寝る前は魔力操作をしてたんだ。毎日練習してるからか、ちょっとずつ上達してる気がするんだよね。ふふん。
そんな日を過ごしていたら、あっという間に1週間が経っていて、ハルトが迎えに来てくれた。
「レティちゃん、今日も広場に行くの?」
「うん。だって、内緒の練習だからね」
いつもの道を二人で歩く。今日もまだ外は寒いね。風がひゅうひゅう顔に当たるから、手袋で顔を押さえながら広場に向かう。
広場に着くまでは、お父さんが “あったか石” を作ってくれたことを話した。バーバラおばさんには、お父さんがプレゼントするってことは、まだ内緒だけどね。
ハルトのほうは、お兄ちゃんたちが使ってた石板をもらったらしくて、ちょっと字の練習をしてみたんだって。いいなぁ。
神殿教室では、石板を貸してくれるらしいんだけど、家にもあると練習できていいみたい。わたしも買ってもらえるかな。今度買い物に行くときに、お父さんにお願いしてみよう。
お互いに、この数日のできごとを話していたら、あっという間に広場に着いた。今日も、あんまり人はいないから、内緒話にはぴったりだね。
「ハルトは、あれから魔力を動かしてみた?」
「うん。なんでか眠くなるから、寝る前に練習してた」
「やっぱり? わたしも眠くなるから、寝る前に練習してるんだよね」
「レティちゃんもなんだ。よかったぁ。僕ちょっとドキドキしてたんだー」
「そう? 寝て起きたら普通だったから、気にしてなかったよ。でも、そう聞くと、何ともなくてよかったよね」
「うんうん。こっそりしてるから、誰にも言えないしね」
たしかに。わたしは、ちょっとお気楽すぎたかも。でも、やってみないと分からないし。うーん。
「レティちゃんは、魔力を動かせた?」
「うん。体中に回せるようになったし、ちょっと上達してるような気がするんだ」
「わぁ、すごいね。僕は、やっと体中に回せるようになったとこだよ」
「ハルトもすごいよ。わたしの下手な説明だけで、できるようになったんだもん」
「そうかな?…へへ」
うん、照れてるハルトも可愛いね。こうして、一緒にやってくれるハルトって、いい子だよね。すごくありがたいな。
「ありがとう、ハルト」
「うん?どうしたの?」
「こんなふうに一緒にやってくれて、すごく心強いなって思ったの」
「そう? 僕も楽しいからね、誘ってくれてありがとう」
あの転生の夢を見てからなのか、記憶を思い出したからなのか、なんだか “ありがとう” って思うことが増えた気がする。ありがとうって不思議だよね。伝えるほうも、伝えられたほうも嬉しくなるんだもん。これからも、いっぱい言おうっと。
「そういえば、この魔力操作?を続けてたら、魔法の学校に入れるの?」
「ううん。これだけだと、魔力が増えないんだよね。魔力操作って、下準備みたいな感じだから。本当は、魔法をこっそり使ってね。魔力を使いきって寝る、っていうのを繰り返さないとダメっぽいんだよね」
「えぇっ!魔法を使うの!? 本当は使ったらダメなんだよね?」
「しーっ! だから、こっそり使うの。でも、どうやって魔法を使うのか分からないんだよね。だから、今は魔力操作の練習をするしかないの。ほら、この前も水は出なかったしね」
「たしかに。魔法なんて、全然見たことないもんね」
魔法のイメージは、あの絵本で見ただけだからね。本当の魔法を見たら、何か分かるかもしれないんだけどな。
「お父さんに頼んだら、見せてくれるかなぁ。でも、それだとハルトは見れないもんね」
「うーん。もし見せてもらえるなら、まずはレティちゃんが練習して、僕はレティちゃんから教えてもらうとか?」
「そっか。わたしが先に使えるようになればいいんだね!やる気出てきた!」
報告し合って、今日の目的は終わったから、そこからは普通に遊ぶことにした。そういえば、冒険者になるなら、体力も必要だもんね。ちょっと走ってみよう。
「わたし、走ってくる!」
「えぇっ、急にどうしたの」
「冒険者にはね、体力も必要だからね。とりあえず走ってみるの」
「なるほど? でも、レティちゃんはあんまり……ごにょごにょ」
ハルトの返事を待たずに、わたしは勢いよく走り出した。でも、勢いに体がついてこなかったみたいで、派手に転んでしまった。
「あぁっ、やっぱり………レティちゃん、大丈夫?」
ハルトが駆け寄ってきてくれたけど、びっくりして返事もできない。膝を擦りむいて、ちょっと血が滲んでいる。
「い、痛い…」
「あっ、血が出てる!ちょっと待って」
そう言って、ハルトが膝についた土を払ってくれた。
「……もう家に帰ろう。歩けそう?」
「うん。あっ」
ハルトが手を差し伸べてくれたので、立ち上がろうとしたけど、どうやら足首を捻ったみたいで、すごく痛い。ひょこひょこすれば、歩けるかな。
「なんとか帰れそう」
「足首も捻ったの?……僕、おんぶする」
「えっ、いいよいいよ。家まで歩くよ」
「いいから。はい、背中に乗って」
そう言って、しゃがんでくれた。せっかくだし、おんぶしてもらおうと思って乗ったんだけど……逆にハルトが潰れてしまった。立ち上がろうとしてくれたんだけど、ちょっと無理だったみたい。
「だ、大丈夫?」
「うん…」
「重かったよね。ごめんね」
「ううん。僕のほうこそ……」
ハルトが、ものすごく落ち込んでいるみたい。いつも優しい薄い緑の目が、どんより下を向いてる。どうしよう。せっかく気を遣ってくれたのに。
「わたしなら歩けるからね。あ、そうだ!腕に掴まってもいい?」
「うん…」
ハルトの腕に掴まりながら、ひょこひょこ歩く。ちょっと痛いけど、これくらいなら全然平気。……なんだけど、ハルトは平気じゃないみたい。わたしから何度も話しかけてみるけど、ハルトはどこかうわの空だ。
そんな帰り道だったけど、無事に家に帰って来れた。お父さんに言えば、回復薬を使ってもらえるんだよ。だから、これくらいの怪我なら大丈夫。ハルトも知ってるはずだし、そんなに気にしなくてもいいのに。なんでこんなに落ち込んでるのかな。
「ねぇねぇ、ハルト。作業場まで連れ行ってもらってもいい?」
「うん」
ハルトと連れ立って、裏から作業場に向かう。今日も、お父さんは作業場にいるはずだもんね。
「お父さーん、いる?」
なんだい?と言いながら、お父さんが出てきた。ハルトも一緒だったから、ちょっと驚いたみたい。だから、広場で怪我をして、ハルトに連れて帰ってもらったことを説明する。
「ハルトくん、ありがとう」
「いえ。僕はなんにも…」
力なく首を横に振って、目を伏せるハルト。やっぱり変だよね。お父さんも、あれ?って顔をしてるけど、とりあえず回復薬を持ってきてくれた。
「まずは、傷口を綺麗にしないとね。どれどれ」
回復薬を掛けるから、靴を脱いで膝を出す。すると、お父さんは傷口を確認してから、手をかざして、ぼそっと何かをつぶやいた。その瞬間、
――手から水が出た!
思わず、ハルトと顔を見合わせる。
「お、お父さん、い、今のって魔法?」
「そうだよ。水を出す魔法」
「わぁ、魔法はじめて見た!すごーい!」
「そうかい? 魔道具でも水は出るじゃないか。ははっ」
そうだけど、そうじゃないんだよ!
魔法って、あんな感じなんだね。なるほど。なんとなくだけど、できそうな気がする。今度また試してみなきゃ!
「ほら、回復薬を掛けるよ」
そうして、膝と足首に回復薬を掛けてくれた。うん、これで痛くない。ふと隣を見ると、ハルトはまだどこか変な感じだ。
あ、そういえば、わたしがハルトを潰しちゃったから、実はハルトも怪我してたんじゃない? もう、なんで気づかなかったんだろう。わたしのバカ!
「もしかして、ハルトも怪我してたんじゃない?」
「そうなのかい? ちょっと見せてごらん」
ハルトの足や腕を見てみたら、手のひらを擦りむいていたみたい。お父さんが、ハルトの手も魔法の水で綺麗にして、回復薬を掛けてくれた。よかった。きっと、我慢してたから、あんなにしょんぼりしてたんだね。
「ハルト、気づかなくてごめんね。お父さんも、ありがとう」
「このくらい、大したことないよ。おじさん、手当てしてくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして。二人とも寒かっただろう。今お茶を入れてあげるから、居間で待ってなさい」
はーい!って返事をして歩き出したけど、気づいたら、ハルトがついて来ていなかった。振り返ると、ハルトは立ち止まったままだったみたい。もう痛くないはずなのにな。
「おーい、ハルトー!」
わたしが大声で呼びかけると、はっと気づいたように、ハルトが駆け出したのが見えた。ちょっとは元気が出たのかな。よかったよかった。
安心して、わたしは先に家に入った。ハルトはすぐに追いついたけど、わたしはお父さんに気を取られていて、その小さな呟きは耳に入ってこなかった。
「僕、もっと強くならなきゃ」
⊹ ⊹ ⊹
お茶を飲みながら、お父さんが作業場に戻るのを確認する。パタンとドアが閉まる音がしてから、すぐハルトに声をかけた。もうずっと、話したくてうずうずしてからね!
「ねぇ、ハルトも見たよね! あれ魔法だったよ!」
「うん、見た。魔法ってすごいね!」
「びっくりしたよね。今日は外にいたから、魔法で水を出してくれたのかな。分からないけど、見れてよかったよね!」
「うん。普通は洗い場で洗うもんね」
「……でも、杖は関係なかったね」
「だね。ふふっ。でも、あの枝のおかげで魔力を感じられたんだから、あれはあれで、よかったよね。それに楽しかったし」
「そうだね。ちゃんと役に立ったもんね!」
わたしは気を取り直して、魔法について思ったことを話す。もちろん、こっそりとね。
「水を出す魔法なら、なんとか使えそうじゃない? いつも台所とかで魔道具を使ってるし、なんとなくできそうな気がする」
「できるかは分からないけど、できそうって思ってるのも大事な気がする。とにかく、試してみなきゃだね」
「そうだよね。洗濯のときとかに、練習してみようかな」
「それいいね。僕も、やれるときに練習してみる」
「うんうん。これは、すぐに成功するかわからないから、お互いにやってみて、成功したほうが家に呼びに行くってどう?」
「うん、いいよ。僕が先に呼びに来るからね!」
「わたしだって負けないんだから!」
そうして、どんなふうに試してみたらいいのか、ちょっと話し合ってから、ハルトは帰って行った。
わたしが言い出したことなんだから、頑張らないとね。よーし、やるぞー!




