6. あったか石
昨日もまた、すっごく眠くて、お昼寝をした。夜も少しぼんやりしてたけど、ちゃんとお風呂に入って寝たんだよ。でも、やっぱりいつもより眠くて、早く寝たんだけどね。
そういえば、昨日もだけど、その前の日もすっごく眠くなったよね。ちょっと変かも。違うことといえば、魔力を感じようとしてたくらいだけど、そのせいなのかな。もしそうなら、魔力については、ほどほどに試すくらいにしないとだね。
「よし。今日は洗濯だ」
洗濯は、わたしのお仕事。ごはんを作るのは、まだコンロを使っちゃダメって言われてるから、お皿を並べたり、パンを出すくらいなんだけどね。あと、掃除は二人でしてるんだよ。高いところと低いところ。協力してやれば早いもんね。
洗濯物を溜めてるカゴを持って、洗い場に行く。ここにもキラキラ石があって、ちゃんとお水が出るんだよ。桶にお水を溜めてっと。
「お水が冷たいよー」
洗濯は、石鹸をつけてゴシゴシするし、そのあとにバシャバシャ洗わないといけないから大変。しかも、その間ずっとお水に手を浸けてるから、冷たいと手が痛くなるんだよね。
「これ、お風呂みたいに温かくなったらいいのに」
お風呂もここで入ってるから、お水もここで入れてると思うんだけど、どうやって温かくしてるんだろう。いつも、お父さんが用意してくれてるから分からないなぁ。あとで、お父さんに聞いてみようっと。
「よいしょっと」
なるべく洗濯物を固く絞ったら、次は外に干しに行く。カゴが重くて少し大変だけど、もうだいぶ慣れてきたんだよ。腕も、最初よりぷるぷるしなくなったしね。
裏の出入口から、洗濯干し場に出た。段になってるところに立ちながら、紐に掛けていく。今日もお日様が出てるから、早めに乾きそうだね。
「うぅ、ちょっとの間だけど、寒かったー。お茶でも飲もうっと」
キラキラ石が付いたポットで、キラキラ石に手を当ててお湯を沸かし始める。台所でコップにお茶っ葉を入れて、お湯が沸くのを待っていると、ふいに記憶が浮かんできた。
こういうの、前のわたしも使ってたっぽいね。今と同じように、お湯が沸くのを待っている記憶に、ふふっと笑う。
お湯が湧いたから、もう一度キラキラ石に手を当てて止める。お湯を注ぐときは慎重に、慎重に。もちろん、熱々のコップを運ぶときも慎重にだよ。
お茶を飲みながら、昨日のことを思い出す。
そういえば、今日もちゃんと魔力が感じられるかな。昨日だけってことはないよね? 今ちょっとだけ試してみよう。
枝を持ってたときみたいに、手から魔力が出ると思いながら、おへその下を感じてみる。すると、ちゃんと温かいのが感じられた。よかったぁ。
「今日も眠くなったら困るから、魔力が体中に回せるかは、寝る前にやってみようっと」
のんびりしてたら、お父さんが作業場から戻ってきたので、お昼ごはんにする。
具だくさんのスープは朝と同じだけど、おかずは目玉焼きとソーセージだ。美味しそう! ソーセージは一口サイズに切ってくれてあるから、食べやすいんだよ。
お父さんは、お母さんがいなくなってから料理を始めたみたいなんだけど、こうやって毎日作ってくれてるからか、いつも美味しいんだよ。それにね、具だくさんのスープも、中身は朝や昼と同じなのに、夜は味が違うんだよね。ソーセージもだけど、いろいろと工夫してくれてるみたい。
「お父さん、ありがとう」
「どうしたんだい?急に」
「ごはんが美味しいから、ありがとうって思ったの」
へへっと笑うと、お父さんもつられたように笑った。
あ、そういえば、お風呂のことを聞こうと思ってたんだった!
「ねぇねぇ、お父さん。さっき洗濯してて、ちょっと思ったんだけどね。お風呂のお湯って、どうやって沸かしてるの?」
「魔法で温かくしてるんだよ」
「えっ、魔法で?」
「そうだよ。それがどうしたんだい?」
「洗濯してたときにね、お水が冷たいから、お風呂みたいに温かくなったらいいなって思ったんだ。でも魔法だったら、わたしには無理だもんね」
「そうだね。でも、魔法が使えない人も、魔道具を使って温かくできるんだよ」
「まどうぐ?」
「そう。ほら、いつも台所や洗い場で使っている、水が出る魔石のついた道具。あれも魔道具なんだよ。温めるのも、同じように魔道具があるんだ」
「あのキラキラ石だよね」
キラキラ石は、魔石っていうんだった。この前も聞いた気がするけど、もともとキラキラ石って言ってたから、忘れてたよ。
お父さんの説明によると、温める魔道具はあるみたい。だけど、お風呂用だから熱々になるし、お風呂以外には使わないんだって。それに、買うのも維持するのも、それなりにお金がかかるからね。普通はお家に1つあればいいほうみたい。
「そうなんだ。お水がちょっとぬるくなるだけでいいんだけどなぁ。バーバラおばさんも、冬のお水はつらいねって言ってたし」
「なるほどな。水を少しだけ温める魔道具か」
「うん。あとね、持ち運べたら便利だと思うんだ。洗濯だけじゃなくて、お皿を洗うときとか、顔を洗うときにも使えたらいいもん」
「たしかに、それは便利だね。お風呂用のは、たくさんのお湯を沸かすから大きいし、だいたいは固定して使ってるんだよ」
固定してあるなら、お風呂にしか使えないのも仕方ないよね。あ、ちょっと思い浮かんだけど、持ち手があると便利そう。
「あとね、長い棒がくっついてるみたいにね。温めてる間に、持てるところがあったらいいと思う」
「ふんふん、なるほど。逆に、持ってる間だけ温めるようにすればいいのか。それなら、小さい魔石で作れるかもしれないな。小さい魔石なら安いし、バーバラさんたちも買いやすいかもしれない」
「わぁ、それいいね!」
「よし、お父さんが作ってみるよ」
「え、お父さんが作るの?」
「そうだよ。錬金術士だからね」
そういえば、それもこの前聞いた気がする。あのときは、誰でも魔法が使えるんじゃないんだって聞いて、びっくりしてたからね。仕方ないよね。うん。
「よし。ごはんを食べたら、さっそく作ってみるぞ」
「うん!ありがとう」
それから、お父さんは考えるのに夢中なのか、話が通じなくなってしまった。ごはんはちゃんと食べてたけどね。後片付けが終わったら、すぐに作業場に向かったみたい。
「温める石ができたら、すごくいいよね。お父さんに話してみてよかったぁ。それにしても、温める石ってそのまんまだし、可愛くないよね。……あ、そうだ! “あったか石” とかいいかも!」
その後、お父さんは作業場に籠りきりだった。しかも、夜ごはんの時間になっても出てこなかった。声をかけたら、慌てて出てきて、夜ごはんを作ってくれたけどね。
「あったか石、作れそう?」
「あったか石?」
「うん、そう呼ぶことにしたんだー」
「ふふっ、レティらしいね。あったか石はね、作るの自体は難しくないんだ。でも、小さい魔石で作るとなると、魔法陣も小さくする必要があってね。今それを考えているんだ」
「まほうじん?」
「そう。こんな魔法を使うよっていうのを、魔石に刻むんだよ」
「そんなのがあるんだ。面白いね」
「そうだろう? 錬金術は面白いんだ」
そう言って、お父さんは目をキラキラさせている。錬金術士っていうお仕事が、すっごく好きなんだね。
「温める魔法って難しいの?」
「魔法陣は決まったのがあるんだけどね。小さくするのが難しいんだ」
「ふぅん。お風呂ほど熱くならなくていいから、もっと簡単な魔法があったらいいのにね」
「そうだねぇ。……あっ!そうか。温度が低ければ、出力部分が減らせるから――」
考え込んでいるのか、ぶつぶつ言い始めちゃった。どうにか作れそうなのかな。作れるといいな。
お父さんは、少しの間そんな状態だったけど、急にバッと立ち上がったと思ったら、急いで作業場に行ってしまった。
「もう、しょうがないなぁ」
後片付けも放ったらかして、行っちゃったよ。仕方がないから、一人で後片付けだ。ちょっとずつ食器を台所へ運んで、テーブルの上を拭いて。あとは、食器を洗って拭いたら、片付けてっと。
いつも、お父さんと二人だから、一人だとちょっと時間がかかっちゃった。
「ちょっと寝るには早いけど、魔力を回すのも試したいし、お部屋に行こうっと」
作業場に行って、お父さんに声をかける。一応目があったから、大丈夫だよね。念のため、お部屋に行く前にストーブは消しておこう。
「よし。それじゃあ、魔力を回せるか試してみよう」
もしかしたら、また眠くなるかな? 分らないけど、眠くなってもいいように、ベッドに座ってやってみることにした。
「まずは、魔力を感じてみるところから」
手から魔力が出ると思いながら、おへその下を感じてみる。うん、大丈夫。しかも、なんだか前より簡単に感じられるようになった気がする。よしよし。
「そしたら、これを体の中で回すんだよね。どっちの方向に動かせばいいんだろう。適当でいいのかな」
分からないんだから、やってみるしかないよね。とりあえず、枝を持ってたときの感じでやってみよう。
魔力がお腹から右手に移動するように想像して、温かいのが動くか感じてみる。……あ、ちょっとずつだけど動いてる!
「すごいすごい!おもしろーい!」
そしたら、右手から左手。うん、できた。じゃあ、左手からお腹。うん、これも大丈夫。じゃあ、次はお腹から右足で――。
そうやって、思ったところに動かしていく。何度もやっているうちに、ちょっとコツがつかめたかも。だいぶ思ったように動かせるようになってきた。まさに、“魔力操作” って感じ!
夢中でやってたからか、体中がぽかぽかしてるからか、急に眠くなってきた。やっぱり、魔力操作って眠くなるのかも。寝る前に試すのが正解だったね。しばらくは、魔力を回す練習をしてから寝ようっと。……今日はもう、おやすみなさい。
⊹ ⊹ ⊹
「もう!ちゃんと寝たの?」
朝から、お父さんにお説教だ。どうも、あれからずっとやってたみたい。起きてきても居間にいなかったから、作業場を覗いてみたらね、机の上に突っ伏して寝てたんだよ。結局ほとんど寝てないみたい。
今日の朝ごはんは、パンにハムと野菜とチーズを挟んだものにする。これなら、コンロを使わなくてもいいし、わたしでも用意できるからね。
「レティ、ごめんね」
「たまにはいいよ。それより、あったか石はどう?」
「あれから魔法陣を考えたんだけどね。小さい魔石にも刻める魔法陣ができたから、試作品を作ってみたんだ!」
さっきまで、しょんぼりした顔をしてたのに、もう目がキラキラしてる。ふふっ。
「もうできたの?すごーい! じゃあさ、ごはんを食べたら、さっそく使ってみようよ」
「そうだね。台所で試してみよう」
ごはんを食べ終えて、食器を運ぶ。いつも通りに桶に水を溜めたら、あったか石の登場だ!
「この持ち手の魔石を持って、桶に浸けてごらん」
「うん、やってみる!」
「あ、浸けてる間だけ温度が上がるから、ちょうどいい温度になったら取り出すんだよ」
「うん、わかった!」
ワクワクしながら、あったか石を水に浸ける。反対の手を水に浸けて、温かくなるのを待っていると、少ししたらお水がぬるくなってきた。
「わぁ、簡単にぬるくなったよ!」
「使ってみてどう?」
「使いやすいよ。軽いから、わたしでも持ちやすいし。それに、ぬるくなるのも早かったもん」
「そうか、それならよかった。そしたら、魔道具として登録するために、作りやすくしたり、色々と準備しないとな」
「登録?」
「そう。錬金術で作ったものは、錬金術士ギルドに登録するんだよ。そうすれば、ほかの錬金術士にも作れるようになるしね。それに、注文するのも受けるのも、錬金術士ギルドを通すことになっているから、登録しないと誰も買えないしね」
「そうなんだ。じゃあ、登録したら、バーバラおばさんも買えるようになるんだね」
「そうだね。でも、バーバラさんやハルトくんには、いつもお世話になってるから、僕が作ってプレゼントするよ」
「ほんと? きっと、バーバラおばさんも喜ぶね」
あったか石、すっごく便利だし、きっと喜んでくれるよね。だって、冷たいお水で洗濯したりするの大変なんだもん。
バーバラおばさんに渡すところを想像したら、ワクワクして嬉しくなった。きっと、豪快に笑って喜んでくれるよね。渡しに行くのが楽しみだな。




