3. いつもの非日常 ①
「さて、今日はレティの誕生日だけど、何がしたい?」
「えーっとね。まずは、神殿に行って神様にお礼を言うの。それでね、屋台でごちそうを買ってきて、家でお昼ごはん食べたい」
「そっか。神様にお礼を言いたいだなんて、レティは偉いね。じゃあ、神殿に行くなら、神殿教室の申込みもしてこようか。それで、帰りに屋台にも寄ってこよう」
「うん!ありがとう、お父さん」
さっそく出かける用意だ!
今は冬で外は寒いから、コートを着て、マフラーをくるんっと。お気に入りのかばんも、肩から斜めに掛けて。ふふん、完璧! お父さんも用意できたみたい。
ブーツに履き替えて、ポケットに入っていた手袋もする。うん、あったかい。
ドアを開けたら、ひやっとした風が入ってきた。思わず「ひゃー」って声が出たけど、このくらいの寒さは平気だもんね。
外に出たら、お父さんが鍵を掛けるのを待つ。それで、お父さんと手をつないだら出発だ!
家の前の通りに出ると、お隣のマリーちゃんがいたから挨拶する。どうやら、わたしの声が聞こえて、前に出てきてくれたみたい。
「マリーちゃん、おはよう!」
「おはよう。今日は7歳のお誕生日ね。お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「あとで、お祝いにアップルパイを持って行くわね」
「わぁい!ありがとう」
やったー!マリーちゃんのアップルパイって美味しいんだよ。すっごく楽しみ。ふん、ふん、ふん。
アップルパイに浮かれているわたしの横で、お父さんとマリーちゃんが話し始めた。
「マリーさん、いつもありがとうございます」
「いえいえ。わたしも楽しませてもらっているんですから。誰かのために料理を作るのも楽しいんですよ」
「それは、ありがたいです。あ、そうだ。お昼は屋台で買ってきたものを家で食べるんですけど、よかったらマリーさんも一緒に食べませんか?」
「まぁ、いいんですか? では、お言葉に甘えて。ありがとう」
お昼ごはんを一緒に食べる約束をして、また歩き出す。
マリーちゃんは、お父さんよりもっと大人で、おばあちゃんっていうくらいの歳らしい。でも、そんなふうには見えなくて、なんというか可愛らしい感じの人なんだよね。
わたしは覚えてないんだけど、小さい頃に家から飛び出してたことがあったみたいで、そのときにマリーちゃんが助けてくれたみたい。それから、ずっと仲良くしてくれてるんだって。
わたしのお母さんがいないのもあって、よく遊んでくれるんだよ。今日みたいに料理したものを持って来てくれることもあるし、お父さんのお仕事が忙しいときは、お家に呼んでくれたりもするし。いつも優しくて、大好き。
「マリーちゃんのアップルパイ、楽しみだね」
「うん、楽しみだね」
お父さんも笑顔だ。少し歩くと、赤い屋根のお家が見えてくる。神殿は月に一度は礼拝に行っているから、道はほとんど覚えてるんだ。
小さい頃は、お父さんに抱っこしてもらってたみたいだけど、今はちゃんと自分で歩けるしね。
「そういえば、神殿教室に通うときは、レティだけで行くことになると思うけど、ひとりで行けそうかい?」
「うん!もう覚えてるもん。最初の目印はね――」
わたしの目印を、お父さんに教えながら歩いていく。赤い屋根のお家のつぎは、ちょっと大きな青い屋根のお家だ。こうして見ると、カラフルで可愛い屋根のお家が多いよね。
今まではそれが普通だったけど、なんとなく今日は違って見える。ちょっと不思議。
それから、大通りに出るときは、角にお花屋さんがあるから、そこを左に曲がって、あとは真っ直ぐ。どう?と、お父さんを自慢げに見上げる。
「うん、正解!……ふはっ」
わたしの自慢顔が面白かったのか、お父さんが笑い出してしまった。もう!と口をとがらせたけど、わたしもおかしくなって笑い合う。楽しいな。
笑い合っているうちに、大通りに出た。ここは馬車も通るから要注意。でも、お父さんと手をつないでるから大丈夫だけどね。もちろん、ひとりでもちゃんと隅っこ歩くよ。
そこからまた、てくてく歩くと神殿の門が見えてきた。お父さんが言うには、ここの神殿はそんなに大きくないらしい。でも、わたしからしたら、見上げないと建物のいちばん上が見えないから、すっごく大きいと思うんだけどね。
門をくぐると、薄茶色で丸みのある三角屋根が乗った、白い壁の建物が現れる。正面は、ほっそりとした壁が2階まで伸びているのに、その少し奥から、1階部分が左右に出ている形だ。
こうして見ると、わたしのお家とは全然違う形だよね。神様のお家だからかな。それに、今日はお天気がいいからか、よけいピカピカして見える気がする。
そのまま正面の入口に向かって、石の道を歩いて行く。春にはふさふさしている木も、今はすっごく寒そう。おまけに風も寒い。ぶるぶる。手袋でほっぺたを押さえているうちに、入口が見えてきた。
「あっ、ハルト!」
仲良しのハルトを発見!見覚えのある濃い青色の髪が、ちらっと見えたんだよね。
ハルトは近所に住んでいて、小さい頃からよく遊んでいるんだ。同い年なのに、わたしよりちょっと大きいんだよ。わたしは一人っ子だから、実は少しだけ兄妹みたいに思ってるんだよね。
髪色も違うし、ハルトは薄い緑の目をしてるから、見た目は全然違うんだけどね。
「ハルトも礼拝に来たの?」
「うん。それと、神殿教室も申し込んだんだよ」
「わぁ、わたしも、わたしもなの!そしたら、一緒に通えるよね。楽しみ」
嬉しくて、思わずぴょんぴょん跳ねてたら、お父さんがバーバラおばさんに挨拶していた。もちろん、わたしも慌てて挨拶したよ。
「ハルトくんも、神殿教室に通い始めるんですか?」
「そうなの。先月が誕生日だったから、そろそろかなと思ってね。レティもかい?」
「そうなんです。今日が誕生日で」
「あら、そうなの。レティ、誕生日おめでとう」
「レティちゃん、おめでとう」
「バーバラおばさんも、ハルトも、ありがとう」
「ありがとうございます。ところで、ハルトくんはどの日で申し込んだんですか?レティもこんな調子ですし、できれば同じ日にしたいなぁと」
神殿教室は、空の日以外の日に、午前中だけ開いているんだって。でも、通うのは週に一度だから、申し込むときに日を選ばないといけないみたい。
お父さんが聞いてくれたから、わたしも同じ風の日に申し込むことになった。同じ日のほうが、絶対楽しいもんね。
でも、いま申し込んだとしても、来月からになるんだって。すぐに通いたかったのになー。ちょっとがっかり。でも、仕方ない。それに、魔力を増やせるか試してみないとだしね。ふふん。
「では、わたしたちはこれで」
「はい、お引き止めしてしまって、すみません。お気をつけて」
「じゃあ、ハルトまたね。あ、そうだ!明日遊べる?」
ハルトがバーバラおばさんを見てみたら、いいよって言ってくれたから決定だ!
「じゃあ、明日ねー!」
「うん。レティちゃん、迎えに行くからねー!」
手を振ってハルトたちと別れたら、神殿に入る。神殿の中も白い壁で、今はたくさん太陽の光が入っているから、すごく明るくてきれい。
天井には、お花みたいな、なんていうんだろう?……あ、フラワーなんとかっていう幾何学模様?に似てるみたい!
わぁ、こうやって、急に知らないことが思い浮かぶなんておもしろーい!
やっぱり、考えたり疑問に思ったりしたら出てくるのかな。魔力のことも、帰ったら試してみなきゃ!
それにしても、きっちり覚えてなさそうなところは、なんだか頼りない気がする。まぁ、わたしだって、何でも覚えてるなんて無理だもんね。仕方ないかぁ。
入口から真っ直ぐ進んだところには、大きな女神様の像がある。たぶん、わたしの背の高さより大きいね。
女神様は、空の神様なんだよ。ここは、空の国だからね。ほかには、風の女神様、火の男神様、土の女神様、水の男神様がいて、少し後ろに少し小さい像が並んでいる。
「さぁ、お祈りしようか」
「うん」
真ん中の通路の両側には、長椅子が並んでいる。今日は空の日じゃないから、礼拝の人はそんなにいないみたい。
わたしたちは、左側に移動して座った。手袋とマフラーをはずして、手を合わせたら目を閉じる。
――女神様、わたしは今日、7歳になりました。いつも見守ってくれて、ありがとうございます。
それから、前のわたしの記憶を思い出しました。わたしは自分で望んで、ここに生まれたみたいです。記憶のせいかもしれないけど、やっぱり魔法を使える冒険者になりたいと思いました。だから、これから頑張ります!
心のなかで言いたいことを全部伝えて、目を開ける。すると、女神様の優しいお顔が目に入った。
転生のときの女神様じゃないけど、ここで宣言してもいいよね。今のわたしは、ここで生きてるんだから。
「真剣にお祈りしてたね。お礼は伝えられたのかな」
「うん!空の女神様は、たぶん優しい神様だからね。きっと伝わってると思うんだ」
「そうだね。きっと伝わってるね」
そう言って、笑いながら頭を撫でてくれた。へへ。
礼拝のあとは、神殿教室の申込みだ!
えーっと、どこに行くんだろう? そう思っていると、お父さんが手を引いてくれる。こっちだよ、そう言って、左側の壁にある扉をノックした。
中から出てきたのは、おじいちゃん神父さん。いつもは会うことがないから、ちょっと緊張だ。
「こんにちは。神殿教室の申し込みをしたいのですが」
「あぁ、はいはい。どの日に通うか、希望はありますかな?」
「はい、風の日にお願いします」
「ちょっと待っていてくだされ」
日ごとに定員があるみたいで、神父さんは確認のために中に入って行った。
少し待っただけで出てきた神父さんは、「風の日で大丈夫ですよ」と言って手続きしてくれる。
教室に通うには、ひと月毎に少しの寄付金が必要みたい。何ヶ月分かまとめて払うこともできるみたいだけど、うちは毎月礼拝に来るからね。お父さんは、ひとまず来月分を渡している。
せっかくお金を払ってもらうんだから、ちゃんとお勉強しないと。
それから、教室の場所や開始時間、持ってくる物などの説明を受ける。教室は裏庭のほうにあるみたい。通うときは直接行くらしいから、帰りに見ておかないと。
「では、来月の風の日に」
「はい、ありがとうございました。来月から、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
さぁ、次は屋台だね。ごちそう!ごちそう!




