2. 記憶が増えたっぽい日
「どんなのに乗ったの!?」
思わずそんなことを口に出しながら目が覚めた。
だって、駅のホームで列車を乗り換えるって言ってたのに、列車が出てこなかったんだもん。
列車は前世の記憶で想像できたけど、転生の列車も一緒だったのかな。どんな乗り物だったのか見てみたかったなぁ。
そんな目覚めの今日は、7歳の誕生日。
前世の記憶を思い出したみたいだけど、夢のおかげか混乱もないし、わたしとしては特に大きな変化は感じない。
列車は想像できたから、なにか考えてたら思い浮かぶとか?よく分からないけど、考えようとしないと浮かんでこないみたい。
でも、なんだか妙に嬉しくなったわたしは、ベッドの上に立ちながら、天井めがけてバッと両手を広げた。
「女神様ありがとうございます!」
見上げても天井の木目しか目に入らないけど、きっと心は女神様に通じたよね。うん。わたしは満足して、ベッドに座り込んだ。
それにしてもだよ。記憶があっても大人にはなれないなんて、ひどいよね。どうせなら、わたしは早く大人な感じになりたかったけどな。ちょっと残念だけど、なんだか賢くなった気がするから、まぁいっか!
そういえば、魔法って見たことないけど、どんなのなんだろう。
想像しようとしてみても、前世のわたしは魔法を見たことがないみたいで、言葉とぼやっとしたイメージが浮かんでくるだけだ。魔法のない世界だったみたいだし、ラノべっていうのを見て想像してるだけだったのかな。
――でもね、わたしは使えるんだよ! どんなのか分からないけど、なんとなくウキウキしちゃうね。ふん、ふん、ふん。
「レティ、起きてるー?朝ごはんの時間だよー!」
浮かれてたら、お父さんに起こされた。ちゃんと一人で起きられるのに。今日は失敗。
いま行くー!と大きな声で返事をしながら、ぴょんと勢いよくベッドから滑り降りる。急いで着替えないと。よいしょっと。
階段を降りて、洗面所に行く。わたし用の台に乗って鏡を見れば、水色がかった銀色の髪に、紫色の目をした女の子が映っている。パパっと顔を洗って、朝ごはんだ!
「おはよう!あのね、今日ね」
椅子に座る前から話し出したわたしに、お父さんも苦笑いだ。でも、そんなの気にしない。パンをもぐもぐしながら「面白い夢を見たんだよ」とお父さんに自慢してみる。
「どんな夢だい?」
――前世のわたしがね、と言おうとしたところで、言葉が出てこない。なんでだろう?
「うんとね、あのね」
駅もホームも列車も、言葉にならないみたい。なんで?言葉がこれじゃあ話せないよ。どうしたらいいんだろう。分からない。でも、なんとかして話したい。
「えっとね、女神様が出てきてね」
おぉ、女神様は大丈夫だった!
ということは、知らない言葉は話せないのかな。頭では考えられるのに不思議だよね。
あれ、女神様が言えたと思ったら、話したいことがどっか飛んで行っちゃった。なにを話したかったんだっけ。
「うーん、面白かったことは覚えてるけど、あとは忘れちゃったー」
ははっと笑いながら、頭を撫でてくれるお父さん。お父さんは、うっすら青い銀色の髪に、わたしと同じ紫の目をしている。見た目も優しい雰囲気だけど、いつも優しいんだよ。
そんなお父さんは、わたしが話し終わったのを見て、「誕生日おめでとう」と言ってくれる。嬉しくなったわたしは、考えるのをやめて、にこにこ顔でスープを飲み干した。今日もごはんが美味しいね!
朝ごはんを食べ終えたら、二人でお皿やカップを洗いに行く。台所まで食器を運んだら、わたし用の台に乗って、まずは桶に水を溜めてっと。
そういえば、今までは何とも思ってなかったけど、この水どうやって出てるんだろう? いつも水を溜めてる間は、このちょっとキラキラした石に手を当ててるんだけど。この石あやしいよね。
「ねぇ、ねぇ、お父さん。このお水が出てるところの石って何?」
「今まで使ってたのに、急にどうしたんだい?レティももう7歳だし、そんな年頃なのかな。ふふっ。それはね、魔石っていう石でね。魔力っていう力が入ってるんだ。魔力はレティの体の中にもあるんだよ」
「じゃあ、なんでこの石に手を当てると水が出るの?」
「うーんとね。水が出る “魔法” というのがあってね、それをこの魔石で使えるようにしてあるんだよ」
これが魔法! わたし、知らずに魔法使ってたんだ。わぁ。
「それじゃあ、わたしも魔法使ってたってこと?」
「それは違うよ。これは魔石の中の魔法で水が出てるだけだから、レティが魔法を使ってるんじゃないんだ。でも、ほんの少しだけど魔石を動かすのに魔力を使うから、レティの魔力を使ってたんだよ」
あ、違った。でも、魔力を使ってるんだから、魔法も使えそうだよね。それにしても、このキラキラ石すごいね。魔法がある世界って感じ!
そんなことを考えてたら、手が止まってたみたいで、お父さんが全部片付けてくれていた。……ごめんなさい。
「さぁ、片付けも終わったことだし、プレゼントをあげようか」
やったぁ!と喜びながら、居間に移動する。ささっと椅子に座って、そわそわ待っていると、お父さんがプレゼントを持ってきてくれた。
「レティ、改めて誕生日おめでとう。これは、お父さんからのプレゼントだよ。そろそろ文字の勉強を始める頃だからね」
そう言って渡されたのは、絵本だった。お礼を言いながらも、すぐに絵本を開く。わたしの顔よりちょっと大きいくらいで、わりと薄い本だ。絵のページと、大きめの文字が書かれたページがある。文字はまだ読めないけど、絵を見ただけでもワクワクしちゃう。
「面白そう!読んで、読んで」
お父さんと椅子をくっつけて、並んで絵本を覗きこむ。
内容は、魔物の王に攫われたお姫様がいて、勇者や魔法使いたちが王を倒してお姫様を助け出す、というお話。魔物の王がいるお城に向かう途中にも、うんと強い魔物が出てきたりして、ハラハラドキドキして面白かった。
でも、いちばんドキドキしたのは、あるページの絵を見たときだった。
――なんと、魔法使いが杖から火を出していたのだ。
これが魔法使い! 杖から火が出るなんて、すごぉい! わたしも、杖があれば火が出せるようになるんだよね? 杖から火を出しちゃうわたし!…ふふん。
「ねぇねぇ、お父さんは魔法使いの人って見たことある?」
期待を込めた目で聞いてみる。
そんなわたしに笑いながら「お父さんも魔法は少しだけ使えるんだよ」と教えてくれた。
「お父さん、すごぉい!じゃあ、わたしも魔法使いになれる?」
さらに期待を込めた目で、そわそわしながら聞いてみる。すると、急にお父さんが気まずそうな顔になってしまった。
「魔法使いはね、貴族じゃないとなれないんだ」
「きぞく?」
「そう。貴族っていうのは、国のお仕事をしている、偉い家の人たちなんだけどね」
「うん」
「お父さんは、錬金術士っていうお仕事だから、少しだけど魔法は使えるんだ。でもね、そもそも魔法は、国から使っていいよって言われた人じゃないと使えないんだよ」
――え。魔法使いは貴族。わたし平民。
この世界には貴族がいるんだ。たしか夢では貴族が嫌だからって、わざわざ平民にしてってお願いしてたよね。それでも、女神様は魔法は使えるって言ってたはず。
あ、そっか。魔法使いじゃなくても魔法は使えるってことだよね。それに、わたしの夢は冒険者で、魔法使いじゃないからね。うん。問題ない。
あれ?でも、魔法を使うのに国から使っていいよって言われなきゃダメなの?
もっと自由に、誰でも使えるんじゃないの?
もうちょっと大きくなったら、自然に使えるようになるって思ってたけど違うの?
「魔法って誰でも使えないの?どうやったら魔法が使える人になれるの?」
「えっとね、魔法を使うためには、魔力が必要なんだけどね。その魔力がどのくらいあるのか、10歳の洗礼式のときに神殿で測ってもらうんだ」
「わたしも、10歳になったら測るの?」
「そうだよ。それでね、魔力が多い子だけが、学校に入っていいよって言われるんだ。だから、学校に行ってない人は魔法の使い方を知らないし、使ってもいけないんだよ」
ふんふん。なるほど。魔法学校ってことかな? ラノべっていうのにも出てきてたよね。それならよかったぁ。魔法の学校なんて楽しそう!
え。でも、わたしの魔力量って大丈夫なの?お父さんが入れたなら、わたしも入れるのかな。ちょっと心配になってきた。
「その学校、わたしも入れそう?」
そう聞いてみたけど、お父さんにも分からないみたい。
魔力量って、どれくらいあればいいんだろう。よく分からないけど、とにかく多いほうがいいんだよね。
わたしがもっと大きくなったら増える?それか、増やせたりするのかな。あとで前世の記憶と相談だ!
「わたしも魔法の学校に入れるといいな」
「そうだね。10歳の洗礼式までは分からないけど、学校に入るためには、文字の読み書きもできないといけないよ。お勉強できる?」
「うん!絵本もプレゼントしてもらったし、お勉強する!」
「ははっ。その勢いなら大丈夫そうだね。神殿でお勉強するための教室があるんだけど、7歳になったら通えるんだ。レティも行くかい?」
「うん、行くー!教室ってどんなとこ?」
お父さんの話によると、7歳から10歳未満の子が通える教室で、読み書きとか簡単な計算を教えてくれるんだって。
10歳になったら入れる学校もあるけど、神殿教室に通う子のほうが多いみたい。だったら、きっと色んな子がいるよね。
神殿は小さい頃から行ってるけど、教室は初めてだし、考えただけでワクワクしてきた!




