14. 寂しさと一体感と
それからの1週間は、洗濯や掃除などの家事もしながら、魔法や字を書く練習もしていた。ライトは1回増えて、日中に15回使えるようになったんだよ。夜は4回のままなんだけどね。
今日は1週間ぶりの神殿教室。いつも通りにハルトが迎えに来てくれた。
「あれから、アレクはどれくらい魔力を動かせるようになったんだろうね。楽しみだね」
「そうだね。僕も楽しみにしてたんだ」
「もう自由に動かせるようになってたら、明日は広場で魔法を使ってみるんだよね」
「うん。でも、もし動かせなかったら、魔力の練習をしてもいいよね。アレク次第だけど」
「たしかに。どっちにしても、まずは聞いてみてだね」
そんな話をしながら、神殿までの道を歩いていく。神殿で礼拝をして、教室に向かうと、まだソーニャ先生は来ていないみたいだった。
教室の中には、アデル、エラ、テオがいた。この3人は、いつも来るのが早いんだよね。ハルトと一緒に挨拶しながら入ると、みんなも返してくれる。
「何の話をしてたの?」
「それがね。わたし、教室に通うのが今月までになったの」
アデルがそう言って、残念そうにしている。わたしとハルトも驚いて、ちょっと固まってしまう。
「アデルがいなくなると寂しいわ。ここで一番の付き合いだったんだもの」
「わたしもそうよ。エラとなかなか会えなくなるのは寂しいわ」
「わたしだって! ちょっとの間だったけど、アデルは初めからずっと親切にしてくれたし、アデルがいなくなるなんて、すごく寂しいよ」
わたしがそう言うと、ハルトとテオも大きく頷いている。
「みんな、ありがとう。10歳になったら針子の見習いになるつもりだけど、それまでは時々遊びにくるから」
「うん、絶対来てね! 忘れちゃだめだよ」
「レティってば」
アデルが、ちょっと力が抜けたように笑う。でも、本当に寂しくなるな。だって、アデルってお姉ちゃんみたいな存在だったんだもん。
「まだ今月も残りはあるから、よろしくね」
「もちろんだよ!」
みんな、それぞれに声をかけ合っている。そこに、バルドとカイもやってきた。
「なんだ、なんだ?」
「バルド、おはよう。カイも。今ちょうど話し終わったところだから、みんな集まったら話すわ」
アデルがそう言うと、バルドは首を傾げながら席に座った。カイも何だろうって顔をしている。
しばらくすると、アレクもコニーも来たから、アデルが今月でやめることを話した。やっぱり、みんな寂しそう。みんなのお姉ちゃんみたいな存在で、まとめ役だったからね。
そのあと、ソーニャ先生が来て教室が始まった。今日も先週の復習と、新しい文字を習う。わたしとハルトとコニーは進み具合が同じだし、カイもそんなに変わらないんだけど、アレクはもう少ししたら全部の文字が終わりそう。
全部の文字が書けるようになったら、自分の名前や日常でよく使う単語を教えてもらうみたい。で、それも終わったら計算の勉強になるんだって。
そうなると、絵本を読むためには、お父さんに単語を教えてもらわないといけなさそうだね。普段使わないような単語が多そうだもん。全部の文字が書けるようになったら、絶対教えてもらおうっと。
教室が終わって後片付けをしたら、さっそくアレクを裏庭に誘う。もちろん、アレクもついてきてくれたよ。また3人でベンチに座って、わたしから声をかける。
「あれからどう?」
「だいぶ動かせるようになったと思う」
「体中に?」
「やると体中あったかくなる」
「それなら大丈夫そうだね。明日、ライトの練習をしてみる?」
「ん、やってみたい」
「じゃあ、また広場に2と真ん中の鐘くらいに集合だね。ハルトも大丈夫だよね」
「もちろん大丈夫だよ」
「2人ともありがとう。騎士になれるように頑張る」
「うんうん。みんなで夢を叶えようね!」
「うん、僕も頑張るよ!」
アレクもハルトもやる気いっぱいだね。もちろん、わたしだってだよ。みんなで魔法の学校に入れたらいいな。そのためにも、明日はアレクもライトが使えるように練習だね。
「じゃあ、明日ね!」
アレクと別れて、帰り道を歩いていく。この帰り道も、もう間違わないなって思えるくらいに慣れてきたんだよ。毎週通うようになったからね。だから、もう目印がなくても歩けるんだ。ふふん。
「それにしても、アデルが今月までなんて寂しくなるね。レティちゃんもそう思うよね」
「うん。なんとなく、みんなとずっと一緒だと思ってたから、びっくりしたね」
「分かる。よく考えたら、入る時期も違うから、出る時期だって違うんだろうけどね。でも、そんなこと考えてもなかったよね」
「そのうち、エラとかバルドもいなくなるのかな」
「3人とも8歳だしね」
「寂しくなるね」
「うん。新しく入ってくる子もいるだろうけど、それはまた別だからね」
「そうだね。そう思うと、なんだか不思議だよね。みんなに会えるのも、たまたま時期が重なってるってだけだもん」
「たしかに」
みんな神殿で会うだけで、近くに住んでるわけじゃないからね。仕方ないんだけど、なかなか会えなくなるのは、やっぱり寂しいね。
ちょっとしょんぼりしつつも、足は動いているから家に向かっている。お花屋さんで曲がって、ちょっと歩いたら家に着いた。ハルトと別れて家に入ると、もうお昼ごはんだ。
今日もお昼ごはんを食べたら、新しく習った字をノートに書いて、石板で練習して、それからライトも使わなきゃね。そうして、1日が過ぎていった。
次の日、ハルトと一緒に広場に向かう。もうすぐ冬も終わりだけど、やっぱりまだちょっと寒い。早く暖かくなるといいんだけどなぁ。でも、そうなるとアデルがいなくなっちゃう。
「やっぱり、アデルがいなくなるのは寂しいね」
「うん。思ったんだけど、僕たちって近所の子としか遊んだことがないから、会えなくなる子って初めてだもんね」
「たしかにそうかも。だから、こんなに寂しく感じるのかな?」
「もちろん、アデルのことが好きだっていうのもあると思うけどね」
「それは絶対あるね」
「残りの教室でしか会えないんだから、休まず行かないとだね」
「うん!」
アデルのことを思い出してしょんぼりしてたけど、今日はアレクの練習だもんね。気持ちを切り替えないと。……よし!
「今日はライトを見せて、それからアレクにやってみてもらえばいいかな?」
「うん。それがいいと思う。やっぱり見てからのほうが、使いやすいと思うし」
「そういえば、アレクって先週の練習のときにウォーターでお水を出してたから、ライトもすぐできそうだよね」
「たしかに。あとは、体がだるくなったらやめるとか、回数を数えて使うって教えてあげればいいんじゃない?」
「そうだね。それ大事だよね」
広場に着いたら、まだアレクは来ていなかったから、この前アレクが入ってきた入口のほうに行ってみる。近くのベンチに座って待っていると、アレクが声をかけてくれた。
「おはよう。今日もよろしく」
わたしたちも挨拶して、アレクにもベンチに座ってもらう。間にアレクを挟んで、さっそくライトの説明だ。
「ライトはね、家で使ってる明かりの魔道具を想像して使うんだけどね。たぶん、ウォーターみたいに実際に見せたほうが早いと思うから、やってみせるね。あ、今度はハルトがやる?」
「どっちでもいいけど、それじゃあ僕がやるね。――ライト」
明るい時間だから、ちょっと分かりにくいけど、よく見たらハルトの手のあたりが光って見える。
「えっと、アレクは光ってるの見える? ハルトの手のあたりなんだけど」
じーっと見ているアレク。すぐには見えなかったみたいだけど、少し見てたら分かったみたい。
「見える」
「よかった。じゃあ、アレクも “ライト” って呪文を唱えてみて。魔力の練習をしてたから、魔法を使うときに魔力も動くのが分かると思うよ」
「わかった。――ライト」
すぐに、アレクの手のあたりも光ったのが分かった。
「すごーい! やっぱりすぐ成功したね!」
「ね! 僕らより上手かも」
「そんなことない。2人が説明してくれたからだと思う」
「まぁ、それもあると思うけどね。でも、わたしはすぐにお水は出なかったもん。アレクだってすごいんだよ」
2人でアレクを褒めていると、アレクがちょっと照れくさそうに顔を背けた。なんだか、珍しいものを見た気分だ。
「そしたら、魔力の増やし方を教えるね。わたしもハルトも、日中は目立たないから外でライトを使ってるんだけどね。体がちょっとだるいなってくらいまで使うの。で、そのときに何回使ったか数えるの」
「うん」
「それで、夜にベッドに入ってから、もう眠くて仕方ないって感じになるまで、またライトを使うんだ。もちろん、そのときも回数は数えてね」
「うん」
そういえば、この方法って、わたしは意味があると思ってるけど、正しいかは分からないんだった。それも、ちゃんと説明しなきゃだよね。
「あとね、浮かれてて言うの忘れてたんだけど、実はこの方法が正解なのかは、わたしも分からないんだ。でも毎日やってたら、ちょっとずつ回数が増えてるから、たぶん魔力も増えてると思うんだけどね」
「なるほど」
「だから、試してみるかはアレクにお任せなの。もう魔力の練習とかやってたのに、今ごろ思い出してごめん」
「ううん。そんなことない。騎士になりたくても、魔力がなくて無理かもしれないって思ってたから、やれることがあるだけでもいいんだ」
「そっか。それならよかった」
「僕も試してみないと分からないって思ってたけど、ちゃんと回数が増えてるから、たぶん魔力も増えてると思うよ。それに、これで魔力が増えなかったとしても、もともとの自分の魔力量なだけだしね」
「たしかに。やっぱりハルトって、頭いいよね」
「そ、そうかな」
今度は、ハルトが照れている。
「ねぇねぇ。せっかくだから、ライトが何回使えるか試してみない?」
「……やってみる」
「ちょっとだるいなって思ったらやめてね」
そうしてアレクがやってみると、なんと10回もできた。わたしのときは、たしか最初は8回だったから、アレクのほうが魔力が多いのかもしれないね。
「アレクはもともと魔力が多いのかな。わたしは最初は8回だったもん」
「僕もそれくらいだったよ」
「そうなのか。でも、今の魔力の量で通るか分からないから、続けてやってみる」
「そうだね。わたしも頑張る!」
「僕も頑張るよ!」
「よーし、みんなで頑張ろう!」
わたしがそう言って右腕を上げると、ハルトも右腕を上げた。でも、アレクは何か分かってないみたいで、わたしとハルトを見比べている。
「ほら、アレクも!」
わたしがアレクの腕を掴んで上げようとしたら、ようやく何をしてるか分かったみたいで、自分で腕を上げてくれた。せっかくの仲間だもんね。
思いがけず一体感も味わえたことだし、今日はここまででいいかな?
「じゃあ、今日はもう解散にする?」
「そうだね。アレクも初めての魔法で、ちょっと疲れたんじゃない? 僕も最初は疲れたから」
「そうかも」
「うん、じゃあ解散で。アレクまたね」
「次の神殿教室でね」
「ん、2人ともありがとう」
「「どういたしまして!」」
ハルトと目を合わせて、一緒に言う。アレクはいつも、ちゃんと最後にお礼を言うからね。
なんだかおかしくなって、わたしとハルトが笑っていると、アレクも口の端が少し上がってたんだよ。なんとなく仲間って感じがして、嬉しくなっちゃった。
こんなふうに、みんなで洗礼式を笑顔で終えられたらいいな。心からそう思った。




