12. はじめての神殿教室
それからは、日中にライトの魔法を使ってみたり、寝る前にも使ってみたりした。
どれだけ魔法を使ったら魔力が枯渇するのか分からないから、魔法の回数を数えることにしてみたんだよ。これも、前世の記憶からふと出てきたんだけどね。
日中に使うときは、ちょっとだるいなーくらいで止めて、夜はもう眠くて限界…みたいなところで寝ることにしてるんだ。
最初は、日中に8回と夜に3回くらいだったけど、今は10回と4回くらいかな。
今もちょっとずつ回数が増えてるから、魔力も増えてるんだろうなと思う。たぶんね。
ハルトとも1回だけ広場で報告会をしたんだけど、わたしが回数を数えてるって話をしたら、それでやってみるって言ってた。何回できるようになってるか分からないけど、次に会うのが楽しみで仕方ないんだよね。
だって、次に会うのは神殿教室の日なんだから!
きっとハルト以外にも通う子はいるよね。どんな子がいるんだろう? それに、文字や計算を習うのも楽しみ。
そういえば、あの大きくなったぷるぷるは、もう小さくなったみたい。探してみたんだけど、いつの間にか大きいのが見当たらなくなってたんだよね。だから、たぶん小さくなったんだろうなって思って、安心したんだ。
そうして魔法の回数が12回と4回になった頃、ついに神殿教室に行く日がやってきた。
神殿教室は2と3の間の鐘から始まるから、2の鐘が鳴って少ししたら、ハルトが迎えに来てくれた。
「レティちゃん、おはよう」
「おはよう! いよいよ今日からだね。どんな感じなんだろう。すっごく楽しみ」
「ちょっと緊張するけど、僕も楽しみだったんだー」
家を出て、いつもの目印を見つけながら神殿に向かう。かばんには、買ったばかりの石筆も入っている。ちゃんと昨日のうちに準備したもんね。
「あれから、ハルトのほうはどんな感じ?」
外だから、魔法って言葉は使わずに聞いてみる。お互いに練習してるのは知ってるから、これで通じるはず。
「僕は、日中に13回と夜に3回くらいかな」
「わぁ、わたしも同じくらいだよ」
「ほんと? いつもレティちゃんのほうが進むの早いから、なんかちょっと嬉しいな」
「そうかな? 今までは、わたしが思いついて先に試してたからじゃない?」
「たしかに。それなら、これからは僕のほうが増えるかもしれないね」
「わ、わたしだって増やすもんね」
ふふんって笑うハルトに、わたしも笑って言い返す。ハルトは仲良しだけど、こうして張り合えたりもするし、いい仲間だよね。
ハルトと話していたら、あっという間に大通りに着いた。目印のお花屋さんを左に曲がったら、あとは真っ直ぐ進むだけ。念のために振り返って、帰りに曲がるところを確認してみる。
お花屋さんの向かいには、何のお店かは分からないけど、扉の横に猫の置物が置いてある。大通りからも見えるし、帰りはそれを目印にしようっと。
そこからは、神殿教室で習うことをハルトに聞く。ハルトは、お兄ちゃんやお姉ちゃんに話を聞いてるからね。それに、いくつかの文字は教えてもらったんだって。ずるいよね。
ハルトとの話に夢中で、大通りの景色がどんどん通り過ぎていく。だからか、神殿にもあっという間に着いてしまった。といっても、いつもきょろきょろしてるから、気づいたら着いてるんだけどね。
「神殿教室って、裏庭のほうだったよね」
「そうだよ。申し込みのときに見てきたから、僕わかるよ」
「あ、わたしも見たよ。たしか、裏庭のほうの入口から入るんだよね」
「そうそう。入口を確認しただけだから、中は分からないけどね」
「そうだね。あ、まだ時間あるよね。礼拝してこようよ」
「うん。今日からよろしくお願いしますって言わないとだね」
そうして、神殿の入口に向かう。神殿に向かいながら、道の脇に植えられている木を見てみると、やっぱり寂しい感じがする。春には緑でふさふさになるし、地面からはお花も顔を出すんだけどね。春になるのも楽しみだな。
神殿に入ると、いつもの通り、空の女神様の像が正面から迎えてくれる。空の日は礼拝に来る人も多いけど、今日は風の日だから少し静かな感じだ。女神様の優しいお顔を見ながら進んで、通路の左側の席にハルトと並んで座った。
――女神様、わたしは今日から神殿教室に通います。お勉強、がんばります! それから、魔法の練習をコツコツ続けるので、どうか、ハルトと一緒に魔法の学校に入れますように。
目を開けて横を見ると、ハルトも礼拝が終わったようだった。後ろに並んでいる神様たちにも、軽めにおじぎをしてから席を立つ。まわりの人たちの邪魔にならないように、そそそっと静かに歩いて出口に向かった。
神殿を出たら、裏庭に続く小道を歩いて行く。裏庭のほうに向かう人はいないから、小道には全く人がいなかった。
「あ、あそこだね」
わたしが指をさした先には、正面の入口と同じ雰囲気の木の扉があった。扉を開けると目の前は白い壁で、右側のほうに通路が伸びている。
通路を進んですぐのところに、開いている扉が見えるんだけど、あそこが教室なのかな?
「あの扉の部屋が教室なのかな?」
「あ、ハルトもそう思う?」
「うん。わざわざ開いてるしね。とりあえず行ってみよう」
近づいてみると、中から子どもの声がした。教室の子たちかな? そう思ったら、急にドキドキしてきたよ。
「き、緊張するね」
「う、うん。僕も緊張してきた」
そう言いつつも、ハルトが先に部屋の中を覗いてくれる。すると、若い女の人が声をかけてくれた。お母さんというより、お姉さんって感じに見える。
お茶にミルクを入れたような色の長い髪に、茶色の目をした、やわらかい雰囲気の人だ。
「あら。今日から入る子たちかしら?」
「そうです。僕はハルトと言います」
「わたしはレティです」
「ふふっ、ソーニャよ。よろしくね。石筆を出して、かばんをあの棚に置いたら、空いてる席に座って待っててね」
部屋に入ると、白い壁に大きな窓が1つ。日の光が差し込んでいて明るい。テーブルのまわりには棚が2つあって、本が少し並んでいる。空いているところがあるから、石筆を出したら、そこにかばんを置く。
部屋の中には、四角いテーブルが2つあって、それぞれに5つと4つの椅子が置かれている。2つのテーブルの間は、人が通れるくらいに開いていて、その間に1つだけ椅子が置いてあった。
真ん中の椅子以外のところに石板が置かれているのを見ると、もしかして全部で9人なのかな?
テーブルには女の子が2人と、男の子が1人座っていた。わたしとハルトが部屋に入ると、オレンジ色の髪に黄色の目の女の子が立ち上がって、明るく声をかけてきた。
「新しい子ね。わたしはアデルっていうの。よろしくね。席はこっちのテーブルのここに座るといいわよ。ソーニャ先生が入ってきたら始まるから」
そう言って、席をポンポンと叩いて教えてくれる。ありがとうと言いながら、そこにわたしが座り、その横にハルトが座った。
そのあとは、3人の男の子が続けて入ってきた。その3人は、すでに通っている子だったみたいで、先にいた3人と挨拶を交わしている。
そのすぐあとに、元気よく女の子が入ってきた。はちみつ色の目をきょろきょろさせて、部屋を見渡している。その子が入ってきて、ソーニャ先生が扉を閉めたから、やっぱり9人なんだね。
扉を閉めたソーニャ先生は、その子に席に座るように言って、自分も席に着いた。
「わたしはソーニャ。基本的に、風の日と土の日に教えてるの。わたしがお休みするときは、別の人がくることもあるんだけどね。これからよろしくね。では、今日から新しく入った3人に挨拶してもらおうかしら。ハルトと、レティと、コニーね」
最後に入ってきた女の子は、コニーっていうみたい。わたしたち3人は、ソーニャ先生に言われて、それぞれ名前と年齢を言って挨拶していった。
「ハルトです。7歳です。よろしく」
「レティです。わたしも7歳です。よろしくね」
「わたしはコニー。7歳よ。よろしくね」
わたしとハルトはちょっと緊張気味だったけど、コニーは全く緊張してないみたい。元気よく、にこにこと挨拶している。
それから、もともと通っていた子たちも挨拶してくれた。
「わたしはアデル。8歳よ。この中では一番長く通っているから、何かあったら聞いてね」
さっきも席を教えてくれたけど、わたしより1つ歳が上なだけなのに、しっかりした雰囲気の子だ。お姉ちゃんみたいな子は初めてで、ちょっとドキドキする。
それから次は、もう1人の女の子。真っすぐで長い黒髪に緑の目をしていて、おっとりとした雰囲気の子だ。
「わたしはエラです。アデルと同じ8歳よ。よろしくね」
そこからは、4人の男の子が順番に挨拶していった。
「俺はバルド。8歳だ。体を動かすのは得意だが、勉強はちょっと苦手だ。俺には聞かないでくれ」
ちょっとぶっきらぼうに言うバルドに、思わずといった感じで、アデルとエラがくすくす笑う。「うるせぇ」と言いながらもバルドが笑ってるから、きっと仲がいいんだろうね。
「僕はテオ。もうすぐ8歳。お店の手伝いをしてるから、計算は少しできるんだ。教えられるほどじゃないんだけどさ。よろしくね」
「俺はカイ。7歳で、少し前に入ったばっかなんだ。よろしくな!」
人懐っこい雰囲気のテオに、元気で声の大きいカイ。それから最後にもう1人の男の子が挨拶をした。
「俺はアレク。7歳。よろしく」
素っ気ない言い方で、にこりともしないアレク。さらさらの黒い髪に、深い青色の目のせいもあって、ちょっと冷たい感じに見える。これから仲良くなれるかな?
「みんな挨拶したわね。それじゃあ、始めましょうか。文字を練習する子は、この表を見ながら書いてね。今日からの3人は、説明するから少し待っててね。ほかの子たちは、この石板を見ながら書いてみてね。計算の子たちは、アデルとエラがこの問題で、バルドとテオがこの問題ね。まずは石板に写しておいてね」
どうやら、文字を練習する組と、計算を勉強する組に分かれるんだね。わたしとハルトはアデルが教えてくれた席に座ったけど、ほかの子たちもちゃんと分かれて座っていたみたい。
ソーニャ先生が文字を書いた石板と、何か記号のようなものが書かれた石板をそれぞれに渡している。
「じゃあ、3人に説明するわね。今日は3つの文字を練習するんだけど、この表のここから3つね。書き方を説明するから見ててね」
まずは1文字めの発音と書き方を説明しながら、石板に書いてくれた。書く方向が分かるように、文字の外側に矢印も書いてくれたから、すごく分かりやすい。
そうして、同じように残りの2文字も書いたら、わたしたち3人の前に石板を置いてくれた。基本的にはお手本を見ながら、各自で練習するみたい。
「分からないところがあったら聞いてね」
ソーニャ先生は、ほかの文字組の子たちにも発音を教えてから、計算組のテーブルに向いて教え始めた。
「文字ってこんなにあるんだねー」
文字が書かれた木札には、たくさんの文字が並んでいる。わたしがそう言うと、コニーも頷いた。
「ねー。こんなに覚えられるかなぁ」
「とにかく、1文字ずつ覚えていくしかないよ」
そんなことを言い合いながら、石板に書いて練習する。だいぶ書き慣れてきたから、次の文字を練習しようかなと思って気がついた。そういえば、消すものって買わなかったし、何も持ってこなかったけど、何で消すんだろう?
そう思って、まわりの様子を見ていると、向かいに座っているアレクがひょいっと布を差し出してきた。
「ん」
それしか言わなかったけど、意外と優しいんだなって思った。挨拶のときは冷たそうに見えたけど、おしゃべりが得意じゃないだけなのかも。
「ありがとう」
渡してくれた布を使って、石板をきれいにする。そうやって文字を練習していると、3と真ん中の鐘が鳴った。あっという間に終わりの時間になってたみたい。
「今日はここまでね。それじゃあ、石板をきれいにしたら、使った布を洗いましょう。石板は棚に戻してね。そしたら今日は、バルドとテオ、カイ、アレクが掃除をしてくれるかしら」
ソーニャ先生が尋ねると、名前を呼ばれた4人が返事をした。
「それじゃあ、よろしくね。アデルとエラは、ハルトたちと洗い場に行って教えてあげてね」
なるほど。自分たちで使ったものは、自分たちできれいにして帰るんだね。わたしたちは布を持って、アデルについて行く。
洗い場はわりと近くにあって、ここにも水が出る魔道具があった。桶にお水を溜めて、布をじゃぶじゃぶ洗う。
うぅっ、お水が冷たいっ。
「お水が冷たいね。今度はあったか石を持って来ようかな」
「あぁ、あれね! レティちゃんからもらってすぐに、お母さんが使ってたけど、お水がぬるくなってすごく助かるって言ってたよ」
わたしとハルトがそんな話をしていると、興味を持ったのか、女の子たちが「なになに?」と聞いてきた。きっと、みんな家でも洗いものをしてるんだね。
「この前お父さんが作った魔道具なんだけど、あったか石って言ってね。桶のお水を少しぬるくする魔道具なんだよ。持ち運べるし、すぐにぬるくなるから便利なの」
「そんな魔道具があるんだ。知らなかったー。レティが今度持ってくるなら、見てみたい!」
アデルが興味津々な様子の横で、エラとコニーも頷いている。これって、ちょっといいアピールになるかも!
「お父さんに聞いて、いいよって言われたら持ってくるね」
女の子たちに期待の目で見られて、なんだか照れくさくなる。おしゃべりしているうちに、布はきれいになった。
「こっちに干すところがあるの」
アデルが案内しながら、いろいろ教えてくれる。いつも半分の人数に分かれて、掃除と洗いものを分担してるんだって。それから、教室が終わったら、裏庭で少し遊んで帰ってもいいみたい。
「それは楽しそうだね!」
「レティは遊んで帰るの? わたしとエラは、いつもそのまま帰ってるんだけどね」
「今日は急だから、やめておこうかな。ハルトはどうする?」
「そうだね、今日は帰ろうかな。コニーは?」
「わたしも、今日は帰ろうかな」
結局、洗いもの組はみんな、そのまま帰ることになった。布を干して教室に戻ると、ちょうど掃除が終わって、バルドたちが遊びに出ようとしているところだった。
「今度遊ぼうね!」
そう言い合いながら、みんなとお別れする。
はじめての神殿教室だったけど、思ってた以上に楽しかったな。みんな仲良くしてくれたし、文字の練習だって楽しかったもん。
帰り道も、ハルトとそんなことを話しながら歩いた。それでも話し足りなくて、家でもお父さんにいっぱいお話したくらい。
午後からは、今日習った文字をノートに書いたり、石板で練習したりしてたんだけど、それも楽しかったんだよね。次の神殿教室も今から楽しみ!
なぜか “あったか石” の宣伝まで入って長くなりました。




