1. 転生は駅のホームで
「ここ、どこだろう?」
透き通ったように感じる静けさのなか、瞼にそっと触れる明るさにつられて目を開けてみると――そこは駅のホームのようなところだった。いつの間にか、わたしはベンチに腰掛けていたらしい。
まず目に映ったのは、白い地面が途切れた先にある左右に延びた線路で、その向こうに見える壁も白いからか、窓もないのに明るい。
風もなく、静かすぎるせいだろうか。やわらかい光の揺らめきは優しいのに、どことなく心細い気がする。
ふと視線を下げると、白いワンピースが目に入った。これが死に装束なのだろうか。
寒さも暑さも感じないが、薄手のワンピースに裸足とは、ちょっと心許ない感じがする。
しばらくぼーっと座っていたが、意識がはっきりしてきたので、左右を見渡してみた。すると、遠くのほうは靄がかかっているようで、白い地面の両端も線路の先も見えない。
見上げてみれば頭上には看板があるが、駅名が書いてあるはずの部分は空白だった。
目を開ける前――わたしは病室のベッドの上にいて、家族に最期の別れを告げていた。
独身のわたしが若くして亡くなることを、両親も姉も悲しんでいたけれど、わたし自身は達成感に満ちていた。だからこそ、家族にはありったけの感謝を伝えることができたし、神様にも感謝しながら息を引き取れたんだと思う。
カウンセラーとして色んな人と向き合えたこと。そのおかげで自分自身の心も軽くできたこと。神様のお話が好きで、ご祭神のお話を調べては神社にお参りに行ったこと。旅行が好きで、自由に行きたいところに行ったこと。異世界もののライトノベルが好きで読みまくったこと。
思い返してみても、自分の人生を心穏やかに楽しむことができたという満足感に満たされている。
「もしかしなくても、ここって死後の世界だよね」
誰に確認するでもない呟きが、静まり返った空間に吸い込まれていく。あの世に行くには三途の川を渡るものだと思っていたが、違ったのだろうか。
生前のわたしは、神様や仏様の本も読んでいたし、転生もののライトノベルも好きだったから、輪廻転生はあると信じていた。だからこそ、怖れや不安があっても、人生を終えることにはそれほど抵抗がなかったように思う。
「でも、駅のホームだとは思わなかったよね」
あたりを見ながら、ふと思った。
輪廻転生というのは、今の人生としての終着駅に到着したら列車から降り、また別の列車に乗って次の人生が始まる、というふうに捉えていたせいだろうか。わたしのイメージが具現化したような不思議な空間に、なんだかワクワクしてしまう。
「ここが終着駅で、次のわたしの始発駅なのかな」
次のわたしは、どんな人生がいいんだろう?そんなことを考え始めて、はたと気がついた。
ここ、無人駅。
――いや、待って。
人生を振り返ったりしてる場合じゃないよね。ちょっと目覚めてぼーっとしてたからって、のんきすぎたかも。
ここが死後の世界だとしたら、案内人とかはいないのだろうか。少し焦った気持ちになったところで、ふいに足音が聞こえてきた――。
⊹ ⊹ ⊹
足音がしたほうに顔を向けると、すぐ近くに女の人が立っていた。まだ少し距離があると思っていたから、びっくりして思わず二度見してしまう。
驚きが勝ったせいですぐには気づかなかったが、すごく綺麗な女性で、なんだか輝いているように見える。
もしかして、転生の女神様?
そうは思っても、咄嗟には言葉が出ない。そんなわたしに構わず、女神様?は優しい笑顔で話し始めた。
「あなたは、ひとつの生を終え、この場に辿り着きました。それは自覚していますか?」
「は、はい」
慌てて立ち上がりながら返事をするが、なかなか頭が働いてくれない。落ち着け、わたし。ふぅ。
呼吸を整えようとして、息を引き取ったのに呼吸できるの?と、どうでもいいことが頭に浮かんできた。そんなことを考えられるくらいには、頭が働き始めてくれたようだ。
「今のあなたの魂には “心残り” という不純物がありません。それは、あなたがそうなるように努力した結果でしょう。忘れているかもしれませんが、生まれる前には皆、その生でやりたいことを決めています。あなたは、それを達成して生を終えたのです」
なるほど。息を引き取る前に感じていた達成感は、そういうことだったんだ。わたしは深く頷いて答えた。
「たしかに、なんとも言えない達成感が湧き上がっていました」
「実は、あなたのように心残りがない状態で生を終えることはほとんどありません。多くは、その不純物を整理するのに相応の時間がかかります。ですので、あなたのように、すぐに次の生に乗り換えることができるのは珍しいのです」
だから迎えが遅れたのではないのですよ、そう言って微笑み、次の生についての希望を問われた。
「どんな世界に生まれたいですか?」
そう言われて頭に浮かぶのは、ライトノベルの世界だ。たくさんの物語を読んでいたから、転生といえばラノべ、というくらいには馴染みがある。
魔法がある世界がいいけど、そんな世界って本当にあるのかな?
できればラノべみたいに、魔法を使える冒険者になる、これが一番やってみたいんだけど…とりあえずダメもとで聞いてみよう。
「魔法が使える世界ってありますか?」
「えぇ、ありますよ」
やったぁ。そんな世界で冒険者になれたら、きっと自由に世界を旅することもできるよね。あ、ラノべ的な貴族のあれこれは面倒だし、平民生まれ一択で。よし。
「それはよかったです。わたしの希望としては、魔法が使える世界で平民として生まれ、冒険者になって自由に色んなところに行きたいです」
「そうですね。魔法が使える世界で平民として生まれる、というのはできますが、冒険者になれるかはあなた次第になります。それでもいいですか?」
たしかに。それは、そうだよね。生まれたあとは、本人の選択や行動によって決まるもんだしね。
それに、絶対こうなる!みたいな強制感があると、かえって苦しそうだし。
「もちろんです。冒険者というのは、新しいわたしが選択するかどうかにもよりますし、実現できるように努力するのも自分だと思います。実現可能な世界というだけで大丈夫です。ありがとうございます」
「それでしたら、魔法のある世界に平民として生まれる、ということにしましょう。ほかに希望はありますか?」
えっ。まだ希望を聞いてくれるの?
「できれば少し考えたいのですが、お時間をいただいてもよろしいですか?」
「えぇ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
すでにかなりテンションが上がる結果なんだけど、ほかにあるかなぁ。
結婚してみたいとか?いやいや、これは女神様にお願いすることじゃないよね。
ピアスを付けてみたいと思ったこともあったけど、それは文化にもよるし、自力でできることだもんね。これも却下で。
空間魔法とか便利そうだけど、そこまでお願いすると図々しいよね。うーん。
そういえば、記憶ってどうなるんだろう。知識が引き継げるとしたら便利そうだよね。
でも、ラノべにあるみたいに記憶を思い出したら前の人格になるとか、精神年齢が大人になるとかは嫌だなぁ。次の人生でまた今のわたしをやるなんて面白くないし、次のわたしを楽しみたいもんね。よし、聞いてみよう。
「ひとつ質問してもよろしいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「今のわたしの記憶を、次のわたしに引き継ぐことはできますか?記憶のせいで人格が今のわたしになったり、精神年齢が急に大人になる、なんてことがないのでしたら引き継ぎたいのですが、いかがでしょうか?」
「そのようにすることは可能ですよ。ただ、魂は同じなので、今のあなたの性質も受け継いでいますし、全くの別人ということにはなりませんけれど」
「それはもちろんです。今のわたしとして新しい人生を生きるのでは勿体ないと思っただけなので、記憶が知識のように引き継げるのでしたら嬉しいです」
そう答えたわたしに、女神様は笑みを深めながら「何歳で思い出すようにしたいですか?」と聞いてくださった。
す、すごい。こんなに細かく希望を聞いてもらえるなんて。
専門じゃないから詳しくないけど、脳の発達を考えると7歳くらいがいいのかなぁ。潜在意識の本も読んだことがあるけど、たしかそれくらいまでに人格のベースができあがるはず。
新しい人生なんだから、新しいわたしで新鮮な体験をしたいもんね。それに、試行錯誤するのも面白いだろうし、成長の過程だって楽しみたいし。
「7歳で思い出すようにしてもらいたいです」
「いいでしょう。それでは、あなたの望みが最大限に叶いそうな世界に転生できるようにしましょう」
「ありがとうございます」
ガバッと頭を下げてお礼を述べたわたしに、女神様は「ぜひ成長の過程も楽しんでくださいね」と仰った。
――あれ、わたし口に出したっけ?
そう思っているうちに、ふっと瞼が落ちていった。
はじめて小説を書いてみました。
なろうも初心者ですが、楽しんでいただけると嬉しいです(*' ')*. .)




