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魔獣出現で都市国家化して魔法少女戦国乱世!!?  作者: 山田衛星


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第5話

この物語はフィクションであり実在の存在とは一切関係ありません。



 俺は自室のベッドで、電脳の配信画面を見ながら、冷や汗をかいていた。


 ——マジかよ。


 画面には、狐の面を頭に乗せた魔法少女が、ニコニコしながら立川駅前を歩いている。「八王子から来ました」とか言ってる。変身した姿。間違いない、魔法少女だ。背中の影の翼が、ゆらゆらと揺れている。


 しかも、目的が最悪だ。


「先日、駅前で熊型魔獣を倒した子」


 ——俺じゃん。


 コメント欄も盛り上がってる。視聴者数も凄い勢いで増えてる。20000人以上が見てる。こんなに目立ったら、最悪、俺の住所まで特定されかねない。


「もしかして、このへんに住んでるのかな〜」


 画面の中で、魔法少女イヅナと名乗った少女が、商店街の奥へと進んでいく。


 ——なんか、俺の家の方向だ。


 電脳の地図を開く。配信者の現在地がリアルタイムで表示される。青い点が、じわじわとこっちに近づいてくる。駅から俺のマンションまで、徒歩10分もかからない距離。


「……は?」


 なんでこんなにピンポイントで?


 ——もしかして、あの魔法少女、追跡能力に特化してるのか?


 魔法少女イヅナ——飯縄権現の特性? そういえば、飯縄使いは索敵や追跡に長けていると聞いたことがある。まさか、それか。


 地図上の青い点が、さらに近づく。2ブロック先。1ブロック先。


「……チッ」


 理由はどうでもいい。逃げるしかない。


 俺は黒縁メガネをかけたまま、紺色のフリースを羽織って部屋を飛び出した。階段を駆け下りて、裏口から商店街とは反対方向へ全力で走る。


 画面の中で、イヅナが笑顔で話し続けている。


「このへん、いい感じの住宅街だよね〜。もしかって、もうすぐ会えるかな?」


 ——会えねえよ。絶対に会わねえ。


 配信画面では、コメント欄が大騒ぎになっている。


『イヅナちゃん、マジで本気だw』

『立川の子、逃げてー!』

『でもこれ、逆に会いたくなるわ』

『続きが気になる』


 そして——


「あれ? なんか、気配が遠ざかってる?」


 画面の中で、イヅナが首を傾げた。


「もしかして、逃げた?」


 コメント欄が爆発する。


『逃げたwwww』

『立川の子、ガチで逃げたwwww』

『これは追いかけるしかない』

『イヅナちゃん、追えー!』


 イヅナは、ニヤリと笑った。


「じゃあ、追いかけよっかな」


 背中の影の翼が大きく広がり——彼女は空中へと跳躍した。


 俺は全力で走りながら、心の中で叫んだ。


 ——マジかよ!!!


 後ろから、ヒュンという風切り音が聞こえた。振り返る余裕もない。電脳の地図を確認すると、配信者の位置がぐんぐん近づいてくる。距離が縮まってる。マジで速い。あの翼、ただの飾りじゃないのか。


 俺は必死で住宅街を駆け抜ける。曲がり角を曲がって、また曲がって。でも、上空から追われてる以上、意味がない。完全に捕捉されてる。


 そして——俺はようやく、路地裏の影に滑り込んだ。ゴミ置き場の陰。薄暗い空間。スマホの画面を見る。魔法少女イヅナは上空で旋回している。少し離れた位置だ。


 画面の中で、彼女が何かを操作した。


「はーい、みんなありがとね〜。ここからは配信なしで行くから、終わりまーす」


 コメント欄が悲鳴を上げる。


『えーーー!!』

『続き見たい!!』

『ここで切るのー!?』


 配信が終了した。


 ——今だ。


 俺は意識を集中させて、変身する。黒い翼が側頭部から展開され、服装が魔法少女の姿に変わる。


 瞬間移動で逃げる。一度行ったことのある場所——立川駅の反対側、南口の公園。いや、もっと遠く。多摩川の河川敷。いや、いっそのこと関西まで——


 瞬間移動を使う直前——


心穿しんせん!」


 心臓を、何かが貫いた。


 いや、違う。貫かれたわけじゃない。でも確かに、心の奥底を何かが穿った。見えない何かが、俺の意識の深層に触れた。


 ——!?


 時が止まったような感覚。気付くと、さっきまで後方にいたはずのイヅナが、目の前にいる。狐の面を頭に乗せて、片手を俺に向けている。影の翼が大きく広がって、彼女の周囲に淡い狐火が揺れている。


 飯縄の心術!?


 俺の意識が一瞬、揺らいだ。再び意識を集中させて、別の場所を思い浮かべる。景色が切り替わる瞬間——


 また、心を穿たれた。


 全く同じタイミング。瞬間移動の発動と、心穿の着弾が完全に重なった。


 ——まずい!


 空間が歪む。座標がずれる。思い描いていた場所じゃない、どこか別の——


 次の瞬間、俺は地面に倒れ込んでいた。


 硬い石畳。冷たい感触。視界には、見上げるほど巨大な杉の木。幹の太さは数メートルはあるだろう。枝が天に向かって広がり、葉が風に揺れている。


 変身が解けている。黒縁メガネをかけた、ツインテール姿。普段着のTシャツとホットパンツ。紺色のフリース。


 ここは——神社?


 なんで? 俺、ここに来たことないのに。瞬間移動は一度行った場所にしか跳べないはずなのに。


「……っ」


 体が動かない。力が入らない。心穿の影響か、瞬間移動の失敗のせいか。頭がぼんやりして、意識が遠のきそうになる。


 そして、俺のすぐ隣に、ドサリと音を立てて誰かが倒れ込んだ。


 黒髪ロングの美少女。白っぽいパーカーにスキニージーンズ。ギャル系の格好。淡い朱色のネイル。


 魔法少女イヅナの変身が解けた姿。


 彼女も同じように、地面に倒れ込んでいる。息を切らして、苦しそうに顔を歪めている。


「……なに、これ……」


 彼女の声が震えている。彼女は地面に手をついて、ゆっくりと顔を上げた。そして、俺を見た。


 ——時が止まった。


 彼女の瞳が、俺を捉える。驚きと、困惑と、それから——何か別の感情。言葉にできない、複雑な色が混ざっている。


 俺も、彼女を見つめ返していた。言葉が出ない。どう反応していいか分からない。


 千年杉の枝の間から、夕陽の光が差し込んでいる。オレンジ色の光が、彼女の黒髪を照らして、まるで後光が差しているみたいに見えた。風が吹いて、髪が揺れる。


 しばらくの沈黙のあと、彼女がゆっくりと立ち上がった。俺も何とか体を起こして、千年杉に背中を預ける。


「……ここ、飛ばされちゃったんだ」


 彼女の声は、静かだった。配信中の明るいトーンとは全く違う。素の声。


「私の神社。飯綱神社。この千年杉が、私の力の源」


 彼女は杉の幹に手を当てて、目を閉じた。


「心穿——心の奥底を見る術。千年杉の力を借りて、使ってる。アンタの瞬間移動に干渉しちゃったみたい。それで、座標がずれて……ここに来ちゃった」


 俺は黙って聞いていた。彼女は目を開けて、俺をまっすぐ見つめた。


「アンタ、すごく強い」


 彼女は一歩、近づいてくる。


「なんで、隠れてるの? なんで、誰にも知られたくないの?」


 俺は視線を逸らした。答えたくない。答える理由もない。


「……アタシはさ」


 彼女は千年杉の幹に背中を預けて、隣に座った。俺との距離は、ほんの数十センチ。


「元は三郎って名前だった。29歳の神主。この神社を守ってた。世界が壊れて、気付いたらこんな見た目になってた」


 ——は?


 俺は思わず、彼女を見た。彼女は笑いながら、空を見上げている。


「信じられないよね。でも本当。アタシ、オジサンだったんだよ。29年間、男として生きてきた」


 彼女は自分の手を見つめて、淡い朱色のネイルを確認する。


「最初は、戸惑った。でもさ——」


 彼女は俺を見た。笑顔のまま、でも目は真剣。


「アタシはさ、周りのみんなを見捨てたくないんだ。見た目ギャルっぽいし、ちょっと意地悪なこと言ったりもするけど。困ってる人がいたら放っておけない。それがギャル根性ってもんっしょ」


 風が吹いて、千年杉の葉が揺れる。静寂の中、彼女の声だけが響く。


「……ここは、私の大切な場所なんだ。この杉が、アタシを守ってくれてる。力をくれてる。だから、ここに来てくれたのも、何かの縁だと思う」


 彼女は俺を見た。距離が、近い。吐息がかかりそうなくらい。黒髪が風に揺れて、俺の頬に触れる。


 彼女の視線が、一瞬だけ俺の顔をじっと見つめる。何かを確かめるように。そして、ふっと視線を逸らして、小さく笑った。


「……アンタ、面白い顔してるね」


 ——は?


「黒髪ツインテのちょっとイキったメスガキなのに、根が真面目っぽくて黒縁メガネ。なんかギャップがすごい」


 彼女はそう言って、また笑った。でも、その笑顔の端に、ほんの少しだけ赤みが差している気がした。


 ——やばい。この感覚、なんだ?


「……名前、なんていうの?」


 彼女が聞いた。


役野小角えんのおづの


「小角ね。覚えた。アタシは葛葉くずのはいづな」


「……いづな」


 俺は小さく呟いた。彼女は笑って、また千年杉を見上げた。


「……私も」


 俺は小さく呟いた。


「俺も、おっさんだよ。50歳」


 彼女は一瞬、目を見開いた。そして——大笑いした。


「マジで!? アンタも!? しかもアタシよりずっと年上じゃん!」


「……なんだよ、これ」


「ホントだよね。おっさん同士、魔法少女やってるとか」


 彼女は笑い転げて、涙を拭う。俺も、つられて笑ってしまった。千年杉の下で、夕陽に照らされて、俺たちは笑い合った。TS同士の、妙な連帯感が生まれた瞬間だった。




何卒、応援のほどお願いいたします。

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