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修験道の開祖の大天狗の魔法少女は元50歳のおじさん!? 旧)魔獣出現で都市国家化して魔法少女戦国乱世!!?  作者: 山田衛星


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第20話 秩父編③

この物語はフィクションであり実在の存在とは一切関係ありません。



 日が傾きかけたころ、境内に黒い影が落ちた。

 ふわり、と降り立ったのは、狐面を頭にのせた黒装束の魔法少女——いづなだ。普段の軽さは影を潜らせたように消え、目だけが鋭く研ぎ澄まされている。


「小角、颯さん。状況は?」


「最悪かも」


 俺は一拍の迷いもなく返した。


「マジでそのレベルなんだね」


 いづなが眉を寄せると、颯が短く頷いた。


「異界の深層で、魔法少女が捕らわれてる。侍女たちの怨念が龍を形成して、その力でかすみの霊力を吸い上げてる」


 説明は最小限。それでもいづなはすぐ理解したようで、面の下で息を吐いた。


「……まあいいや。アタシの“心穿しんせん”なら、空間がどれだけ歪んでようが、心の位置だけは誤魔化せないから」


 颯が俺を見る。いづなが一歩踏み出す。

 ここからが本番だ。


「行くぞ。次こそ、かすみを連れ戻す」


◇ ◇ ◇


 社殿奥の裂け目を越えた瞬間、空気が変わった。


 世界が反転するように、目の前の景色が暗転する。そこは渓谷でも神社でもない——冷たく湿った“心のほら”だった。


 削れた岩壁が幾重にも折り重なり、無数の通路が分岐する。壁の影は時折ひそひそと動き、人の形をしている。侍女……いや、侍女たちの“断片”か。


「ここ、桔梗姫と侍女たちの“記憶の層”だよ」


 いづなが手で闇を裂くように進む。


「記憶……?」


「うん。追手に囲まれたときの恐怖、逃げられなかった後悔、生きたかった気持ち……全部が混ざって、道になってる。こういう迷宮ラビリンスは、心を視る系統じゃないとまともに歩けない」


 いづなの軽い説明に、颯がわずか目を細めた。颯にはたぶん『追跡+心穿』の本当の核心は伝わらない。それでいい。いづな自身も説明する気はない。


「来て。かすみの座標、もう掴んでる」


 頼りになるのに、絶対に弱みを見せない性格。

 だからこそ、こういうときのいづなは信頼できる。


◇ ◇ ◇


 迷宮は呼吸しているようだった。壁が動き、足元が沈み、影の指先が服を引っ張る。悪意ではなく、怯えと混乱が形になっている感じだ。


「……あんま触るなって……!」


「小角、落ち着きなって。これは“拒絶”じゃなくて“助けて”って手だよ」


「マジかよ……重いな」


 いづなが迷いなく進むたびに、迷宮の影は道を開けた。——そんなときだ。前方の闇が一瞬、脈打った。次の瞬間、咆哮が迷宮全体を揺らした。


 ゴォォォォォォォォォッ‼


 巨大な龍が通路をぶち破って出現し、俺たちに牙を剥く。輪郭は赤い光の筋で形作られ、身体は侍女たちの怨念が固まっているせいで不完全なのに……力強い。


「来た!」


 颯が前に出る。雷光が刃を包み込む。


螺旋風洞スパイラル・ダクト!」


 俺は風の渦で龍の進行を逸らす。


 颯が雷の残光を引きながら飛び込み、首元へ一閃。——が、龍の頭は影の集合体。弾けてもすぐ再生する。


「やっぱ再生早ぇ……!」


「いづな、先行して!」


「了解!」


 いづなが影に溶けるように駆け、奥の通路へ滑り込む。龍が追おうとするが、颯が暴風壁を構築し、俺がそこから風の刃を撃ち込む。


「行けっ、小角!」


「颯さん、ごめん、後は任せた!」


 颯が頷く。雷光が爆ぜ、龍の注意を引きつける。俺はいづなを追う形で駆け抜けた。


◇ ◇ ◇


 迷宮の最深部——そこは“心の間”だった。


 中心には、白い光に包まれた二人の少女。


 一人は、紫の巫女装束を纏い、儚い表情で腕を広げる桔梗姫。

 もう一人は、銀の修験者装束の山守かすみ。彼女の周囲には、白く細い“手”が何本も絡みついている。怨念ではない、未練の形。


「……かすみさん……!」


 俺が呼ぶと、桔梗姫がこちらを見た。泣きそうで、でも必死に踏ん張っている。


「この子を……助けてください……。でも、私は……もう……」


 桔梗姫の身体から黒い霧が立ち昇っていた。未練を抑え続けていた“心の核”が、限界に近い。


 そのとき——後方の壁が破裂し、龍が飛び込んできた。


「させない……っ!」


 桔梗姫が残った力を振り絞って結界を張る。紫の光が龍を弾き返すが、桔梗姫の足は震えている。あとがない。


「いづな!」


「分かってる!」


 いづなが両手を胸の前で組み、心術を放つ。かすみの心を奮い立たせる。


 空気がひび割れたように揺らぎ、白い手が一瞬たじろぐ。その隙に俺が修験の力で次々と手を祓い落としていく。光の粒が舞い散り、かすみの身体が少しずつ自由になっていく。


「かすみ……さん! 戻ってきて!」


「もう少し、意識が戻る……小角、続けて!」


 かすみのまぶたが震え、ゆっくりと開く。


「……ここ……どこ……?」


「大丈夫! 助けに来たから!」


 最後の一本を祓い落とすと、光が弾けるように散り、かすみの身体が崩れるように俺の腕へ落ちた。


 かすみは震える声で言った。


「……ありがとう……」


 その瞬間——。


 迷宮全体が激しく揺れた。壁が崩れ始め、天井が砕け落ちる。

 桔梗姫の身体から吹き出す黒い霧が、濁流のように空間を侵食していく。


「……もう……抑えられない……っ……」


 桔梗姫の瞳が、絶望で濁っていく。

 侍女たちの未練と、彼女自身の苦しみがひとつに溶け、制御不能に暴走していく。


 黒い影が渦を巻き、龍の身体を再構築し始める。さっきの不完全な龍とは違う——“完全な龍”になりかけている。


「やば……これ、外に出たら……!」


「小角!」


 颯が瓦礫の向こうから走り込んできた。雷光をまとったまま、息が荒い。


「桔梗姫の抑制が……切れかかってる……!」


「颯さん、撤退ルートは?」


「崩れた! この層ごと……突破するしかない!」


 黒い龍の咆哮が空間を裂いた。


 桔梗姫は涙のような光を流しながら、最後の理性で叫ぶ。


「逃げて……早く……!」


 いづなが奥歯を噛みしめる。


「このままじゃ……姫様ごと、全部呑まれる……!」


 迷宮が完全に崩れる前に、出口をこじ開けなきゃいけない。颯は雷光を集中し、俺はかすみの腕を掴む。


 崩壊の中心で、黒い龍がついに形を成す——。


 迷宮全体が崩れ、黒い龍が完全な輪郭を成そうとした瞬間——空間が音もなく「ひび割れ」た。


「小角、いづな、掴まれッ!」


 颯の叫びが響く。俺はとっさにかすみを抱え込んだ。だが、迷宮の崩壊は容赦なく加速する。天井が砕け、壁が崩れ、そして——黒い濁流が一気に流れ込んできた。


「うわっ……!」


 視界が暗転する。激流に巻き込まれ、身体が押し流される。浮遊感と回転、上下の感覚がめちゃくちゃになる。黒い水が視界を覆い、耳の奥で桔梗姫の悲鳴が響く。龍の暴走する咆哮が、水中でも伝わってくる。


 ——やばい、このままじゃ……!


 俺は必死にかすみを抱きしめたまま、黒い翼を広げようとした。でも、水流が強すぎて翼が開かない。いづなも颯も、濁流の中で姿が見えない。


 そのとき——足元から巨大な"何か"が急浮上してきた。


 黒龍だ。


 龍の巨体が深い水中から一気に昇ってくる。その勢いに巻き込まれて、俺たちの身体も引きずられるように浮き上がる。水圧が耳を打ち、肺が圧迫される。息ができない。視界が白く霞む。


 次の瞬間——


 ドゴオオオオオオオオオオッ!


 爆音とともに、龍が水面を突き破った。


 俺たちもその勢いで空中へ放り出される。強烈な光が目を刺し、冷たい風が頬を叩く。身体が宙に浮き、重力が消える。


「っ……!」


 反射的に黒い翼を展開させた。翼が風を捉え、空中で姿勢を立て直す。かすみを抱えたまま、なんとか浮遊飛行に入る。視界がようやくクリアになって、周囲を確認する。


 颯も雷光をまとって空中に浮いていた。息を切らし、髪が水で濡れている。少し離れた場所で、いづなも影の翼を広げて浮かんでいる。狐の面がずれて傾いていて、肩で息をしている。


 ——全員、なんとか無事だ。


「……ここ……浦山ダム……?」


 颯が激しく肩で息をしながら呟いた。


 俺も周囲を見渡す。目の前に広がるのは——秩父さくら湖。夕暮れの光が水面を薄赤く染めている。静寂が支配していたはずの湖が、今は荒れ狂っている。水しぶきが何度も何度も湖面に叩きつけられ、まるでどしゃ降りの雨が降り注いでいるみたいに、激しい水音が響き続けている。


 そして——


 俺は息を呑んだ。


 湖面から、巨大な"黒龍"が身体を持ち上げている。


 見えてる部分だけで百メートル以上はあるだろう。濃い怨念の霧をまとい、鱗のひとつひとつが黒く光っている。目だけが赤く光り、まるで血のように鮮烈だ。"桔梗姫の龍"。その頭部に、小さな人影が立っている。


 桔梗姫だ。


 でも、先ほどまでの儚い面影はほとんど残っていない。


 あれは——


「……狂化きょうかしてる……完全に自我を失ってる」


 いづなが震える声で言う。


「あの龍が、街へ向かったら……」


「秩父市街、全部持っていかれるな……!」


 颯が雷を身にまとい、すぐにでも飛び出そうとする。

 そして、その瞬間、電脳のLIVE配信が自動で中継をはじめた。


 映っているのは——桔梗姫の魔法少女形態。ただし、狂化した“血色の魔装”。


 真紅の着物が破れ、黒い龍鱗の鎧が肌を覆い、瞳は完全に赤い光に染まり、桔梗姫の声とは思えない低音で、言葉を吐く。


『——逃ゲラレヌ……逃ガサヌ……九十九ノ怨、今コソ成就ス……』


 その声が、全世界の電脳に同時中継されている。


【LIVE:怨念龍降臨 in 秩父さくら湖】

――――――――――――――――――

・視聴者数:35,200 → 91,800 → 181,000……

・コメント速度:暴走中

――――――――――――――――――


 『え、秩父で何起きてんの!?』

 『さくら湖って市街地近いよね?やばくね?』

 『てかこの配信、誰が流してんの!?』

 『ゲート出現時以外も自動配信あんの? バグ?』


(桔梗姫の姿がアップで映る)


 『えっ……え、顔きれいだけどこわ……』

 『目赤い……これ狂化系?最近の悪堕ち魔法少女こうなん?』

 『動き方が人間じゃないってばよ』

 『どこのVtuber新衣装?とか言ってる場合じゃないw』


(桔梗姫『逃ゲラレヌ……逃ガサヌ……九十九ノ怨……』)


 『音圧やばっ!?イヤホン死んだ』

 『地元民だけど、九十九って……神社のやつ……?』

 『九十九神社なら、これ……桔梗姫なのか……?』

 『桔梗姫って茨城じゃねぇの??』


(龍姫が咆哮、波しぶきが画面を覆う)


 『湖割れた!?w』

 『秩父の地形がまた変わるやつか!?』

 『桔梗姫、完全に理性飛んでる……』

 『これ地獄の始まりってやつ?』



「嘘だろ……桔梗姫が……LIVE配信に……!?」


 颯が愕然とする。


「これ……配信の発信元……湖の中心だよ」


 いづなが震える指で湖を示す。


 確かに、湖中央の辺りから、黒い光が時折パルスのように放たれている。あれは“電脳干渉”だ。龍と姫の狂化に誰かの呪が混じっている証拠。


 迷宮で見えた黒い影。

 桔梗姫を狂化させた外部の“呪風”。

 全部が繋がる。


 湖の黒龍がこちらを振り向いた。赤い瞳が、まっすぐ俺を射抜く。狂化した桔梗姫の魔法少女(龍と姫)が、俺を“標的”として認識した。


「小角……逃げろ!」


「無理だよ。完全に狙われてる!」


 湖面が割れ、黒龍が空へと飛び上がる。そのスケールは、もはや一般の魔法少女が戦う範疇を超えている。


 颯が雷光をまとって飛び出すが、龍の尾の一撃だけで堰堤に亀裂が走った。


「ッ……とんでもねぇ化け物じゃねえか!」


「桔梗姫じゃない……もう“別の何か”だよ……!」


 いづなも声を失って震える。


 そして—— 黒龍の背後の空に、黒い“羽根の影”がはためいた。

 山の向こうから、嘲笑うような声が響く。


『——もっと怒れ、桔梗。 この世は残る価値など、何もないのだ』


 俺の胸の奥底が沸騰するように熱くなる。


 黒龍が咆哮し、湖面が一瞬で荒れ狂った。もはや逃げ場も猶予もない。次に来るのは——確実に“破壊”だ。




何卒、応援のほどお願いいたします。

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