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魔獣出現で都市国家化して魔法少女戦国乱世!!?  作者: 山田衛星


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第10話

この物語はフィクションであり実在の存在とは一切関係ありません。



 多摩の朝は、やけに静かだった。


 俺は自室のベッドに座り込んで、電脳の地図とにらめっこしていた。23区の北東域——足立、葛飾、江戸川。そこに行くには、まず俺が「行ったことのある場所」へ飛ばなきゃいけない。瞬間移動の制約だ。


 地図上に、俺がこれまで行った場所を思い浮かべる。品川、愛宕、汐留。神田。——そして、東京で一番北東に行った場所は……


「……秋葉原、か」


 オタクの聖地。電気街。今はどうなってるんだろう。


 北東域に行くには、まず秋葉原に飛んで、そこから移動するしかない。面倒だけど、仕方ない。


「……じゃ、行くか」


——秋葉原の裏通りを思い浮かべる。人通りの少ない路地裏。瞬間移動。


 視界が一瞬ねじれ、景色が切り替わる。次の瞬間、俺は秋葉原の裏通りに立っていた。薄暗い路地。ゴミ置き場の臭い。かつて見た風景——いや、だいぶ違う。ビルの壁が崩れかけていて、電線が不規則に垂れ下がっている。


 すぐに変身を解く。地味な黒縁メガネをかけた、ゆるツインテの“ただの女子中学生”——に見える14歳くらいの見た目。


 路地裏から表通りに出ると、秋葉原は、世界改変前より空気がザラついていた。金属の焼ける匂い、発電機の低い唸り、電波の圧力みたいな違和感。


 俺は通りをゆっくりと歩き始めた。情報収集も兼ねて、状況を探るつもりだったけど——


「……なんか、懐かしい感じするな」


 オタクの聖地だった頃の記憶が少し蘇る。若かった頃、仕事帰りに安い中古ゲームなんかを漁りに来たあの頃の空気が、まだ端々に残っている。


 そんな気持ちで雑踏に佇んでいると——


「すみません、そこの人」


 突然、肩を軽く叩かれた。


 振り向くと、セーラー服に深紫のコート。しっとり落ち着いた黒紫の髪。品があるのに、どこか戦場の匂いをまとった少女が立っていた。切れ長の目が、静かに俺を見つめている。


「危ない場所に立ってますよ。ケーブル、今ちょうど電圧高いので」


 彼女の指す下を見ると、半壊したビルから延びるケーブルを跨いでいた。むき出しの電線が、微かに火花を散らしている。


「あ、ありがとうございます」


 慌てて一歩下がる。彼女は静かに微笑んで、俺の隣に立った。


 ——この子、強い。


 見るからに「強い人」だ。雅みたいな圧じゃなくて、もっと静かで深い強さ。軍人みたいな佇まい。でも、笑うと急に幼くなる。不思議な雰囲気を持っている。


「私は加藤つかさといいます。あなたは?」


「お……、役野小角えんのおづのです」


 危ない。「俺」って言いかけた。この見た目で「俺」とか言ったら、完全に変な奴だ。


 つかさは、ふっと柔らかく微笑んだ。


「決まった用事とかないなら、少し歩きませんか? ここ、危険地帯ですし……あなた、迷いそうです」


「あ、はい」


 気づけば並んで歩き始めていた。


 以前より空が広く見える。ビルが崩れて高さが減ったせいかもしれない。瓦礫の影が、昼なのに重く見える。


 つかさは静かに歩きながら、俺を横目で見た。


「小角さん、この街は初めてですか?」


「いや、昔は……世界が変わる前は、たまに来てた」


「そうなんですね。今とは、だいぶ違うでしょう?」


「……うん、そうかも」


 俺は周囲を見渡した。崩れたビル、割れた窓ガラス、半壊した看板。それでも、店の明かりは付いている。人は歩いている。生きている。


「この街、なんか……霊気みたいなの、濃くないですか?」


 思わず口に出してしまった。魔法少女になってから、霊的な感覚が鋭くなった。空気がザラついている。何かが、渦巻いている。


 つかさは一瞬、目を見開いた。そして、静かに頷いた。


「ええ。ここは『北斗七星陣』の柄杓頭の中心線上ですから」


「北斗七星陣……?」


「えっと、聞いたことないですか?」


 ――あったわ。


「名前だけなら。ゲームとかオカルト動画で『将門公封印の七星配置』とか……」


「ふふ、ゲーム由来の知識ですね。悪くありませんよ」


「え、すみません……軽い知識で」


「軽い、で十分です。七星陣の存在を『知っている』人の方が珍しいですから」


 まぁ、そうだよね。ぜんぜん一般常識じゃないし。ただ、その言い方が、ちょっと引っかかった。


「七星陣って……ほんとにあるんですか?」


「ありますよ。都市伝説ではなく——『東京23区を実際に支えている封印構造』として」


「マジ……!?」


「ええ。『マジ』です」


 つかさは細長い指で、秋葉原の中心方向を軽く指した。


「この辺りは、七星陣の頭の『四つの封印点』の真ん中。だから、霊気が強いんです。封印が呼吸している、と言えば分かりやすいでしょうか」


「封印が、呼吸……?」


「ええ。七星陣は生きているようなものですから。将門公の力を鎮めるために、今も働いています」


 ——鎮める。今も。


 その単語ひとつひとつが、重い。俺が考え込んでいると、またつかさが歩き出したので横に並んだ。


「……あの。もしかして、その封印をめぐって争いとかあるんじゃ?」


 思わず聞いてしまっていた。つかさは少しだけ歩く速度を落とし、俺を見る。


「あります。封印を維持したい中枢派と、解除を望む西部連盟。それ以外にも無所属や、派閥に背を向けた魔法少女も」


「魔法少女まで関係してるんだ……」


「関係していますよ。むしろ、彼女たちの『在り方』こそ争いの中心です」


 つかさの目は静かだが、覚悟の色があった。


「つかささんは……どっち派なんですか?」


「どちらでもありません。私は、東京が壊れなければそれでいいんです」


 言葉は優しく、でも奥に深い孤独があった。俺は何も言えず、ただ歩き続けた。


 そのときだった。


 電線が、ひゅう、と鳴った。風が一瞬止まった。


 建物の影が——

 一瞬だけ「逆方向」に揺れた。


 本当に一瞬。でも、つかさは反射的に動いた。視線を鋭く周囲に巡らせ、低く呟く。


「……また、ですね」


「つ、つかささん? 今の……」


「気にしなくていいですよ。封印が揺れるとき、影が逆に動くんです。ほんの少しですが」


「封印が……揺れる?」


「呼吸が乱れている、と言えばいいでしょうか。今の東京は、少し『揺れやすい』状態なんです」


 その言葉は、穏やかなのに、背筋が冷えるほど現実味があった。つかさは再び歩き出し、俺も黙ってついていく。


 しばらく沈黙が続いた。つかさは静かに歩き続け、俺も隣を歩く。秋葉原の雑踏が、少しずつ遠ざかっていく。


「小角さん。あなた、多摩の人ですよね?」


「えっ、なんで……」


「ずっと電脳で多摩の魔法少女の戦いの様子見てましたよね。立川の子が無事魔獣を倒せたとき、ホッとした感じが分かりました。私も見てたので。羨ましい」


 つかさは、優しく微笑みながら、そう言った。


 ―― ……。

 

 神懸かった洞察に脱帽する。話しながら視界の隅に多摩の魔獣戦のLIVEをだしてたのがバレてた気まずさもある。つむぎのピンチをいづなが救って、ホッとした。それもこれも見抜かれるなんて。この人、観察眼ヤバすぎだろ。つられて思わず呟いた。

 

「羨ましい……?」


「はい。仲間を仲間として見られる」


 つかさの声は、どこか遠い記憶を見ているようだった。


「小角さん。あなたと話すと、不思議と安心します」


「えっ、俺……じゃなくて、私?」


「はい。あなた、どこか『遠く』を知っているような気がするんです。理由は分かりませんが……いい感覚です」


 心臓が少し跳ねた。つかさはそのまま歩き、中央通りで立ち止まった。


「今日はここまでにします。一緒に歩いてくれて、ありがとうございました」


「いや、こちらこそ……」


 つかさは振り返り、まっすぐ俺を見る。秋空の光が、彼女の瞳に刺さる。


「小角さん。東京が本当に揺れたとき……あなたが、どちら側に立つのか。私は、少しだけ楽しみにしています」


 その言葉を残して、つかさは人混みに消えた。


 たった十数分の会話。でもその密度は、世界がひっくり返る前兆のようだった。


 俺は中央通りに立ち尽くして、つかさが消えた方向を見つめていた。風が吹いて、髪が揺れる。電線が鳴る。秋葉原の雑踏が、また俺を包み込む。


「……封印、か」


 北斗七星陣。平将門公。東京23区の争い。俺が知らなかった世界が、少しずつ見えてきた。




何卒、応援のほどお願いいたします。

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