人生假面舞踏會
セルフ・ポートレイト-
〈我愁ふ秋ぞ眉間に皺あれり 涙次〉
【ⅰ】
前回重傷を負つた「ゲーマー」。当分は顔を出すまい、と云ふのが「シュー・シャイン」の報告で明らかになつた。「良かつたよ。奴の人生舐め腐つた態度見てると、血圧が上がつて...」とじろさん。「まあ、ニュータイプ【魔】ならでは、なんだらうね、あの能天気さは」-カンテラ。テオ「ニュータイプ【魔】と云へば、僕の調べでは、結界が利かない奴もゐるさうですよ。さう云ふ奴を『ゲーマー』がぶつけて來ると、ちと困る」。カンテラ「まあこれからは、なるべく【魔】は事務所に近付けないやうにしやう」-
【ⅱ】
で、金尾。彼も心は傷付いてゐた。前回、「ピンボール【魔】」に扮した「ゲーマー」の手口に、獨りまんまと引つ掛かつてしまつたからだ。彼は失敗を引き摺るタイプだつた。眞面目な人には、得てしてさう云ふ面が見受けられるものである。
そこ迄は笑つて濟ます事の出來る話だつたが、その後單獨行動に走つたのは頂けなかつた。自分の失態をリカヴァリーしやうと、彼は密かに躍起になつてゐた。
夜更けゴーレムとなつた彼は、「思念上」のトンネルを潜つて魔界に降り、目に付く限りの邊りを滅茶苦茶に破壊、たゞこれは誰の先導もなくやつた事だつたので、目当てにすべき「ゲーマー」の居處を全く外した攻撃だつた。魔界の庶民を苛めても、一文の得にもならない。普段の涙坐の「面談」の努力が水の泡である。
【ⅲ】
そこに付け入る【魔】も、出て來る譯である。「ゲーマー」は水晶玉で金尾/ゴーレムの行動を監視してゐた。そして次なる「ポイント對象」の【魔】を繰り出して來た。「マスカレード【魔】」である。こいつ、假面を着けた洒落者(?)の【魔】で、主立つた魔力としては、人生の話(これが不可欠)をした相手の魂を簒奪する、と云ふ術を操る。「人生假面舞踏會」が坐右の銘。一口に「魂を簒奪」と云つても色んなやり口があるが、こいつの場合、外見を變へず然し相手の人格を奪ふ。他人にはその魂を奪つた相手としか見えない。誠に以て惡賢い【魔】なのである。
※※※※
〈あせあせといいねを付けるその手には何の知性も籠もつてをらず 平手みき〉
【ⅳ】
それでその巧妙なところもう一つ。初對面の者には、善人としか見えない。假面など着用し、あからさまに怪しいのではあるが...
「ちよつと、ゴーレムさん」-「なんだ」-「私と人生の話、しませんか」-「?」-「いや、決して怪しい者ではありません」-「私の人生話など聞いてだうするの? こんな失敗だらけの人生なんか、お話として詰まらないんぢや?」-さう云つて金尾/ゴーレム、既に人生譚を始めてしまつてゐる。で、斯々然々。* シオニストである事、かつて魔道に墜ちた経験がある事、** 許婚者を失つた事、洗ひ浚ひ「マスカレード【魔】」に打ち明けてしまつた。
* 前シリーズ第88話參照。
** 当該シリーズ第93話參照。
【ⅴ】
「さうですか... ぢや、貴方は眠つてゐて下さい」。手もなく金尾に成り澄ました「マスカレード【魔】」には、テオの云ふ通り、結界も利かないし、容易に「思念上」のトンネルも利用出來る。こいつ、惡質な「ニュータイプ【魔】」なのである。因みに「ゲーマー」が設定したポイント數は幾つか。なんと25である。こいつを片付ければ、累計は一氣に50の大台に乘る。が、その分【魔】としての格は、今までとは違ふ。...と云ふ譯で、手強い敵を(金尾の突發的で勝手な振る舞ひに依り)抱へ込んだカンテラ一味、さてさてだうなる!?
※※※※
〈貝割菜からし人生こんな味 涙次〉
次回に續きます。金尾は功を焦つてした失敗、と云ふ「ゲーマー」を叛面教師とする事が出來なかつた... 次回で解決篇となる事を祈りませう。ぢやまた。