ドアマ作家の無謀な「些細な」試み
初めに断っておきますが、「T」とは作者の事とは限りません(笑。
関係ないですがご了承くださいませ~。
「…くっそ!またコメントなしかよ!!」
一人の青年、Tがパソコン画面を前に、また嘆いている。
実はこの青年、とあるオンライン小説サイトで自作の小説を執筆中。
サイト上での持ち作品は、最初に投稿した読み切り2作と、今執筆している初めての連載作品のみ。
連載を初めて以来、Tは毎日必ず1話はアップしていて、今日で4話目になる。
お世話になっている小説サイトはいわゆる「SNS」で、そのサイトに登録した者の作品がその場で一挙に読む事ができ、またサイト内で自作の小説を書き投稿する事が出来る。
中でも今Tが利用しているこの小説サイトは、かなりの大手で、毎日無数の作品が投稿されている。
だからそれなりに閲覧者も結構来てるって所だろう。
ちなみにTが今連載している小説の読者数は、連載当初から平均で30名程(もちろんサイト付属のアクセス解析データでの結果である。
大手とはいえ、Tにとってはこれでも充分多い方だ。
実はTはこれ以前にもサイトを持ってたりもしたのだが、何をしても、結局2ケタも行った事はなかったのだ。
それが今回このSNSを利用したのがよかったのか、念願の2ケタ突破!
しかも、この2ケタ突破が連載以来ずっと続いてる。
という事は、”読み続けて”くれている読者がこの中にいるかもしれない。
…と、期待もしたのだが。
それはそれで、嬉しいのだが。
期待を向ける真のターゲット先である、「感想」や「評価」をまだ一つも貰えてない。
これはこれで、不安になる。
果たして自分の作品を面白いと思ってる人が、この世の中に存在するのか…。
今書いている小説は短編で、あと1話の投稿でクライマックスを迎える。
その最後の1話も、大方完成しつつある。
しかし、この状態のままでは、さすがに心が折れそうだ…。
そしてこの最後の話が出来上がってもどうせ感想なんか来ず、ますます凹んでしまうんだろうな…。
”いやいや、作品自体はまだまだスタート地点だ、これからたくさん書いていく事でいつかは報われるさ!
てかまだこんだけしか書いてないんだから、今から早速めげないでくれよおぉオレ~…。”
Tの心はガラスのようにもろく、その上ネガティブで諦めがちなもんだから、ある意味救いようがない。
そうしていつしか、Tはアクセス数の喜びよりも、コメント皆無の状態に悩みきっていた。
おかげでやる気が出ない。これからどうすりゃいいんだ。
でも今のオレはバイトさえままならない状態なのに、このまま何も出来ないままだと、…未来がない。
だから、はかない夢にすがりついて、何とかしたい。
少なくとも、コメントは欲しい…。
どうすれば………―――。
気付けば部屋の外、ベランダに出て外を眺めていた。
そして、先ほどの事や将来の事を止め処なく、ぼんやりと考えていた。
「面白いと言わせてやりてぇーなー…。」
その時、どこからか犬の遠吠えが耳に入ってきた。
はっとしてその先に目を向ける。
そこは近くのスーパーの屋上で、そこで飼い主に抱かれた犬が屋上の下に体を屈め、喚いていた。
その時、Tはあるアイデアが頭に浮かんだ。
Tはとっさに先ほど仕上げた連載小説のデータ(メモ帳ツール)を開いた。
それを一気に印刷し、印刷した紙を、突然外へ持ち込んだ。
そのまま、近くのスーパーの屋上へ駆け走る。
下を見渡せる柵の所まで寄ると、…Tは一瞬だけ不安をよぎらせ、そして意を決した。
途端、柵に空いた無数の隙間へ足をかけ、柵をその端までよじ登って行った。
そして、柵のてっぺんに片足を乗せるまでに登りつめると、それまで片手に持っていた小説の紙を…
一気にその向こうへ、バラ撒いた。
Tが書いた小説を載せたその紙は、バラバラに宙へ舞い、左右にゆっくりと揺れながら、ずっと下へ落ちていく。
その様子を目にしながら、Tは柵を下りて行った。
足元を再び屋上の床へ戻した頃、Tは視点を建物の下へ落ちていく紙へ向け、まだしばらくその様子を見続けた。
Tは、とにかく反応が欲しくてたまらなかった。
だから、この際大判振る舞いで、とにかく周りの皆に見せつけてやりたかった。
やがて地面に落ちていくその紙は、誰かの目に留まってくれるだろう。
そしてその時拾い主は一体どんな顔をするのだろうか…。
下手したらその拾い主は自分と同じ身分の作家か、もしくは関係者かもしれない、さすがにそれはここじゃ可能性はないが。
でも、少なくとも誰かが呼んでくれる可能性は、ある。
だから、この機に試してみる。
一体この後、どう出るか―――?!
…その時、強い風が吹いた。
それまでゆらゆらしながらも、おおよその位置は定めていた紙たちが、一気にそれに揺られる。
小説を載せた紙は、そのまま風に任せて、横へ、横へ、その向こうへ…―。
やがて落ちる予定の位置とは全くかけ離れた所にまで、勢いよく、飛んで行った。
Tは多少予想外の展開に呆気にとられながらも、その先を見送っていた。
しかし…かなり遠いところまで飛んでいったのか、いつのまにか小説の紙はTの視界から消えてしまった。
「…?」
Tはしばし紙の行方を追おうと、きょろきょろして探す。
それでも結局、どこへ行ったかわからない。
Tは途方に暮れたように溜息ついて、一端その先を見つめた。
「…きっと誰かが見てくれるだろ。」
そう呟いて、そのスーパーの屋上を後にした。
次回はまちまちになるかもしれません(予定は未定。
あまり長くは続きませんので、長い目で見守ってやって下さいませ。
こんな話作る作者ですので笑、よければ何か一言下さると大変喜びます!