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第3話「黄昏ミーツガール -邂逅、そして新たな問い-」

目の前に立ちはだかる、異形の巨影。それはまるで、悪夢そのものが凝縮されたかのような冒涜的な姿だった。先ほどまで遭遇していた怪物たちとは比較にならないほどの威圧感と、明確な殺意が、じりじりと肌を焼く。陽菜が息を呑む音が、すぐ隣で聞こえた。

「美咲……あれ、やばいよ……逃げよう!」

陽菜の声は恐怖に震え、私の袖を強く掴む。確かに、本能が警鐘を乱打している。勝てる相手じゃない。でも、どこへ? この異様な植物がアスファルトを覆い尽くし、建物が歪む街で、安全な場所なんてあるのだろうか。

その時、巨大な敵の向こう側、崩れかけたビルの屋上にいた人影が動いた。細身だが、その動きには無駄がない。次の瞬間、その人影は目にも留まらぬ速さでビルの縁を蹴り、夜空を背景に、まるで黒い鳥のようにこちらへ向かって滑空してきた!

「えっ!?」

驚きに目を見開く私と陽菜のすぐ手前、巨大な敵の側面に、その人影は音もなく着地した。手には、月の光を反射して鈍く輝く、短剣のようなものを二本逆手に握っている。フードを目深にかぶっており、顔はよく見えないが、その佇まいは明らかに「手練れ」のそれだった。

「……新手? それとも……」

私の呟きは、轟音にかき消された。巨大な敵が、新たな闖入者ちんにゅうしゃに向けて、太い腕を振り下ろしたのだ。しかし、その人影は軽々とそれを回避し、逆に敵の腕を駆け上がると、関節らしき部分に的確に短剣を突き立てる!

ギャオォォォン!

異形の巨人が、初めて苦痛の声を上げた。動きが鈍る。

「……すごい」

思わず声が漏れた。あれも「アーツ」なのだろうか? 私の知らない、洗練された戦い方。

その人影は、一度距離を取ると、ちらりとこちらに視線を向けた気がした。フードの奥の瞳の色までは分からない。敵……ではないのかもしれない。だとしたら、オーブが言っていた「仲間」?

「新手か……だが、どちらにせよ邪魔だ」

巨大な敵が、地響きと共に新たな攻撃を仕掛けようとした瞬間、屋上の人影は再び動いた。今度は、何か小さな球体を敵の足元に複数投げつける。それは地面に落ちると同時に閃光と煙を発し、巨大な敵の注意をそちらに向けさせた。

「今だ! 行け!」

短く、しかし凛とした声が、風に乗って私たちの耳に届いた。少女の声……?

その声に背中を押されるように、私は陽菜の手を引いた。

「陽菜、今のうちに!」

「う、うん!」

私たちは、巨大な敵が煙に気を取られている隙に、その場を駆け出す。一瞬、ビルの屋上にいた少女の方を振り返ると、彼女は再び巨大な敵と対峙し、その注意を私たちから逸らそうとしているように見えた。

「あの子は……?」

「わからない! でも、助けてくれたんだと思う!」

走りながら、心臓が早鐘のように鳴っていた。恐怖だけではない。あの戦いぶり、そして私たちを逃がしてくれた行動。もし彼女が「仲間」なら……。

どれくらい走っただろうか。息も絶え絶えになり、ようやく人気のないビルの陰に隠れることができた。

「はぁ……はぁ……助かった、のかな?」

陽菜が壁に手をつきながら、荒い息を整えている。私も肩で息をしながら、先ほどの光景を反芻する。

「あの人……一体誰だったんだろう。私たちと同じような力を持ってるみたいだったけど」

「美咲のオーブが言ってた『仲間』って、ああいう人のことなのかな?」

陽菜の言葉に、私は胸の奥のオーブの存在を再び意識する。目を閉じ、意識を集中すると、また断片的なイメージが流れ込んできた。

《共鳴……波長……探セ……》

《チカラにはカタチがある……ソレゾレの……》

《灯火ハ……ヒトツデハナイ……》

「灯火は、ひとつじゃない……?」

呟くと、陽菜が不思議そうに私を見た。

「どういう意味?」

「わからない……でも、あの人も、私と同じようにこの状況を生き抜こうとしているのかもしれない。そして、私たちが探している『灯火』って、一つの場所じゃなくて、そういう人たちの集まりのことなのかも……」

だとしたら、白鷺神社を目指すのは間違いじゃないかもしれない。多くの人が避難しているなら、その中に「仲間」がいる可能性だってある。

「とにかく、今は少しでも情報を集めないと。そして、あの人が無事だといいんだけど……」

あの少女は、たった一人で巨大な敵と戦っていた。私たちは、彼女に助けられただけだ。このままではダメだ。私も、もっとこの力を理解して、戦えるようにならないと。

「陽菜、大丈夫? もう少しだけ頑張れる?」

「うん……美咲がいるなら、どこへでも行くよ」

陽菜の言葉に勇気づけられ、私は顔を上げた。恐怖はまだある。でも、それ以上に、知りたいという気持ち、そして何とかしなければという使命感が湧き上がってきていた。

ふと、手の甲の紋章が微かに熱を帯びるのを感じた。それはまるで、私の決意に呼応しているかのようだった。

「行こう。そして、今度こそ、私たちも誰かの力になれるように」

再び歩き出そうとした、その時だった。

ジジ……ジジジ……!

すぐ近くの、壊れた街頭スピーカーから、ノイズと共に微かな音声が聞こえてきた。

「……こちら……生存者……応答……白鷺……神社……避難……拠点……繰り返す……」

途切れ途切れだが、確かに聞こえる!

「今の……!」

「白鷺神社のこと言ってる! やっぱりあそこなら!」

希望の光が見えた気がした。しかし、その音声に混じって、別の音も聞こえてくることに、私たちはまだ気づいていなかった。それは、低い唸り声と、複数の何かが地面を引っ掻くような……新たな脅威の足音だった。

私たちの日常が罅割れてから、まだ数時間。物語は、さらに加速度を増して、私たちを否応なくその渦中へと巻き込んでいく――。


(第三話 了)



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