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未来へ向かう決意を

 L07は目を閉じた。


 機体の振動。空気の流れ。遠くから聞こえる戦闘の音。

 すべてが彼女の感覚を研ぎ澄ませていく。


「何をしている?」


 レイの声が聞こえるが、L07は答えない。


 彼女の中で、何かが目覚めていた。

 パイロットポッドに接続された時だけ感じる感覚。


 しかし今は、機体との神経接続がなくても、その力が働き始めていた。


「みぎから、さんき」


 L07が目を開けると同時に言った。

 その瞬間、右側から三機の敵が現れた。


「なっ……!」


 レイは驚きながらも咄嗟に機体を操作し、攻撃をかわす。


「どうやって……?」


 問いかける間もなく、L07は続けた。


「うえ、にき。いまうごく」


 予言通り、上空から二機が急降下してきた。

 レイは素早く反応し、ビームライフルで一機を撃ち落とす。


「どうやって分かる?」


 戦闘の合間に、レイが尋ねる。

 L07は首を横に振った。


「わからない。なんとなくみえる、だけ」


 それは帝国での訓練でも説明されなかった能力だった。


 ダークスターとの異常な同調率の裏に隠された、L07だけの特殊な才能。


「……ひだりうしろ!」


 L07の警告に、レイは即座に機体を回転させる。

 背後から忍び寄っていた敵機のミサイルが、かろうじて機体をかすめた。


「くっ、危なかった!」


 レイはL07の能力の正体を考える余裕はなかった。

 今は彼女の警告に従うことで精一杯だった。


「続けろ!」

「うん」


 L07は再び目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませる。

 彼女の意識が空間全体に広がっていくような感覚。


「むれになる。ぜんいん、いちどにこうげき」


 その言葉通り、敵機が一斉に集結し始めた。


「総攻撃か……対応策は?」


 レイの問いに、L07は瞬時に答えた。


「ひかりで、めくらまし」


 その言葉の意味を理解したレイは、ホープブリンガーの特殊装備「ライトフレア」を起動させた。


 眩い光が周囲を包み込む。

 敵の視界を奪い、その隙にレイは反撃に出た。


 ホープブリンガーの光の剣が、敵機を次々と切り裂いていく。


「L07、あと何機だ!?」

「……ろっき」


 レイは頷くと、操縦桿をさらに強く握った。


「すべて撃墜する。お前の読みを信じる」


 L07の紫の瞳が、わずかに広がる。

 信じる。その言葉の重みが、彼女の胸を締め付けた。



 ――それから数分後、最後の敵機が炎に包まれて落下していった。

 空には、ホープブリンガーだけが残されていた。


「全機撃破……信じられんな」


 レイの声には、驚きと感謝が混じっていた。


「感謝する。……道理で、お前とまともに戦っても勝てないわけだ」


 L07は言葉に詰まった。

 感謝されるという経験が、彼女にはなかった。


「……どういたしまして」


 小さな、ぎこちない笑みが、彼女の唇に浮かんだ。



 基地格納庫に、ホープブリンガーが帰還した。


 整備士たちが駆け寄り、機体の点検を始める。

 コックピットが開き、レイが降り立った。


 そこには既に数人の兵士が、緊張した面持ちで待っていた。


「レイ隊長! 大変です!」

「なんだ?」

「L07が脱走しました! 病室が空で、窓から逃げた痕跡が……」


 若い将校の報告に、レイは一瞬、眉を寄せた。

 そして、振り返りコックピットを見上げる。


 そこから恐る恐る顔を出していたのは、銀髪の少女だった。

 L07は凍りついたような表情で、下の状況を見ていた。


「……こまった」


 彼女は小さく呟いた。


 噂はすでに基地中に広がっていたようだ。

 「悪夢」が脱走した。

 彼女を探す兵士たちの姿が、あちこちに見える。


「レイ隊長、どうすれば……」


 若い将校の言葉を、レイが遮った。


「彼女は脱走していない」


 レイの言葉に、全員が驚いた顔を向ける。


「彼女は私の許可を得て同行していた。敵の動きを予測する特殊な能力があると聞き、実戦で試していたところだ」


 その場の全員が、言葉を失った。


「彼女の協力のおかげで、敵の待ち伏せを察知し、全機撃墜することができた」


 L07は信じられない思いで、レイの言葉を聞いていた。

 彼は嘘をついている。彼女をかばうために。


「し、しかし、レイ隊長! あの子は危険な捕虜です! 勝手に連れ出すなど……」

「私の判断だ」


 レイの声は、不動の意志に満ちていた。


「……彼女は今後、私の監督下に置く。その行動や所在については私が責任を持つ」


 誰も反論できなかった。


 レイはL07に向き直り、手を差し伸べる。


「降りてこい。もう大丈夫だ」


 L07はためらいながらも、レイの手を取った。

 彼の大きな手に導かれ、小さな体がゆっくりと地面に降り立つ。


「これより、彼女は私の個人的な保護下に置く。情報提供者として。本部への引き渡しも拒否する」


 周囲の兵士たちは戸惑いながらも、頷いた。

 レイ・アークライトの決断を、誰も簡単に覆すことはできない。


 レイは静かにL07の肩に手を置いた。


「来い。休む必要がある」


 L07は周囲の視線を感じながらも、レイに従った。

 彼の背中は広く、頼もしかった。



 基地内の廊下を歩きながら、L07は小さな声で尋ねた。


「なんで……まもったの?」

「……」


 レイはしばらく黙ったままだった。

 やがて、足を止め、彼女に向き直る。


「あの瞬間、お前は選んだんだ。敵を助けることもできた。だが、そうではなく、俺を助けることを選んだ」


 彼の青い瞳は、真剣だった。


「その選択に、俺は答えたまでだ」


 L07は初めて、自分の選択が意味を持ったことを実感した。

 それは不思議な、温かい感覚だった。


「……ころさないの?」

「殺す? ……そんなつもりはない」


 レイは小さく息を吐いた。


「お前は……L07だ。それだけだ」


 その言葉に、L07の目に涙が浮かんだ。

 彼女の存在を、ただそのまま認めた言葉。


「でも……わたし、あなたたちにわるいこと、した」


 多くの命を奪った「悪夢」。

 その自覚は、うっすらとだがあるのだろう。


「……そうだな」


 レイは左腕の義肢を見つめた。


「お前も、俺も、多くの命を奪ってきた。それは消せない」


 L07は俯いた。

 しかし、レイは続けた。


「だが、これからどう生きるかは、自分で決められる」


 その言葉に、L07は顔を上げた。


「どうすれば……」

「まずは休め。明日からゆっくり考えよう」


 彼はL07に微笑みかけた。

 それは戦場の英雄ではなく、一人の人間としての笑顔だった。


「……うん」


 L07も、小さく頷いた。


 彼女の心の中で、何かが芽生え始めていた。

 それは「未来」という、彼女がこれまで持ったことのない概念だった。



 廊下の陰から、アレックスは二人の後ろ姿を見つめていた。


 レイと銀髪の少女。

 光の剣と悪夢。

 まるで友人か親子のように歩いていく姿に、彼の拳が無意識に握りしめられる。


「ふざけるなよ、レイ。あの『悪夢』のせいで、カイルは……」


 一年前の記憶が鮮明に蘇る。親友の悲鳴。

 通信が途絶える瞬間。収容袋に納められた、焼け焦げた遺体。


 アレックスは端末を取り出し、機密データにアクセスした。

 画面には「ソウルトラップ・プロトコル」という文字が明滅している。


「あの『悪夢』は生かしておけない」


 彼は暗号化された通信を送信すると、静かに廊下を歩き去った。


「復讐は、必ず果たす」

一つの結末と不穏な気配……。

でも次回はそろそろちゃんと溺愛してもらいたいなって思ってます!!!


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