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「悪夢」包囲網!

 鋼鉄の壁に囲まれたブリーフィングルーム。


 柔らかな椅子に座った軍上層部の前に、少女は直立不動で立っていた。


「L07、新たな任務を与える」


 壁面のディスプレイに地球の画像が映し出される。

 青い惑星の表面にマーカーが表示された。


「地球・東京湾エリアの偵察。敵の防衛網情報を集めて帰還。単独任務だ」


 軍司令官はタブレットに目を落としたまま言った。

 彼は一度も少女の顔を見ていない。


「敵の防衛システムに弱点があるという情報を得た。確認せよ」


 少女は小さく頷いた。


「わかり、ました」

「今回の任務は最重要度。情報収集のみ。不要な交戦は避けろ」


 司令官は最後にようやく顔を上げ、少女を一瞥した。

 彼の目に映るのはただの兵器でしかない。


「出撃準備。30分後に発進だ」

「りょうかい」



 格納庫では整備士たちがダークスターの最終点検を行っていた。


 漆黒の機体は、荘厳な死神のように静かに佇んでいる。

 その存在感は、周囲の空気さえ飲み込んでいるように見えた。


 少女は着替え室で専用のパイロットスーツに身を包む。


 体中の神経接続ポートにぴったりとフィットする特殊設計の服。

 それを着ると、彼女の体はさらに小さく見えた。


『L07、搭乗開始』


 アナウンスに従い、少女は静かにダークスターへと歩み寄る。


 昇降機で胸部まで上がると、パイロットポッドが露出した。

 成人サイズではなく、少女用に設計された狭い空間。


 少女は躊躇なくポッドに入り、背中を特殊なシートに預けた。


 自動的にケーブルが伸び、彼女の全身のポートに接続される。


 痛みが走った。しかし、少女の表情は変わらない。


『神経接続、開始』


 システム音声と共に、少女の意識が機体と繋がっていく。

 この瞬間だけは、彼女の表情がわずかに和らいだ。


 自身の機体、ダークスターと一体化する感覚。


 それは彼女にとって、唯一「安全」を感じられる瞬間だった。

 機体の中では、誰も彼女を傷つけることができない。

 彼女は最強のパイロット、『悪夢』だからだ。


『接続率98.7%。最適値確認』


 少女の視界が変わる。機体のセンサーを通して世界を見る視点。


『ダークスター、発進準備完了』


 管制官の声が響く。少女は黙って準備を整えた。


『カタパルト、セット』


 機体が発射台に移動する。


『L07、任務内容確認』

「とうきょうわん、ていさつ。てきのぼうえいもう、かくにん」

『了解。発進許可』


「ダークスター、はっしん」


 強烈な加速と共に、漆黒の機体が宇宙空間へと放たれた。


 地球へと向かう闇の矢。その先に待つ運命を、彼女はまだ知らなかった。



 地球連盟。『フォートレス・ホープ』の作戦室。


 壁一面のディスプレイには東京湾上空の地図と、赤い点で示された敵機の予想進路が映し出されていた。


「情報は確かだ。『悪夢』が単独で偵察に来る」


 レイ・アークライトは作戦テーブルに両手をついて言った。


 その左腕は手袋で隠されているが、金属の硬質な音が響いた。義肢だ。


「信じられないかもしれんが、奴が罠にかかる可能性は85%。単独行動というのも確認済みだ」


 室内の空気が緊張で満ちる。「悪夢」の名に恐怖を感じない者はいない。


「いいか、全員聞け。あの『悪夢』と私が2年前に木星軌道で対峙した時、私は15人の仲間を失った。この傷も奴によるものだ」


 レイは左腕の手袋を外した。人工的な金属の義肢が姿を現す。


「だが復讐ではない。これは任務だ。恐怖の連鎖を終わらせるために」


 誰も口を挟まない。

 レイ・アークライトは単なる司令官ではない。


 「ライトブリンガー」——地球連盟随一のエースパイロットであり、「人類の希望」と呼ばれる英雄だ。


 そんな彼が執念を燃やす、恐るべきパイロット。それが「悪夢」だった。


「作戦は明確だ。完全包囲網を構築し、「ソウルトラップ」を発動させる」


 壁のディスプレイが切り替わり、複雑な装置の図面が表示される。


「この装置は敵パイロットの精神波に干渉する。一瞬でも隙ができればいい」


 レイの青い瞳に決意の色が宿る。


「あの『悪夢』は人間なのか機械なのか……誰も確かめていない。どちらにせよ、今日で奴を終わりにする」


 彼は窓の外を見やる。


 そこには25機のGD(ガイアディフェンダー)が整列し、出撃の時を待っていた。


 白と青の流線型の機体が、希望の光のように輝いている。


「私は神話を信じない。『悪夢』も倒せる。それを証明してみせる」


 彼の側にいた女性将校が静かに声をかけた。


「……復讐に燃えすぎているわ、レイ。冷静さを失わないで」


 レイは無言で頷き、再び左腕の義肢を見つめた。


「……この腕の仇は忘れない。ヤツが私の部下たちにしたこともな」


 だが、その声には単なる復讐心を超えた何かがあった。

 責任感。使命感。そして、言葉にできない恐れ。


 負けなしの英雄。地球連盟最強のパイロット。


 そんな彼が唯一、本能的な恐怖を感じる相手。それが「悪夢」だった。


「全員、発進準備! 今日、『悪夢』の連鎖を終わらせる!」


 レイが出撃用のヘルメットを手に取ると、作戦室の全員が立ち上がった。


「我々は地球と人類の最後の砦だ。任務の完遂を!」


 強い意志に満ちた声と共に、レイは部屋を出た。


 彼の背中には重圧がのしかかっている。

 英雄という名の重圧。

 そして「悪夢」との因縁。


 25機のGD(ガイアディフェンダー)が次々と発進していく。


 純白の機体群が飛び立ち、東京湾上空の包囲網を形成していった。



 宇宙空間から地球へ。


 大気圏突入の赤熱に包まれるダークスター。

 黒い機体の輪郭が摩擦熱で赤く染まる。


 パイロットポッドの中、少女は冷静に計器を確認していた。


「おんど、せいじょう。きどう、せいじょう」


 大気圏突入を終え、雲を抜けたダークスターの前に青い海が広がる。


 東京湾。少女の目的地だ。


 そのとき突然、警告音が鳴り響いた。


「けいこく。てっき、たんち……!」


 少女の紫の瞳が開く。スキャンの結果が次々と表示される。


「25き……たくさん……」


 四方を囲む白と青の機体群。

 地球連盟のGD(ガイアディフェンダー)25機による完全包囲網だ。


「わな……?」


 通信システムが強制的に起動する。相手からの一方通行の通信だ。


「『悪夢』よ、こちらは地球連盟特殊部隊司令官レイ・アークライト。降伏せよ。貴様に逃げ場はない」


 冷静ながらも強い意志を感じさせる声。少女は黙って聞くしかなかった。


「我々は徹底的に貴様を分析した。今回の行動パターンも予測済みだ」


 ダークスターを中心に円を描くように配置された敵機。


 高度、位置、すべてが完璧に計算されている。


「今まで貴様は多くの仲間を奪った。もう十分だ。だが降伏すれば命は保証する」


 少女は静かに操縦桿を握り直した。


「……にげられない。けど、かえれない」


 少女に撤退のニ文字はない。

 役に立たない強化人間は、ただ殺されるだけ。

 戻ったところで、運命は変わらない。通信は続く。


「最後の警告だ。『悪夢』、今日で貴様の恐怖の連鎖は終わりだ」


 少女は静かに武装システムを起動させた。


「やられるなら、さいごまで、たたかえ……。そう、いわれた」


 中央の白い機体――レイのホープブリンガーがスラスターで前に出る。


「警告は聞かないか。全機、警戒態勢。『悪夢』討伐作戦、実行!」


 少女の紫の瞳に決意の色が宿る。


「わたしは、しにたくない」


 周囲のGD(ガイアディフェンダー)が一斉にダークスターへと照準を合わせる。


 瞬間、少女の手が動いた――。

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