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「悪夢」の日常

新連載、ガンダム風SFロマファンです……!

ヒーローと出会うまではとりあえず一気に投稿するかもしれません!

「これより、イオスラインを通過します。全機、警戒態勢を維持してください」


 木星軌道付近、広大な宇宙空間を縫うように進む補給船団。


 先頭の旗艦「セレスティア」から発せられた通信に、周囲を護衛する十二機の人型ロボット――GD(ガイアディフェンダー)のパイロットたちが緊張を高めた。


「こんな辺境まで敵が来るわけないさ。今月は何事もなく任務完了だな」


 そう語りかけたのは護衛隊長のハリス大尉。


 ベテランの余裕からか、通信を開けたまま部下たちを安心させようとしていた。


「隊長、センサーに異常あり! 不明機、接近中!」

「なに!?」


 前衛の警戒機から緊急通信が入る。

 次の瞬間、暗黒の宇宙空間に一筋の黒い影が走った。


「あれは……!」


 言葉が途切れる。


 漆黒の機体が、まるで闇そのものが実体化したかのように出現した。


 機影はいかなる恒星の光も反射せず、ただ周囲の星々を塗りつぶすように存在していた。


「『悪夢』だ! 応援要請! 全機回避行動!」


 恐怖に震える声が全艦に響き渡る。


 次の瞬間、黒い機体は信じられない速度で前衛のGD(ガイアディフェンダー)に迫っていた。


 圧倒的な速度差。

 一瞬の交差、そして爆発。


 まるで形式的な儀式のように、抵抗の余地すら与えずに、「悪夢」は護衛機を一機、また一機と葬り去っていく。


「集中砲火! 全機一斉射撃!」


 残存する護衛機が陣形を組み、一斉に攻撃を仕掛ける。


 鋭い光線が宇宙空間を切り裂くが、黒い機体はそれらをすべて回避した。

 機体はまるで撃つ場所を予測していたかのように、砲撃の合間を縫うように動いていく。


「くそっ! 当たらない! あいつは何なんだ!?」

「隊長! このままでは――ぐああぁぁっ!!」


 絶望的な叫びが通信に流れる。

 その声は突如途切れ、代わりに爆発の閃光が宇宙を彩った。



 ——十分後。

 現場には漂う残骸と、絶望的な静寂だけが残されていた。


「セレスティア、応答してください。セレスティア!」


 援軍として到着した地球連盟特殊部隊の通信が虚空に響く。


 補給船三隻と護衛艦隊は壊滅。

 生存者、二名。


「またあいつか……」


 艦橋に立つ金髪の青年の青い瞳に、冷たい怒りが灯った。


 レイ・アークライト——「ライトブリンガー」の異名を持つ地球連盟のエースパイロットは、左腕の義肢を無意識に握りしめていた。


「いつまでもお前の好きにはさせない、『悪夢』。お前との決着は、必ずつけてやる」


 彼の視線の先には、飛散する機体の残骸と、宇宙空間に漂う脱出ポッドの残骸。


 いつか必ず、あの「悪夢」を終わらせる——。

 復讐の炎が静かに、しかし確実に燃え続けていた。



 艦内ドッキングベイの巨大な金属の扉が開き、黒い機体が静かに着艦した。


 ネオアストラ帝国、第三強化兵団の基地内に緊張が走る。


「ダークスター、帰還確認。整備班、待機」


 無機質なアナウンスが響く中、整備士たちが黒い機体へと接近していく。


 彼らの表情には畏怖の色が見えた。地球連盟に「悪夢」と恐れられる死の機械が、目の前にある。


 機体のコクピットハッチが開く。


 整備士たちは一様に視線をそらした。誰も中を見たがらない。

 誰も、あの「悪夢」のパイロットと目を合わせたくはなかった。


 ハッチから現れたのは——小さな影だった。


 銀色の髪を持つ少女。


 年齢にして九歳程度か、それ以下にも見える小柄な体躯。


 全身に埋め込まれた神経接続用のポート。

 首筋、背中、手首、足首に集中するそれらの装置は、少女の体を機械と繋ぐ拘束具のようだった。


 最も印象的なのは、その紫色の瞳。

 感情の欠片すら宿さない、人形のような目。


 少女はゆっくりと整備用デッキに降り立つと、規則正しい足取りで一定の場所に立ち、背筋を伸ばして直立不動の姿勢をとった。


 待機姿勢——そう呼ばれる兵器としての基本態勢だ。


 周囲の技術者たちは彼女の存在を完全に無視し、機体の点検と修理に取り掛かる。


 誰も少女に水や食事を勧めることもなく、休息を促すこともない。


「機能状態は? データを報告しなさい」


 冷たい女性の声。

 白衣を纏った中年の女性が歩み寄ってきた。


 少女は一瞬たりとも姿勢を崩さず、無感情に応える。


「てき12き、はかい。ほきゅうかん3せき、ついげき。めいれいどおり、たいき」


 その言葉は、まるで壊れた音声合成装置から発せられたかのように不自然だった。

 文法も単語もあまりに機械的で、声は幼く、発音はたどたどしい。


 白衣の女性は冷淡に頷くと、手元のタブレットを操作し、戦闘データを確認していく。


 彼女の表情には満足の色が浮かんだ。  しかし次の瞬間、その表情が一変する。


「これは何?」


 女性がモニターを少女の前に突きつける。


 そこには、戦闘映像の一部が映し出されていた。

 敵機から放出された脱出ポッドを、黒い機体が見逃す場面だ。


「なぜ逃げた敵を撃墜しなかったの? 役立たずの欠陥品!」


 怒りに満ちた声が響く。少女の表情は微動だにしない。

 しかし、その小さな瞳の奥に、かすかな恐怖の影が過ぎった気がした。


「説明しなさい。L07!」

「……あ……」


 少女は口を開いたが、言葉が出てこない。


 周囲の技術者たちは作業を続けるふりをしながら、こっそりと様子を窺っている。


 彼らの目には恐怖と、わずかな——同情の色が見えた。


 彼らは知っていた。

 あの「悪夢」と恐れられる鬼神のような存在が、実は言葉も満足に話せない小さな少女だということを。


 そして、彼女がこの後どんな「修正」を受けるかということも……。



 白い実験室。


 壁も床も天井も、すべてが消毒された白一色の空間に、無数の医療機器が並んでいた。


 部屋の中央には、金属製の拘束台。


 少女は黙って自らそこに横たわり、拘束具が自動的に彼女の細い手足を固定するのを抵抗もなく受け入れた。


「L07」


 白衣の女性が冷たく呼びかける。


「お前は命令違反をした。脱出ポッドの処理は簡単だったはずよ」


 少女は天井を見つめたまま、わずかに震えていた。


「感情調整を開始します」


 女性がコンソールを操作すると、拘束台からケーブルが伸び、少女の首筋と背中のポートに接続された。


 モニターには「神経系再調整プログラム起動」の文字。


 次の瞬間、少女の体が強張った。


「……!!」


 激しい痛みが全身を駆け巡っている。はずなのに、少女は声を上げない。


 唇を噛み締めるだけで、他の反応は一切見せなかった。


「標準値以上の痛みを感じているのは明らかね。なのに声を出さないのは立派だわ」


 白衣の女性は少女の生体反応をモニターで確認しながら、冷ややかに言った。


「でも、まだ足りないわ。出力を30%上げなさい」

「30%? し、しかし……」

「いいからやりなさい!」


 助手が渋々数値を上げる。


「……っ!!」


 少女の体がさらに硬直し、額に汗が浮かぶ。


 しかし、やはり声は出さない。


「次は見逃さないわね? 答えなさい!」


 電流が一時的に止まると、少女はかすかに息を吐いた。


「は、い。みのがし、ません……」

「そうよ。良い子ね」


 女性は満足そうに頷くと、拘束台から離れていく。

 調整が終わり、少女が再び制服を着ると、静かに歩いて部屋を出た。

 その足取りは完璧に制御され、感情の欠片も見せない。


 だが、廊下の監視カメラが捉えられない陰で、少女の小さな拳が震えていた。


 人間ではなく、使い捨ての道具として扱われる日常。


 「悪夢」と恐れられる存在の、誰も知らない真実の姿だった。



 眠りの時間。


 基地の最下層に並ぶ「睡眠ポッド」と呼ばれる狭い円筒形のカプセル。


 少女は自分の番号が記された「L07」のポッドに黙って入り、横になった。


 ドアが閉まると、内部は暗闇に包まれる。

 わずかに残る緑色のモニターの光だけが、少女の銀髪を照らしていた。


 彼女は監視カメラの位置を確認し、死角となる場所に身を寄せた。


 袖口から取り出したのは、機体の配線くずを丁寧に編んだ小さな形。星の形だった。


「ほし……」


 誰にも聞こえない声で、少女は呟いた。


 目を閉じると、嫌な記憶が蘇る。


 ——六ヶ月前。


 同じ施設内の「感情テスト室」。少女たちが一列に並ばされていた。


「K09、前へ」


 呼ばれた少女が一歩前に出る。

 彼女はL07よりもさらに幼く見えた。


「感情反応テストを始めます」


 電流が少女の体を走る。

 K09の体が痙攣した。


 一度、二度……三度目の電流で、彼女は耐えきれず泣き出した。


「いたい……! いたいよぉ……!」


 涙が頬を伝う。それを見た大人は、冷たい表情のままだった。


「K09、感情抑制失敗。欠陥品と判定します」


 白衣の者たちがK09を連れ去る。彼女の目には恐怖が満ちていた。


 翌日、K09のポッドは空だった。




 ――少女は星を握りしめ、震える唇を噛んだ。


(なけば、しぬ。かなしくても、こわくても、なかない)


 眼前に浮かぶ顔。

 同じように消えていった5人の仲間たち。


 彼女らはみな「欠陥品」と呼ばれ、二度と戻らなかった。


 小さな星を胸元に隠し、少女は目を閉じた。


 夢の中で見えるのは青い空。

 どこで見たのか思い出せない景色。

 でも、少女の心に残る唯一の美しい記憶。


「あおい……そら……」




 ――突然のアラーム音。


 少女の瞳が開く。それは感情のない紫の瞳に戻っていた。


 朝の訓練開始の合図。新たな一日が、また同じように始まる。


「きょうも、いきないと……」


 誰にも見えない決意を胸に、少女はポッドから出た。

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