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100日の恋  作者: すみっこのラスカル
近づく終焉
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 「涼子さん?どうしました?大丈夫ですか?」

敬介が俯せになっている涼子の肩に手を乗せて問い掛けた。

「ん?敬介さん?敬介さんよね?」

涼子は俯せのまま薄っすら目を開けて、傍で上半身を起こしている敬介の顔を上目づかいで見つめた。

「どうしました?もしかして寝ぼけてます?」

敬介は声を上げて笑った。

涼子は身体を寝返して、両手を頭の下で組むと下唇を突き出してから呟いた。

「えっ?あれ?そうかも…。いま夢見てた。怖い夢…」

「大丈夫ですか?涼子さん。すっごくかわいいって言ったら怒ります?」

敬介はまだ笑っている。

「んもうっ!怒るぅ!だって敬介さんがいなくなるんだもん。しかもあたしを放っておいたままねっ」

「そんなことより何か食べませんか?」

「そんなことよりって、あたしには大事なことなんだからっ」

「はい、わかりました。すみませんでした」

敬介は涼子の乱れた前髪を整えながらキスをした。

 敬介はシャワーを浴びてバスルームから出てきた涼子にルームサービスが置いていったディナー&ナイトメニューを見せた。

「マジで腹減りましたよ。何か食わないと」

「そうねぇ…」

涼子は濡れてしまった髪先をタオルで押さえながらメニューの最後に紹介してある〔野外テラスでバーベキュー〕の項目を指差した。

「ねえねえ、これにしましょうよ。なんか楽しそうじゃない」

「せっかく風呂入ってエステまでしたのに身体中バーベキューフレーバーになっちゃいますよ。僕は構わないですけど…」

「うん、ぜんぜん平気!大丈夫よ」

敬介が記載してある内線番号に電話をかけて状況を確認してみると、いまからでもバーベキューサイトは使えるとのことだった。

 そのサイトがある屋上には25 ⅿプールと子供用の円形プールがあって、そのプールサイドにカウンター6席ほどのプールバーと3つのテーブル。その向こうに半透明のパーティションで仕切ったバーベキューサイトが設営してあった。向こうに夕闇が迫る山並みが見えるが、屋上全体のライトアップのせいで、その景色の良さは失われていた。涼子はもっと明るいうちに来るべきだったと少しだけ後悔した。

 バーベキューサイトには何組かの先客がいて楽しく騒いでいた。案内されたサイトにはすでに牛肉、豚肉、鶏肉と何種類かの野菜がセッティングされており、ウェイターは入場時にオーダー済みの生ビールジョッキをテーブルに置いてからガスグリルの使い方をひと通り説明してくれた。涼子はさっそくいくつかの食材をグリルに並べて焼き始めながら敬介の顔を見る。

「こんなこと敬介さんとふたりっきりでするなんて何か不思議だよね」

「ん?そうですか」

「だって、知り合ってまだ3カ月だよ」

「うん、まあ、でも僕の一目惚れなんだからしょうがないでしょ?」

「あら?あたしはそうじゃないわよ」

涼子は本当に不思議な気持ちだった。確かに初対面から好感は持っていたけど、まさかこんなに好きになってしまうとは。ましてやこんな関係になることなんて思いも寄らなかったけど、まさに敬介を愛してしまったという言葉が正しい。それは敬介の余命を聞かされたせいなのか、いや、そうじゃない。これは涼子にとって将来に何の希望も持てない関係なのに、いまは唯々大好きな敬介と一緒に居たいだけなんだ。そう、いま心の底から敬介を愛してるんだ。

「ん?どうしました?牛肉はもう食べられますよ」

自分は一目惚れじゃないと言ってからグリルの上の食材をボーッと眺めている涼子に敬介が声を掛けた。

「あ、ごめんなさい。これね。はいどうぞ!」

涼子は気を取り直したようにロースとカルビをひとつずつ敬介の小皿に取り入れた。

「涼子さんも食べてくださいね」

涼子はそれには応えず、ビールを一口飲んでから敬介の顔を見た。やはり敬介の身体のことが頭のなかに浮かんでくる。

「敬介さん?ほんとに大丈夫なの?身体は?」

「ん?ええ、まあ。問題ないですよ。元気です」

ほらっと言って両手を広げて微笑んだ。

「何か嘘っぽいけど…」

「いえいえ、ほんと問題ないですよ。涼子さんのこともしっかり抱けていますでしょ?ひょっとしてまだ物足りなかったですか?」

「もうーっ、それとこれとは別っ‼」

2人して大声で笑ったため、隣のサイトにいるカップルが驚いたように振り向いて、二言三言何か話した後、こちらに向かってにっこり微笑んだようにみえた。

 翌日、午前中に東京に戻れる〈特急やまびこ〉のチケットが取れたので、2人で朝食をとった後、敬介は駅までカムリで送ってくれた。駅前で「ここでいい」と涼子が言ったにもかかわらず敬介はホームで見送ってくれた。列車出発の間際に乗降口で交わしたキスで、後ろ髪を引かれる思いというものを生まれて初めて味わった気がした。これが最後のキスになることを示唆するかのように。


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