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100日の恋  作者: すみっこのラスカル
近づく終焉
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 翌朝、4人で朝食をとってから、やはり涼子は新幹線で帰るというので、深田慎一郎と澪は自身のレクサスLCに乗って帰っていった。涼子は深田兄妹と3時間以上も同乗すると、車中で自身の身上調査みたいなことになりかねない気がしていたので、それを辞退できて内心安堵していた。

敬介は彼らを見送った後、コンシェルジュカウンターで次の日曜日の指定配達で涼子のゴルフバッグが到着するよう手配してくれた。涼子はロビーのソファで新幹線のチケットを予約しようとスマホでJRの予約サイトを見ていたが、今から一番早い列車でも、2時間以上待たなければならない。どうしようかと考えていたところへ、チェックアウトをすべて完了させた敬介が戻ってきた。

「列車の時間決まりました?」

「ううん、まだ。いちばん早いので、2時間待ちだからどうしようかなって考えてた」

涼子は目の前に立っている高木に上目遣いで唇を尖らせた。

「もう、またそんな顔して、僕にどうしろっていうんですか?」

敬介は子供に言い聞かせるような目で睨んだ。

「そこのラウンジで時間つぶすしかないよね」

今度は下唇を突き出してみせる。

「しょうがないですねぇ。なんだったらもう1泊しますか?」

敬介のその問い掛けを聞いて満更でもない様子の涼子の形のいい唇を見つめた。

「うん!」

涼子の唇がそう動くと同時に敬介の唇がそれをふさいだ。

 敬介がレセプションで新たに1泊したい旨伝えると、今日は満室でスイートルームしか空室がないとのことだった。いまから他の宿泊施設で当日宿泊を予約するのは無理がありそうだし煩わしいのでそれを了承した。

「チェックインタイムまでしばらく時間がありますね。どこか行きますか?と言ってもこのあたり何にもないですけどね」

敬介は何となく嬉しそうな顔をしている涼子に尋ねた。

「何にもないって?」

涼子はそんなことはどうでもいいと言いたげにロビーのなかを見渡しながら聞き返した。

「ええ、車で1時間ほど行けば、遊園地とか動物園みたいなのがあるらしいですけど…」

「ふーん、そうなんだ」

「どうします?」

「そうねぇ…。でもそんなところへ行ってもしょうがないでしょ?子供じゃあるまいし」

「まあ、そうですけどね」

「ここ、別棟に温泉施設があるのよね?」

「ええ、ホスピスで利用したことありますけど、硫黄泉でアルカリ性って珍しいそうです。なかなかいいお湯ですよ」

「じゃあ、そこで時間潰ししましょうよ。エステとかもあるみたいだし」

敬介は涼子のわがまま放題を聞き入れて、荷物をホテルに預け別館の温浴施設へ移動した。

 スーパー銭湯のミニチュア版のようなその施設は時間を潰すには十分すぎるところで、軽食レストランも併設されているので、2人は一旦男女それぞれの入浴ゾーンに分かれて、午後からこのレストランで待ち合わせることにした。

 大浴場は開場時間直後のせいか数人が利用しているだけで、ゆったりした雰囲気のなか、かすかに硫黄分が匂う柔らかな湯のなかに身体を横たえた涼子は、浴槽から立ち上がる湯気を眺めながら昨夜からの出来事を思い起こしていた。澪とのゴルフは楽しかった。お世辞とわかっていても彼女からスイング自体を褒められ、スコア 90を目指せと言われると急に上達したような気になってしまった。深田と敬介の会話は聞いているだけで愉快で笑わせてくれるのだが、その中には改めて感心させられるような内容もあったりする。また敬介はどこまでも優しくて、自分のわがまま勝手を許してくれている。本来なら逆の立場であるはずなのに…。これからどうすればいいんだろう。そうよ、今から明日帰るまでの2人だけの時間を精一杯過ごすのよ。せっかく延泊してくれたのだから。敬介の心に残る思い出作りをしなければ。それは涼子自身の思い出にも繋がるんだから。でもこんな山の中では何も思い付かない。敬介の腕の中に身体を委ねて甘えること以外に…。

 涼子はサウナに入ったあと、フェイシャルエステのいちばん短時間のコースを選んで受けてみたが、どんな効果が出ているのかイマイチ釈然としないままそれを終了すると、ちょうど敬介との待ち合わせ時間が近づいていた。

 敬介は既にテーブル就いていて、笑顔で右手を挙げた。

「すっきりしたようですね。顔がツルッツルです」

敬介は嬉しそうに笑った。

「すっぴん見ても楽しくないでしょ?」

涼子は唇を尖らせて拗ねてみせた。

「いやいや、涼子さんは化粧していなくても十分きれいですよ」

敬介はバスローブ姿でノーメイクの涼子の顔をじっと見つめた。

「まあ、ここへ来てからすっぴん何度も見せてるから今更ってとこだよね」

敬介はそれには応えず笑みを浮かべてテーブルに置いてあるメニュー帳を開いた。

「食事どうします?腹減ったでしょ?」

「敬介さんこそお腹すいたんじゃないの?」

ピラフとパスタをオーダーして、それを2人で分け合って食事を終えた後、それぞれミルクティとコーヒーを飲みながら涼子が徐に口を開いた。

「あたし、敬介さんと出会って本当によかったと思ってる。出会ってからまだ3カ月ぐらいかな?こんな関係になってしまったけど、でも決して後悔しないようにしようって。だから敬介さんもあたしとのことで悔いを残さないでほしいのね」

敬介は涼子の唐突な言葉にちょっと戸惑ったような顔をして、手に持っていたコーヒーカップをソーサーに戻した。

「もちろん僕もそう思っていますよ。でも、悔いを残さないために今できることとか、やりたいこととか考えていると、頭の中ぐちゃぐちゃになってしまうんです。だから、このホスピスに来てからはそういうの一切考えないようにしています」

敬介は室内テラスのようになっている全面ガラスの壁面を透して見える山並みに目を移してから続けた。

「僕も涼子さんと初めて会ったとき、俗な言いかたかもしれないですけど、それこそビビッときたって言うんですか?なんかそんな感じでした。だからいま涼子さんとこうしているだけで、もう十分すぎるくらい幸せを感じているんです」

涼子は何も言わずにテーブルの上に置いている敬介の手を両手で包み込んで笑みを浮かべて頷いた。

そして呟いた。

「大好き…」


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