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100日の恋  作者: すみっこのラスカル
近づく終焉
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 敬介をベッドに寝かせて15分ぐらい経っただろうか、涼子が鏡の前でドライヤーの静音モードを使って髪を整えていると、いつもに増して元気のない声が呼びかけた。

「すみませんでした」

「あっ、起きたの?大丈夫?」

涼子は振り向いてベッドへ駆け寄り、半身を起こしている敬介の両肩に手を掛けた。

「心配掛けちゃいましたね」

敬介は涼子の眼をじっと見つめて笑顔を見せた。

「たまにこういうの、発作みたいに来るんですよ。でも今みたいに処方してもらってるこの鎮痛剤ですぐに収まりますから問題ないです」

敬介はナイトテーブルに置いてあったタブレットケースを見せた。

「そう…。でもそれってその場限りなんでしょ?やっぱり手術とかしたほうがいいんじゃないのかな?」

涼子は今更言うことでもないのはわかっていたが、他に言葉が見つからなかった。

「ま、いくつかの選択肢っていうか、選択肢は3つなんだけど、その中で最良だと思って選んだ道なんですからこれでいいんですよ」

高木は微笑みながら応えた。

「わかった…。わかったから、もうしばらく横になっていて」

涼子は相変わらずの心配顔で高木の肩を押して寝るように促した。

しばらくの沈黙。敬介はおとなしく横になっている。

「涼子さん」

「敬介さん」

お互いの呼びかけが被ってしまって、互いに微笑んでしまう。

「どうぞ、お先に」

敬介が頷きながら掌を上に向けて涼子を促した。

「いえ、敬介さんこそ、どうぞ」

「んーっと、ですね」

敬介は言葉のきっかけを考えながらナイトテーブルの時計を見た。

「あっ、もうこんな時間だ。そろそろレストランへ行かないと」

「あらっ、ほんとだ。準備しないとだめだわ。すっぴんだといくらなんでも失礼だもんね」

涼子も笑いながらコスメポーチをキャリーケースから取り出そうとした。

「じゃ、いまの話は食事の後でゆっくりと」

「そうね」


 今夜は和食レストランを予約したとのことで、昨日の中華レストランの前を通って通路の向こう側にあった。敬介が名前を告げると、深田兄妹は既に来ているらしく、一番奥の個室に案内された。

「遅いじゃないかあ、先にやってるよ」

深田は半分ほど飲んだビアグラスを顔の前に挙げて入ってきた二人に笑顔を見せた。

「ちょっと事件が起きたものだから…」

高木は照れたような顔付きになった。

「おいおい、こんな短時間で何やってんだよ」

深田はニヤニヤしながら2人を交互に見た。

「えっ、そんなんじゃないですっ」

涼子は慌てて顔の前で右手を小刻みに振った。

「すまない、ちょっと、発作っていうか痛みが出たもんだから…」

「あっ、そっか、それは失礼した」

「もうっ、慎兄ったら、自分と同じように考えちゃダメだって、いつも言ってるのに」

澪は2人に申し訳なさそうな目を向けた。

「いいよ、いいよ。澪ちゃん。いつものことだから」

敬介は涼子にも頷きながら澪に笑い掛けた。

「そんで、それ大丈夫なのか?」

深田は改まったように敬介を見た。

「ああ、もう治まったから」

「そんなのよく出るのか?」

「いや、そんなにしょっちゅうってことはないから大丈夫だよ」

「そっか、ま、本人が我慢できるって言うんだからいいとしようか」

深田が笑いながらビアグラスに残ったビールを飲み干したところへ先付け料理が運ばれてきて、改めて生ビールを4つオーダーした。

 深田も高木も今日のスコアがそこそこだったせいか、上機嫌でかなり酒が進んでいるようで、酔ったときはいつものことのようで、学生時代のバンドと音楽の話で盛り上がっていく。涼子はそんな2人の関係を羨ましく思いながら、その話のなかで時折相槌など打って笑顔で応えていた。

澪は澪で、2人の話には大して興味もないらしく話題には入ってこないで、運ばれてくる懐石料理を無言で食べている。料理の間隔が空いたときはスマホをいじっていたが、思いついたように涼子に高木と知り合ったきっかけや、いまの仕事内容などを尋ねてくる。

「そっかあ、割と良いポジションにいるんですね。部下とかもいるんだ」

「まあ、そうね。ポジションが良いのか悪いのかわかんないけど、それなりっていうか、歳も歳だし、この業界ではこんなもんじゃないのかなって思ってるよ」

「うんうん、そう思います。あたしも社会に出たら涼子さんみたいにキャリアウーマン目指して頑張んなきゃ」

澪は屈託なく笑った。

 〆の鯛茶漬けが出てそろそろ終宴、このレストラン自体も閉店時間が迫っているようだ。

「今日はお疲れさまでした」

深田は誰に言うでもなく立ち上がって一礼した。

「そうだ、涼子ちゃん。明日、敬介のクルマで一緒に帰るんだよね?」

「うん、でも、どうしようかなあって、深田さん、またクルマ交換しに来なきゃダメなんでしょ?」

「ま、そうだけど。俺、暇だから気にしなくていいよ」

「うーん、やっぱりいいです。新幹線で帰ります。ゴルフバッグは明日宅配便で送ればいいし、うん、そうします」

「涼子さん、そんなの遠慮しなくていいから、乗って帰ってください」

敬介は深田を指差した。

「俺はどっちでもいいよ。明日またその時に決めたらいいからさ」

ちょっと酔っている様子の深田はいつもと違う投げやりっぽい言いかたで頭を何度も縦に動かして頷いた。

「さあさ、慎兄、部屋帰って寝るよ。酔っ払いはお邪魔ムシなんだから!」

澪は深田の腰を後ろから押して、追い出すようにレストランから出ていく。兄弟姉妹のいない敬介はその光景を見ながら妬ましくもあり、羨ましくもあった。

 「確かにいい感じのご兄妹ですよね、深田さんところは」

部屋に戻って涼子が思い出したように呟きながら頷いている。

「ま、歳が離れているから、慎は自分の娘のように思っているし、澪ちゃんは澪ちゃんで、なぜか母親モード全開だしね。そりゃあ、喧嘩にもならないよ」

敬介も笑顔で頷いた

僕はひとりっ子なんで兄弟の感覚がないんだけど、涼子さんところは?ご兄弟とか?」

敬介は冷蔵庫からソーダ水を出しながら尋ねた。

「うん、兄がいます。4つ上。どうしようもない兄だけどね」

「へー、そうなんだ。4つということは僕と同い年かな?33歳…?合ってます?」

高木はソーダ水を半分ほどグラスに注いで涼子に手渡した。

「33歳、うん、そうね」

「どうしようもないって?」

「いろいろあってね、あたしがひとり暮らししている理由のひとつかな」

「ふーん、そうなんですか、深く聞かないほうがいいみたいですね」

敬介はボトルに残ったソーダ水を一気に飲み干した。

「あたし、もう一度シャワー浴びたいから、敬介さんも一緒にどう?」

「ええ、いいですけど、今度は追い出さないですか?」

敬介は笑みを浮かべながらも意地悪くちょっと睨んでみた。

シャワーを浴びた2人はバスタオルを巻いただけの身体をベッドに横たえた。

「もう痛くないの?大丈夫なの?」

涼子が頭を横に向けて尋ねると、その問い掛けには答えず身体を寄せてきた敬介を真上に見ながら腕を首に回してキスをした。

「抱いて!いっぱい抱いて!」

涼子は高木の腕のなかで叫んでいた。


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