35 ゴールデンキャデラック(この上ない幸せ)
食事を終えて部屋に戻ってからも涼子はベッドに腰かけたまま、なぜか俯き加減で元気がない。高木はたまらず声をかけた。
「どうかしたんですか?」
「別に…。大丈夫です」
涼子は顔を上げることもなく呟くように答えた。
「しょうがないですねぇ。さっ、元気出してください」
高木は涼子の前で膝をついて見上げるような上目遣いで涼子の目をじっと見つめて肩に手を掛けた。
「抱いて!お願いっ、もう1度!」
涼子はその態勢のまま高木に覆いかぶさってきた。高木はその勢いに後ろへ倒れそうになったが、何とか抱き留めてふたり縺れるようにベッドへ倒れこんだ。
「敬介さん、大好きなの!」
涼子は高木にしがみつきながら唇を押し付けてきた。
「涼子さん、何か飲みますか?」
シャワーを浴びてバスルームから出てきた敬介は、まだベッドに横たわったままで、時折瞬きを見せて笑みを浮かべている涼子に訊いた。深田と澪が高木や涼子のことをファーストネームで呼ぶことに影響されて、高木も涼子もなるべくそれに倣うようにしていた。それにはお互い何となく気恥ずかしさや違和感を持っていたが、今日2度目のセックスでそういった感覚は消し飛んでしまっていた。
「ん?はい、何があるの?」
涼子は気怠そうな声で尋ねた。
「何でもありますよ」
「じゃ、敬介さんをもう1杯いただこうかな?」
「もーっ、なに言ってるんですかあ。それだけは残念ながらすでに売り切れてますっ」
敬介は笑みを浮かべながら冷蔵庫から缶ビールを取り出して半分ほどタンブラーに注ぐと、シーツで胸を隠しながらやっと半身を起こした涼子に手渡し、缶に残ったビールを一気に飲みほした。
「さっきはなんであんなに落ち込んでいたんですか?もしかして僕のことを気にかけてくれたんですか?」
敬介は冷蔵庫から新しいビールとタンブラーを取り出してまた半分ほど注ぐと、涼子が胸のあたりで抱えるように持っているタンブラーに注ぎ足した。
「ええ、そう。食事していたときから考えていて、デザートのときに深田さんと澪ちゃんがあんなこと言うもんだから、本当に悲しくなっちゃって…」
涼子はまた目を伏せた。
「ありがとう。そんなに想ってくれる人とすでに巡り会えていたんだと思うとほんと嬉しいです」
敬介はちょっと照れた様子を見せながら涼子のタンブラーを受け取り、ベッド脇のナイトテーブルに自分のタンブラーとともに置いて、涼子の肩を抱き寄せて唇を重ねると、涼子のちょっと潤んだ大きな目を見つめてにっこり微笑んだ。
「ひょっとしたら、敬介君がまだひとつだけ売れ残っていたかもっ!」




