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100日の恋  作者: すみっこのラスカル
終焉の始まり
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 今日は快晴。朝からゴルフウエアと念のため3泊分の衣類や宿泊セットなどの準備をしている。何となくウキウキしているのが自分でも分かる。こんな気持ちになったのはいつ以来だろうか、記憶にない。クローゼットから久しぶりに引っ張り出したポロシャツと膝丈のスカートを身に着けて姿見に映してみる。それほど見苦しくはない。そうそうサンバイザーも忘れずに。天気も気になっていたが、予報を見る限り今年の夏季休暇中に雨が降ることはほぼなさそうなので安心した。スコアにそれほど拘らない涼子のようなゴルファーにとって雨降りのゴルフほどつまらないものはないが、念のため防水加工したフルジップの長袖ジャケットを1枚入れておく。これがあれば日焼け止めにもなる。

 特急やまびこは東京駅を定刻に出発した。グランクラスの1列シートは快適で、1人旅には申し分ない。グリーン車には何度か乗ったことがあるがグランクラスは初めてだった。そんなゆったりとした空間と相反して車窓の風景は素早く流れていく。いま受けている仕事の進行方法のこと、決別した裕樹のこと、両親や兄のことなど、いろいろなこと…。とくに高木との出会いから今日までのことが頭のなかを駆け巡るのはいつもと異なる車内シチュエーションがそうさせるのかもしれない。高木の病状はどんな状態なのだろう。ゴルフぐらいの運動は問題ないと聞いたが本当なのだろうか。涼子も病院に高木を見舞った後、ネットで胆管癌のことを調べてみたが、確かに沈黙の臓器と言われる膵臓や暗黒の臓器と言われる肝臓と密接な関わりのある部位で、何らかの異常が見つかったとしてもすでに治療不可で手遅れの場合が多いらしい。本人の自覚症状もないので見守るしかない。そんな情報しか入手することができなかった。それはそうと深田は誰を連れてくるのだろう。高木も見知ってる女性だと言ってたから深田とはそれなりの付き合いがある女性なのだろう。涼子はこれから起きるであろう新たな出来事に想像を逞しくしていた。

 新白河駅に時間通り到着し、小旅行用のキャリーケースを転がして正面出口を出ると、笑顔いっぱいの高木が手を振って待っていてくれた。

「お疲れさまでした。何か問題なかったですか?」

涼子も笑顔で応えた。

「グランクラスには初めて乗ったんですけどすごーく快適でした。ありがとうございました」

駐車場にはあの見慣れたパールホワイトのカムリが待っていた。

「ここから10分かからないですから、お疲れでしょうけど、もうちょっと我慢しくださいね」

高木はキャリーケースをトランクに入れながら涼子に助手席へ乗るよう促した。

涼子はしばらく黙っていたが、カムリが駐車場を出て国道4号線方面へ走り出してから笑顔のまま運転する高木の横顔を見た。

「高木さん、本当に大丈夫なの?見た目は元気そうだけど…」

「ええ、問題ないですよ。たまに痛むときありますけどね。大した痛みじゃなくて、そうですね、悪いもの食って腹痛めたときみたいなその程度ですよ」

高木はチラッと涼子を見てからすぐに前方に向き直って笑顔を見せた。

「ま、ご本人がそうおっしゃるんだからそれ以上何にも言えないんだけど…」

涼子は一瞬目を合わせたその視線のまま、運転する高木の横顔をまた見つめた。

 4号線からバイパス道路に入ると、正面にこれぞリゾートホテルというような真っ白な建物が見えてきた。高木は正面ゲートの車寄せに停車させると涼子に降りるよう促し、トランクからキャリーケースを取り出しながら近づいてきたベルボーイに何か伝えたあと、ちょっと照れたような表情を見せて涼子に言った。

「すみません。今更ながらで申し訳ないんですけど…」

「ん?なに?」

涼子は訝しげに高木を見た。

「部屋、僕といっしょのツインルームなんです」

「あ、はい、わかってます。今日はそのつもりで来たから。そんなに気にしなくても大丈夫よ」

「そうなんですね。ありがとうございます」

高木はホッとした顔つきになった。涼子は「何に礼を言ってるのかわかんないわね」って返そうかと思ったが、その言葉は呑み込んでにっこり微笑んでみせた。

 既にチェックイン済みの高木が案内した部屋は7階建ての5階部分で、40㎡ぐらいのオーソドックスなスーペリアのツインルームだが、2つのベッドはそれぞれセミダブルサイズだった。涼子が閉じてあったレースカーテンを開けてみると、ベランダから那須高原の山々が見渡せて、ゴルフコースの一部も見ることができた。

「僕、普段は隣にある別棟の療養施設にいるんですけど、せっかく来ていただいたこの3日間はどうしても山野さんとご一緒したくて勝手に決めてしまいました。スミマセン…」

高木はまた照れたような顔つきになった。

「また謝る…。って言うか、高木さんっていつもそんな感じなの?」

涼子はベランダの景色から振り返った。

「そんな感じって?どんな感じ?ですか?」

高木は訝しげに涼子を見た。

「自分で判断していろんなこと言う割に、言ったこと自体には大して責任持たないっていうか、まあその時に思ったことなんだろうけど…。悪く言えば無責任、でもそのこと自体は意外と的を射ている場合が多いよね。そんで違っていたら先に謝っといたからね、みたいな?うん、そう、そんな感じ」

「無責任って?えーっ、そんなことないと思いますけど。確かにその時々で思ったことをそのまま言ったりすることはありますけどね」

高木は下唇をちょっと突き出して不満げに首を傾げた。

そのとき部屋の電話が鳴り、そのままの表情で受話器をとったが、相手の声を聞いてすぐに笑顔に戻り、2~3度頷くと「すぐ行く」と答えて受話器をおいた。

「慎が着いてチェックイン済ませたから1階のコーヒーショップで待ってるって。慎の彼女紹介してくれるらしいですよ」

高木は楽しそうに涼子に伝えた。


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