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100日の恋  作者: すみっこのラスカル
告知と告白
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 真夏の太陽がこれでもかと照り付ける日々が続いている。

涼子が請けていたスーパーマーケットの店舗装飾関連の案件は、来週末に納品して終了というところまできている。おそらく問題なく完了できそうである。

 新たに取りかかっているのは大手自動車メーカーのディーラーが地域限定で主催する試乗会イベントのプレゼンテーションで、イベント開催の告知、来場案内、来場記念品など、イベントツールだけで総額 8,300万円予算のイベントである。これも大橋裕樹がオファーを受けてきた案件で、先日の営業部と制作部の合同会議で涼子のチームが担当することになった。会議の中で担当営業である裕樹がクライアントのオファー内容を説明し、今回は地域イベントであることを前面に出した企画内容にしてほしいとのことである。

 営業状況や制作依頼などを立ち上がって報告する裕樹を見ていて、あの富士山ドライブ以来、涼子の部屋に来るどころか、仕事以外では接触してくることすらなくなっていることを思い出させた。涼子はそれに少々物足りなさを感じながらも、面倒をみる煩わしさがなくなったことで、何となく解放されたような気持ちでいた。

 この試乗会イベントの案件について、いつものように涼子と上田敏明のプランニング、麻生友理奈と志水佳織のデザインでスタートさせて、チームミーティングを何度か行ってはいるが、全体的にアイデアが乏しく、メーカー主催の全国規模で開催されるイベントと同じようなものしか出てこないため、ここのところ涼子も上田も少々行き詰まっている。

「上田君さあ、ちょっと考え方を変えてみようよ」

涼子はステッドラーのグラファイト鉛筆を指先で器用に回転させながら上田を見た。

「そうですよね…。僕もちょっと考え直してみます。んーっと、来週末…、いや、再来週のアタマでいいですよね?」

上田は頷きながら社内プレゼンテーションのスケジュールを確認している。

「麻生ちゃんと佳織ちゃんはサムネールをざっとアップしておいてね」

「はい」という返事とともに、友理奈は親指を立ててサムズアップ、佳織は親指と人差し指で丸を作ってOKサインを出して頷いている。

涼子はクライアントから今回提示された参考資料などを整理していると、先日納品したランチボックスの金型修正図面が紛れ込んでいて、それを抜き出しながら、ふと高木敬介のことが思い出された。そう言えば予定通りの納品完了報告があってから、電話もメールもない。どうしたんだろ?いつもだったら、特段の用亊がなくても顔は出していたのに…。と考えていたとき、内線電話が鳴った。営業部長の清原勝男からである。

「山野君、いま手は空いているかな?」

営業部の応接室まで来てほしいとのことだが、清原から直接呼ばれることなどめったにない。訝しく思いながら階下の営業部へ降りる。

応接室のドアをノックして入ると、清原ともうひとり知った顔があった。

「大変ご無沙汰しておりました」

濱口徹が立ち上がって笑顔で頭を下げた。

「先日は大口のご注文をいただきありがとうございました。ランチボックスは問題なかったようで、ディスプレイのほうも生産はほぼ完了しています。あとは出荷待ちというところです」

挨拶のあと、現状を一気に説明した。

「そんな社交辞令はもういいから、本題を説明してくれよ」

清原が手のひらを左右にひらひらと振った。

「請けさせてもらっている仕事の状況は担当だけじゃなく、社長もちゃんと把握していますってことをお知らせしないと…、ね?」

濱口は涼子へ向き直って微笑みながら同意を求めるが、涼子は笑顔で返すしかない。

清原はそれを無視して、二人とも座るように促すと、涼子に向かってちょっと神妙な顔つきになった。

「濱口んところの高木君な、入院してるんだって」

「えっ!そうなんですか?なんで?どうしたんですか?」

涼子はそれ以上の言葉が出てこなかった。

「ええ、すみません。ご迷惑をおかけします。このあいだ、例のランチボックスを納品させていただいたあと事務所に戻ってきて、ちょっと腹が痛いとかって言って、事務所の応接ソファでしばらく寝転がっていたんですよ」

濱口も難しい顔になって続ける。

「でも全然痛みが取れないって言うもんで、その日はそのまま帰らせたんですけど…」

翌日、近所の医院に行っても原因不明で、埒が明かないので、紹介状を書いてもらって大学病院で検査入院することになったとのことで、仕事に関しては以前と同じように、濱口自身が引き継ぐという報告であった。涼子がどうこう言うべきことでもないのはわかっていたが、高木に会えないことで少し落胆したような表情で尋ねてしまった。

「検査入院って、どこが悪いんですか?」

濱口はそんな涼子を見てなぜか笑いかけた。

「腹が痛むってことしか聞いてないんですよ…。ま、でも大丈夫ですよ、高木は。殺しても死ぬような奴じゃないですから」

今度は大声で笑った。

また詳しい結果が出るようであれば知らせるということなので、涼子はその場から辞去した。このあとは清原と世間話と昔話で花を咲かすつもりだろう。

 自席へ戻って、いま聞いてきた内容をチーム全員に伝えて、もし濱口社長と話しづらければ、無理をしなくてもいいから涼子に依頼するよう指示しながら、高木の検査結果はいつ出るのだろうかなどと、涼子の頭の中ではそれが大きな危惧になり始めている。裕樹は裕樹で富士山での実質プロポーズ以来、どういうわけか以前のように接触してこない。涼子のなかには裕樹に費やしていた時間やその精神的ストレスから解放された空間が形成され始めていて、その空間を高木敬介が埋めていくような気がしていた。そんななかでの検査入院の知らせであった。

 涼子は気になって仕方がないので思い切ってLINEを送ってみた。

《入院したって聞きましたけど、大丈夫ですか?》

返信が来るのを待っていたが、一向に既読にならない。

その日は残っていた事務処理仕事を片付けて、今日はこれぐらいでそろそろ帰ろうかと思っていた6時過ぎ、見知らぬ番号からの着信があった。訝しく思いながらも受けてみると、それは思いがけずミッドナイトオーナーの深田慎一郎であった。

「お久しぶりですね。山野さん。お変わりありませんか?」

「深田さんでしたか。こんばんは。私の番号、あ、そっか、高木さんからお聞きなりましたか?」

「ええ、そうです、そうです。ご迷惑でしたか?」

「いえいえ、大丈夫です。問題ないですよ」

「聞いてますよね?敬介のやつ、柄にもなく入院だって、笑っちゃいますよね」

深田はそんな高木への見舞いに付き合わないかとのことで、病気見舞いの誘いのわりに意外と明るい声が聴こえてきた。

「高木さん、大丈夫なんですか?」

逆に涼子は心配そうな声で尋ねた。

「ただ検査するためだけの入院だから。そんな大層なことじゃないんでしょ。きっと」

「どこが悪いんですか?」

「検査中でまだわかんないって。でも明日の朝には正確な結果が出るらしいです」

「そうなんですね…」

「山野さん、ご都合いかがですか?今度の土曜日、昼からでもって考えてるんですけど」

「はい、わかりました。ご一緒させてください」

涼子はなぜ自分が誘われるのだろうかと訝しく思いながらも同行することを承諾した。




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