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 次の朝、涼子がいつも通りの時間に出勤すると、チームスタッフは既に全員揃っていて、まだ始業前にもかかわらず、それぞれの業務を開始していた。

「おはよう。みんな早いわね」

「おはようございます」

上田敏明、麻生友理奈、志水佳織の3人が一斉に挨拶する。そんな朝の状況に涼子は何となく幸福感を味わいながらも、逆に自身が情けなく思えた。3人とも少々個性が強すぎるが、その仕事に対してそれぞれの優れた才能を発揮し、責任者である涼子が言うのもおかしいかもしれないが、チーム全体としてのクリエイティビティ能力は全社一である。この素晴らしい部下を持ちながら、自身はつまらない男女関係で悩み、しかも今朝は昨晩のビールの飲みすぎで二日酔い気味なのである。涼子が自席に着いて先週の報告書類の整理をし始めると、さっそく上田がやってくる。

「チーフ、おはようございます。今日、高木さんからディスプレイの完成品が届く予定ですけど、チーフも確認していただけますか?」

「うん、そうだね。最終だからね。それで、高木さんは何時頃来るの?」

「はい、夕方4時の約束です」

「了解!それぐらいの時間なら大丈夫だと思うから同席するわ」

涼子はデスク前の上田に上目づかいで頷いた。

「わかりました。じゃあ、それで準備しておきます」

高木のことだから、今日NGを出さなければならないような製品を持ってくることもないだろうし、この仕事はこれで一段落するに違いなかった。

このディスプレイ関連の承認が終われば、制作部としての仕事はほぼ完了する。あとは営業部にバトンを渡して、当初の打ち合わせ通りの日程で生産管理と納品業務を行っていけば完了である。

涼子は自席に戻ろうとしている上田を呼び止めた。

「それと、これの承認が終わったら営業の大橋君と全ツールの生産日程や納品方法なんかもちゃんとフィクスしておいてね」

上田は振り返って右手の親指を立てた。

「ええ、ミーティングする予定です。日時が確定できたら報告します」

「うん、わかった。じゃあ頼んだわよ」

涼子もにっこり微笑んで、同じようにサムズアップで応じた。

やはり上田に備わっている仕事に対する計画力や要領の良さはかなり優れていて、裕樹とはとても比較にならない。涼子は仕事中にそんなことを考えている自分自身にも嫌気が指してきた。

 その日は制作部長である岩城康平宛にこのプロジェクトの最終報告書を提出するため、資料や報告文書の作成で時間に追われ、昼食もとらずじまいで、気が付いてみると午後3時を過ぎていた。報告書をPDFファイルに変換して、社内メールで送付しようとしたとき、聞きなれた元気のない声が受付カウンターで聞こえた。

「いつもお世話になっております」

「お世話様です」

受付カウンターにいちばん近い席の志水佳織が応えている。高木が何か言ったらしく佳織が大声で笑っている。

「高木さん、また何か志水が喜ぶような下ネタまがいのこと言ったんでしょ?」

上田が笑顔でそう言いながらミーティングルームへ行くよう促した。

「なんであたしが下ネタで喜ぶのよっ」

佳織が上田を睨んでいる。

「あっと、これは失礼しました。つい、いつもの調子で言っちゃいました」

「なんなのよっ。いつも人のことを馬鹿にしてるんだから」

上田はそんな佳織の言葉を無視したように、涼子に高木が来ていることを伝えている。

「チーフ、高木さん来られましたからミーティングルームへお願いします」

「上田君、悪いけど先にお願い。あと10分ほど待っててもらって」

涼子は岩城部長宛に送信したPDFファイルがそのまま製本されてもエラーが出ないようノンブルを確認しながら、そのやり取りを聞いている。

「そうだ。佳織もあとで来てくれるかな。これ撮影するんだろ?」

上田は佳織に振り返って、高木が台車に乗せてきた大きな段ボールケースを指差した。

「はいはい。承知いたしました。上田大先生さまっ!」

佳織はちょっとふくれっ面をしていたが、目は怒ってはいなかった。

佳織が持っている上田に対する好意以上の感情を、今以上に昂らせないようにしている上田自身のひとつの行動であった。涼子はその行動や言動対して嫌悪感もわかないし、それを注意したこともない。逆に同じチームのスタッフ同士として、常時和気あいあいとした雰囲気には微笑ましささえ覚えるのである。


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