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100日の恋  作者: すみっこのラスカル
お招き
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 高木は2人を本町中央通りで降ろして会社に戻ると、他の社員は帰ってしまっていたが、社長の濱口徹だけがめずらしく来客中であった。濱口が午後から出かけたときは、ほとんど帰ってくることはないため、ここのところ夕刻に会うことがなかった。高木は今日のマスター承認とその打ち合わせ内容をワードで議事録にしていると、その客は礼を言って帰っていった。

「社長、あれ誰ですか?」

高木はキーボードをたたきながら濱口に尋ねた。

「ああ、大学の先輩からの紹介で来た銀行だよ。口座開いてほしいんだと」

「そんなのばっかりですね」

高木は呆れたような表情で笑った。

「うん、まあな。中途半端に大学と係わっているものだから面倒なことが多いんだよ。ま、たまにだけどいいこともあるけどな」

濱口もつられて笑った。

濱口は大学時代、ワンダーフォーゲル部に在籍し、涼子の会社の営業部長である清原勝男といっしょにスキーで国体に出たこともあり、2人ともいまでも体育会のOB会で役員を務めている。濱口は大学卒業後、国内大手の事務用品メーカーに就職したが、5年ほど勤めた後、清原の協力も得て、いまの会社を起業した。そのような関係で涼子の会社との取引が始まっている。

「そんなことより、今日はどうだった?うまくいったのか?」

高木は打ち合わせ内容の概略を説明して、食事に誘って時間待ちしていることを報告した。

高木は「そうか」と頷いて、あまり遅くならないようにと言って先に帰っていった。

 高木が入力し終えたマスター承認の議事録をデスクトップに保存して時計を見ると、すでに8時前だった。元々今夜は女性2人を接待するつもりだったので、形式張らないフランス料理店を予約していたのだが、帰社早々に時間変更して再予約したのだが、その時間にさえ遅れそうな気がしたので、涼子の会社へ電話をかけてみた。制作部の電話は何度かコールしてから、営業時間外を知らせる留守番電話に切り替わった。仕方がないので山野涼子のスマホに直接ショートメールを送ろうとした高木のスマホに涼子から着信があった。

「もしもし、高木さん?ごめんなさいね。遅くなってしまって」

「ああ、山野さん、待ってたんですよ。いま何処ですか?」

「会社を出て駅に向かっているところです。えーとね、何処行けばいいですか?」

「いえ、この時間だから車も空いているのでそっちへいきますよ。15分ほど待っててください」

「そう?わかりました。じゃあ、うちのビルのエントランスを出たところで待ってます」

高木は仕事のできる女は少々身勝手というか、自己中心的なところがなければ成功しないのかもしれないな、などと考えながらすぐにオフィスを出た。指定された場所には涼子がひとりで待っていた。クラクションを小さく鳴らすと、それに気付いた涼子が助手席のドアを開けて乗り込もうとした。高木は慌ててドアロックを解除する。

「あれ?皆さんは?どうしたんですか?」

「すいません。申し訳ないです。上田と志水はそれぞれ、なんかデートみたいで、麻生は急用ができたって断られちゃいました」

涼子は照れ笑いしている。

「それだったら、もう少し早くおっしゃってくれればいいのに…」

高木は困った顔つきで涼子を見た。

「そうね、そうなんですけどね。成り行き上、じゃあ、私も断るってことになってしまって、その場で電話もメールもしづらくなってね。ほんとごめんなさい」

助手席に座った涼子は高木のほうに身体を捻ってそのまま頭を下げた。

「実は予約した店があったもので、それでちょっと焦ってたんですよ。だから…」

高木は車をスタートさせながら続けようとしたが、普段見せないような沈んだ表情をしている涼子の端正な横顔を見て、その言葉を飲み込んだ。

「ま、いっか。それでも山野さんは来ていただけたわけだしね」

「さっき、偉そうに私だけで行けるわけないなんて言ったものだから、ホントすみません」

涼子は仕事上でもスタッフたちには、約束事に関して厳しくしているし、自分自身もきちんと守るよう心掛けていたので、ほんとうに申し訳ない気持ちになっていた。

「じゃあ、今夜は二人だけの2度目のデートってことで、楽しくいきましょう!」

高木は急に話題を変えて、今朝がた会社の近所でひき逃げ事故があって、犯人の車とパトカーでちょっとしたカーチェイスが行われたという話を始めた。涼子は何となく高木の優しさを見たような気がしながら、その三面記事的などうでもいい話題に付き合うことにした。そうでなければ、部下に偉そうに言ったにもかかわらず、自分ひとりだけで招待を受けたほんとうの理由を高木に話さなくてはならないように思えた。涼子は仕事とはいえ、今日半日以上も高木と行動を共にしていたにもかかわらず、もう少しだけ一緒に居たかったのである。それが何故なのかは涼子自身にもまだ分からなかった。

 高木は先週食事したときと同じ公営駐車場に車をいれて、涼子を連れていったその店はテーブル10席ほどの小さなフランス料理店であった。フランス料理店といっても、ホテルのメインレストランのように形式張ったところはなく、リラックスして食事ができる雰囲気を持っていた。高木は涼子にメニューを渡しながら、最初のページに手書きで記載された数点の料理が本日のお薦めだと言って、ウェイターに先に生ビールを持ってくるよう伝えた。涼子はそのお薦めから海老のオードブルとパンプキンスープ、アントレには雉肉の煮込みを選ぶと、高木は生ビールを持ってきたウェイターにそれに何点か付け加えてオーダーした。

「さてと、本日はたいへんお疲れさまでした。おかげさまで納期的にも問題なく進めることができます。改めてお礼申し上げます」

高木はビアグラスを持って乾杯の動作を涼子に促した。

「麻生もあれで意外とこだわり持っていますから、修正部分は間違いがないようにお願いしますね」

涼子はビアグラスを小さく合わせて高木を見た。

「ええ、問題ないです。安心してください。僕が量産前の試打ちでチェックしますし、もしよければ試打ちの立ち合いに来られてもいいですよ」

高木は乾杯したビールを一口飲んで、そんなことより今夜は元々接待のつもりだったから、涼子の時間が許す限り付き合うので、十分に楽しんでほしいと言った。1時間半ほどかけて遅いディナーを済ませた後、先日のあのショットバーへまた行こうということになり、デザートはキャンセルして店を出た。


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