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100日の恋  作者: すみっこのラスカル
誘い(いざない)
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 バスタブにたっぷりと湯を張って、ちょっと長い目に浸かった後、ドレッサーのスツールに腰掛けて、目の前に化粧を落とした素顔の自分を映しながら、高木との短い初デート?を振り返っていた。久しぶりに楽しく飲めたし、食事も悪くなかった。とにかく気を遣うことなく過ごすことができた。話の内容が取り立てて面白い訳でもなかったが、高木が話していることを聞いているだけで何となく愉快な気分になれたのである。化粧水で保湿を整えた顔が微笑んでいた。涼子自身、こんな自分の顔を見たのは久しぶりだった。少なくとも裕樹と一緒だったら、こんな気分にはなれなかったであろうし、きっと今頃は酔った裕樹の面倒をみていたに違いない。いままでも女性扱いの上手な男性と付き合ったことはあったが、高木はそれとは雰囲気が異なり、ただ相手を自然にリラックスさせる能力を身につけているように思えた。車の中での話題で涼子がちょっと怒ってみせたせいか、そのことには一切触れず、自分のことばかり紹介し、学生時代のこともいろいろ話してくれた。高校から大学にかけてロックバンドをやっていて、協賛スポンサーの関係で冠名は変わってしまったが、今でも継続している有名なアマチュアバンドコンテストにも出場して、地区優勝できたこと。しかし自分が担当していたベースギターがイマイチなために全国大会には行けなかったこと。同い年の奥さんであること。ほとんど借金で買った中古マンションに住んでいることなど、である。本来なら他人の聞きたくもないプロフィールなど愉快な話題ではなかったが、その時々のエピソードや話し方が何となくおかしくて、訳のわからないまま聞かされてしまっていた。今ひとりになって思い返してみても、退屈感や嫌悪感もわかないし、気持ちよさだけが心に残っていた。

 ふとベッドわきの時計を見ると、午前1時前だった。「あらら、早く寝ないとダメでしょ」と独り言を言いながら、着ていたバスローブを脱いで素肌のままベッドにもぐりこんだ。涼子は1年ほど前からひとりでいるときは、夏も冬も何もつけないで全裸で寝ることにしている。そのほうが何となく朝の目覚めが良いような気がしてずっと続けている。僅かな酔いと精神的な心地よさのおかげで、爽快な朝を迎えられるそんな予感を持ちながら、ゆっくりと眠りに入っていく涼子の頭の中には、夕方マンションの前で自分を待っていた裕樹のことは一切浮かんでこなかった。


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